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298名前: ◆SPJ5GSENNs 投稿日: 2006/04/21(金) 00:14:27.22 ID:TsN1DEfyO
弓道場には誰も居なかった。
そりゃそうだ、あと2日後に、地球は終わるんだから。

弓道場の鍵を締めて、鍵を職員室に戻しに行く。
「早坂」
「どうしました?先生」
「もう、2日しかないんだよな…お前は最後の日、どうするか決めたか?」
「いえ、まだ…」
「早く決めとけよ、悔いのないようにな」


「悔いのないように、か」
帰り道、私は立ち止まって目を閉じる。
「父さんも母さんも死に、一人になった私が…何を悔いるというんだろう」
父と母の顔の次には、弓道部員の顔が頭に浮かぶ。
「弓道部もしっかり引っ張れたし…」
と、その時、一人の少年の姿が頭に浮かんだ。


495 名前: ◆SPJ5GSENNs 投稿日: 2006/04/21(金) 08:35:59.40 ID:TsN1DEfyO
298の続き


「木元…」
彼、木元一也は弓道部員だった。私が風邪を引いて休むまでは。
私が休んでいた間に、彼は退部届けを出したらしい。
…恐らく、理由はイジメだろう。

一ヵ月前に相談を受けた。
私しか中立的な人間がいなかったかららしい。
それから私は、部室ではいつもさりげなく彼の傍にいた。さすがに部長の私が見ている前ではイジメが起きることはなかった。
私が風邪で倒れたときに、いやな予感はあったが…

彼が退部した日の夜に、電話をかけた。
「木元、私だ。早坂だ」
「先輩…」
「退部したって、本当なのか?」
「…」
「何で、私に何も言ってくれなかった?」
「…もう、いいんです」
そのまま、電話は切れた。


503 名前: ◆SPJ5GSENNs 投稿日: 2006/04/21(金) 08:54:36.24 ID:TsN1DEfyO
あの日から、私は彼の姿を見ていない。もっとも、探そうともしていなかったわけだが。
私は憂鬱だった。彼に、最後まで信じてもらえなかったことに。何も、話してくれなかったことに…

そして、私は忘れることにした。


忘れた、はずだった。
「…」
忘れた、はずなのに。
「木元…」
急に、頭のなかに彼の姿が蘇る。
ぱっとしない、地味だけど中の上くらいの顔をしていた彼。
その彼が、深夜、一人でベッドに座っている。
そして突然、閃光とともにその姿は蒸発し…


「…っ!」
周りを見渡すと、いつもの帰り道。
しばらくしてあれはただの妄想にすぎないと理解できたが、私の額を伝う冷や汗はとまらなかった。
彼の最期は、恐らく妄想の通りになるのだろう。
私が守り切れなかったから?彼が信じてくれなかったから?
「…違う」

…私も、彼を差別していたから。


511 名前: ◆SPJ5GSENNs 投稿日: 2006/04/21(金) 09:04:37.05 ID:TsN1DEfyO
私がすべき事は、彼をイジメから守ることじゃなくて、彼の友達を増やすこと…彼が幸せな学校生活を送る、その手助けをすることだったのではないか。
彼が私を信じなくなったのは、私が彼を守ることしか考えずに彼の気持ちをわかってあげられなかったからじゃないのか。
彼へのイジメが止まらなかったのは、止めるチャンスすら私の干渉で消し去ったからではないのか…

日は沈もうとしていた。
今日を含めてあと二回しか見られない夕日は、そんなこと知らんがなといわんばかりにいつものように輝いていた。
「もしも、そうなら…」
言葉がこぼれ、私の目は南を向いた。
「私は、行かなきゃいけない」
たとえ、門前払いにあっても構わない。
でも、行かなきゃいけない。

彼に、償いをするために。



515 名前: ◆SPJ5GSENNs 投稿日: 2006/04/21(金) 09:12:49.27 ID:TsN1DEfyO
もう太陽はてっぺんしか見えないくらいまで沈んでいる。
全力で走ったのは、何日ぶりだろうか。
平凡な一軒家の前に着くと、私は呼び鈴をならした。

……

……いないのだろうか、それとも、居留守をしているのだろうか…そう思ったときだった。

「島崎くんはいるかの曲芸?」
彼の、声。
「木元…私だ。早坂だ」
「先輩?…何の用です」
「お前に、謝りたいんだ…死ぬ前に」
「…」
「お願いだ、会わせてくれないか…」
「…合い言葉を」
「わんぱくふりっぱあ」



519 名前: ◆SPJ5GSENNs 投稿日: 2006/04/21(金) 09:22:48.29 ID:TsN1DEfyO
彼と冗談半分で決めていた合い言葉を言うと、玄関からカチャリと音がした。
「鍵を開けました…どうぞ」

扉を開けると、やつれた木元の顔が出迎える。
「こんばんは」
「ああ…お邪魔する」
「もう家には誰もいませんから…そんなこと言わなくていいですよ」
木元は感情のない声で受け答えをした。

彼の部屋に連れていかれると、茶を入れてくると言って木元が居間に向かっていった。一人残された私は、とりあえず彼の部屋を見渡す。
タンスと、ベッドと、勉強机。これ以上ないほど質素な部屋は、冷たい空気を孕んでいる。
彼の孤独な日々があまりにもストレートに反映されているのだ。
「先輩、お茶です」
気付くと、木元は茶を持ってきてくれていた。
冷たい木の床に座り、向かい合う。



521 名前: ◆SPJ5GSENNs 投稿日: 2006/04/21(金) 09:35:57.88 ID:TsN1DEfyO
「木元…すまない」
「…」
「私はお前を守ることしか考えていなかった。だから、お前を余計にみんなから引き離してしまったんだよな…本当にすまない」
「先輩…」
「もっと、わかってやるべきだったのにな…」
「いえ、そもそも僕がダメな男だったから…」
「そんな事はない!私が悪いんだ…」
木元は何も言わずうつむいている。恐らく木元は、私の罪を認めたくなかったのだろう。
「で…なんだが」
「なんですか」
「隕石が落ちるのは、明日の24時なんだよな」
「はい」
「……私は、お前に償いをしたいんだ」
「…」
「私の残りの人生を、お前の手のひらに委ねたい」
「…え?」
驚く彼を見て、私は宣言した。

「明日の夜まで、私を好きにしていいということだ」


530 名前: ◆SPJ5GSENNs 投稿日: 2006/04/21(金) 10:09:06.95 ID:TsN1DEfyO
「腹減った」
「わかったわかった、もう少しでカレーができるから待っててくれ」
エプロンを付けた私が、食卓で座っている木元と話している。



「何言ってるんですか!」
「…私じゃ不満か?確かに胸は小さいが…処女だぞ?」
「そういうことじゃなくて…」
「女には興味がないのか?」
「そうでもないです!…でも…その…」
「どうした?」
「先輩と、一緒に暮らしたいっていう気持ちはあります」
「そうか」
「…一緒に暮らすだけですよ」
「ああ、わかったよ」


…あの時の彼の顔は可愛かったな…とか思う。
結局、木元だってちゃんとした男の子なわけだ。

「ほら、食え」
カレーを盛り付けて食卓に置く。
「いただきます…」
スプーンで食べ始める木元を見ると、急に顔がほころぶ。
「おいしいかな?」
「はい…あ、先輩…」
「ん?」
木元が恥ずかしそうに呟く。
「先輩のそんな笑顔、初めて見ましたよ」


537 名前: ◆SPJ5GSENNs 投稿日: 2006/04/21(金) 10:22:35.71 ID:TsN1DEfyO
「湯加減はどうだー」
「いいですよー」
すりガラスの向こうから木元の気持ち良さそうな声がする。
「なぁ、木元ー」
「なんすかー」
「入っていいかー?」
「だめっすよー」
「即答か(´・ω・`)」

しばらくして彼が風呂から出たので、私も風呂に入ることにした。
「見るなよー」
「みませんよー」
脱衣室の向こうから聞こえる声は、心なしか興奮しているようにも聞こえる。

セーラー服を脱いで、髪を束ねていた紐を解くと、長い黒髪がふわりと広がる。
さらに下着と靴下を脱いで一糸纏わぬ姿になると、ひとつため息。
「相変わらず小さいな」
胸はほんの僅か膨らんでいるだけ。
「やっぱり大きいほうが良いのだろうか」
風呂に肩まで浸かって、またため息。


540 名前: ◆SPJ5GSENNs 投稿日: 2006/04/21(金) 10:31:07.27 ID:TsN1DEfyO
風呂を出ると、二人はベッドに横になった。
勿論、互いに服を着ているわけだが。

「なぁ、木元」
天井をみながら呟く。
「なんすか?」
「明日の夜に、死ぬんだよな」
木元の言葉が止まる。
確かに、信じたくない。
だって、前兆らしき事も何も起きていないし、むしろ平和じゃないか。
「恐いか?」
「さぁ…」
「…」
「でも、先輩だって恐いんでしょう?」
「!」
図星だった。
私は何も答えられずに彼の手を握った。
「こうしてて、いいか?」
「これくらいなら…いいですよ」



542 名前: ◆SPJ5GSENNs 投稿日: 2006/04/21(金) 10:36:19.53 ID:TsN1DEfyO
暖かい、彼の手。
イジメを受けている人間だから、こんなに優しいのだろうか。

…だとしたら、とんだ皮肉だな。

私は一人、笑った。
そしてそのまま、眠りに落ちたのだった…


547 名前: ◆SPJ5GSENNs 投稿日: 2006/04/21(金) 10:53:50.72 ID:TsN1DEfyO
翌朝。
目を覚ますと、木元は隣にいなかった。
居間の方で音がするからたぶん朝ご飯でも…
「…あれ?」
部屋の時計を見ると、時計の針は…


11時を指している。


「な、なんと!」
私は勢い良く飛び起きた。大寝坊じゃないか。しかも最期の日に。
「木元ー!」
着替えが弓道袴しかなかったのでそれに着替え、駆け足で台所に向かう。
「おはよーございます、先輩」
木元はフレンチトーストを皿に盛り付けていた。
「最期の日なんだから起こしてくれよ」
「だって先輩、すごく幸せそうに寝てたんですから、仕方ないじゃないですか」
「う」
顔が熱くなる。たぶん赤面してるんだろう。こんな事言われたら怒れないじゃないか…
「…まぁいい!私にもトーストを作ってくれないか?」
「ちゃんと用意してありますよ」


549 名前: ◆SPJ5GSENNs 投稿日: 2006/04/21(金) 10:59:51.92 ID:TsN1DEfyO
昼を過ぎると、二人揃ってテレビを見ていた。
死後の世界についての番組や、ひたすら性行為の場面を放送する番組など、もはやヤケクソな感じが否めないものばかりだった。
しかし私たちは見ていたのだ。そうして時間をつぶすしかなかったから。

夜9時を回った頃、木元は突然呟いた。
「先輩」
「どうした?」
「先輩がお風呂から出たら…」
「?」

「抱いて、良いですか?」


572 名前: ◆SPJ5GSENNs 投稿日: 2006/04/21(金) 12:48:07.81 ID:TsN1DEfyO
>>549の続き 

お湯に浸かると、ただでさえ熱い身体がさらに熱を持っているような感じがする。
身体を丹念に洗う。お清めの儀式みたいだなぁと思いながら。
「いよいよか…」
ついに男に処女を捧げるときが来るのか。
恐いわけではない。それよりも、こんなに緊張するのかと驚く気持ちのほうが大きい。
風呂を出ても、身体の熱は未だそのまま。私は下着を身につけずに弓道袴だけを着て寝室に向かった。

「木元…来たぞ…」
部屋に入って、彼のいるベッドに向かう。と、
「…!」

彼は寝ていた。

「そんな…(´・ω・`)」
起こそうとして肩に触れると、その時初めて彼が裸だということに気付く。
「木元…」
頬を撫でて、軽く、キスする。唇の先に、熱くて柔らかいものが触れた。
「何で寝てるんだよ…起きて…起きてくれよ」
揺するものの、起きる気配はない。

時計は11時半になろうとしていた。


579 名前: ◆SPJ5GSENNs 投稿日: 2006/04/21(金) 13:19:39.57 ID:TsN1DEfyO
「こいつ…確か童貞だったよな」
木元の頬を撫でながら呟く。
「女の味を知らずに…死ぬのか」
…このまま、彼の上に乗って挿入させれば、彼は起きてくれるのだろうか。
…それとも、彼は寝たまま初セックスするはめになるのだろうか。
「…お前は、汚れないほうがいいのか?」

11時52分。
終わりまで、あと8分。
「何で…こうなるんだろう」
私は天井を見ながら呟く。
最初は、確かに抱かれることに抵抗はあった。それは事実だ。
しかし今は、償いとかじゃなくて、素直に彼に抱かれたいという気持ちがある。

だから、私は今泣いているのだろう。



581 名前: ◆SPJ5GSENNs 投稿日: 2006/04/21(金) 13:30:36.03 ID:TsN1DEfyO
抱かれたいという思いが叶わない。
つまり女として死ねない。

それが、私への罰なんだと、そう思った時だった。

「…先輩」
その声に驚いて右を見ると、木元が悲しそうな顔でこっちを見ていた。
「ごめんなさい…寝たふり…してました」
「木元…」
「先輩、やっぱり僕に抱かれるの、嫌なんじゃないかなって思って…もっと上手い人のほうが良いんじゃないかって思って…」
「いや…いいんだ、木元」
そっと、背中に腕を回す。
「きっと、これでいいんだ…これで…」
そう言った瞬間、日付が変わるのを伝える私の携帯のアラームが、静かに響き渡った。
「……!」


583 名前: ◆SPJ5GSENNs 投稿日: 2006/04/21(金) 13:46:31.83 ID:TsN1DEfyO
ああ、今死ぬんだ。
互いを抱き締める力が強くなっていく。
外からは人々の声。
ここにまで響くのなら、相当の大声だろう。おおかた、断末魔とでも言ったところか…
「やったぜえぇぇ!」
「いやっほおおおぉうぅ!」

…違う?

「先輩…」
「ああ、なんか変だな…」私はベッドから降りて、窓の外を見た。

夜空にはいつものように、星がきらめいていた。
「あのー、隕石はどうなったんですかー?」
外で乱舞している男に問い掛けると、驚くべき答えが返ってくる。
「隕石はそれたそうだお!地球は助かったんだお!」
「聞いたか?木元」
「は…はい!」
「よかったー!!」
私は木元と抱き合って喜んだ。初めて、嬉し泣きというものを経験した。

しばらくして、はしゃぎ疲れたので二人はぼーっとしている。
「ところで木元…」
「はい…?」
「もう…約束の時間は終わってしまった」
「あ…はい…」



585 名前: ◆SPJ5GSENNs 投稿日: 2006/04/21(金) 13:54:24.25 ID:TsN1DEfyO
木元は少ししょんぼりした顔をしている。
「こら、まだ話は終わってないぞ」
「え?」
「私は、お前が好きになった」
「え!?」
「だから…今度こそは私を抱いてくれ」
袴の帯を解き、木元を抱き締める。
「先輩…わかりました」
彼に導かれて、私はベッドに横になる。
私の服を脱がせる彼の手は、やはり震えていた。
「大丈夫…お互い、初めてなんだから」
そっとその手を握る。
彼の首から背中に手を回して、私はそっと呟いた。
「もうお前は一人じゃない…私が、ずっと一緒にいる」