マジカリング - 040 - マジベリ Wiki

第４０話「ターゲット」

リング探し、そして魔法管理局襲撃事件の事後処理に追われるカトレアだったが、今はお気に入りの紅茶をいれてのんびりとくつろいでいることろ だった。
だが、そんなひとときはすぐに打ち破られてしまう。
ジリリリリと、卓上に置かれた電話が鳴り出したのだ。
電話は卓上用だけあって、一見すると占い師の水晶球のようだ。大きさは、ドラゴンボール……じゃなかった、ソフトボールくらい。
カトレアは仕方なく、電話の水晶球に手を当てた。
「局長よ」
「Ｍと名乗る方から、お電話が入っています」　
電話は管理局のオペレータからのもの。
「いたずらでしょう。そちらで対応して」
このひとときを邪魔されたくなかったカトレアは、あっさりと無視することに決めた。
イニシャルで名を名乗る自体、人を馬鹿にしているとしか思えない。
「ですが局長、昨日[さくじつ]の『炎』暴走事件、裏で糸を引いていた者がいた。こうおっしゃっているのですが……」
「分かった。こちらで対応するわ」
昨日の『炎』暴走事件。
表向きは単なる事故として、いや、そういう事故があったことさえ公表されていない。
事件と言い切っているからには、少しは事情を知っているのなのだろう。
「はい。魔法管理局フォールス・バード支局長、カトレア・アルディシアです」
だから、カトレアは電話に出ることにした。
まあ、十中八九はウソやハッタリといったところだろう。だが、もしかしたらリングの情報が得られるかもしれない。
「私、Ｍと申します。訳あって本名は言えませんが、魔術学院の関係者です」
女性の声だった。偽名を名乗っている割に、やたらと礼儀正しい。
「単刀直入に聞きます。『裏で糸を引いていた者がいる』というのはどういうことでしょうか？」
「実は……」
Ｍは、自分が知りうる限りのすべてを話しはじめた。

「ただいまお帰り！」
メイプルは「ただいま」と「おかえり」がごっちゃになっている。
分からないなら、両方言っとけばどっちかは合ってるでしょ？
と、適当な姉に突っ込むのは弟の役目。
「姉ちゃん、『ただいま』だろ？」
「あら、おかえり。一緒だったの？」
いつものメイプルとミラのやりとりを聞いていたのは、二人の母であるイキシア。夕食前の準備で忙しいらしく、すぐに台所の方へパタパタと駆けて いった。
そうかと思えば、今度は電話が鳴り出したので、そちらのほうへパタパタと駆けていく。
「火、つけっぱなしだし。しょうがないなぁ」
そう言って台所に入ったのは、ミラの方だった。 　コンロの上に蓋をされた鍋が置かれ、コトコトと何かを煮込んでいるみたいだった。
このコンロも魔力機具の一種で、使用者の魔力を利用して点火を行う。しかし、それだけでは魔力が足りないため、魔力が入った「カートリッジ」をセットする必要がある。
ミラは、鍋の蓋を開けて中の様子を見てみた。
しかし、中を見ても味付けはおろか、材料さえ何を使っているのかよく分からなかった。
ちょっとだけ味見をしてみるが、やはり結果は同じ。
唯一分かったことは、これがそこそこ食べられるものだということだ。むしろ、おいしい部類に入るかもしれない。
もうちょっと煮込めば、火を止めて大丈夫そうだ。ミラはそう判断した。
アイリスの家がレストランであることをミラは知っている。
料理に興味を持ちはじめたのも、それがきっかけだったようなきがする。
「ミラ！」
つまみ食いが見つかってしまい。母に注意されてしまう。
「ゴメン。ちょっと火の様子を……」
と思ったのだが、どうも様子が違う。どうやら、自分のことを呼んでいるらしかった。　
「魔法管理局の人から電話よ」
電話の前に顔を出したミラを、イキシアは不安げなまなざしで見つめた。
普通、警察から電話がかかってくれば誰だって心配するだろう。
ミラは、電話をかけてくる相手に心あたりがあった。
「カトレアさん？」
「もしもし。ミラです」
水晶球に手を当てると、やはり聞き覚えのある声が聞こえた。
「あっ、ミラ君」
カトレアさんだ。
電話番号は昨日教えていたから、連絡があっても不思議ではない。何の用件でかけてきたのかも、おおかたの予想はできていた。
「昨日の話ですけど、ボク、魔法管理局に……」
「ごめんなさい、その話は後で。今、急ぎなの」
魔法管理局入局の話じゃない？　じゃあ、一体何の用で……？
「昨日の『炎』の直撃を受けた女の子。彼女が今どこにいるか教えてくれない？」
「えっ……、ルビアさんですか？　でも、どうして……？」
「『炎』の魔法が、アイリス以外の誰かに操られていた可能性があるのよ」
カトレアは、明らかに急いでいるみたいだった。
こちらの手の内を明かさずに情報を聞き出している場合ではない。
「じゃあ……」　
「ええ。そのルビアって子が狙われている可能性があるわ」