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「抵抗しないで下さい。武器を捨てて落ち着いて下されば痛めつけたりはしないと約束します」

 役場を訪れた理子は死角から現れた人影に突然組み伏せられ、状況にそぐわないやけにかわいい声でそう勧告された。
 顔を向ける。自分を床に押し付けているのは儚げな雰囲気の少女。彼女は驚かされた。
 理子も熱心ではないとはいえ合気道道場の一人娘。並の体育会系男子学生ならいなせる実力は持っているつもりだ。それなのに不意打ちとはいえあっさりと上四方固めを決められてしまった。
 それをした相手がまさか華奢な女の子だとは。想定外にも程がある。

「そう言われてすぐに信じられるほど世の中甘くないでしょッ!」
 握っていた銃をひとまず床に落とし、全力で抵抗しようとする。が、動かない。
 形は決して完璧ではない。つまり、技術で足りない部分を膂力で補っている。
(そんな細い体型でどれだけ馬鹿力なわけ?)

 儚げな少女は困ったように呟く。
「そ、それはそうなんですけど……」
 その気弱そうな返事を聞いて理子は決めた。ここはひとまず従おうと。
彼女の言動に殺意や自暴自棄の気はない。殺されるわけでないならまずは話を聞こう。場合によっては離れ離れになった友達も一緒に探してもらえるかもしれない。

「わかったわ。まずは話を聞かせて」
「はいっ! ありがとうございます。あ、私は一条といいます。一条かれんです」
 応接室で理子と一条は座り込み話を始め、すぐに打ち解けた。
「お友達を、喪ってしまったんですね……」
「そうよ。あの坂持とかいうブサ男サイテー。三ちゃんに仕返ししてもらわなきゃ」

 後ろを向いてぼそぼそとそうですよね緊張感には個人差がありますよねと呟く一条に理子は問う。

「で、一条さんは何するつもりだったの? プログラムはそう簡単には止められないわよ」
「そうですね。みんなを殺さないと決して生き残れない。私、そんなことできないからこのまま何もできずにぼーっとしていようかとさっきまで思ってました」
「そうしてないって事は、戦う覚悟ができた……わけじゃないわよね。それ以外の方法を見つけたってコトかしら」

 一条は首を縦に振った。
「全員が生き残れる可能性に気付いたんです。だから、怖いけど私がみんなを止めなくちゃ」
 語るその指先が震えていた。銃を持った理子を素手で押さえ込もうと決意したときもきっとこうだったのだろう。
 この子は決して強くなんてない。ちょっと力があるだけで精神面は私と同じ。いや、私よりもずっと脆弱であろう普通の女子高生なんだと理子はその様子から感じていた。

「でも、どうやって? いつもプログラムは優勝者が出て他の人はみんな『戦死』してるじゃない。あんまりニュースを見ないあたしでも知ってるのに」
「はい。優勝者が出たらそうなります。でも毎回そうなるわけじゃありません」
「優勝者が出なかったらってコト? 相討ちと……あとは時間切れよね」
 一条はもう一度大きく頷く。
「優勝者が出なかった場合、失敗として扱われてニュースになりません。当然参加者の死因も読み上げられませんし、資料にもクラス名と不成立としか書かれないんです」
「なんでそんなことまで知ってるのよアンタ」
「中学生のとき調べました。もし選ばれたらって、不安……でしたから……」

(うわっ、ネガティブー)

 一条は続ける。
「優勝者が不都合なく転校できるよう、プログラムの結果が発表されるのはその県内だけですよね。つまり実際に何人生き残っていたとしても、それは本人たち以外には決して知ることができません」
 そこまで聞いて理子も何を言わんとしているのか理解した。
「アンタ、時間切れなら首輪の爆発はないと思ってるわけね?」
「はい。死の恐怖に負けず、見ず知らずの他人を信じること。それがこのプログラムの本当の終了条件だと私は思いました」

 しばし訪れる沈黙。大きく息を吐きだしたのち、理子は一条に告げた。
「おそれいったわ。その可能性は確かにあると思う。で、あたしはどうすればいいのかしら」
「私が武装解除をお願いしてここにみんなを連れてきますから、赤坂さんは皆さんの説得をお願いします。信じてもらわないとうまくいかないから大事な役目です」
「命懸けね。アンタだけ」

 武装解除をお願いするという言葉は、正しく言い換えれば先程と同じ、実力行使で武器を奪い捨てるということ。つまり火器や刃物を持った男子生徒に立ち向かう覚悟を彼女は既に決めている。
 やっぱりこの子、強い。理子は一条を見直した。

「わかった。じゃあまず情報交換しましょ。ウチの学校の4人は―――」
 お互いの高校の生徒の外見を教えあったのち、できるだけ早めに戻るといって一条は建物を出て行った。
 彼女に没収された銃はどこかの部屋にもう隠してあるはずだ。人に信じてもらうのに拳銃や刃物を持っていてはいけないからと言われ、納得して理子も渡した。
 だから、今ここに誰かが敵意のある人間が来たら理子は素手で相手をすることになる。
 少なくとも支給されていた整髪料は戦いの役には立たないだろう。せいぜい使えるのは室内にある椅子までといったところだ。

「ま、カレンちゃんに比べたら安全この上ないんだけどね」
 返事はない。そこそこ広いこの村役場にひとりきりだ。
「みんな早まらないでよね。メグミを殺したブサ教師への敵討ちは帰ってからじっくりやればいいんだから……生きてなきゃ何もできないんだから……」

 プログラムの残酷さを、まだこのとき二人は知らなかった。

【C-3 役場/一日目 早朝】

【赤坂理子@今日から俺は!!】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、整髪料
【状態】:健康
【思考・行動】
1.ひとまず一条を信用。とりあえず放送があるまでここに隠れておく
2.昼を過ぎても一条が戻ってこないようなら、書き置きをして仲間を探しにいく
「ふあ、緊張したー」
 一条は感慨深げに大きく息を吐く。それでも疲労とともに充実感があった。一人説得できたのだ。
 これと同じことを最大あと34回……気の遠くなる人数だがやるしかない。アガリ症の自分にどこまでできるかは不安だったが、不思議と死への恐怖はなかった。

「もっと怖いこと、あるもんね」
 ここにはクラスメイトがいる。沢近さんや塚本さん、周防さん。それに播磨さん。
 彼女らがもしプログラムに忠実な行動、つまり他校の生徒を進んで殺して回っていたらどうしたらいいか自分にもわからない。それが一条かれんには一番不安だった。

 けれど、進むしかない。そう自分で決めたのだから。
 思い直して理子の拳銃は威嚇用として持ってきていた。置いてきたのは銃弾だけだ。
「次も友好的な人と会えるといいな……」
 その願いが戦場で叶えられるものなのかどうかは、誰も知らない。

【C-3 村外れ/一日目 早朝】
【一条かれん@スクールランブル】
【装備】:ワルサーP38(弾数0/8)
【所持品】:支給品一式、ランダムアイテム1~3
【状態】:健康
【思考・行動】
1.他校の生徒を探し出し、無力化しつつ説得
2.仲間全員に取り返しのつかなくなる前に自分の仮説を伝えたい



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