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*CMWC NONEL COMPETITION4 **13番テーブルのガム #right(){雨沢流那} 【解答編】 「――っていうか、真相を教えてくださいよ!」  僕がそういうと藪神は、ちょっと困ったように首を傾げた。 「うーん、捜査上の秘密を漏らすわけにはいかないしなぁ」  おいおい、ここまで話しといてそれかい。っつーか、元々常識はずれなんだからそこも外れてくれ! 「うーん、どうしようかなぁ……」そう言って藪神はお腹に手を当てる。「実はまだちょっと、食べたり無いんですよねぇ。でも今手持ちが無くって。ぎょうざでも食べたいんだけどなぁ。まぁ、話さずにとっとと帰って、家で何か食べようっと」  うぉい!! ってか公然と賄賂(?)を要求してるよ、コイツ!!   だが、背に腹は変えられない。僕は店長の方を見上げる。さすがに店長も、話の続きが気になるのだろう、黙って目配せした。それを受けて僕は慌ててぎょうざを焼きに行く。当店自慢の、野菜ぎょうざ200円なりだ。 「ま、ぎょうざが焼きあがるくらいには話し終わるでしょう」  そう言って藪神は水を一口飲んだ。 「というより、こんなもの推理でもなんでもありません。ただ一箇所の、発想の転換のみなんですよ」 「発想の転換?」 「ええ。ただ一箇所――なぜ13番カウンターの客のズボンに、ガムがくっついたのか、です」  なぜ……というのもおかしな言い方だ。なぜなら―― 「椅子にガムがくっついていたから、ズボンにガムがくっついたとお考えですか?」  薮神が言う。そう、その通りだ。だが―― 「けれどそれは、違うのですよ」  そう言って藪神は、立ち上がって自分の座っていた椅子を触った。 「椅子に、ガムがくっついていた。たしかに、普通ならそう考えるでしょうね。けれど、なんだか不思議ではありませんか? 暗がりならばともかく、こんなところにガムがくっついていれば、普通気付くでしょう? しかも、木目の茶色に白のガム。確実に目立つはずです。しかし、店員も、そこに座ろうとした客も気付かなかった」  そう――たしかにそれは、おかしいと思っていたのだ。 「もう一つ。そもそも、いったい誰がこんなところにガムを捨てたのか。外のベンチだとかならばともかく、なぜわざわざラーメン屋の店内でこんなことを? 紙ナプキンがあるのですから、それで捨てればいいではありませんか」 「嫌がらせ、という可能性もありますよ?」  だがそれに藪神はかぶりを振った。 「いえ。先ほどの話を思い出してください。この椅子にガムをつけても、ほぼ確実に店員か、次に座ろうという客が気付きます。ちょっとムカッとする程度、嫌がらせの意味はありません」  なるほど、たしかに。 「というわけで結論。椅子にガムがついていた確率は、限りなく低くなります。ならばなぜ男のズボンにガムはついたのか――」  そこで藪神は、また人差し指を立てた。 「発想の転換です。――ガムは椅子についていたのではなく、はじめから男のズボンについていたのですよ。それが椅子に座ったことでこすれ、まるで椅子にガムが付いていたかのような状況となったのです」  その答に僕は思わず、なるほど!と、手を打ちそうになった。  なるほど確かに、椅子に座った男のズボンにガムがついていたなら、椅子にガムがついていたと思いがちだが、そうではなく男のズボンについていたとも考えられるのだ。少し考えれば分かりそうなものだが、情けないことに僕は、さっぱりそんな可能性に思い至っていなかった。  薮神は、続ける。 「男のズボンに、ガムがついていた。椅子についていた可能性が限りなく低い以上、そう結論付けて構わないでしょう。ならば、いったいどういう経緯で男のズボンにガムがついたのでしょう?」  どういう……経緯で? 「さぁ、それでは男の足取りを思い出してみてください。ヨーロッパ村のクラブで時間をつぶし、そして真っ直ぐラーメン屋。まず思いつくのは、クラブの席でついた、という考えですが、これも可能性が低い」 「やはり、店でガムがつく可能性は低いからですか?」 「それもあります。しかしそもそも、ヨーロッパ村からここまでのんびり歩いて十分程度、その間に、隣を歩く連れが気付く可能性は極めて高いといえるでしょう。しかし、気付かなかった。ならば、クラブでついたのではなく、道中でついたと考えるのが自然です。しかし歩いていて、ズボンのお尻のところにガムがつくとは考え難い。やはり、どこかで腰を下ろした際についたのでしょう。これによって『真っ直ぐ向かった』という男の証言が嘘であることが証明されたのです」 「なるほど……でも、それじゃあ証言が嘘だってことしか分からないんじゃないっすか? 受け渡し場所は分からないでしょ?」  だがそれに藪神は首を振り、 「いえ、分かるのです。さっきの話を思い出してください。男のズボンにガムがついていたら、連れが気付く可能性が高い。しかし気付かなかったのは、単純にガムが男のズボンについていた時間が短い――そう、ここ瑞雄亭のすぐそばでついたから、と考えられます。そして、瑞雄亭のすぐそばでなおかつ座るところがある場所といえば……」そこまで言われれば、さすがに僕でも分かった。「――そう、三角公園です」  たしかに、三角公園ならばいかにもガムがはき捨てられても不自然ではない。公園、というよりちょっとした広場で、ゴミ箱もないし、はっきり言って汚い。しかも夜は薄暗いから、ベンチにガムがついていてもきっと気付かないだろう。  ちらりと、窓の外の三角公園に目をやって、藪神は続けた。 「男の足取りを追ってみましょう。クラブで仲間と落ち合い、そして受け渡し場所である三角公園に向かいます。おそらく、この時点でちょうど腹がすいていたのでしょう。受け取ったついでに、食事をとるつもりだったと考えられます。けれど心理として、先に事を済ませてから、でしょう。そして、三角公園に到着し、ベンチに腰を下ろす。しかしこの行動は、不自然です」 「なぜですか?」 「ベンチに腰をおろしたということは、疲れたなり何なりで、じっくり腰を下ろす、ということでしょう。しかしこのとき、腰を下ろしたのはわずかな間です。クラブを出た時間から瑞雄亭に入った時間を考えれば、ね。そう、あわただしく腰を下ろし、そしてすぐに立ち上がる。つまり、それはブツを受け取るために、です。大方、ベンチの裏にでも張ってあったのでしょう。指定のベンチに座り裏に手を伸ばし、ブツを受け取る。そして事を終えて、腹が減ったので何か食べようと、目の前のラーメン屋に入った、と。これで一件落着です」  なるほど――と、納得。ぴったりと辻褄があっている。店長も感心したのか、納得げに神妙にうなずいている。  しかし――しかし、である。ただ、13番カウンターのガム一つで、こんなにも様々なことを推理してしまうなんて。ただその事実一つで、全ての行動を見抜いてしまうなんて。  もしかしたら、こんな風体をしていながらも藪神は、実はものすごく優秀な刑事なのではないだろうか? というか、優秀だからこそこんな格好でいることも、一人で捜査することも許されているのではないだろうか――?  そのとき。ぎょうざの焼き上がりを知らせる、タイマーの音が鳴った。  薮神は、うまそうにぎょうざを頬張り帰って行った。  エピローグ  それから三日後、再び藪神は瑞雄亭を訪れた。今度もやっぱり、よれよれのシャツだった。  扉を開けて、僕と店長に軽く会釈した。薮神に気付いて僕は、 「どうしましたか、この間の事件の絡みで、何かありましたか?」  と勢い込んで聞いてしまったが、それに藪神は意外そうに苦笑いしつつ、 「いえいえ、今日は純粋にお客として来たんです。ラーメン、食べたくなって」  と、この間と同じカウンター席に腰を下ろした。僕は、水を入れて出す。  藪神は、メニューを広げることなく言った。 「特製こってりラーメンを、お願いします」 「あ、はい」と僕は慌てて答えて、オーダーを通した。「あいよ!」と店長から返事が返ってくる。  奥のテーブル席に客はいたが、僕は我慢できなかった。薮神に近寄り、こそっと小声で聞く。「この間の事件、あれからどうなりましたか?」  それに藪神は、素直に答えてくれた。 「ああ、やはり推理の通りでした。おかげさまで無事に解決しましたよ。その節は、お世話になりました」  と、柄にも無く丁寧に頭を下げた。  それならばよかった、と思いつつ僕は、何気なく聞いてしまう。 「それにしても今日は、特製こってりなんですね」 「ええ」 「この間、せっかく勧めたのに食べてくれなかったですよね」  すると藪神は苦笑いしながら、 「いえ、あなたがあまりに熱心に勧めるもので、かえって」 「邪魔でしたか?」  藪神は、かぶりを振った。 「逆です。本当に熱心で、店員としての義務以上に勧めているなと感じたので、これはきっと本当にうまいのだろう、と。なら、せっかくだから後の楽しみにとっておこうと思いましてね。それに、本当においしいラーメン屋なら、まず最初は礼儀として、基本のラーメンを食べる主義なんです」  そう言って藪神はにやっと笑った。 「そして実際に、うまかった。だから、また来たんですよ」  僕もにやっと笑って、言い返した。 「特製こってりは、もっとうまいです」  ――そうして我が瑞雄亭は、「13番カウンターのガム」にまつわる事件の結果、ちょっと風変わりの常連客を一人、獲得したのだった。 #right(){ 【了】 } . . . ---- &color(red){元になった実体験とは……!?}  ええ、実体験紹介と言われても……ほぼこのままなんですが(^^; この五月から働いているラーメン店での実体験です。位置、メニュー名、値段、店長の性格等々事実どおりです。一応、店名だけは微妙に変えていますが。  ガムうんぬんのくだりも、もちろん実体験です。ただ、事件を解決したのは名探偵雨沢流那!(笑)ではなく、店員の方でしたが。発想の転換部分以外の論理はもちろん、僕が付け足したものです。  というわけで、ラーメンがうまいのもいまいち流行っていないのも本当なので(笑)近所の方はぜひ食べに来て下さい。
*CMWC NONEL COMPETITION4 **13番テーブルのガム #right(){雨沢流那} 【解答編】 「――っていうか、真相を教えてくださいよ!」  僕がそういうと藪神は、ちょっと困ったように首を傾げた。 「うーん、捜査上の秘密を漏らすわけにはいかないしなぁ」  おいおい、ここまで話しといてそれかい。っつーか、元々常識はずれなんだからそこも外れてくれ! 「うーん、どうしようかなぁ……」そう言って藪神はお腹に手を当てる。「実はまだちょっと、食べたり無いんですよねぇ。でも今手持ちが無くって。ぎょうざでも食べたいんだけどなぁ。まぁ、話さずにとっとと帰って、家で何か食べようっと」  うぉい!! ってか公然と賄賂(?)を要求してるよ、コイツ!!   だが、背に腹は変えられない。僕は店長の方を見上げる。さすがに店長も、話の続きが気になるのだろう、黙って目配せした。それを受けて僕は慌ててぎょうざを焼きに行く。当店自慢の、野菜ぎょうざ200円なりだ。 「ま、ぎょうざが焼きあがるくらいには話し終わるでしょう」  そう言って藪神は水を一口飲んだ。 「というより、こんなもの推理でもなんでもありません。ただ一箇所の、発想の転換のみなんですよ」 「発想の転換?」 「ええ。ただ一箇所――なぜ13番カウンターの客のズボンに、ガムがくっついたのか、です」  なぜ……というのもおかしな言い方だ。なぜなら―― 「椅子にガムがくっついていたから、ズボンにガムがくっついたとお考えですか?」  薮神が言う。そう、その通りだ。だが―― 「けれどそれは、違うのですよ」  そう言って藪神は、立ち上がって自分の座っていた椅子を触った。 「椅子に、ガムがくっついていた。たしかに、普通ならそう考えるでしょうね。けれど、なんだか不思議ではありませんか? 暗がりならばともかく、こんなところにガムがくっついていれば、普通気付くでしょう? しかも、木目の茶色に白のガム。確実に目立つはずです。しかし、店員も、そこに座ろうとした客も気付かなかった」  そう――たしかにそれは、おかしいと思っていたのだ。 「もう一つ。そもそも、いったい誰がこんなところにガムを捨てたのか。外のベンチだとかならばともかく、なぜわざわざラーメン屋の店内でこんなことを? 紙ナプキンがあるのですから、それで捨てればいいではありませんか」 「嫌がらせ、という可能性もありますよ?」  だがそれに藪神はかぶりを振った。 「いえ。先ほどの話を思い出してください。この椅子にガムをつけても、ほぼ確実に店員か、次に座ろうという客が気付きます。ちょっとムカッとする程度、嫌がらせの意味はありません」  なるほど、たしかに。 「というわけで結論。椅子にガムがついていた確率は、限りなく低くなります。ならばなぜ男のズボンにガムはついたのか――」  そこで藪神は、また人差し指を立てた。 「発想の転換です。――ガムは椅子についていたのではなく、はじめから男のズボンについていたのですよ。それが椅子に座ったことでこすれ、まるで椅子にガムが付いていたかのような状況となったのです」  その答に僕は思わず、なるほど!と、手を打ちそうになった。  なるほど確かに、椅子に座った男のズボンにガムがついていたなら、椅子にガムがついていたと思いがちだが、そうではなく男のズボンについていたとも考えられるのだ。少し考えれば分かりそうなものだが、情けないことに僕は、さっぱりそんな可能性に思い至っていなかった。  薮神は、続ける。 「男のズボンに、ガムがついていた。椅子についていた可能性が限りなく低い以上、そう結論付けて構わないでしょう。ならば、いったいどういう経緯で男のズボンにガムがついたのでしょう?」  どういう……経緯で? 「さぁ、それでは男の足取りを思い出してみてください。ヨーロッパ村のクラブで時間をつぶし、そして真っ直ぐラーメン屋。まず思いつくのは、クラブの席でついた、という考えですが、これも可能性が低い」 「やはり、店でガムがつく可能性は低いからですか?」 「それもあります。しかしそもそも、ヨーロッパ村からここまでのんびり歩いて十分程度、その間に、隣を歩く連れが気付く可能性は極めて高いといえるでしょう。しかし、気付かなかった。ならば、クラブでついたのではなく、道中でついたと考えるのが自然です。しかし歩いていて、ズボンのお尻のところにガムがつくとは考え難い。やはり、どこかで腰を下ろした際についたのでしょう。これによって『真っ直ぐ向かった』という男の証言が嘘であることが証明されたのです」 「なるほど……でも、それじゃあ証言が嘘だってことしか分からないんじゃないっすか? 受け渡し場所は分からないでしょ?」  だがそれに藪神は首を振り、 「いえ、分かるのです。さっきの話を思い出してください。男のズボンにガムがついていたら、連れが気付く可能性が高い。しかし気付かなかったのは、単純にガムが男のズボンについていた時間が短い――そう、ここ瑞雄亭のすぐそばでついたから、と考えられます。そして、瑞雄亭のすぐそばでなおかつ座るところがある場所といえば……」そこまで言われれば、さすがに僕でも分かった。「――そう、三角公園です」  たしかに、三角公園ならばいかにもガムがはき捨てられても不自然ではない。公園、というよりちょっとした広場で、ゴミ箱もないし、はっきり言って汚い。しかも夜は薄暗いから、ベンチにガムがついていてもきっと気付かないだろう。  ちらりと、窓の外の三角公園に目をやって、藪神は続けた。 「男の足取りを追ってみましょう。クラブで仲間と落ち合い、そして受け渡し場所である三角公園に向かいます。おそらく、この時点でちょうど腹がすいていたのでしょう。受け取ったついでに、食事をとるつもりだったと考えられます。けれど心理として、先に事を済ませてから、でしょう。そして、三角公園に到着し、ベンチに腰を下ろす。しかしこの行動は、不自然です」 「なぜですか?」 「ベンチに腰をおろしたということは、疲れたなり何なりで、じっくり腰を下ろす、ということでしょう。しかしこのとき、腰を下ろしたのはわずかな間です。クラブを出た時間から瑞雄亭に入った時間を考えれば、ね。そう、あわただしく腰を下ろし、そしてすぐに立ち上がる。つまり、それはブツを受け取るために、です。大方、ベンチの裏にでも張ってあったのでしょう。指定のベンチに座り裏に手を伸ばし、ブツを受け取る。そして事を終えて、腹が減ったので何か食べようと、目の前のラーメン屋に入った、と。これで一件落着です」  なるほど――と、納得。ぴったりと辻褄があっている。店長も感心したのか、納得げに神妙にうなずいている。  しかし――しかし、である。ただ、13番カウンターのガム一つで、こんなにも様々なことを推理してしまうなんて。ただその事実一つで、全ての行動を見抜いてしまうなんて。  もしかしたら、こんな風体をしていながらも藪神は、実はものすごく優秀な刑事なのではないだろうか? というか、優秀だからこそこんな格好でいることも、一人で捜査することも許されているのではないだろうか――?  そのとき。ぎょうざの焼き上がりを知らせる、タイマーの音が鳴った。  薮神は、うまそうにぎょうざを頬張り帰って行った。  エピローグ  それから三日後、再び藪神は瑞雄亭を訪れた。今度もやっぱり、よれよれのシャツだった。  扉を開けて、僕と店長に軽く会釈した。薮神に気付いて僕は、 「どうしましたか、この間の事件の絡みで、何かありましたか?」  と勢い込んで聞いてしまったが、それに藪神は意外そうに苦笑いしつつ、 「いえいえ、今日は純粋にお客として来たんです。ラーメン、食べたくなって」  と、この間と同じカウンター席に腰を下ろした。僕は、水を入れて出す。  藪神は、メニューを広げることなく言った。 「特製こってりラーメンを、お願いします」 「あ、はい」と僕は慌てて答えて、オーダーを通した。「あいよ!」と店長から返事が返ってくる。  奥のテーブル席に客はいたが、僕は我慢できなかった。薮神に近寄り、こそっと小声で聞く。「この間の事件、あれからどうなりましたか?」  それに藪神は、素直に答えてくれた。 「ああ、やはり推理の通りでした。おかげさまで無事に解決しましたよ。その節は、お世話になりました」  と、柄にも無く丁寧に頭を下げた。  それならばよかった、と思いつつ僕は、何気なく聞いてしまう。 「それにしても今日は、特製こってりなんですね」 「ええ」 「この間、せっかく勧めたのに食べてくれなかったですよね」  すると藪神は苦笑いしながら、 「いえ、あなたがあまりに熱心に勧めるもので、かえって」 「邪魔でしたか?」  藪神は、かぶりを振った。 「逆です。本当に熱心で、店員としての義務以上に勧めているなと感じたので、これはきっと本当にうまいのだろう、と。なら、せっかくだから後の楽しみにとっておこうと思いましてね。それに、本当においしいラーメン屋なら、まず最初は礼儀として、基本のラーメンを食べる主義なんです」  そう言って藪神はにやっと笑った。 「そして実際に、うまかった。だから、また来たんですよ」  僕もにやっと笑って、言い返した。 「特製こってりは、もっとうまいです」  ――そうして我が瑞雄亭は、「13番カウンターのガム」にまつわる事件の結果、ちょっと風変わりの常連客を一人、獲得したのだった。 #right(){ 【了】 } ---- &color(red){元になった実体験とは……!?}  ええ、実体験紹介と言われても……ほぼこのままなんですが(^^; この五月から働いているラーメン店での実体験です。位置、メニュー名、値段、店長の性格等々事実どおりです。一応、店名だけは微妙に変えていますが。  ガムうんぬんのくだりも、もちろん実体験です。ただ、事件を解決したのは名探偵雨沢流那!(笑)ではなく、店員の方でしたが。発想の転換部分以外の論理はもちろん、僕が付け足したものです。  というわけで、ラーメンがうまいのもいまいち流行っていないのも本当なので(笑)近所の方はぜひ食べに来て下さい。

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