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マジカリング - 002

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2.魔法管理局
冷たい北風が、暗闇に包まれたフォールス・バードの街に吹きつける。
そんな街の寒空の下、二人組の青年が談笑していた。
「今夜は冷えるな」
「そうだな。誰かがフリーズの魔法でも使ってんじゃねえか?」
「ハハハッ……」
一人はひょろりとした痩せ型の青年、もう一人は、少し太めの体型。対照的な彼らだったが、上下ともに深い緑色で統一された服装は同じだった。
この世界の住人に「あの服装は何?」と尋ねたら、誰もがこう答えるだろう。魔法管理局の制服だ、と。
魔法管理局――今ではいわゆる警察のように、治安の維持を主な任務としているが、もともとはその名の示すとおり、危険な魔法などの管理や取締りを行なう機関であった。
そう。この世界には、魔力が存在した。
だが、人々は魔力の存在に気付くことはなく、平和な日常を過ごしていた。
200年ほど前、一人の研究者が、魔法――魔力を鍵言葉(キーワード)によって引き出す法――を発見するまでは。
魔力の存在を知った人々は、その力で生活に便利と快適さをもたらした。
だが人々は、魔力が諸刃の刃であることを知らなかった。
魔力という大きすぎる力が、幾度とない争いを生むことを。
争いはやがて戦争となり、魔力はやがて兵器となることを。
魔力が恐ろしい力であると気付いたときには、人々は滅びの時を迎えようとしていた。
これではいけない――人々は反省し、悔いた。
そして、二度と同じことを繰り返してはならない――こうして魔法管理局が作られたのである。
「でも、どうせなら、ファイア使ってほしいよな」
「それじゃダメだ。火の勢いが強すぎてこっちが丸焼きになっちまうぜ」
と、太目の男が自分の腹の肉をつかむ動作をした。ブタの丸焼き、とでも言いたいようだ。
彼らは魔法管理局員、通称「局員」と呼ばれていた。
どうやら、夜のパトロールの真っ最中のようなのだが。
談笑しているところを見ると、真面目に働いていない模様。困ったもんである。
「おっ、ようやく戻ってきたな」
「ああ、これでやっと仕事も終わりだぜ」
二人は、街の中央に立つ建物――魔法管理局フォールス・バード支部が見えてきた。
これで、二人の勤務が終わりになる、はずだった。
「しっかし、最近は何も起こらないよな」
「ああ。どうせなら、何か派手なことでも起こりやがれってんだ」
だが、この何気ない一言が、アフター5のやすらかなひとときを遠ざけてしまった。
こんなことを口走ると、たいがい何かが起こってしまうというセオリーを二人とも知らないらしい。今回も、お決まりのパターン通り話が進みそうだ。
突然、闇の中を何かが駆けぬける気配がした。
「おい、誰かいないか?」
痩せた男がそれを感じ取り、思わず身構えた。
「どうせ、イヌかネコだろ? それとも、さっきの冗談真に受けてるのか?」
太った男は、自分の言ったことが事実であることにまだ気付いていなかった。
だが、痩せた男は緊張を解こうとはしなかった。
「おい、どうしたんだよ……」
ようやく、太った男も気付いたようだ。
暗闇の中に、何者かが潜む強い気配を。
「出てくる!」
二人は、はっきりと誰かが出てくることを感じ取った。
出てきたのは、多分男だろう。ガッチリとした体格で、背丈も2メートル近い。
だが、男の首から上は、存在していなかった。
「うわぁ! お化け……」
太めの男は、情けない声を上げる。
「違う……あれは、仮面だ……」
一方の痩せた男は冷や汗を浮かべながらも、出てきた男を冷静に観察していた。
確かによく見ると、そいつは目の部分だけ開いた仮面をかぶっていることが分かる。
さらに、肩にかけた全身を覆う黒マント。
どこから見ても、誰が見ても怪しい。
「何だ、お前は!?」
脅かしやがって、このヤロウ。
太った男は、仮面のことに気付くと。
さきほどの情けなさはどこにいったのやら、急に強気になって男に言いよった。
「やめろ!」
一方の痩せた男は、何かを感じ取っていた。仮面の男の、ただならぬ威圧感を。
彼は、自分の勘が正しかったことをすぐに理解した。
「……プロード」
まさか、魔法!?
二人の局員が気付いた時には、もう手遅れだった。
あたりに、爆発音が響き、二人は数メートルほど吹き飛ばされていた。
あれは、『爆発』のキーワード――太った男は、考えるまもなくそのまま気絶した。
痩せた男の方も、もうろうとする意識の中で気付いていた。
(まさか、管理局を狙って……!?)
仮面の男が、魔法管理局に侵入したことを。

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