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1女史その3 - (2006/05/04 (木) 17:56:21) のソース

280名前: あかり ◆ZbWnaJs1.6 投稿日: 2006/05/01(月) 17:26:09.72 ID:lx3sgQcY0
1967年7月 アフリカ、ナイジェリア 

少年の目の前で、かつて父と母だったものが燃えている。 
少年はしばらく立ち尽くしていたが、やがて火が消えたのを確かめると自分の家(瓦礫の山のようになっていたが)の裏庭に埋葬した。 
その間、少年が泣くことはなかった。 

少年達家族は、久々の休暇にメガー川に釣りに出掛ける”はず”だった。 
少年がドアを開け、家族を急かしていると辺りは爆煙に包まれる。 
少年が意識を失う前に聞いたのは銃声と炸裂音だった。 

気がつき、目を開けると、そこに自分の家は無く、あるのはかうって家々だったものと、両親や近所の人々だったものだけだった。 



埋葬を終えると、少年は銃声と悲鳴の聞こえる方を向き、少年のそれとは思えない憎悪を心に抱いた。 


1967年9月20日、ナイジェリア軍がベニン共和国を占領。 
ビアフラ軍の政権はもろくも崩れ去ることとなる。ビアフラ内戦の終結である。 
この後、少年は少年兵としてアフリカ各地の内戦に参加することとなる。 


284名前: あかり ◆ZbWnaJs1.6 投稿日: 2006/05/01(月) 17:47:00.93 ID:lx3sgQcY0
1991年7月 旧ユーゴスラビア、スロベニア 

戦場での一時の休息は、兵士達にとって緊張が解けるひと時である。 

一人の兵士がタバコを咥えていると何処からか小鳥が飛んできた。 
兵士はポケットから固形食糧を取り出すと、タバコを地面でもみ消し、自身の口に運んでから少しちぎってやる。 
小鳥はせわしくそれをつまむ、食べ終わると兵士の手に乗ってきた。 
兵士はそれを無表情で見ていた。 

横から別の兵士が話しかけてきた。 
「おいおい、随分とお優しいじゃないかw懐かれてるなww」 
「・・・そういう訳じゃねえ・・。ガキの頃からやたらと俺の回りには動物が寄ってきやがる。最初は追っ払ってたが面倒なだけだから止めたんだ。」 
「へ~・・・なんか匂いでも出てるんじゃねえのか?」 
からかったように言う彼に対し、兵士はばつが悪そうに手を振った。 

突如銃声と爆音が遠くで響いた。驚いた小鳥は飛び去った。 
兵士達に緊張が走る。 
無線の連絡が響いた、「こちらブラボーチーム!至急応援を頼む!!」 
「こちらチャーリーチーム、了解した。10分以内に行く。」 

兵士達は装備と銃を確認すると、再び戦場へと向かった。 


328名前: あかり ◆ZbWnaJs1.6 投稿日: 2006/05/01(月) 20:52:01.85 ID:lx3sgQcY0
合流ポイントに着くとC(チャーリー)チームの部隊長から指示が飛ぶ。 
「よし!いいか!!ボブ隊は左翼へ、ステンカ隊は中央、テリー隊は右翼から行け!!」 
兵士達は身を屈めながら持ち場を目指し走り出した。 


断続的な銃声が続く、どうやら敵兵は2ブロックほど先の建物に潜んでいるらしい。 
「チッ・・・やっかいだな・・・。」 
「テリー小隊長!!自分が手前の遮蔽物まで行ってグレネードで砲撃します!!」 
「よし!援護はまかせろ!!行けッ!!」 

テリーと呼ばれた小隊長は他の隊員に指示を与える。 
「援護射撃!全員!撃ッーーー!!」 
隊員達は突撃した隊員を援護する為、一斉に射撃を開始する。 
突撃した隊員は無事に遮蔽物に着くと、ランチャーを建物に向け発射した。 

衝撃波と爆音が辺りを包む。 


336名前: あかり ◆ZbWnaJs1.6 投稿日: 2006/05/01(月) 21:21:25.80 ID:lx3sgQcY0
燃え上がる建物から逃げ出そうと、敵兵達が出てくる。 
隊員たちはそこを逃さなかった。 
敵兵は飛び出してくるところを狙われ、ある者は頭を吹き飛ばされ、またある者は銃弾で踊った。 

撃ち続けていた隊員と代わり、テリーと新米の隊員が射撃を開始した。 
撃ち続けていると、また敵兵が出てくるのが見えた。 
迷わず照準を合わせにかかる、しかし照準の先の敵兵を見てテリーも新米隊員も一瞬戸惑った。 
そこにいたのは年端もいかない少年兵だった。 
新米隊員は悲痛な叫びを呟く。 
「それ以上来るな・・・やめろ・・・撃つぞ・・・本当に撃つぞ・・・!!」 

新米隊員がクッと目を瞑りトリガーを引きにかかった時、隣から銃声が聞こえた。 
前を見ると少年兵の頭の左半分が無いのがわかった。崩れるように倒れるとそのまま爆発した。 
テリーは新米隊員に告げた。 

「・・・・・・・・・・・これは戦争だ・・・。」 

テリーには、自分のしていることを必死に正当化しようと努力するほか無かった。 


354名前: あかり ◆ZbWnaJs1.6 投稿日: 2006/05/01(月) 21:52:34.65 ID:lx3sgQcY0
1991年9月下旬 

スロベニア国内での戦闘はほとんど終わりに近づき、テリーら傭兵部隊の任務もパトロールが主な任務になっていた。 

今日も周囲を警戒しながら車でのパトロールを行う。 
街は破壊され、道を歩く人々は皆うつむいていた。 
( 
俺達がやってきたこととはなんだったのだろう・・・。平和を取り戻すことじゃないのか・・・。) 
戦争に対し疑問を持つようになったのは何時のことだっただろうか・・・、テリーはそんな事を思案しながら助手席に座っていた。 

辺りを警戒し見渡すと、一人の少女がボロボロになった人形の手を引き歩いているのが見えた。 
「戦争孤児・・・・ですかね・・・」 
一人の隊員が言う。 
「かも・・・しれないな・・・。」 
テリーは呟くように言った。 






この時テリーには、この少女が後に出会うことになるハルカだとは気付くはずもなかった。 


358名前: あかり ◆ZbWnaJs1.6 投稿日: 2006/05/01(月) 22:09:34.87 ID:lx3sgQcY0
1991年10月 

ヨーロッパ諸国の調停により、クロアチア・スロベニア両国はユーゴスラビアからの独立を達成する。内戦の終結である。(クロアチアやボスニアではその後も内戦が続くことになる・・・。) 
しかし多くの人々が犠牲になったのは言うまでもない。 

テリーら傭兵部隊は任を解かれ一時の休暇を与えられた。 

テリーは休暇をフィレンツェで過ごすためイタリアへと向かうのであった。 


618名前: あかり ◆ZbWnaJs1.6 投稿日: 2006/05/02(火) 17:55:10.73 ID:Z5I6FH350
テリーは爆音と銃声の中をひたすらに走る。 
間一髪建物に隠れる。 

銃声が止んだのを確認すると銃を構えながら飛び出そうとする。 
しかし腕に力が入らない、見れば左足と右腕が吹き飛ばされている。 
「!!うあああああああああああああああああああああああ!」 
バランスを保てず、悲鳴とともに地面に打ち付けられる。 
体中からどんどん血が抜けていくのがわかった。 

急に全方が暗くなった。首だけ動かし見上げると、そこには銃を突きつけた敵兵がいた。 
その顔は人間の顔ではなく化け物の顔をしていた。 

敵兵はトリガーに指をかけると、笑いながらそれを引いた。 
テリーは頭に強い衝撃を受けた。 



あれ・・・・・・・・?・・・・・・・・しい・・・な・・・・・・・前・・・・・・・な・・い 
 ・・・俺・・・・・・・・・・・・・ぬ・・・・? 


620名前: あかり ◆ZbWnaJs1.6 投稿日: 2006/05/02(火) 18:04:19.03 ID:Z5I6FH350
「・・・・・・・・!!うああああああああッ!」 

目を覚ますと、やさしい朝の光が部屋を包んでいた。 
窓からは心地よいフィレンツェの風が入る。 

テリーは自分の右腕と左足を確認した。 
幸いそれは両方とも無事に付いていた。 
「・・・・・・・・・・・・・・・夢・・・・か。」 
もう何度同じ夢を見ただろうか。 
戦場では見ることはないのに、休暇中はいつもこうだ。 
テリーは首を振ると身をおこしシャワールームへ向かった。 

「たまには街にでもでるかな・・・・・。」 
シャワーを浴びながらそんなことを呟いた。 

少しでも気を紛らわせたかった。 


36名前: あかり ◆ZbWnaJs1.6 投稿日: 2006/05/03(水) 19:12:22 0
シャワーを浴び終わり部屋に戻ると、ドアが開き女性が入ってきた。 
「全く・・・無用心ね・・。また開けっ放しなの・・?」 
「・・・・問題はない・・。」 
「・・・そうね、あなたなら大抵は殺せるでしょうね・・。」 
女性は半分呆れながらソファーに腰掛ける。 

スラリとした四肢を持ち、髪は肩にかかるかどうかといったところ。歳は24、5ぐらいだろうか。控えめな化粧をしている。 
「・・・ステラ、何の用だ?・・」 
「あら、可愛い彼女に、何の用だ?はないでしょうw」 
ステラと呼ばれた女性は渋い顔をしながらテリーのマネをしてみせた。 
テリーは少しムッとした。 


(以外に似ている・・・。) 


42名前: あかり ◆ZbWnaJs1.6 投稿日: 2006/05/03(水) 19:30:22 0
「あなたが休暇を貰ったって聞いたから来たんじゃない、10ヶ月振りよ、なにか言うことはないの?」 
「・・・・イラクはどんな状態だった?」 
愛の言葉を期待していたステラは、かなりがっくりした。 
同時に、テリーだからしょうがないとも思った。 
「・・・・そうね・・・、あなたが行っていたユーゴと変わらないと思うわ。なんなら詳しい戦況でもお話しましょうか?」 
「・・・・そうだな、すまない。愚問だった。」 
「・・・・もうっ!そんな話をしに来たわけじゃないわ!!これから暇でしょ?どう?久々に・・・その・・・。」 
ステラは急に顔を赤くし、もじもじし始めた。 

ステラにも可愛い所があるなwテリーは少し嬉しくなった。 
このままとぼけるのも可愛そうなので言ってやる。 
「俺も出掛けたいと思ってたところだ、行くか?デート。」 
「!、うん!!」 

ステラは嬉しそうに頷いた。


55名前: あかり ◆ZbWnaJs1.6 投稿日: 2006/05/03(水) 23:42:54 0
絵画のような街並みに、イタリア特有の日差しが差し込む。 
その中をステラと連れ立って歩く。 
ステラは楽しそうに見て回った。 

テリー自身も日頃の戦闘を忘れ、ひと時の休息を楽しむ。 

街の広場になにやら人だかりが出来ていた。 
「なんだろ・・・・言ってみない?」 
「おい、そんなに引っ張るな・・・・。」 
ステラはテリーの手を引き、人だかりへと歩きだした。 


58名前: あかり ◆ZbWnaJs1.6 投稿日: 2006/05/04(木) 00:40:49 0
急に横からピエロがステラにチラシを渡す。 
「どうぞwお嬢さんww」 

「どれ・・・・・ポリショイサーカス?」 
「有名なサーカス団よ、それ!ねえ?見にいかない?」 
テリーは少し考えると承諾した。 
「やったw私サーカス見るの初めてなの!!」 
「そうか・・・・・。」 
「テリーは?」 
「ん?」 
「見たことある?」 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ガキのころ、一度だけ両親に連れられて・・・。」 
「あ・・・・・・・・ごめんなさい・・・。」 
ステラは、もちろんテリーの生い立ちを知っている。 
わざとではないと言えど、ステラは後悔の念に駆られた。 
テリーは様子を察して言う。 
「・・・・ほら!行くぞ!!」 
「え?」 
「デートなんだから時間勿体無いだろ!!」 
テリーはステラの手を引いてずんずん進んで行く。 
「俺が見たいんだよ!なんか問題あるか?」 
「・・・・ううん。」 
「よし、行くぞ。」 
テリーは入り口へとステラの手を引き向かう。 
「・・・・・・・・・・・・アリガト・・・・・・。」 
「ん?なんか言ったか?」 
「何にもw」 

ステラは小さくそう言った。 


62名前: あかり ◆ZbWnaJs1.6 投稿日: 2006/05/04(木) 14:05:24 0
煌く照明、様々な催し、湧き上がる観客。 
それは、隣国での戦争など嘘のような盛り上がりだった。 
観客はただその繰り広げられる舞台に興じていた。 

「すごかったねー!空中ブランコなんて初めてみたよ!」 
「ああ、そうだな・・。」 

外に出て帰り道を行こうとするとテリーの足元に帽子が転がってきた。 
「すみませんね、拾っていただけますか?」 
持ち主は少し遠くからテリーに声をかけた。

 
63名前: あかり ◆ZbWnaJs1.6 投稿日: 2006/05/04(木) 14:11:42 0
テリーは拾い上げると、持ち主である初老の男性に返した。 
「いやあ、すみませんでした。風で飛ばされてしまいましてね・・。」 

男性は照れたように言い、さらに続けた。 
「私はポリショイサーカスのチャック=ノリスです。・・・まあとにかく、ご来場ありがとうございました。楽しんでいただけましたかな?」 
「チャック=ノリス・・・・?」 
「ステラ?知ってるのか・・?」 
「・・・・・・あ!思い出した!!この人団長さんだよ!テレビで見たことある!!」 
「なに?!」 
「いやあ・・・・お恥ずかしい。」

 
64名前: あかり ◆ZbWnaJs1.6 投稿日: 2006/05/04(木) 14:25:31 0
テリー達はしばらく談笑していたが、話も伸びてきたのでホテルに帰ることにした。 

ステラはワインを買ってくると言い、先に帰ってしまった。 
「では、自分もここら辺で・・・。」 
「ええ。長々とすみませんでした。」 
「いえ・・・・。では・・・。」 
テリーが立ち去ろうとすると、ノリスが声をかける。 
「・・・・・・・・あなたは・・・兵士ですね。」 
「・・・・・・・・・・なぜですか・・・?」 
「わかりますよ、私も先の大戦ではフランスで戦いましたから。」 
「・・・・・・・・・・・・・・・」 
「おせっかいかも知れませんが、一つだけ言わせてください。」 
「なんでしょう?」 
「戦場で得られたものは、そのほとんどが残りません。あるのは虚無だけです。」 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」 

ノリスはフッと笑顔を作った。 
「おっせかいでしたね。すみません。では・・・・。」 
途中で振り返ると付け加えた。 
「そうそう、戦場に悩みは持って行ってはいけませんよ。悩みは必ず誰かを殺します。」 

テリーは、無言で聞いていた。 
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