「俺が俺でなくなってしまう」という事の答えが聞けないままaramは最後の奇跡historyについてようやく口を開く。
俺が半分俺でなくなってしまうとはどういうことだ?
「historyは奇跡の中で最も欠陥の無いものとも言えます。
historyは過去givenであったものの記憶を余すところ無く記憶し次の代に継承していきます。
言うなればこれこそが奇跡そのものとも言えますが、同時にこれが最大の欠陥であるとも言えます。」
相変わらずaramの言葉は謎解きのようだ。
他人が知りえた知識とか経験が手に入るなら最高じゃないか。それのどこに問題があるって言うんだ。
「半分はその通りで半分はそうではありません。
あなたがあなたであるという事は、あなたが経験してきた歴史そのもの事と同じことなのです。
『あなたが過去得た経験を得なかったら』『あなたが得なかった知識を過去得ていたら』それは今のあなたでは無い別の誰かであると言うことなのです。」
・・・なるほどそういう事か。
俺がBandit相手のコソ泥稼業をやってるのはそれが一番儲けになると今までの経験でわかってるからだ。
そこに別のgivenとやらの記憶が入ることで全く別の判断をすることになる。
それはgivenとやらになった俺の判断でもあるが、今の俺の判断ではない。
つまりは半分俺で半分俺じゃないってことか。
確かにその通りだ。うまいことを言う。
に、しても何故俺なんだろう。
givenとやらになるのにもっと相応しいやつもいるだろう。
「それはわかりません。過去のgivenもその答えは得ていないようです。
あえて言えば強い直感という感覚に近いものでしょうか。」
「直感ってアンタ・・・」
逆に言えば特に何かに秀でているから選ばれたわけではないと明言されたようで少し・・・ほんの少しだけ落ち込んだ。
「生前の私は昨日の夕方ごろ病によって命を落としました。たぶん寿命なのだと思います。
givenとしての意識を出来る限り封印していましたが、死後このような死霊のような形で意識を取り戻してから引き寄せられるようにskingradまでやってきました。」
「心の中では看取ってくれた夫の傍に居たかったのですが、どうしても足を止め引き返すことが出来ませんでした。
この宿であなたを見つけましたが、何故あなただったのかうまく言語化することはできません。
ただ、他の誰でもいけないと感じていました。
死後あまり多くの時間死霊のままではいられません。
本当は夫の傍にいたかった、決して夫の傍を離れたくはなかった。
しかしあなたに継承することを選ばずにはいられませんでした。」
一息ついてから悲しそうな、それでいて諦めたような表情でaramは言う。
「それがgivenの性というものなのでしょう。」
そうだったのか。それでアンタは時間が無いと言ってたんだな。
「悪かった。どれぐらい時間が残ってるのかわからないけどダンナの傍に戻ってくれよ。」
「いえ、もう良いのです。もう逝かねばならぬようです。
願わくばTamrielにとって安息をもたらすgivenであらんことを・・・」
そう言うとaramは霧のように消えていった。
彼女は継承とやらをしてすぐにダンナの所へ戻ることが出来ただろう。
そしてもう二度と会うことが出来ない最愛の人に別れを告げることができただろう。
それでも俺の疑問に答えてくれた彼女に対して-それは神へと同じ事だが-祈らずには居られなかった。
その日、雨季には珍しく鮮やかな快晴だったのは無意識で俺が起こした最初の奇跡だったのかもしれないな。