プロット(第一話)

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穏やかな春の外洋。洋上を小型のタンカーが進む。積荷は材木。船尾の甲板に、逞しい若者が佇んでいた。さっきからずっと空を見つめている。青い空を。
「!」
猛禽類を思わせる姿の、金属質のボディを持つ巨大な“鳥”に似た物がこちらに向かって来る。嘴を開き、きぃ、と鳴いた。
男の脳裏に、奇怪な動植物の怪人が、怪人に村ごと襲われる東南アジア風の人々が、
「やめろ!」
と叫ぶ自分の声がフラッシュバックする。
我に返り、再び空を見上げると、そこには何も飛んではいなかった。
「幻か…そうさ。ここまで飛んで来られる筈がない」
アジア系の船員が男に近づき、コーヒーを渡しながら声をかける。
「ヤマト、もうすぐ着くぞ。」(←英語)
「ありがとう。」
「毎日空を見ているが、何かあるのか?」(英語)
男は、明神大和は、空を仰いだ。
「…あぁ、OWLさ。」
「ははは、気は確かか?フクロウは海にはいない。」
その時、船首から声がした。
「おい、ヤマト!空ばかり見てないでこっちに来いよ。お前の故郷が見えるぞ」
大和はその声を聞き、船首に向けて駆け出した。遠くに陸地が霞んでいる。
「帰ってきたぞ!…もうすぐ日本だ!」
笑顔になる明神。その姿を見て船員が囁きあった。
「全く変な奴だ…ずっと空ばかり見てやがった」

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―その頃。日本。薄暗いビルの一室。十人程の男女が、同じ白い服を着て黒い箱を取り囲んでいた。
部屋には祭壇があり、箱をを天に掲げた女性の彫刻が祭られている。
一人、服の上から銀のネックレスをした30歳程の男がいる。スポーツ刈りで鼻の下にヒゲを生やしている。他の、やはり若い男女に向かって言った。
「もうすぐだ。この汚れた国にもオウルが降臨する。オウルを迎える為、アポストルが必要だ。勇気ある神の使徒となる者はいないか?」
長髪の男が一歩前に出た。
「私にその役目を」
「ならば祈れ。キューブの祝福を受けるのだ」
「はい」
男はひざまずき、黒い箱…キューブに手を乗せた。男が手を乗せたキューブの上面が消失する。内部から光と煙が。男は光と煙に包まれる。愉悦の表情。長髪の男は叫んだ。
「素晴らしい…変わる。変わる。変わる」
男の顔がぐねぐねと変型していった。頭から左右に角が突き出す。内側から光を放ちながら、水牛と人間が混ざり合ったような怪人へと変貌していった。
ネックレスの男が目を細める。
「素晴らしい…新たな使徒の誕生だ。我らNOIZの新たなる使徒の…歌え!アポストルの誕生を祝福するのだ!」
両手を開き、己の力を誇示する水牛の怪人。それを囲む信者が、讃美歌に似てはいるが…どこか歪んだ曲調の歌を合唱し始めた。

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〔モノローグ〕
なあ、あんた。
仮面ライダーってのを知ってるか?
俺がガキの時に流行ってた都市伝説でな。
正義の為に戦う、大自然の戦士……それが、仮面ライダーだ。
俺が相談事務所なんていう旨味のない仕事をやってんのも、そいつに憧れてたからなんだ。
……馬鹿みたいだって?
そうだよな、まともな大人ならこんな、なんでも屋紛いの仕事なんてやってらんねぇよな。
でもよ、ただ夢を否定したり、絵空事を信じなくなるだけが大人になるわけじゃないって、俺はそう思うんだ。
それによ、俺は見つけたんだ。
――本物の、仮面ライダーを。

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雑居ビルの一室。ドアに架けられた「甲賀相談所」の看板。事務所の一角が応接スペースになっている。向かいあう女性と若い男。
女性は眼鏡をかけている。若いが化粧っ気はあまりない。男はこの相談所の客のようだ。女性に質問をする。
「で?探偵事務所とは違うんですか?」
野暮ったい、ゆったりとした口調で答える女性、申川悦子。
「ええ。最初は、そうだったようです。しかしですね、競争が厳しいんです。この業界。
うちの所長が、甲賀大と申しますが、方針でですね、合法、非合法スレスレのですね、まあ色々と、あれこれと、手を出すうちにですね、今みたいな、相談所という…形になってしまいまして。中途半端ですよねえ。」
溜息をつく悦子。若い男は「はあ…」とうなずくしかなかった。

その時、
事務所の奥から、ノーネクタイに、くたびれたスーツの男が出てきた。頭はぼさぼさ。どう見てもいかがわしく、頼りなさげな男。所長の甲賀大である。悦子が振り向く。
「お起きになりましたか?お客様です」
「ん?ん~。オレ、出かけるから」
「あら?お食事ですか?では先に、お客様のお話を聞いていただけますか?」
「いや。大事な友達が帰って来たんだ。迎えに行く。えっちゃんが話だけ聞いといてよ。」
「お早くお帰りください」
出ていく甲賀。悦子が振り向くと、客はもじもじしながら言った。
「あの…いいです。僕帰ります」
立ち上がる男を引き留めようとする。
「ま、ま、今、お茶入れますから…」

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電柱に寄りかかり、ぼんやりと空を見上げている甲賀。
くたびれたロングコートと深い皺を眉間に刻んだ顔立ちからか、TVドラマに登場する風刺化された探偵のように見えた。
もっとも、男が暇つぶしにと口に含んでいるのは煙草ではない。
禁煙用のガムだ。
煙草を燻らせる渋い探偵の姿を夢想していた幼少期と、助手の喫煙禁止令に従ってガムを噛む今の自分。
ずいぶんとまあ、差がついちっまたなぁ……と男が陰鬱な気分に沈んでいる時――
「待たせたな……甲賀」
更に物憂げな、しかし懐かしい声が聞こえた。
「おお…大和、久しぶりだな、おい。随分変わったなあ」
半年ぶりの再開。
「そうか?そうかもな。」
目線を下に落とし、シニカルな笑みを浮かべる大和。再び記憶がフラッシュバックする。襲わる村人。猛り狂う怪人。そして、怪人の首を、一瞬で斬り飛ばしてのけた、青い仮面の…
「な、大和ちゃん、久しぶりなんだ。ゆっくり飯でも食いながら話を聞こうじゃないか…」
「あ、ああ。」
「で、すげえネタってやつもな…」

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土手原。草の上に直に腰掛ける大和と甲賀。コンビニ袋に大量のおにぎり。包装を外し、海苔を巻きながらぼやく甲賀。
「豪華なランチだなあ…」
「済まんな。ずっと食いたいと思ってたんだ。生きて帰れたらな」
「まあ…今日び、ゲリラに誘拐されても自己責任で済まされちまうご時世だ。良く帰って来たぜ。なあ…もう無茶は止めてだな、俺と一緒に…」
「ゲリラか。ゲリラは人間だからな」
「どういうこった?」
「いや、うん……安心した」
河原を散歩する主婦らを眺める大和。
「安心……? そりゃ、なんでまた」
「変わってないからさ。この国も、まったく変わっていない。平和なままだ……」
「…………」
 心から安堵するかのように、微笑み、晴れた空を見上げる。
 それは戦場の現実に毒された日本人が、安穏とした故国を皮肉っているようには見えなかった。
まるで、そう、まるで長い間、遠い異国に囚われていた者が、何一つ変わっていない故郷を見て、
感慨に浸るような――そんな風に、甲賀には見えたのだ。
「なあ大和、お前」
「これを見てくれ」
差し出される何枚かの写真。
「へ? なんだこりゃ?」
等身大のモンスター“怪人”の写真だった。それに襲われるアジアの現地人。怪人と戦う刀を持った仮面の人物…
「なんだこりゃ?ハリウッドの新作か?お前のネタってこれかよ?」

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大和は、なおも行き交う人々を眺めながら言った。
「映画じゃない」
「じゃ、ドラマか?」
「実際に、あったことなんだよ…」
「おいおい…」
そんな二人のやりとりを遠くから監視する男女の姿があった。男が携帯電話をかける。

同時刻。高層ビルのワンフロア。電子機器やモニター、コンピューターが置かれた広い一室。数人の男女が機器をいじっている。大音量で流れるアップテンポの音楽。部屋の中央で、レオタードを着た男が音楽に乗って、ダンスともエアロビクスともとれる動きをしている。
「ほっ!ほっ!ほっ!」それを呆れた表情で見つめる女性。20代後半程か。白人とのハーフの様な、はっきりした顔立ちだ。
机の上の電話が鳴る。機器を操作する手を止めて、スーツの男が受話器を取った。僅かな受け答えの後に、受話器をレオタードの男に渡した。
「うむ。俺だ。真名だ。聞こえんな…おい!ミュージックストップ!」
音楽が止む。電話を続ける真名命。
「ふむ。上出来だ。そのまま明神大和の監視を続けたまえ。その、接触した男の身元も洗え。必要なら、こちらのデータバンクへのアクセスを許可する」
受話器を置き、笑いだす真名。
「ふっふっふっ。やっと、エグゼキュト日本支部も熱くなってきた。OWLに明神大和、か。なあ、マリア、君の出番も、もう少しだ」
嬉し気な様子の真名に、壁際の女性、マリアが感情を押さえた口調で言った。
「嬉しそうね?OWLが現れたら、この国も地獄になるよ。それでもお前は嬉しいか?」
「ふふ…嬉しくは無い。嬉しくは無いが、胸が高鳴るよ。男なら、自分がどこまで鍛えられたか、他人よりどれだけ力があるのか試したくなるものさ。マリア」

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「これが……あの場所で起きたことを全てだ。俺の知っている内で、
こんな途方も無い情報を広めてくれるのはお前しかいない。だから……」
「待てって、これ、、――?」
大の言葉が、途切れる。
奇妙な違和感を感じたからだ。
体が震え、嫌な汗が流れる。
「なんだよ……これ」
「……あいつだ!」
「え?」
「あいつだ! こんな、こんな所にまで!! くそぉっ!!」
そう叫ぶと、大和は駆け出していく。尋常な様子ではない。
「おい大和! 急にどうしたんだよ!?」
 大は咄嗟に大和を押さえつけた。だが、大和は煩げに大を振りほどこうとする。
 目は血走り、顔は憤怒と恐慌によって引き攣っていた。
「聞こえないのか! あいつの羽ばたく音が! あいつの囁く声が!!」
「こ、声っつってもよぉ、とにかく落ち着けって! こんな表通りで」
 またも、大の声は途切れた。
 だが、今度は大和の奇行によるものではない。
 虚構の世界では慣れ親しんだ……しかし現実の日本ではあってはならないはずの、音。
 銃声によって。
「…………はぁ?」
「伏せろ!!」
 大和に組み敷かれた大の真上を、無数の弾丸が轟音を伴い過ぎ去った。
 ショットシェル――散弾だ。
 上半分がズタズタに破壊された喫茶店の看板を見て、大の背筋に寒気が奔る。
 あんなものに打ち抜かれたら……そこで彼の思考は凍った。
 では、先ほどの銃撃で打ち抜かれたのは、なんだったのだ?
「見るな! 急いで遮蔽物に!!」
「あ……あ、えあ? お、おい、なんだあれ?」
 叫ぶ大和に腕を引かれながら、大は呆然としてそれを指差した。
 蝗に酷似した頭と、それにひどく不釣合いな金属質で細い体。
 節くれだった手には無骨なセミオートショットガンが握られ、無造作に構えられている。
 大が指差したのは、その怪物の下に崩れ落ちているモノ。
 ある意味では、異形の怪物や、凶悪な銃器以上におぞましいモノ。
「なんで、なんであんなもんがあるんだよぉっ!?」
 大が指差した『あんなもん』は、僅かに痙攣しながら、歩道に身を伏せていた。
 買い物帰りであったのか、生気が抜けてぐにゃりと地面に投げ出された手には、
食材の詰まったスーパーの袋が握られている。
 傍らには、半身を鮮血で染めた童女が立っていた。

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口をぽっかりと開けて、同じく血に染まった母を見下ろしている。
伏せられた顔から、どす黒い血と肉を地面に零した母を。ほんの僅かな前まで、
母であったはずのモノを。
 一拍ほど遅れて、すさまじい悲鳴が上がった。
 一つや二つではなく、次々と悲鳴が重なり合い絶叫へと変じていく。
 あまりにも非現実的な光景に、誰一人としてまともな対処を行えなかった。
「くっ! 甲賀!! 建物の陰に隠れろ!!」
「大和!? お前なにを……!」
 一方的に言い放った大和は、信じられないほどの素早さで向かっていった。
 屍骸を揺さぶりながら「おかあさん?」と呼びかける童女と、無慈悲にも銃口をむける怪物へ。
大和は「こっちだ!!」と敢えて怪物に呼びかけ、注意を自分へ移させる。
いつの間にか拾っていた空き缶を投げ飛ばし、銃身に当てた。
照準のずれたショットガンは見当違いの方向へ散弾を吐き出し、その隙を突いた大和が
怪物に体ごとぶち当たった。
だが怪物は微動だにせず、がら空きの背中へ銃床を振り下ろす。
「がっ!」
 苦しげな声を漏らして崩れ落ちた大和に、怪物は機械的な動作で狙いを定めようとする。
「大和ぉ!!」
 絶対に間に合わない、そう知りながら、それでも大は駆け出した。
 せめて、先ほどのように怪物の注意が自分へ向いてくれればと願う。
 獲物を捉えた怪物が、躊躇無く引き金を――
「アップ ヨアーズ!(クソ食らえ!)」
 ――引き絞る瞬間に、新たな銃声が怪物の顔面を吹き飛ばした。
獰猛な排気音と共に、絶体絶命の危機を引き裂いてKLX250をベースにした
オフロードバイクが飛び込んだ。
車上に、ライダーの姿は無い。
「んな馬鹿な?!」

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もはや悲鳴に近い大の叫びを無視するかのように、起き上がった怪物に巨大な砲弾と化したバイクが激突した。
 為す術もなく時速200kmの鉄塊をぶち込まれた怪物に、数発の弾丸が放たれる。
 そして、バイクの車体に直撃し、引火したガソリンが――爆発した。
「ジャックポット!(大当たり!)」
 ボンッという想像していたよりも迫力の無い、それでいて遥かに内蔵に響く爆音に腰を抜かした大の耳に、雑な発音のスラングが聞こえた。
「騎兵隊のご到着――って、かっこつけれるような雰囲気じゃねえなあ」
「あ、あんた。つか、その格好?」
「おう? 解ってくれるか一般ピープル? 最高にイカしたスーツだろ?」
 言葉もなかった。
 スーツはスーツでも、男が着用しているのは俗にパワードスーツと呼称されているれっきとした兵器なのだ。
 SF映画に登場するような、装甲とフルフェイスのヘルメット。
 生身の部分が覗いているのはバイザーぐらいだ。
「お、やっと追いついたか」
「追いつくって――おぅわああっ?!」 
謎のパワードスーツ男に続いて、重厚な走行音と共に自動車が現れた。
兵士輸送用の歩兵戦闘車である。
石のように固まっている大を尻目に、男と同じくパワードスーツに身を固めた兵士たちが迅速に展開していく。
「衛生兵! そこのヒーローさんが抱えてるお嬢ちゃんを保護しろ! 遺体は丁重に扱えよ! 俺のすぐ隣で腰抜かしてる
オッサンは確保しとけ!! アルファ・チームは住民の誘導を! ブラボー・チームとチャーリー・チームは周囲警戒! 
調整に手間取ってるCLOWとデルタ・チームの到着を待つぞ!」
 軽薄な科白とは裏腹に、男の指示は素早く冷静であった。もっとも、彼らの至上命令を知っていれば、
大はさらに驚愕させられただろう。

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彼らの本来、成すべきことは『一般市民の護衛』ではなく『あるモノの回収』であったのだから。
「あんた……何者だ?」
「演技するこたねえさ。あの地獄の生き証人、明神大和」
「やはり、知っていたのか……」
 爆発の衝撃で失神した童女を抱えた大和は、観念したかのような表情で男の言葉を受け入れた。
「お、おい。あの地獄とか、なんなんだよ? だいたいあんたらはなんなんだ? 
なんで日本にそんなもん持ち込めるんだよ?」
「……オッサン、下がりな」
「な!? さっきの……!」
 道路の、あるいは建物の上の光景が揺らぎ、爆死した怪物と酷似した異形の兵隊が出現する。
 まるで世界を醜く歪ませ、蝕むように。
 だが、彼らは先ほどのように攻撃を仕掛けてはこなかった。
「はんっ、『ごみ掃除』は人間にってか……反吐が出るね」
「あの時と同じだ……『戦闘員』は人間を生き物ではなく、ただの障害として数えている……!」
 苦々しげな二人の言葉の意味を、大は完全には理解できない。
 それでも、激しい嫌悪感を共有していた。
 『戦闘員』と呼ばれた生物は、あまりにも非現実的すぎた。
 ありふれた光景に佇んでいる分、その異質さが際立っている。
 とても同じ自然から生まれた生物とは思えなかった。
「隊長、センサーに感あり……OWLです!」
「民間人の誘導、及び作戦ポイントへの展開、完了しました」
 隊員たちの報告を受け、隊長と呼ばれた男も配置に着く。
 だが、まるで人間たちの存在など最初から眼中に無いかのように、戦闘員は一様に空を見上げている。
「OWL……! 来るのか!!」

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「オウル?」
「チョーキィ(真っ白)……英知を孕んだ真っ白な鳥!」
「スペシャルゲストのご到着ってわけだ……」
 男の軽口にも、先程のような余裕は失われていた。
 大は、なんとなく……いや、本能的に空を見つめた。
 この場にいる誰もが、決して交わることのない人間と怪物たちが、
この瞬間だけは同じ空を見つめていた。
 そして――智恵の巨鳥は降臨する。
 雲を引き裂き、青空を虹色に染め上げ、世界を形作る空間すら歪ませて。
 異形の崇拝者たちの謳う冒涜的な賛美歌に、無力な人間たちの原始的な畏怖の念に迎えられ。

――神さまはいつだって ぼくたちの頭から生まれてくる

 美しくもおぞましいOWLの囁きに紛れた、その言葉が届いたのは、
憎悪と恐怖に駆られる男……明神大和だけだった。 

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人の気配が消えた町並みの中を、瞬く翼を生やした影が横断していく。
 けたたましい音をばら撒きながら地上に影を映したヘリは、脇腹にハブステアリング機構のバイクを抱えながら、
空に浮かぶ巨鳥へ向かってゆく。
 ヘリの側面には、Executeという文字が描かれていた。
 開け放たれたドアからボディスーツを着込んだ女性が、半身を粘つくような気流に晒している。
 腰のベルトには古めかしい日本刀が提げられ、左腕には四本の爪を鎖でぶら下げた
滑らかに輝く腕輪が嵌められていた。
 仮面ライダーCLOW――マリアだ。
「真っ白な、フクロウ……」
 形の良い艶やかな唇から、言葉が漏れる。
 それは仇敵を憎むようにも、古い友人を懐かしむようにも聞こえる言葉だった。
 そのことに気づくものはいない。
 彼女自身と、彼女を形作る『何か』を除いて。
「CLOW。OWLが出現した。この空域にはこれ以上、接近できない」
「……見れば分かる。予定どうり、この場から展開する」
 ヘリに同乗したCLOW専用バイクEX-A12の整備士が彼女へ目を向けると、
そこには怪しげに艶光る紫紺の戦士の姿が在った。
 日本刀は漆塗りされた鞘が変質している以外に変化は無いが、腕輪の方は大きく変形している。
 巻きつく蛇のように篭手となって彼女の腕を覆い、爪はより鋭く尖り、手に干渉しない位置から生え出していた。
「……相変わらず、味気ないな」
「何のこと?」
いや、独り言だ、と整備士は肩を竦め、調整用のパソコンの電源を落とす。
 まるでそれを待っていたかのように、コード類がEX-A12の油臭い内臓から吐き出され、整備ハッチが閉じてゆく。

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思わず眉を顰める整備士を尻目に、CLOWはEX-A12に跨った。
 シートが最適な形状へ歪んでいくのを感じながら、ハンドルを手の平で撫でる。
すると、眠りから醒めたかのようにガスタービンの心臓が生き生きと鼓動し始め、甲高い嘶きが喧しいヘリを牽制する。
液晶パネルの計器類が浮かび上がり、鋭い双眸が爛々と輝き、倒すべきを敵を睥睨する。
機体を戒めていた拘束は次々と解かれ、彼は喜びに全身を震わせた。
「空中の磁気干渉が濃くなってきた。我々はここで帰投する」
「別に。最初から期待していない」
 彼女の冷淡なセリフ回しには慣れているのか、整備士は親指を突き出し、厳めしい顔には似合わない笑顔を作った。
「グッドラック、マスクドライダー」
 短い祝詞を受けて、異形の戦士と機械仕掛けの騎馬はその身を宙に舞い躍らせる。
 この国の男は、幼稚なおとぎ話を信仰しているのだろうかと、取り留めの無いことを考えながら、
彼女は前方から接近する敵の気配を感じていた。
 点火された降下用ブースターの振動と襲い来る風の中、CLOWは淡々とした調子で愛馬の名を呼ぶ。
「いくぞ、『ブラウニー』」
 主へ応えるように、ブラウニーは咆哮する。
 まるで、生きているかのように。

 OWLの降臨により、周辺の光景は大きく変容していた。
 OWLを取り巻くかのように雲が裂け、広大な壁のようになって渦巻いている。
 円形に縁取られた空は太陽の、赤から紫の光が混ざり合うことで白く変色していた。
 絶え間なく空を飛び交う螺旋状の雷が複雑に重なり合い、魔術に用いられる七芳星を想起させる。
 鳥の腹を覆っていた幾重もの翼が開かれ、肉と数万枚もの翼で飾られた骸骨が自らの胎を引き裂き、
血の通わない子宮から、明滅する血管を這わせた漆黒の箱を産み落とした。
「キューブ、投下確認」
「DワンよりAワンへ、CLOW降下、こちらは帰投するとのことです」

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「おい、こいつらの移送はどうした?」
 賛歌する声が一つ、また一つと甲高い威嚇の咆哮に変じてゆくことに冷や汗を流しながら、
男は部下へ詰問する。
 隊長用のスーツと違い視界を頭部CCDカメラで確保し、バイザーを装甲化しているため、
顔はまったく見えない。
「ええ……ですが、上層部からの指令が――」
「黙りな」
 一方的に言い捨てた男は、マグナムを構え――躊躇無く部下の脳髄を吹き飛ばした。
「な?! おま」
「よく見ろ、戦闘員の擬態だ」
 死体となったはずの部下は、かろうじて残った顔の半分を、発達した奇形の顎で突き破り始めていた。
「俺の隊は上司のことをザ・ファームって呼んでんだよ。覚えとけ」
戦闘員の衣服と装甲が引き裂かれ金属質の体が露出し、男に襲いかかろうとした瞬間、
四方からの射撃で八つ裂きにされる。
「くそ、ぬかったな。顔がよく見えねえってのも考えもんだ」
「もう勘弁してくれ……」
 衝撃的な光景の連続に耐え切れず、大が死骸から目を逸らした時、奇妙なものが見えた。
 あの騒ぎの中でも、大和はただひたすらOWLを見上げ続けていた。
「おい……大和?」
 大の呼びかけにも応えず、大和はOWLを、魅入られたかのように凝視している。
 あの場所で見せつけられた忌まわしい光景が、絶叫が、奇怪な哄笑が大和の中で再現される。
胎児の如く産み落とされる漆黒の箱。
 世界を歪める異形の怪人たち。
 塵のように『駆除』されていく人々。
 屍で埋め尽くされた大地。
 異臭を放つ赤黒く生暖かい川。
 人間ではない何かの嗤いを含んだ耳障りな賛美歌。

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 何も出来ない自分。
 そして――そして?
 最も重要な箇所で、大和のフラッシュバックが乱れ始める。
 ノイズと歪みで乱れた映像に、何かが現れる。
 それは形だけならば、人間であった。
 胸に十字と斜め十字の傷を刻印された、何か。
 それを従える、銀の首飾りを提げた何か。
 よく通る、独特の声が、ノイズ音に混じって大和に語りかける。
――君は OWLに 祝福されたのだ 故に 君にニ聖イイ痕をヲキキキ刻もうウウウウウ 
このオオオオオ日より君ウワアウギュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――
「大和……お前…………なんで」
 大の、震えた声。
 だが、もう大和には届かない。
 両の腕を高々と差し上げ謳う戦闘員の群へ、ゆっくりと歩を進める。
「なんで、なんで同じ声を出してんだよお!?」
 そう、開かれた大和の口からは、同じ声が発されていた。
 人間のような、動物のような、昆虫のような、ノイズ音に似た声。
 戦闘員の謳う賛美歌と同じ声が。 
「隊長! その男からキューブと同じ反応が!!」
「取り押さえ、いや! 撃てぇ!!」
「やめろぉ!?」
男が切迫した声を上げ、大が叫んだとき、黒い破片が地面に突き刺さった。
「アポステル、CLOW、上空で交戦中!」
「上空?!」
 空を見上げれば、翅を生やした戦闘員の残骸と、燃料を使い切ったブースターがまっさかさまに降ってきている。
 その奇妙な光景の中に打ち壊された棺を模したコンテナと、それを金属で構成された クロスボウで狙うCLOWの姿があった。

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その場にいた者が呆気にとられた隙を狙っていたかのように、大和が駆け出す。
 咄嗟に銃を向ける者もいたが、再び地面に突き立ったモノによって阻まれる。
 それは残骸ではなく、紫の矢によって針鼠のようにされたコンテナであった。
「まずい! 覚醒する前に破壊しろ!!」
「退け!」
 すさまじい勢いで降下するCLOWは男の指示を一蹴し、ブラウニーの前輪をコンテナに叩きつけた。
 吹き飛ばされたコンテナが残骸をばら撒きながら店内に飛び込み、その中から黒い影が現れる。
 ブラウニーの衝突で哀れなガードレールを歪ませながら、CLOWはその影に矢を放つ。
 音速に達する金属の矢を頭部に受けながら、影はそれに構わずCLOWに突進した。
 ブラウニーを巧みに操り敵の猛撃を避けながら、CLOWは仮面の下で眉をひそめる。
「こいつ、獣化している?」
 ガードレールを濡れ髪のように突き破り、進行上にあった建築物まで貫いた影が、ゆらりと振り返り、
純白の仮面越しに白濁した眼でCLOWを捉える。
 簡潔な言葉で描写するならば、それは牛と人間を混合した怪物だった。
 異常なほどに筋肉が発達した濃褐色の上半身を、膝の辺りから先細りになってゆく細い足で支えている。
 ベルトのバックルには、CLOWと酷似した複眼の意匠が施されていた。
 アスファルトを金属質の蹄で踏み割り、左腕を覆う赤い翼をはためかせ、同じく、
首筋から生えた螺旋状の翼が形作る角を輝かせ、真っ直ぐにCLOWへ向ける。
 蒸気のように息を噴出し、眼球をぎょろぎょろと動かし涎を垂れ流しながら痙攣する様は、
彼の正気がとうに失われていることを如実に表していた。
「アポステルを爆弾代わりに……? あの男、脳みそまで狂人らしくなったのか?」
 牛の使徒――ブークアポステルの背後に見え隠れするモノを嘲りながら、
翼に変形した髪から羽のように連なった矢を半自動的に番え、篭手と四つの爪であったクロスボウを片手で構える。
「だが、都合はいい」
 仮面と翼が轟き、ブークアポステルの体を苗床として侵略してゆく。

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「貴様のような能無しならば、この刀を汚さずに済む」
『ブルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォッ!!』
金属に肉体を食い破られながら、もはやただの外殻と成り果てたブークアポステルは四つん這いになって道路を穿ち、巨大化した体を震わせ、
最後の絶叫を吐き轟音を響かせながら先ほどの突進に倍する速さでCLOWへと迫った。
「――back off(消えなさい)」
 滑らかな、それでいてあらゆる感情が削ぎ取られた無機質なスラングと共に、蒼白い炎を湧き出させた矢が放たれる。
 衝撃波を撒き散らす金属の狂牛と矢がぶつかり合い、眩い光と鋭く甲高い音が周辺に充ちてゆく。
 光と音が静まった時、そこには何一つ変わりのないCLOWと、角ごと頭から首までをぶち抜かれた
ブークアポステルの残骸だけがあった。
「CLOW! そこの男を取り抑えろ!! キューブに接触させるな!!」
 まるで大和を助けるように、激化した戦闘員の攻撃に応戦しながら男が叫んだ。
 生身の人間なら2、3発でミンチとなる強装弾のシャワーを浴びながら、
CLOWは汚物を見るような目で大和を蔑視した。
「お前も『内なる自分』に耐えられなかったということか。無様だな」
 何の慈悲も見せず、CLOWは手馴れた動作でただの人間にクロスボウを向ける。
「おいやめろ! 大和! 逃げろおぉ!!」
 兵士に拘束されながら、大は喉を枯らさんとばかりに叫ぶ。
 そんな必死の声にすら反応せず、大和は道路の中心に突き刺さり
翼に変形した底部でアスファルトと同化した漆黒の箱、キューブへの歩みを進める。
「……邪魔だ」 
引き金を引き絞り、CLOWは破壊の矢を発射した。
 自分の背後へ。
『グッ!?』
 CLOWに飛び掛っていた新手のアポステル――虎の特性を顕在化したコルベイハーアポステルは
反射的に矢を打ち弾いた。

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 防がれることを予想していたCLOWは、コルベイハーアポステルの着地点へ矢を放つ。
『小賢しい!!』
 ノイズがかった啖呵を言い放ち、両腕を覆う先端の羽が爪状になった翼を縦横に振るい全ての矢をへし折った。
 尚も追いすがる無数の矢を軽快に飛び跳ねてかわし、叫ぶ。
『貴様も背後に気をつけるんだな!!』
「ちっ!」
 揶揄するようなコルベイハーアポステルの言葉に被さるように、恐ろしい轟音がブラウニーと共に側面へ
跳んだCLOWの横を通り過ぎ、地面を蹂躙していく。
 首を完全に失ったはずのブークアポステルだ。
 消し飛ばされた首は金属によって再構成され、不快な駆動音を垂れ流すドリルと化している。
『ハハ! これはいい! 大罪人にはお似合いの相手だ、たっぷりと可愛がってもらうがいいッ!!』
「煩い男は嫌いだ」
 生理的な嫌悪感を吐き捨てブラウニーのシートから飛び降り、宙に身を預けながら矢を連射する。
 硬質な甲殻に矢は容易く弾かれ、再び無骨なドリルの先端がCLOWを狙う。
 コルベイハーアポステルは常人離れした脚力で僅かな内に、キューブに触れる大和の背後に立っていた。
『君かね、あのお方の洗礼を受けた同士とは……』
 虚ろな目の大和が、視線だけをコルベイハーアポステルに向ける。
 コルベイハーアポステルは獣毛へ変じた襟を正し、仮面を付けた無機質な顔なりに、尊大に見えるだろう笑みを作った。
『君のような下層階級の無教養な者には到底、理解できぬことだろうが……これはね、とても光栄な――』
「後ろに気をつけるんじゃなかったのか?」
 聞き覚えのある音を耳にし、コルベイハーアポステルが背後を振り返ると同時に、大和は横へ跳んだ。


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 聞き覚えのある音…蹄がアスファルトを砕く音を発する狂える巨牛がコルベイハーアポステルをキューブとの間に挟みこむ。
『ガハッ?! キ、キサマアァッ!!』
「自慢のスーツが乱れているぞ、同士。ついでに、化けの皮もな」
 悶えるコルベイハーアポステルに皮肉を言いながら、激しく脈動するキューブに、大和は確かな意思を保ちながら手を添えた。
 その顔からは先ほどのような狂態など払拭され、彼本来の不敵な表情が浮かんでいる。
『オノレエェ! 既ニ正気ヲ取リ戻シ手イタノカアアアアアアァ!!』
「こいつの中で、大先輩の方々からこっぴどく叱られてな。いつまでも呆けたままでは……格好がつかないじゃないか?」
 キューブを軽くたたきながら、覚悟を決め、腹を括った大和の声は、鋭く重い。
 その言葉に反応したのか、キューブの光が蛇のようになって腕を這い、胸を包み、脚を覆い、
頭を囲み――そして、一本のベルトを生み出した。
「こういう時は、お約束のセリフがある――そうだろう」
 全身を、それこそ内臓から血管の一本一本まで暴れ狂う圧倒的な力に耐えながら、
大和は引き攣った笑みで疑問系ではない問いを放つ。
 獣じみた咆哮、どす黒い光を纏ったコルベイハーアポステルの翼がブークアポステルだったモノを
完全に消し去った。
 憤激に我を失ったコルベイハーアポステルは、目を血走らせながら意味不明な叫び声を上げ、
長く、発達した豪腕を振り上げる。
 一撃の下に、巨大な怪物ですら消滅させた必殺の一撃。
 だが、それだけの脅威に晒されている大和に、不安はない。
「――変身っ!!」
 大和の宣言に、キューブは、ベルトは応えた。
 バックルの閉ざされていた眼が開き、現れた複眼から無数の光が発される。
 闇色の光を受ける交差された腕が、今にも爆発しそうな動悸を堪える心臓の位置する胸が、
圧倒的な衝撃を吸収し、大地へ送る脚が、天使の名を騙る怪人を見据える目が、結晶化した光に覆われる。
『何ダ! 何ナンダ、キサマハアァッ!?』


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 人間の骨格を擬態したキューブの結晶と、肉色の強化皮膚に護られ、虚ろであるはずの眼窩から煌煌とした輝きを放つその姿は
「仮面……ライダー?」
 その場にいた多くの人々が――両者の趨勢を窺っていたマリアですら――思わず呟いた、その伝説の名に相応しいものだった。
「……いくぞ! NOIZの怪人ども!!」
 高らかに叫び、光を失った怪人の腕を弾き飛ばし、不完全な外骨格に覆われたその拳を、仮面ライダーは振るった。

 それはまだ、未完成な正義。怒りと哀しみ、義憤と憎悪に駆られたに過ぎないあやふやな意思。
 彼がかつての戦士たちと同じ気持ちを手にするのは、長い戦いの、気が遠くなるほど先の物語であった。 


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仮面ライダーGLOW 第一話 終了。

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