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「悪夢の一日前 アナザーストーリー」


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「テストって何ですか」
「村の子供を全員殺せ」
「え?」
「子供には注射をしなかっただろう、何故だか分かるか。あれは対象が子供だと駄目なんだ。子供には独自の免疫があるらしくて、あれが育たないんだよ。だから全員始末する必要があるんだ、邪魔だからな」

考えてみると奴の所を後にした頃には既に影響が出始めていたのかもしれない。俺は命じられた通りの事をしたが理性は残っているはずなのに現実感はあまり感じなかった。途中で少しだけ不思議に思ったのは、俺がしている事を周りの大人達は例のガラス玉みたいな目で観察するだけで、止めようとしなかったことだった。もしかすると、かろうじてまともだったのはもう俺だけだったのかも知れない、昨日まで向かいに、隣に住んで笑っていた子供達を殺して回るのをまともと呼んでも良いなら。多分その時、俺はもう皆と違う一人だけの道を、一人で引き返せない所まで進んでしまったんだと思う。違うのは俺は俺の意思で道を選んだという事だ。そして最後に一人の子供が残った。

「どうしちゃったの。何でみんな叫んでいたの」
「なんでもないよ」
「パパ、だって変だよ.....」

そう、村の子供全員には俺の子供も入っていた。現実感を失いつつあるなかで、自分の子供だけは最後にした事、それは理性と言うより本能と呼んでいいかも知れない。だがその時はもう、俺は理性も本能も忘れた機械のようになっていた。最後の子供に向かって手を伸ばす、

「あなた。どうしたの」

その瞬間、俺は少しだけ正気に戻れた気がする。振り返って見た妻はガラス玉の目に薄笑いを浮かべて、そこにじっと立っているだけだった。やっぱり、まともなのはもう俺だけなのか、俺は包丁を振り上げ、目をつぶって思い切って振り下ろす.....。

「どうした。テストは済んだのか」
「はい、おっしゃる通りにしました。だから」
「分かった。お前は役立つようだな。よしこっちに来い、そのままでいられるようにしてやろう」

言われるままに前に進む。奴は違う注射を用意しながら言った。

「ところで気づいたか、所々に大人の死体があっただろう。あれを体に埋め込まれると、埋め込まれていない人間は全て敵になるんだ。唯一の例外が子供だ、あれで理性がなくなっても何かが子供を攻撃するのを拒否するんだろうな」

奴の言っている事なんてどうでも良かった。俺は奴の口元をじっと見ていた。そして奴の口の中に目玉が見えたとき、隠していた包丁を一気に突き立てた。

「グガーッ!、何をする!」

俺は感づいていた。いや同じ血を持つ者として知っていた、と言う方が正確だと思う。奴の口の中にあのガラス玉と同じような目があり、それが弱点がある事を。俺は包丁に渾身の力を込めた。だが、奴の右腕の一振りで俺は軽々と吹き飛ばされ、壁に激突した。頭を触ってみると不自然な形と生暖かい感触、俺の頭は半分なくなっていた、力が抜けてゆく。

「馬鹿め!、せっかくチャンスをやろうとしたのに蛆虫が!」

薄れ行く意識の中で奴の言葉にかぶさるように、何か俺のそばで弾ける音が聞こえた。

「ウワッ!待て、やめるんだ!。まさか、こんなに早く。貴様、俺の言う事をなぜ聞かない!、やめ.....」

それは俺にもはっきり感じられた。俺の一部が俺の中から伸びていって奴の口元をえぐっている。奴は必死に抵抗し、俺の一部を引き裂こうともがく。だが、やがて奴の力が抜けてゆき、それが断末魔の痙攣に変わってゆく。その全てを俺は感じることができた。

部屋の中に動くものはなくなった。いや、正確には俺の一部だけがまだ何かを探すようにしばらく動いていたが、奴に引き裂かれたせいだろう、やがてそれも動かなくなった。静かになった部屋の中で、あんなに嫌だった俺が俺でなくなり、俺が消えてゆく感覚が始まっているが、もしかしたら先に殺してしまった妻に会えるのかな、と思うとこれも悪くない気もする。俺は道を引き返せたのかなあ、最後に誰かの声が響く「パパ、だって変だよ.....パパもパパじゃないみたい」。逃がしてやったあの子は大丈夫かな。ああ、お前の言うとおりパパはもうパパじゃない、でもパパは今は嫌じゃないんだよ。

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