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 加藤乙女を殺害後、美琴は草木を掻き分け南へと進んでいた。
 海岸線を南から南東へ移動して同じ学校、矢神学院高校の面々を探すつもりだった。
 少し歩くと、村が見え、自分の位置がI-6付近だというとこもわかった。
(みんな……生きててくれ……)
 目を覚ましてから何度も同じ言葉を呟く。
 ついた村は地図を見ると氷川村と書いてあるが、実際には民家が数軒建っているだけのもので
 一目で村全体が見渡せるほどだった。
 村を見渡す美琴の目に一点、人影が目に映る。
(あれは……長ランに髪総立ち?)
 そこには、とても同じ時代の人間とは思えない正に、不良そのものが立ち尽くしていた。
 仲間と一緒に帰る為に美琴は、その不良に近づいていく。
 不良は後ろを向いており、そのまま奇襲することもできた。
 それでも、美琴は声を掛ける。
 ―――――名前を聞くために

「……よぉ」
「ん?……よぉ」

 声を掛けると男は慌てる様子もなく振り返り、返事をしてきた。

「あんたさ、誰かと会ったりしなかった?」
「いや、会ってないぜ」

 この男は嘘をつかない。
 直感的に美琴はそれを感じ、冷静にそしてゆっくりとデイバックから金属バットを取り出す。
 男が少し不思議な顔を向ける。

「そっか……ところで私は周防美琴っていうんだ。あんたは?」
「伊藤……伊藤真司だ」
「ありがとう、じゃあ死んでくれるかな?」

 言うと同時に美琴の持つ金属バットが伊藤の髪を掠める。
「何のつもりだ!」
 伊藤の声も無視し、美琴はバットを振るう。

「いいから、死んでくれればいいんだよ、あんたのことは忘れないから!」
「くそ、こんなイカれた政策なんかに乗ってんじゃねえよ」

 伊藤は何とか、このプログラムから全員を救いたかった。
 自分だけじゃない、教室にいた同じ学校、軟葉高校の面々だけじゃない。
 教室にいた全ての生徒を救うつもりだった。
 当然、脱出手段やこのプログラムを潰す計画があるわけでもない。
 それでも伊藤は全員が生きて帰れる方法を探すために人を探していた。
 そんな所に現れたのが周防美琴だったのだ。
 だが、伊藤の思惑とは裏腹に美琴はゲームに乗り、伊藤に襲い掛かってくる。
 金属バットが再び、伊藤の学ランをかすめる。

「いい加減にしろよ! 当たったら、いくら俺でもマジで死んじまうぞ」
「だから、死んでっていってるんだよ」

 美琴のバットは止まらない。
 元の使い方は微塵も感じさせない
 只、頭を狙って振りかぶる。
 只、腰を狙って振りかぶる。
 只、足を狙って振りかぶる。
 只、殺す為に振りかぶる――――

(花井……こいつ強いよ……バットが全然当たらない)

 元々、バットは人を殴るためにできてはいない。
 美琴のバットが喧嘩慣れしている伊藤に当たらないのは当然であった。

「なんで俺に死んでほしいんだよ!」
「――私は生き残ってみんなの所に……花井の所にみんなと一緒に帰りたいんだよ、だから死んで!」

 悲しい言葉が伊藤の胸に突き刺さる。

「だからって人を殺すのか? そんな簡単に人を殺すのか!」
「うるさい! 私はもう一人、殺してるんだよ!」

 伊藤の中で時間が止まるほど、その一言は衝撃的だった。
 人を殺している……。
 街にいるその辺のゴロツキが言う「ぶっ殺してやる!」「次、会ったら殺してやる」とはわけが違う一言。
 殺して『いる』……。
 殺してやるじゃない、過去形……一人殺して『いる』……。

「――――分かった」

 美琴は見た。伊藤真司の目が変わる瞬間を………。
 瞬間、動揺したと同時に手に持つ金属バットを伊藤の足で弾かれていた。
 伊藤はゆっくりと落とした金属バットを手に取る。

(不味い……やられる……)

 金属バットを取られ美琴は後退する。
 当然、取られた後にはバットで攻撃してくるに違いない。
 しかし、伊藤は美琴の予想を上回る行動に出た。

「こんなもんはいらねぇ……」

 そう言うと金属バットをブーメランのように回転させながら、遥か遠く、森の方向へと投げた。
 投げた後、鬼のように長いズボンのポケットに手を突っ込み真剣な眼差しで語りかけてくる。どこか見たことのある眼差しだ。

「―――勝負だ周防、一人殺してると言ったお前の言葉、それほどの決意なら俺にはお前の信念は崩せない。
 だが、お前に人殺しをさせるわけにはいかねぇ。だから、勝負して俺が勝ったらお前はこれから先、人を殺すな。
 そのかわり俺が負けたら、大人しく言う事聞いてやるよ」

 伊藤のその言葉を聞いて美琴は驚きつつも承諾する。

「分かった、素手での一対一の勝負だな」
「―――ああ、そうだ」

 美琴は思う。
 ――――舐められていると。
 確かに伊藤は強い、それでもバットを持っていたときとはわけが違う。
 冷静になれば少林寺拳法をやってる自分にとってあんな重い金属バットで戦うよりも素手の方が強いのだ。
 伊藤がどれだけ強かろうが花井よりは強いわけがない。
 それに伊藤は油断しているはずだ、たかが女と―――その証拠にまだポケットに手を突っ込んでいる。

「じゃあいくぞ!」
「――――ああ」

 まだ、ポケットに手を突っ込んでいる……。
 避けれる自信でもあるのだろうか?
 渾身の力で伊藤の顔面目掛けて美琴は正拳突きを放つ。

 ――――派手な音はしない。それでも拳に伝わってくる。
 確実に相手の顔面に拳がめり込んでいる。

「どうだ!」

 渾身の当たりに美琴は思わず声を出す。
 ―――出した後で気づく。
 渾身の当たりなのに、拳の前、伊藤の瞳だけが鋭い眼光でこちらを見つめていることに――――。
 そして、まだポケットに手を突っ込んだまま冷静に言ってくる。

「――――それが本気か?」

 美琴の中で何かが切れた。

「うおおおおおおっ!!」

 正拳、裏拳、掌底、カカト落ちし、上段回し蹴り、拳法の技という技を伊藤に叩きこむ。
 バットの時とは違う。
 只、頭を狙い拳、蹴りを放つ。
 只、みぞおちを狙い拳、蹴りを放つ。
 只、膝を狙い蹴りを放つ。
 只、相手を殺すために短い人生で学んだ空手を使う。

(花井……あんたと一緒に習った技、こんなことに使ってごめんな………)

 心の中で花井に謝りつつも、伊藤に技を見舞っていく。
 バットの時とは違い全てが命中する……そう、全てが……
 周防は気づく、まだ伊藤がポケットに手を突っ込んでいることに……
 伊藤が自分の攻撃を全て受けていることに……
 伊藤が自分に攻撃をしてきていないことに……。

 手を止め、周防は伊藤に叫ぶ。

「伊藤っ!!!!」
「―――なんだ」

 鋭い眼光は相変わらずで返事がくる。

「なんで避けないんだよ!」
「―――お前には関係ねぇ」

 即座に返事が返ってくる。

「これは、俺と周防、お前との勝負だ。お前は俺を倒せばいい、ただそれだけだ」

 美琴には伊藤の考えが分からない。

「――分かったよ」

 再び、美琴は伊藤を殺すために伊藤を倒すべくして拳法を使う。
 伊藤の手はまだポケットの中にあった………。




 ※   ※   ※  




 ―――――――どれだけ時間が経っただろうか
 日の光もすっかりと真上にあり、昼が近づいてきているのが分かる。

 沖木島、氷川村
 その村の中央付近から継続的に同じ音が未だに聞こえていた。

「伊藤ッ!!!!!」
「――――なんだ」
「なんで避けないんだよ!」
「――――お前には関係ねぇ」
「なんで攻撃してこないんだよ!」
「――――お前には関係ねぇ」

 こいつは一体何なんだよ………。
 もう、学ランもボロボロ。肉体だって限界のはずだ。こっちの拳のほうが痛いぐらいだ。
 なのに、眼だけは死んでない……。そう、どこかで見たことのある、あの眼。
 それでも、私はみんなと一緒に帰るために此処で負けるわけにいかない。
 私自信の為に……天満の為に……沢近の為に……一条の為に……播磨の為に……
 そして、花井と会う為に……。
 あの楽しかった学園生活に戻るために私は頑張らなければならない。
 そう……だから、その為に私は……私は……
 この男、伊藤真司が倒れるまで私は――――

 そして、また拳を放つ。
 また、伊藤は受けるだろう……。
 いつまで持つか分からない……それでもこいつは、また受ける。
 私はまた拳を放つ、また蹴りを放つ、私はまた伊藤に『暴力』を向ける。

 ――――気づいたら、私の拳は伊藤の手に掴まれていた。

「泣いてまで、人を殺さなきゃいけないのか!」

 伊藤に言われて初めて気づく、頬から流れる液体に……。

「あ……れ?」
 液体は滝のように止まらない。

「お前が人を殺して、お前の友達は笑ってくれるのか!」
「うるさい!」

拳は掴まれたままで蹴りを放つ。

「お前が泣いてる姿をみて、お前の大切な人達が喜ぶのか!」
「うるさいッ!」

同じ蹴りをもう一度放つ。
それでも、掴まれた拳から伊藤の熱が伝わってくる。

「お前の今の姿を見て花井とやらは喜んでくれるのか!
 俺はお前もお前の友達も必ず助ける!当然、俺自身も俺の連れも生きて帰る!」
「そんなのできないんだよッ!!」
「できるかできねぇじゃねぇ! やるんだよ!!」

 頬を流れる涙が止まらない。
(花井……今分かったよ、こいつの眼……お前や播磨と一緒の眼だ。普段とは違う本気になった時の眼
 その眼から私は幾度となく勇気や希望を貰った。その眼と一緒だ………)

「分かった……私の負けだよ……あんたのその眼に負けたよ」

 どれだけ攻撃しても変わらなかった瞳、その漢(オトコ)の眼に私はやられた。
 眼だけじゃない、伊藤は花井と播磨を足して割ったような男だ。
 この男なら…………。

「おい、伊藤?」

 負けを宣言したのに返事がない伊藤に疑問が残り、声をかける。

「…………」

 それでも返事がない。そっと顔を近づけてみる。

「………伊藤」

 そこには誰が見ても意識がないと分かる顔があった。






 ※   ※   ※  





 沖木島、氷川村
 日は完全に照っていた。
 元から住んでいる住人は一人も居らず、また、中央付近から音がすることもなかった……。


「これで大丈夫だろ」

 そう言う少女の傍らには一昔前のような不良がベットに寝ていた。

 意識がないと判断した美琴はすぐに脈をはかり、気絶しているだけだと判断すると急いで民家に運びベットに寝かせていた。

(自分で殴っておいて自分で介抱するなんてな……)

 自分の拳も痛むがそれは殺した加藤さん、そして今寝ている伊藤と比べるとなんでもない。
 そう思いつつ、部屋から出ようとする。

「どこ行くんだよ?」

 不意に後ろから声がする。目が覚めたみたいだな。

「トイレだよ、女の子に聞くもんじゃないぜ」
「そうか」

 お互い分かっているのか、それ以上はなかった。
 周防の右手がドアノブにかかる。
 一つ疑問が残っているのを思い出し、周防は伊藤に声をかける。

「そういえば、伊藤。結局なんで私を殴らなかったんだ? 私を倒したほうが早かっただろ?」
「簡単な話だ」
「なんなんだよ?」
「――――お前が女だからだよ」
「―――そうか」

 そう言うと、ドアノブを廻した。
 外に出ると先ほどまでの太陽とは違う太陽が周防を照らしていた――――

「悪いな伊藤、私はやっぱりみんなを助ける為に動かないとだめなんだ。
 ――――でも……約束は守るよ」



【I-6/民家周辺/1日目-午前】



【周防美琴@スクールランブル】
【装備】:
【所持品】:支給品一式、ロープ
【状態】:拳に軽症
【思考・行動】
基本.仲間を探す。襲ってくるものに容赦はしないが殺しはしない
1.海岸線を南から南東へ沿って移動。仲間を探す
2.同じ学校の仲間を全員探したら伊藤と合流したい



※金属バットは村付近の草むらに落ちています。


【I-6/民家/1日目-午前】



【伊藤真司@今日から俺は!】
【装備】:
【所持品】:支給品一式、本人確認済み支給品2つ
【状態】:全身打撲
【思考・行動】
基本.全員助ける。手段等は人を探しつつ考える。
1.とりあえず、体がまともに動くまで待機
2.人は絶対に殺さない。
3.マーダーに会っても根性で説得



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