第六章「芝公園攻防戦」

  • 第6章「芝公園攻防戦」※



          No64との戦闘についての報告書        



                      報告者 南雲しのぶ
                            高杉章吾



   先日の戦闘で交戦した「No64」は、これまで確認されたNo63までの
   能力者とは明らかに異なり、瞬間移動や自動治癒など、より高度な
   能力を使用していた。これは、「組織」がこの4年の間に研究をよ
   り進めたためと思われる。
   今回の事例より判断するに、「組織」の技術力は4年前とは比べ物
   にならない程向上している。
   警察庁上層部の早急な判断を願う。

   なお、今回の戦闘の際にある民間人の少年からも「No64」とは違う
   種類の能力が観測された。    





「ふぅ・・・」
南雲は報告書を作り終えると、スーツからタバコを取り出した。
「あれ?」
内ポケットをまさぐるが、ライターがない。先日の戦闘の際に落としてしまったようだ。
「おい高杉、ライター持ってないか?」
「料理しない人に包丁持ってるか?って聞くぐらい野暮です。」
にべもなく返され、しょうがなく南雲はタバコをしまった。そうかあいつは禁煙中だった。
どこかで100円ライターを調達する必要がある。
「ちょっとコンビニ行ってくる。」
「はい。」

南雲は警察庁のビルを出ると、桜田通りを南に歩いた。
警察庁から最寄のコンビニは外務省や経済産業省を超えた先にある。

「いらっしゃいませー」
虎ノ門のセブンイレブンに入る。早速ライターを確保した。
ついでに高杉にも何か買っていってやろう。
そう思い、ふと窓の外に目をやると、
ファンファンファン!!
パトカーが数台、物凄いスピードで走って行った。
さらにそのあとには機動隊の車両も。
何か起こったのだろうか。急いで代金を払い、とりあえず高杉に電話をしてみる。
『高杉、今目の前をパトカーと機動隊が通って行ったんだが。』
『そのことを連絡しようと思っていたところです。』
『いったい何があった。』
『「組織」が動き始めました。』
それだけ聞くと南雲は携帯をバチン!と閉じ、走って警察庁へ戻り始めた。

同じころ、東京タワー周辺。
そこはまさに地獄絵図となっていた。
蜘蛛のような甲殻類のような奇怪な生物が人々を襲っている。
通報を受けて急行した若い警察官は、その光景に息を呑んだ。
「直ちに避難してください!」
言われんでも皆そうしている。
『発砲許可を!』
携帯無線機に怒鳴ってみる。が、帰ってきたのは、
『民間人の避難誘導を最優先せよ。』
という、とうてい無理な注文だった。
畜生。
こんなことになってるのに、奴らに拳銃すら撃ってはいけないのか。

「現在、桜田通りは飯倉交差点、赤羽橋南より封鎖、国道301号線も東京タワー前交差点、芝学園下で封鎖中です。」
「現在の負傷者数は?」
「およそ200人を超えていると思われます。」
「死者は?」
その質問に、警視庁大会議室の空気が一瞬だけ凍った。
「およそ・・・50人・・・です。」
「そうか・・・」
警視総監が沈痛な顔で応じる。
「警備部長。」
「は。」
「SAT、ならびに銃器対策部隊の出動を命ずる。」
「了解しました。」
「それと現場に対策官として警察庁から2名が出向する。」
「は・・・?」
長年のキャリアである警備部長もさすがに困惑した。
なぜこの事案に警察庁が関わるのか?
しかし警視総監の命令なら仕方がない。
「了解しました。」

現場では急行した各機動隊、また近隣の署員により、ほぼ避難、封鎖が完了していた。
そこへ、応援の第6機動隊、第7機動隊からの銃器対策レンジャー部隊、第8機動隊からの銃器対策部隊、そしてSAT
が到着した。
SAT隊長、衣笠武彦警視が降車する。
「総員下車!」
黒いバスから、短機関銃MP5を携帯した隊員達が次々と降りてくる。
同じように第6機動隊のバスからも、MP5を持った部隊が降りてきた、こちらは銃器対策部隊だ。
SAT並びに各銃器対策部隊は、各封鎖ポイントの交差点より機を見て突入、機動隊の援護のもと、
生物を掃討することとなった。
しかし、衣笠は思う。「あれ」にサブマシンガンなんぞが効くんだろうか。

警視庁の職員から睨まれつつもなんとか覆面パトカーを一台確保した南雲と高杉は、
桜田通りを南下し、現場に向かっていた。しかし、東京タワーに近づくにつれて
渋滞に巻き込まれてしまった。避難しているらしい。
「どうします南雲さん?」
「今どのへんだ?」
「えーと・・・虎ノ門三丁目です。」
「よし歩くぞ。」
「車は?」
「警察の車盗む馬鹿はいないと思いたいね。」
言いながら車を降りる。
しかし歩道も避難しようとする人でごった返している。
どうもデマで半ばパニック状態らしい。
「盗む馬鹿もいそうですよ。」
警察手帳を振りかざして見るも、パニックに陥っているこの状況では役に立ちそうもない。
仕方なく南雲と高杉は人並みをかき分けることにした。いわゆる強行突破である。
しかし避難も進んだらしくニッセイ虎ノ門ビル辺りまで来ると人波もなくなった。
神谷町交差点には常駐警備車や小型警備車、遊撃放水車が並んでおり、通りを完全に封鎖していた。
「警察庁の南雲だが。」
とりあえず立ち番をしている機動隊員に手帳を見せてみる。
「サッチョウの奴が何の用だ。」
「とりあえずお前じゃ話にならん、機動隊長を呼んで来い。」
それからひと悶着起こしてやっと第5機動隊長に話を通し、ようやく2人は現地警備本部に入ることができた。

「まず『組織』とは何だ?」
「は。『組織』はおよそ5年前から存在が確認されている謎の集団です。」
「何も分からないぞそれじゃ!」
「まぁよかろう、今回の事件には関係ない。」
警備部長がうまくフォローしてくれた。
「それで南雲君。君は「あれ」に我々の武器が効くと思うかね?」
脳裏に浮かんだのは先日の戦闘だった。No64。
しかし今回の生物には報告を見る限りではNo64のような瞬間移動や自動治癒などの能力はないらしい。
「おそらく。」
「分かった。」
「15時30分より、SAT並びに銃器対策部隊は機動隊の援護の元各封鎖点より一斉に突入。
 『奴ら』に占拠されている芝公園内を奪還せよ!」
南雲は時計を見た。14時47分。あと40分ほどで、芝公園内は戦場となる。

現地警備本部のテントから外に出ると、南雲と高杉は封鎖線をぐるり回ってみることにした。
すると目の前に置かれていた封鎖用フェンスが突然ガシャン!と吹き飛ばされた。
南雲と高杉は目を見張った。
ちょっとした牛ほどの大きさのバケモノが目の前にいる。
口と思われる部分には牙のついたアゴがあり、そこには血が滴っている。
足は6本。そして目は1つ。
こいつは地獄のモンスターだ。と南雲は思った。
バケモノは2人を見つけると巨体に似合わぬスピードでこちらへ向かってきた。
動くたびにガシャガシャと音がする。
「高杉!走れ!」
しかし高杉は腰が砕けて走れないようだ。
「走れっつってんだろうが!!」
「は、はい!」
ようやく我に帰った高杉も走り始める。しかしバケモノのほうが早い。
「くそ!」
仕方なく腰のSIGP226を引き抜く。
ズガァン!ズガァン!ズガァン!ズガァン!
致命傷にはならなかったようだが、牽制にはなった。バケモノがこっちへ向かってくる。
「っ!」
さっき高杉を追っていた時より速いスピードでバケモノがこっちへ向かってきた。
ズコォン!ズコォン!ズコォン!ズコォン!ズコォン!ズコォン!
見ると高杉がいつの間にかベレッタを構えている。
バケモノもさすがに9mmパラベラム弾を10発も食らっては無事ではなく、体中から緑色の体液をぶちまけている。
銃声に気づいた機動隊員がこちらへ向かってくる。
「大丈夫か!」
「担架こっちに回せ!」
「フェンス直せ!」
「化学防護班呼んで来い!」
次々と指示が飛ぶ。
しかしとんでもないバケモンだ。南雲は改めてそう思った。


15時30分。予定通りに警察部隊の突入が開始された。
封鎖用フェンスが開いたとたん、バケモノどもはそちらに突進し始めた。しかしそこへ、あらかじめ周辺ビルに布陣していた
狙撃班による狙撃が行われた。
M700やPSG-1の7.62mm弾により、フェンス周辺のバケモノは一掃され、SATや銃器対策部隊の突入が開始された。

ガス筒発射器を構えた機動隊員達が一列に並ぶ。
「ガス銃水平発射よーい!」
「撃てっ!」
ガス弾が芝公園のあちこちに落下する。ガス銃の水平撃ちは本来禁止されているが、相手が相手だけにしょうがない。
ガス弾が直撃したバケモノが怒り狂って機動隊員のほうへ向かってくる。
「退避!」
機動隊が退避したところへMP5を持ったSAT隊員が現れ、一斉にMP5を発射した。
南雲たちの自動拳銃で倒されたようなバケモノが短機関銃の連射に耐えられるはずもなく、バケモノたちは次々と息絶え
ていった。

『本部より各隊員へ、突入開始。』
SAT突入第2班、古森郁巡査部長も仲間たちとともに突入した。
東京タワー前交差点から芝公園32森ビルへ。
タワー周辺の駐車場確保が目標である。
早速目の前にバケモノ1体。MP5は既にセーフティを解除している。
ドタタタタタタタタ!!
本来はセミオートで撃つべきところだが、事が事なのでフルオート射撃だ。
仲間たちも各々射撃を開始している。
ドタタタタ!ドタタタ!ドタタ!ドタタタタタ!
至る所から射撃音がする。そして次々に斃れるバケモノ達。
古森たちは東京タワーの東側を確保した。あとはタワー下交差点からの突入部隊を待つだけだ。
しかしひどい光景だ。古森はそう思った。
観光バスはひっくり返されている。アスファルトもあちこちが掘り返されている。
そしてそこら中に広がる赤い血だまり。中心にあるはずの遺体は見えない。
改めてバケモノが憎くなってきた。
と、背後に怪しい気配。
振り返りざまMP5を撃つ。
気づけば茂みの中からバケモノたちがこっちに向かってきている。
100・・・200?
どっちにしろ自分たちだけで対処できる数ではない。
「班長!指示を!」
「後退!」
射撃しつつ突入口へ後退する。
その時、班内で最年少の和泉が転倒した。
「和泉!」
「戻れ古森!」
無視して和泉の援護に向かう。
「あの馬鹿が!」
言いながらも班長もこっちへ向かってくる。
しかし目の前にはバケモノたち。和泉も私もMP5を撃つが、さすがに無理がある。
突然班長はバケモノたちと全く違う方向を撃ち始めた。
「班長!なにやって・・・」
ドオォォォン!!!
言い終わらないうちに大爆発が起きた。
どうやら班長はひっくり返ったバスを撃っていたらしい。
バケモノたちも驚いているようで、前進してこない。
「行くぞ!」
私は和泉を半分引きずりながら指示に従った。

「現在の状況は?」
警備部長が聞く。
「再突入により東京タワー周辺を確保。メソニックビル、オランダヒルズ森タワーも確保。現在
 芝学園と機械振興会館内で戦闘中。」
「警備部長、ヘリからの映像が入りました。」
「繋いでくれ。」
モニターに空撮映像が映し出される。
「おおとり2号からです。」
空から見る東京タワー周辺はまるで戦場だった。
そこら中から煙と炎が立ち上っている。
そして各所に残る赤い血。緑の体液に比べれば量は少ないものの、ビジュアル的な強烈さは段違いだった。
「・・・これが『組織』か?」
警備部長はそう呟いた。

機械振興会館の制圧もあらかた完了し、古森の班の任務は生存者の救出と残るバケモノの掃討となっている。
「次はここの部屋だ。」
なかなか広い部屋だ、制圧も簡単だろう。ドアの両脇に立つ。
「1・2・3!」
突入。誰もいなかった。
いや、1人いた。少年・・・?とにかく誰かが部屋の奥に立っている。
「君、大丈・・・」
言い終わる前に少年は消えてしまった。
消えた?瞬間移動?超能力?訳がわからない。
目撃した他の隊員達も呆然としている。
「・・・制圧完了!」
班長がようやく口を開いた。


17時51分。機械振興会館の制圧も完了し、芝公園からバケモノは一掃された。


その頃、東京タワーからそれほど遠くないビルの屋上。
2人の男が喋っている。
「ふぅん・・・やはり実験体ってのは駄目だな、短機関銃ごときにやられてしまうとは。」
「ま、いい実験になったんじゃないですか?」
「そうだな。」


バケモノは掃討されたものの、死骸の片づけやら消毒やらで東京タワー周辺は2週間封鎖されることになった。
古森は道端に腰掛け、缶コーヒーをあおってていた。
「はー、わたしの癒しポイントがまた一つ・・・」
「なーにゴチャゴチャ言ってんだ古森?」
「げ、班長。」
「お前東京タワーが癒しポイントだったのか?」
「悪いんですか?」
「いや別に。」
「だったら話しかけないでください。」
「いやぁ・・・その・・・」
なんだいったい。班長らしくもない。
「今度食事にでも行かないか?東京タワーの代わりになるかはわからんが。」

「だが断る。」


南雲はガードレールにもたれ掛かっていた。
「今日はご苦労様でした。」
高杉がこっちへ向かってくる。
「しかし『組織』も何がしたかったんでしょうね?」
知るか。と答えかけるが、
「さぁ、何だろうかね。」
何にせよ今回の事件で組織は本格的に動き始めた。つまり、これからはもっと忙しくなる。
まだゆっくりできるうちにゆっくりしておきたい。
懐からタバコを取り出す。
「南雲さんタバコは駄目ですってば!」
「へいへい。」

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最終更新:2008年05月09日 20:38
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