それは、ある日の午後3時のこと――。
おやつの苺大福を頬張りながら雛苺は言った。
「ねぇトモエ、キスしたことある?」
「キス?!」
思いがけない一言に巴のジュースを飲む手が止まる。
「どうして急にそんなことを訊こうと思ったの?」
「昨日ね、翠星石と蒼星石がキスしてるのを見ちゃったの」
「…本当に?」
「本当よ。ヒナがね、お昼寝から起きたら、二人でチュッってしてたの。
ヒナ、凄くびっくりしたけど、なんとなくお話したらダメだと思ったから、こっそり寝たふりしたのよ」
「そうだったの…」
そう答えながら、巴はキスのことを考えていた。
まだ中学生とはいえ、自分だって思春期の女の子だ。そういうことに興味がないと言えば嘘になる。
最も何も経験がない今は、ドラマや本で見たり読んだりするそのシーンに
密かにドキドキするくらいだけれど…。
「ねぇ、翠星石と蒼星石はどうしてキスしてたのかな?」
「…えっ?」
雛苺の声で巴は我に返った。
「そうね…。きっと大好きだからじゃないかな。
ほら、お母さんって赤ちゃんが可愛くてキスしたりするでしょう?多分、それと同じことだと思うわ」
「うぃー。分かりましたなの」
巴の話を頷きながら聞いていた雛苺だったが、「じゃあ、ヒナも!」と言うと、
その小さな手を伸ばして巴の頬を包み込み、唇にそっとキスをした。
「…?!」
あまりに突然のことに驚き、身動きが出来なくなってしまう巴。
それを知ってか知らずか、雛苺は巴の頭を撫でながら、こう言った。
「大好きならキスしてもいいってお話だったのよ。
ヒナは巴のことがだぁーい好きだから、特別にチュッってしたかったの」
「…くすぐったいよ」
いつもと変わらない無邪気な雛苺の表情に巴も自然と笑顔になる。
「うよ?トモエ、なんだか頬が赤いのよ?」
「あら、そう?」
巴はまだ少しドキドキする胸を押さえながら、
「私も大好きよ、雛苺」と言って、雛苺の額に優しくキスをした。
それは、ある日の午後3時のこと――。
思いがけなく訪れた巴のファーストキスは甘い苺大福の味がした。
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