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マジカリング - 003

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magicberry

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3.侵入者
「侵入者……か」
報告を受けた一人の女性は、椅子に腰を降ろした。
軽くウェーブがかったダーク・ブラウンの髪は、肩までのセミロング。目も髪と同じ色。おそらくは二十代前半だろう。薄い化粧をした表情は、大人びた雰囲気をまとっていた。
深い緑色の制服に身を包んでいるところを見ると、彼女も「局員」の一人なのだろう。
部屋は、まるで社長室のように広々としている。机や椅子、ソファーなどはどれも高級なものばかり。
見方によっては、「秘書の女性がこっそり社長の椅子に座るの図」というようにも見える。だが、若くして身につけた彼女の威厳が、それを否定していた。
彼女が、かなりのお偉いさんなのはまず間違いない。
「おい、カトレア!」
と、彼女の部屋に、ノックもなしに一人の男が飛びこんできた。
青みがかった銀髪とブルーの瞳。そのまなざしからは、冷静沈着でクールな印象がうかがえる――ようにしか見えない。
しっかし、彼、ディルはその容姿とは裏腹にのんきでがさつ、いい加減という三拍子そろった性格の持ち主だった。それは、さきほどノックもせずにいきなりドアを開けたことからも伺えるだろう。
「ディル。その名前で呼ばないで」
一方の彼女、カトレアはそのディルを氷のような冷たさであしらう。
「じゃあ、何て呼べばいいんだ?」
「局長」
カトレアはきっぱりと答えた。フォールス・バード魔法管理局長、それがカトレアの肩書きだった。
「それより、侵入者が来たんだって!?」
「そうよ」
ディルは楽しそうに、カトレアは冷静に答える。
一見対照的な二人だが、物事に対し慌てず騒がず落ち着いているという点では共通していた。
「ディル、迎撃お願いね」
お役所仕事と割りきって、冷静に指示を出すカトレア。
「あいよ!」
ディルは、江戸っ子のような気風(きっぷ)のよさで返事。
「待って」
カトレアは、いきなりディルの腕をつかんだ。
「なんだよ、いきなり!?」
二人の姿を見ると、「二人は恋人同士か?」と誤解するかもしれない。だが、カトレアにはその気などまったくない。
「ファート」
彼女の目的は、ディルに魔法をかけることであった。事務的に事を済ますと、すばやくディルの腕を放す。
これは、『遠話』のキーワード――ディルは思い出した。
一定時間、多少離れていても、会話を行うことのできる魔法である。
「じゃあ、行ってくる!」
一応は上司であるカトレアにお辞儀もすることなく、ディルは部屋を飛び出した。

「あ、あ、ただいまマイクのテスト中」
ディルは侵入者を捜し、局内の廊下を走りまわっていた。
「そこを右」
そんなディルを、『遠話』の魔法で誘導するカトレア。
「おーい、カトレア! 元気か!?」
局長であるカトレアには、さまざまな情報が飛びこんでくる。魔力を利用したナビゲーション・システムもその一つだ。
ディルと侵入者の位置が、目の前のディスプレイに光の点で映し出される仕組みとなっている。
「そこを左」
「なあ、どうしたんだよ、カトレア?」
また名前で呼ばれた……。
これで三度目。
カトレアは思わず、「いいかげんにして」と冷静に言い放ってしまいそうになった。しかし、今はこいつに頼むより他ない。
何しろ、ディルこそこの支部内で一、二を争う剣の使い手なのだから。
「そこは直進」
カトレアはあえてディルを無視し、自分の任務のみを淡々と行うことにした。
こうゆうヤツは、誰かを泣かせて楽しむいじめっ子みたいに、言えば言うほどしつこくなるに決まっている。
「……」
カトレアに無視されていることに気付いたのか、ディルは黙って廊下を真っ直ぐ進んだ。
だが、カトレアはディルが沈黙した本当の意味を知っていた。
「……着いたわ」
カトレアの見つめるディスプレイ上の光の点、その二つが一つに重なっていた。
それは――ディルが侵入者を発見したことを意味していた。

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