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マジカリング - 007

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magicberry

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7.アイリス

淡いブルーの天井、壁、布団、シーツ、そして枕。すべてがブルーで統一された部屋で、ひとりの少女が眠っていた。
十三、四歳の、長い黒髪が印象に残る少女。彼女は、クークーと穏やかな寝息を立てていた。もちろん、着ているパジャマも白とブルーのチェック模様だ。
「アイリス、そろそろ起きなさい」
階下から、優しげなエミリアの声が聞こえてきた。
彼女はエミリアの娘、アイリス・クレマティス。
といっても、熊のぬいぐるみは抱えていないし、超能力は使えない。
そう、彼女はレストラン「ロゼーラ」の「看板娘」として店を手伝っていた。
とりわけ美人とかいうわけではないが、どこかほのぼのとした雰囲気が、店の評判を上げるのに一役買っていた。
さらに、それだけではない。
アイリスは注文受けや料理運びといった雑用だけでなく、料理の方も十分こなせる。
すでに、メニューのいくつかが、彼女のレシピによるものだった。
「ううん……、もう朝か……」
アイリスは、目を覚まし起き上がると。
いつもの習慣どおり、鏡台の前に立ち長い髪を梳かし。
葡萄(ぶどう)をモチーフにあしらった銀の髪止めで、髪をまとめていく。
昔、母エミリアが使っていたものを譲ってもらったのだ。
しかし、その輝きには一点の曇りもない。髪同様、ちゃんと手入れは行き届いているようだ。
アイリスは、髪をまとめ終え、下に降りようとドアに手をかけたとき。
きゃっ、まぶしい! 何だろう?
目に光が当たり、思わず目を閉じてしまう。
「えっ、何?」
もしかして、床に置きっぱなしにした手鏡か何かが、朝日を反射させているのか。
アイリスは、目に当たる光を辿(たど)っていった。
窓から入り込んでくる暖かな冬の日差しは、床に当たって光の長方形をつくり出す。
と、その中に何か光を反射する物が落ちていた。
「これ……」
  アイリスは拾い上げてみると。
「……腕輪? でも、なんでこんなところに?」
それは銀色に輝く腕輪だった。
だが、こんな腕輪に見覚えなどない。
「お母さんの、かな?」
アイリスは、腕輪を手にとってまじまじと眺めた。
そうだ。試しにつけてみよっと。
腕輪を身につけた姿を想像して、自分の右腕に腕輪を通してみた。
「ちょっと派手かな……」
アイリスは、鏡台の前に立つと、正面を向いたり横を向いたりしてポーズをとってみる。
うん。銀の髪飾りとおそろいだし、結構似合ってるみたい。
「でも、これ……。昔話に出てきた……」
ふと、アイリスは、絵本の『夢を叶える腕輪』のことを思い出す。
確かあれも、銀の腕輪だったっけ?
「まさか……ね」
そんなこと、あるわけないか。
アイリスは、軽く冗談混じりにつぶやいた。
だが、実はこの腕輪こそが『夢を叶える腕輪』……であるかはどうかは、まだ決めてなかったりする……。

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