核融合


原子核融合(げんしかくゆうごう、nuclear fusion)とは、軽い元素同士が融合してより重い元素になる反応のことを指す。一般には核融合として知られる。

原子核同士がある程度接近すると、原子核同士が引き合う力(核力)が反発する力(クーロン力)を超え、2つの原子が融合することになる。

融合のタイプによっては融合の結果放出されるエネルギー量が多いことから水素爆弾などの大量破壊兵器に用いられる。

恒星での反応
恒星の生み出すエネルギーも、基本的には核融合によるものである。

陽子-陽子連鎖反応

(1) p + p → 2H + e+ + νe

2つの陽子が融合して、重水素となり陽電子とニュートリノが放出される。

(2) 2H + p → 3He + γ

重水素と陽子が融合してヘリウム3が生成され、ガンマ線としてエネルギーが放出される

(3) 3He + 3He → 4He + p + p

CNOサイクル

(a-1) 12C+4p → 12C+α

(b-1) 12C+p → 13N
(b-2) 13N+3p → 12C+α

(c-1) 12C+p → 13N
(c-2) 13N+p → 14O
(c-3) 14O+2p → 12C+α

系の温度が高いとa->b->cの順に反応経路が変化し、 反応速度が速まるが、基本的には炭素1つ+陽子4つが炭素1つとアルファ線になる反応である。

また、b,cでは13Nや14Oがそれぞれβ崩壊、γ崩壊する前に 次のステップに進む。

ヘリウム燃焼

恒星の中心核に充分な量のヘリウムが蓄積された場合に起こる反応。水素原子核の核融合の後に残ったヘリウムは恒星の中心に沈殿し、重力により収縮して中心核の温度が上がる。約1億K程度になると3つのヘリウム原子核から炭素が生成されるトリプルアルファ反応が始まる。ヘリウム中心核からの熱により核の周辺部では水素の核融合が継続する。

核融合炉
また、現在ある核分裂エネルギーを利用する原子力発電に替えて、核融合エネルギーを用いた発電に注目する者もある。

原子番号28ぐらいまでの軽い元素では、核子一個あたりの結合エネルギーが比較的小さいので、原子核融合によって余分なエネルギーが放出される可能性がある。しかし、原子核の電荷が互いに反発して反応を阻害するため、実際にエネルギーを取り出して利用できるような形で反応を起こすことが可能なのは、電荷がごく小さい水素やリチウムなどに限られると見られている。こうした反応が持続されるには数千万度から一億度を超える高温によって、電気的反発力に打ち勝つ熱運動が付与されることが条件となる。

利点としては、

  • 原子力発電で問題となる高レベル放射性廃棄物が生じないこと
  • 原子力発電と同様、温室効果の原因となる二酸化炭素の放出が少ないこと
  • 水素など、普遍的に存在し、かつ安価な資源を利用できること
  • 海水中の無尽蔵の重水素やリチウムを活用していく構想があること
  • 核分裂反応のような連鎖反応がなく、暴走が原理的に生じないこと

などが挙げられる。

技術的困難としては、1億度程度の高温でなければ十分な反応が起こらず、そのような高温状態では物質はプラズマ状態となり、通常の容器に安定して収納することができず、そもそもそんな高温に耐えられる融合炉の材料が無い点等にある。そのため磁力線を利用してプラズマを保持する磁気閉じ込め方式などが開発された。現在最も研究が進んでいるのは磁気閉じ込め方式の一種であるトカマク型であり、現在計画中のITER(国際熱核融合実験炉)もこの方式を用いている。しかし、このトカマク型にも弱点がある。核融合の際電気的に中間の性質を持つ中性子が飛散し、炉を傷つけるために、炉の耐久力が問題となる。その他、各種の閉じ込め方式があり、それぞれ各国で研究が進められている。日本では、核融合研究の中心は日本原子力研究所のJT-60(トカマク型)、核融合科学研究所などで進めているヘリカル型と、大阪大学で研究が進んでいるレーザー核融合である。

圧力の低いプラズマを保持することは比較的容易であるが、エネルギーとして利用可能な程度の圧力のプラズマを保持するのは難しく、前述のJT-60で、高圧力プラズマの保持時間は20秒程度である。また、保持のために投入するエネルギーに比較して反応により得られるエネルギーはまだ小さく、世界の各種装置で核融合利得1を若干超える程度である。これらの課題については、ITERで研究が進められる予定である。

近年、常温核融合の発見が世間を賑わせたが、その後の追試験で測定に問題があるとの認識が高まり、現在では研究も下火になっている。

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最終更新:2006年08月04日 02:10