ローゼンメイデン百合スレまとめ@ウィキ

――Last game

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rozen-yuri

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 コツ、と真紅の革靴は小気味良い音を立てた。
 その音に敏感に振り向いた水銀燈はチラリと横目で真紅を見ると、視線を戻した。
 その様子に勝ち気な笑みを浮かべると、真紅は更に水銀燈へ歩み寄った。
「珍しいじゃない」
 真紅は右掌に薔薇の花弁を集めた。やがてそれは掌を中心に渦を巻き始めた。
「貴女が私を見て何もしてこないなんて」
 好敵手。それが彼女達二人の関係だった。
 人間が送る青春時代の一ページならば、それは微笑ましいものだっただろうが、そうはいかない。
「放っておいて」
「あら、そんなに悲しいの?貴女らしくもない」
「っ…うるさい!」
 まぁ、怖い。そう呟くと同時に、真紅は掌の花弁を水銀燈に仕掛けた。
「くっ…!」
 しかし、すぐさま振り返り自身の羽根で体を隠し、花弁を防いだ。
「あら、残念」
 ばさっ、と羽根を広げ真紅を威嚇するように睨み付ける。
「真紅、貴女…」
「ねぇ、水銀燈」
 水銀燈の言葉を防ぐように真紅は大きめの声を放った。
「決着をつけましょう?」


 ──Last game


 ホーリエがチカチカと光りながら真紅の体を軸に一回転した。
「ふん」
 水銀燈は鼻で笑うと自身のもとにメイメイを呼んだ。
「いいのぉ?媒介(ミーディアム)もいないのに」
「あら、貴女だってもういないんでしょう?」
 ぐっ、と悔しそうに水銀燈は顔を歪めた。
 彼女のミーディアム、柿崎めぐは一週間前に息を引き取ったばかりだ。
「ここは人間もいないから力を吸うこともできないわ。それでもいいなら、だけど」
 真紅が挑発するようにニヤリと笑みを浮かべると、水銀燈もつられるように笑った。
「どっちかが倒れるまで?」
「えぇ」
「…へぇ」
 長い銀髪をかき揚げながら水銀燈は呟いた。
「いいじゃなぁい。やってあげるわぁ!」
 水銀燈が右手を高く振りかざすのと同時に大量の黒い羽根が真紅の体を襲った。
「っく…ホーリエ!」
 鋭い矢のごとき速さでホーリエは真紅の体を防ぐように光の壁を作った。
 大量の羽根はその壁に弾かれ、力なく舞い降ちた。

「まだまだぁ!」
 水銀燈が更に多くの羽根を襲いかからせると、真紅も負けじと大量の花弁で応戦する。
「ふふ…どうしたのぉ?お間抜け真紅。やっぱりあの坊やがいないとダメなんでしょう?」
「くっ…」
 確かに真紅は押され気味であった。媒介が近くにいないことが枷になるらしい。
「ふふ、教えてあげましょうか、真紅ぅ」
 大量の羽根と花弁が押し合っているところにメイメイも仕掛けた。
「くぅっ…」
 ホーリエが慌ててメイメイに応戦する。
「私がね、力を奪えるのは人間だけじゃないのよ?」
「な…」
 真紅の目が見開く。羽根は更にその質量と数を増していく。
「貴女達、人形(ドール)からも奪えるのよ!」
 そう叫ぶのと同時に花弁が一斉に弾け跳び、真紅は羽根によって壁に縫い付けられた。
「ふふ…悪く思わないで頂戴?」
「っ……」
 真紅の体を拘束するような形で漆黒が覆う。
 真紅の両肩を抱くと、その耳元に水銀燈は唇を寄せた。







「綺麗よ、真紅」
「っ!?」
 片手を首筋に、もう片手をこめかみから垂らされた一房の髪を梳く。
「この世界で目覚めてから初めて逢ったときも、貴女はこんな風だったわね」
「あれはっ!貴女が…」
「そう、私が…」
 真紅の胸の辺りの羽根をかき分け、水銀燈の手は進んでいく。
「私が、貴女を染め上げたのよぉ…」
 真っ黒で、どの色にも染まらない私だけの色。
「その時から貴女は…」
「あぁっ!」
 真紅が目を大きく見開く。しかし、その額には汗一つかいてはいない。無機質な人形である証拠だ。
「私のものよ…」
「ああああああっ!」
 水銀燈の指が真紅の命(ローザミスティカ)を握った。
「大好きよぉ、真紅。これからはずっと一緒ねぇ」
 指を胸から出すと、真紅の唇に口付けた。
 真紅の最期の記憶は、何故かひどくしょっぱいキスと水銀燈の目尻に浮かぶものだった。


終わり

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