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マジカリング - 008

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magicberry

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8.ミラ
あたり一面には、黄色いじゅうたんが広がっていた。
いやズーム・アップしていくと、それがじゅうたんではなく、一つ一つの花の集まりであることがわかる。
菜の花畑――おだやかな春風になびく黄色い花びら、葉っぱの緑、そして、青い空を舞う白い蝶のコントラスト。
そんな色鮮やかな景色の中で、ポツンと誰かが座っていた。
短め黒い髪、ポロシャツにジーンズとラフな格好で、どこか線が細い少女……ではなく少年。
だが、第一印象では少年なのか少女なのかよく分からない。
では、なぜ少年なのか分かったというと……作者がそう決めたからである。
「ミラ!」
突然、少年を呼ぶ少女の声が響いた。
淡いブルーのシャツに白いスカート。そして、つややかな長い黒髪に光る銀の髪飾り。
どこかで見覚えのある彼女は、どこからどう見てもアイリスだが。
双子、そっくりさん、他人の空似、生まれかわり。
どれもよくあることなので、ここではとりあえず黒髪の少女と呼んでおく。
「助けて!」
黒髪の少女は少年、ミラにすがりついた。
アイリス、いや黒髪の少女は何かに追われているようだった。
「見つけたぞ!」
「闇」が低く重い声を発した。
と、同時にあたりの景色が一転して「闇」に包まれ。
たちまち、何も見えなくなってしまう。
「ブローディ!」
「闇」に包まれながらも、ミラはキーワードを叫んだ。
『風舞』――対象物を風で吹き飛ばす攻撃系の魔法。
「闇」は、『風舞』によって吹き散らされると、空の青と花の黄色に溶けて消えていった。
「ミラ、大丈夫?」
「うん。それよりアイリスさんは?」
ミラは無事だと言わんばかりにガッツポーズをとってみせた。
ありゃ、やっぱりアイリスだったか。
いや、ミラも勘違いしているかもしれないので、例の表現は継続。
「うん、大丈夫だよ」
黒髪の少女は、そう微笑んでみせた……と、同時に。
ミラは突然、闇の中に落ちていく感覚に襲われた。
「うわーっ!」

ドタンという大きな音とともに、部屋全体が大きく揺らいだ。
「……ミラ、何やってんの?」
姉のメイプル・ウィステリアが、勝手に部屋を覗いていることに、ミラは気付いた。
「姉ちゃん、人の部屋に勝手に入って来るなよ」
「ところでさ。いつまで仰向けになってるの?」
ミラが見ていたメイプルの姿は、頭が下で足が上――上下逆さまになっていた。
「……どうせ、好きな女の子の夢でも見てたんでしょ?」
「うっ……」
完全に図星。
メイプルはやけに勘が鋭い。ミラの考えなどすべてお見通しだった。
「じゃあ、魔力検定あるし、もう行くね。いってきまーす!」
メイプルは、部屋を出ていこうとして一瞬足を止める。
「あっ、そうだ……」
「早く行けって」
「……ミラ、ランニング頑張ってね!」
メイプルは、ミラに意味深な言葉を残して去っていった。
ランニング? どうしてぼくが走らなきゃいけないんだ?
あっ、まさか!?
気付いたミラが時計を見ると。
「もうこんな時間!?」
残酷なことに、その時計は遅刻へのカウントダウンを始めていた――

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