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国語国字問題(wikipwdiaより)
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国語国字問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
国語国字問題(こくごこくじもんだい)は、国語としての日本語(標準語)の漢字を廃止または改変しようという明治以来の言語政策問題のこと。
この項目では、近現代の日本語において、限られた用途しか持たず使用頻度の少ない漢字の習得・使用の是非をめぐり、あるいは時には漢字一般の使用の是非をめぐり、形成される政策(公的決定)について解説する。
目次
- 1 日本における主な政策の歴史
- 1.1 国語改革
- 1.1.1 当用漢字表
- 1.1.2 当用漢字別表と人名用漢字別表
- 1.1.3 当用漢字に対する批判
- 1.1.4 現代かなづかい
- 1.2 常用漢字とJIS
- 1.3 表外漢字字体表
- 1.1 国語改革
- 2 主な政策論議の歴史
- 3 関連団体とその活動
- 4 関連項目
- 5 外部リンク
- 6 関連書
1.日本における主な政策の歴史
1.1国語改革
戦後に行われた国語改革は、漢字をめぐる政策の内、今日の日本語に対する影響が最も大きいもののひとつであるとされる。
1946年4月、志賀直哉は雑誌『改造』に「国語問題」を発表し、日本語を廃止して、世界中で一番美しい言語であるフランス語を採用することにしたらどうか、という提案を行った。また11月12日、読売報知(今の読売新聞)は「漢字を廃止せよ」と題された社説を掲載した。 また、同じ年の3月、連合国軍最高司令官総司令部によって招かれた第一次アメリカ教育使節団が3月31日に第一次アメリカ教育使節団報告書を提出、学校教育における漢字の弊害とローマ字の便を指摘しており、連合国軍の占領政策となったため、漢字全廃の決定とそれまでの使用漢字当用漢字と現代かなづかいが制定された。
1.1.1当用漢字表
当用漢字とは、1946年(昭和21年)に内閣から告示された漢字の全廃を目的に全廃まで当面使用できる漢字表に掲載された1850字の漢字を、狭義には指す。広義には、関連するいくつかの告示を総称する。同表では、使用頻度の低いとされた漢字が排除され、公式文書やメディアなどで用いるべき漢字の範囲が示された。
従来、複雑であったり多様であったりした字体を簡素化する試みも、一部の文字で行われた。ただ、中国の簡体字のように漢字の構成要素ごとに体系的に変更を行なうのではなく、慣例を参考に個別の文字を部分的に略字化しただけであった。
漢字の読みを制限する試みも行われたが、当初の制限は「魚」の読みを「うお」に制限し「さかな」の読みができなくなるなどの不合理が散見され、一度改訂されている。
今日見られる「まぜ書き」の問題も、同表に端を発する問題である。同表によれば、当用漢字で書けない言葉は言い換えを行なう事になっていたが、現実には漢字をかなで書いただけで元の言葉が引き続き使われる事がかなり多くあり、「まぜ書き」が多数生ずる事となった。顕著な例としては「改ざん」「破たん」「隠ぺい」「漏えい」「覚せい剤」などがあり、これらは正しく表記すると「改竄」「破綻」「隠蔽」「漏洩」「覚醒剤」である。別にこれらは法律で「まぜ書き」を使うように指導されているわけではないし、随筆や小説などの文学ではほとんど用いられない。だが、一部の大手新聞社やテレビ放送局などのマスコミはそれぞれの業界団体を経由で政府の指導に従い、特に「まぜ書き」表現を多用している。表向きでは大衆に文面を読みやすくする配慮であるが、それは同時に購読者や視聴者を獲得するための戦略でもある。極端な例としては一部テレビ番組で、低学年にも分かりやすく説明できるよう、常用漢字さえも「まぜ書き」の対象としている番組があるのも事実である。他にも、戦前においては、新聞等において難読字にはルビを振ることが一般的に行われていたが、これが当時の活版印刷においては組版作業のコスト増大を招いており、漢字制限・漢字撤廃がこれらのコストを低減させる、という経済的理由も当時は存在した。事実、新聞各社は当用漢字の導入と同時にルビを廃止している。漢字の字数も読みも制限されていれば、振り仮名は不要である、という理屈である。
国語審議会は1956年(昭和31年)7月5日、当用漢字の適用を円滑にするためとして、当用漢字表にない漢字を含む漢語を同音の別字に書きかえてもよいことを決定し、「同音の漢字による書きかえ」として発表した。以下のようなものが有名。(括弧内が本来の書き方。)
- 注文(註文)
- 遺跡(遺蹟)
- 防御(防禦)
- 扇動(煽動)
- 英知(叡智)
- 混交(混淆)
- 更生(甦生: 本来の読みは「そせい」→蘇生)
- 激高(激昂)
- 知恵(智慧)
- 略奪(掠奪)
この方針は中国の簡体字の原理と少し似ているように思われる。今日では異なる文字に書き換えられたことがあまり意識されなくなった例として、
- 妨害(妨碍、妨礙)
- 意向(意嚮)
- 講和(媾和)
- 硬骨(鯁骨)
- 格闘(挌鬪)
- 骨格(骨骼)
- 書簡(書翰)
- 奇形(畸形)
- 破棄(破毀)
のようなものがある。
これらの「まぜ書き」「書き換え」には共通の問題点が孕まれている。それは、熟語本来の意味が不明瞭になってしまうことである。漢字は「音」と「意」で成り立っており、熟語はそれを組み合わせ、意味を表したものである。たとえば「破たん」という熟語で、「破」は”やぶれる”という意味であるが、「たん」の意味を問われたとして、平仮名の「たん」だと何も意味を成せない。また、「沈澱」の書き換えである「沈殿」だと、「殿」の意味を問われたとしても、「殿が沈む」など全く意味をはき違えてしまうのである。これは自ら日本語文化、熟語の成り立ちを破棄していることに等しい行為である。書き換えの中には支障の少ないものもあるが(「掩護」→「援護」など)、大抵は音を仮借しただけに過ぎず、乱れた日本語表現を合理化主義の中で合法化してしまったといえる。実際、国語審議会の動きには新聞社など大手マスコミが大きく関わっていたといわれている。
しかし、今日漢字表記の在り方が見直されつつあり、「まぜ書き」を用いず、表外の漢字を多用したり、またその漢字にはルビを表記するメディアが増加してきた。これは近年浸透してきたネット社会の中に於いて、ワープロの変換文字など表外字に触れあう機会が増大したことで、改めて表外字の存在が見直されてきた証拠である。そしてその表外字の存在が、日本固有の言語、漢字を見直す格好の機会となっていることが背景にある。(表外漢字字体表の項で詳述)
1.1.2当用漢字別表と人名用漢字別表
当用漢字のうち881字は、小学校教育期間中に習得されるべき漢字として当用漢字別表という形でまとめられた。いわゆる「教育漢字」である。
人名については、当初は当用漢字にないものは、新生児の戸籍の届出の際に使用すべきでないとしていたものの、1951年には人名用漢字別表として92字が内閣から告示され、当用漢字外の漢字も一部認められることになった。この人名用漢字別表は数度の改訂を経て1997年の改訂後、285字を含むものとなった。(但し、必ずしも追加だけが行われたわけではなく、一部の漢字は表から外された。)
また、札幌高等裁判所で、簡単な字であるのに人名用漢字別表に含まれないために子供の名として使用できなかったことを不服とした裁判で訴えが認められたことから、2004年8月13日に488文字が追加された。当初は580文字の追加が見込まれていたが、パブリックコメントの結果、人名にふさわしくない漢字(怨・痔・屍など)が削除された。
1.1.3当用漢字に対する批判
漢字全廃を目的とした当用漢字はしばしば批判されている。1958年から雑誌「聲」に連載された『私の國語教室』で福田恆存は、既に漢字制限は不可能である事が明らかになっている、と指摘した。1961年には表音主義者が多数を占め、毎回同じ委員が選出される構造となっていた国語審議会の総会から、舟橋聖一、塩田良平、宇野精一、山岸徳平等、改革反対派の委員が退場する事件となった。
1962年、国語審議会の委員に選出された吉田富三は、「国語は、漢字仮名交りを以て、その表記の正則とする。国語審議会は、この前提の下に、国語の改善を審議するものである。」を審議の前提とするよう提案した。
1965年、森戸辰男・国語審議会会長は記者会見で、「漢字かなまじり文が審議の前提。漢字全廃は考えられない」と述べた。
1.1.4現代かなづかい
現代かなづかいでは、歴史的仮名遣と字音仮名遣いとの区別を行なっていない。
助詞の「は」「へ」「を」において歴史的仮名遣いの原則が維持されている事はよく知られているが、漢字の読み方でも、字音仮名遣いに基いた規則を採用している場合がある。
和語においては、「鼻血」は「はな」と「ち」の合成語であるので形態素を意識した「はなぢ」と表記する。
しかし、音読みの場合は、「地面」のように発音通りの「じめん」が正則とされ、「ぢ」とたびたび書かれる「痔」も、現代かなづかいでは「じ」が正しい。
1.2常用漢字とJIS
常用漢字は、1981年に内閣から告示された漢字表に掲載された漢字1945字(常用漢字一覧参照)を指す。同表は当用漢字表を基に改定されたものである。常用漢字は、漢字全廃を目的とした当用漢字と比べて制限の緩い「目安」という位置付けになっている。
漢字をめぐるこうした政府の動きと前後して、日本規格協会(JIS)も、コンピュータやワープロなどで用いる漢字について、その漢字の種類(文字集合)と、各漢字をデータとして処理する際の数値表現(文字コード)の規格を独自に定める試みを続けてきた。
この内、前者「文字集合」は、常用漢字などと同じく、夥しい数の漢字の中から一定数の漢字をとりだしたもので、俗にJIS漢字と呼ばれる。現在までに数度の改訂が行なわれている。
最初のものは1978年に指定された6802字の漢字(JIS C 6226)である。俗に「旧JIS漢字」とも呼ばれる。
1983年には6877字の文字(漢字以外を含む)が指定された。(JIS C 6226)これは「新JIS漢字」と呼ばれるもので、後に1987年JIS X 0208という呼称に変更になった。
「旧JIS漢字」と「新JIS漢字」との間で、示された字体が入れ換えになっているものがある。「旧JIS漢字」で作成された文書が「新JIS漢字」を採用しているワープロ等で字体が変ってしまう、といった問題がある。
また、JISの文字集合では、「包摂」の考え方によって新旧の字体を区別せず、一つの文字として扱っているものがあり、両者を区別したい場合にも区別できないという問題がある。その一方、「剣」「劒」「劍」のように、複数の例示字体が存在する文字もある。
1.3表外漢字字体表
1980年代半ば以降、ワードプロセッサやパソコンにおけるかな漢字変換の普及により、それまで専ら手書きに頼っていた日本語の記述に大きな変化がもたらされた。それにより、常用漢字外の漢字の使用環境が改善され、それまで減少の一途を辿っていた漢字の使用率が、平衡、あるいは増加に転じるようになった。
常用漢字表に示される省略字体は、常用漢字表外の漢字には適用されないというのが原則ではあったが、前述の「新JIS漢字」は漢字の省略を常用漢字表外の漢字へと拡大しており、一般の書籍における漢字字体とワープロ/パソコン環境での出力字体との間で乖離を生んでいた。また、一部には「新JIS漢字」の省略を積極的に採用する動きも出版界にあり、常用漢字表外の漢字字体に混乱が生じているとして、国語審議会が「字体選択のよりどころ」として一定の方針を示すことになったのが、「表外漢字字体表」である。
表外漢字字体表では実際の印刷物に使われている表外漢字を調査し、その結果、表外漢字の代表的なものとして1,022字を挙げ、それらについてほぼ康熙字典掲載字体となる「印刷標準字体」を掲示した。うち、38字については略字体を「簡易慣用字体」としたが、全体方針としては常用漢字表外の漢字については、伝統的な字体を用いる方針が示された。
かつては漢字制限に積極的であった新聞各社であるが、表外漢字字体表の発表を受けて新聞用語懇談会においてまぜ書きの減少が検討された。その後刊行された『記者ハンドブック新聞用字用語集』では使用する漢字が増やされる傾向にあり、それまでまぜ書きにされていた「拉致」(「ら致」)や「危惧」(「危ぐ」)などが漢字書きされるようになっている。また、一部の新聞では組版作業の電算化に伴いルビを復活させた新聞もあり、足並みこそ揃ってはいないが、漢字の使用が増える傾向が全体的に見られる。この傾向は新聞以外のマスメディアでも同様であり、NHKでも『NHK 新用字用語辞典』において、まぜ書きを減らしている。
2000年に答申された表外漢字字体表は一部においてJIS漢字との不整合を持っていたが、2004年にJIS X 0213が改正され、例示字形を表外漢字字体表に整合させた。しかし現状でこの規格を採り入れたOSはなく、オプショナルな手段を用いずに印刷標準字体を過不足なく出力できるPC環境は存在しない。また法務省が2004年に行った人名用漢字の追加も印刷標準字体によって行われており、PC環境との乖離が進行している。
2005年、Microsoft社は次期OS・Windows Vistaにおいて標準日本語フォントをJIS X 0213:2004準拠とすることを発表した。これにより、表外漢字字体表とWindows環境上の漢字環境の不整合は解消されるが、同一の文字コードの表示字形が環境によって変化するという「旧JIS/新JIS」の混乱が再び招来されるのではないかといわれている。
2.主な政策論議の歴史
日本語の表記法として漢字を用いることの是非は、少なくとも幕末以来度々議論の対象となってきたとされる。従来は、以下のような根拠によって、漢字の使用が批判されてきた。(漢字廃止論も参照されよ)
- 漢字は数が多く、読み方、書き方共に覚えることが容易ではない。
- 国際的に良くつかわれる文字はローマ字であり、漢字を使用すれば世界から取り残される事になる。
タイプライタ、コンピュータの出現によって、機械化の観点からも批判が行なわれるようになった。
- ワープロ、コンピュータでは、数が多い漢字の処理に時間がかかる。
- 仮名のみ、ローマ字のみによる文書作成に比べて、漢字仮名交じり文による文書作成は、いわゆる「かな漢字変換」作業を必要とするため、非効率である。
そして、政策によって、使用する漢字を削減したり、あるいは漢字を全廃することは、国益にかなう事である、という主張が生じた。
漢字廃止論の先駆けとしてしばしば言及されるのが、1866年(慶応2年)、前島来輔(密)が、時の将軍徳川慶喜に提出した「漢字御廃止之議」と呼ばれる報告、提言(建白書)である(近年、この建白書の存在をめぐっては、否定的にみる見解や指摘が示され、その再検討を試みたものに、阿久澤佳之『前島来輔『漢字御廃止之議』の成立問題』立正大学文学部史学科卒業論文、1999年がある)。漢字の習得は非効率であるため漢字を廃止すべき、との議論であった。他に、次のような論者が知られている。
- 賀茂真淵『国意考』
漢字の数の多さを批判し、仮名はアルファベットと似て表音文字であるため便利だと論じた。仏典が50文字からなる語で書かれていること、オランダ語は25文字しか用いないこと、などを引き合いに出した。
- 本居宣長『玉勝間』
- 福澤諭吉『文字之教』1873年(明治6年)
- 前島来輔(密)『漢字御廃止之議』1866年(慶応2年)
- 西周『洋字ヲ以テ国語ヲ書スルノ論』(ローマ字推進)
- 末松謙澄『日本文章論』(明治19年)
- 上田万年
- 森有礼『日本の教育』(英語推進)
- 南部義籌(ローマ字推進)
- 馬場辰猪『日本語文典』
- 志賀直哉「国語問題」(『改造』1946年4月)
3.関連団体とその活動
- 新聞用語懇談会
- 日本新聞協会の加盟社からなる集まりで、新聞紙上における漢字の使用について話し合うもの。
4.関連項目
- 文部科学省
- 文字コード
- ローマ字論
- 日本における漢字
- 漢字廃止論
5.外部リンク
- 國語問題協議會
- 国語審議会報告「同音の漢字による書きかえ」 - 個人サイト
- 「同音の漢字による書きかえ」逆変換 - 個人サイト
- 日本の「漢字表」 - 京都大学人文科学研究所附属漢字情報研究センター
- 常用漢字表と83改正に関する文化庁の見解 - 文芸批評家、加藤弘一による
- カナモジカイ
6.関連書
- 高島俊男 『漢字と日本人』 文春新書 文藝春秋 ISBN 4166601989
- 田部井文雄 『「完璧」はなぜ「完ぺき」と書くのか』これでいいのか?交ぜ書き語 大修館書店 ISBN 4-469-22179-1