第一章「潜入」-Mars, the Bringer of War-


~火星・M.A.F.T.Y.アルバクレーター軍事基地~

果てもなく広がる赤土の大地。そこは火星の中緯度に位置する、全体から見れば小さなクレーターの中だったが、実際にそこに立って見ると、周囲の山など見えないほど広大だった。その砂漠を、一直線に突っ切る足跡を追うと、砂漠用迷彩服に身を包んだ人間が三人歩いている。
ユウスケ「しかし、噂には聞いてたけど、『砂の迷宮』とはよく言ったもんだな。地図なしじゃあ、右も左もわからない…。」
地図を片手にまだ幼さが残るが、精悍な顔つきの少年(17歳くらいだろうか)がつぶやく。
ケイゴ「この基地ごとぶっ壊したら解決じゃねぇの?メンドクセェ。」
先頭を進む、背が高く、体格もがっちりとした、鋭い目つきの少年がボヤく。
ミナ「あのねぇ“帽子屋”さん?今回の指令内容ちゃんと把握してる?」
真ん中を歩いていた、赤毛の少女が溜息混じりに言う。三人は皆同じくらいの年頃だろう。慎重に工廠区域へと侵入する。
ケイゴ「はいはい、“アリス”嬢。えーと、あー、アレだ。格納庫でだな。火星の奴らの新型機に…えー…。」
ユウスケ「『F-アナライザー』…?」
ケイゴ「おぉ、それだ!それを付けて、敵の機体のデータを盗むんだろ?」
ミナ「まぁ、だいたいは理解してるようね。機体のプログラムを、解読して、地球軍にとって危険なものか見極めるのが目的よ。」
ユウスケ「おっと、そうこう言ってるうちに、格納庫にご到着だ。一機残らず取りつけろよ!何かあったらすぐに連絡しろ!」

~格納庫内~

ケイゴ「あ…Σ(゜∀゜;)これが新型…人型って…フザケてんのか!?」
薄暗い格納庫内に整然と並べられたその機体は、二本の脚で直立する、明らかに人型を模したロボットだった。
ミナ「はぁ…(ーωー;)ホントにブリーフィングきいてた?“人型機動兵器の運用についての利点”!作戦企画書B-2項!」
ケイゴ「…('A`)」
ユウスケ「…。んじゃさっさとやるぞ。時間がないんだ。フラウドが警備システムをハックしてるとはいえ、モタモタはしてらんねぇ。」
ケイゴ「あぃあぃ」
3人は順調に装置を設置する。最後に、アンテナのようなものを広げて母船へと連絡をとる。
ユウスケ<こちら“ホワイト・ラビット”…。“チェシャ猫”聞こえるか?茶会の準備ができた。パーティを始めてくれ。>
フラウド<こちら“チェシャ猫”、了解ニャ。じゃ、パーティの開始ニャ♪>
フラウドがツクヨミから機体データを凄まじい速度で解析していく。だが途中、強固なプロテクトにより、予定されていた作戦時間よりもオーバー気味になってしまった。
ミナ<ちょっと“チェシャ猫”、まだなの!?モタモタしていたら敵に見つかってしまうわ!>
フラウド<(カタカタカタカタ…カタンッ!)…データ複製完了!スまニャい!今終わったニャ!>
ケイゴ<よし。さっさと撤退するぞ。>
その瞬間、ユウスケの後頭部にヒヤリとした銃口が触れた…(じゃきん…)
イナモリ「ヒヒ…なにやってんのかな?こんなところで…」
機体の影の暗がりから現れたのだろう、銃を構えていたのは、ユウスケ達と同じ年頃の火星軍兵士だった。
ユウスケ「!?…(い…いつのまに…!?)」
ミナ「くっ!!離れなさい!アナタは誰!?」
イナモリ「クク…この基地のエースを知らないのかな?侵入者は死刑デース♪アハハハハハ」
その時、機動兵器のひとつが動き出した。ケイゴが乗り込んだものだ。

きゅいぃぃぃぃん…ごごごごご…

ケイゴ「っち!なんて複雑な操縦システムなんだ!?」
イナモリはユウスケを突き飛ばし走り出した。襟元の通信機に叫んでいる。
イナモリ「おい、ガニメデを出すぞ。こっちへ回せ!」
ユウスケ「ま、まだ新型はあるのか!?」
イナモリ「ハハハ!地球人はとことんおまぬけだな!この格納庫は量産機のショーケースみたいなもんだよ!新型を並べて飾っておくと思うか!?こんなおもちゃとは違う、ホンモノの“ガンダモ”で相手してやるよ!おい!ミヤシタとタツヤもエウロパとカリストに待機させておけ!新型の力を実戦で試せるぞ!ハハハハハハ…」
イナモリは格納庫の奥へと消えていった。
ユウスケ「『ガン…ダモ』…だと?」
ミナ「新兵器の名前かしら…」
ケイゴ「おい!はやくズラかるぞ!奴らが出てくる前にだ!」
ミナとユウスケは量産機という“カリュケ”に乗り込み、ケイゴとともに地上へ出た。

~アルバ基地演習場~

ミナ「くっ!バランサー誤差修正+8,-5,+10…どうしてまっすぐ進めないの!?レスポンスが繊細すぎる!」
火星の高度な科学技術を用いた複雑な操縦系統を瞬時に使いこなすのは困難で、地球軍のモビルクラフト(MC)部隊ではエリートに属する三人でも、機体を立たせるのがやっとの状態だ。そこにイナモリの、シャープなシルエットの黒い機体“ガニメデ”が現れる。
ユウスケ「くそっ、間に合わなかったか…!!圧倒的にこっちが不利だ。機体の性能も…技術も…経験も…!!」
イナモリ「ハハハ!何もできないクセに、いっちょまえにアルバまで乗り込んでくるからさ、喰らえぇっ!」
ケイゴ「うわぁっ!」
ユウスケ「ケイゴっ!!くそぉ!どうすれば!」
ケイゴ「とりあえず回避するしか…。」
タツヤ「………潰す。」
ミナ<ユウスケ!後ろ!>
ユウスケ「おわぁっ!あ、アブねぇ!」
ユウスケはギリギリで、タツヤが操縦する“カリスト”のタックルをかわす。
タツヤ「…!?…もう一度…!」

そのとき
???「レバーを上げて!」
ユウスケ「…っ!??なんだ?」
???「私の声が聞こえるならはやく言うとおりにして!」
ユウスケ「…??こうかっ!?」
???「右上方の赤いボタンを押して、トリガーの上のボタンを押して!」

ボシュン!ヒュルルルルー……ドガーン!

ボムが爆発して火星の岩石を四方に吹き飛ばし、辺りは赤い砂埃で視界がきかなくなる。
イナモリ「な!ボム!ボムだと!どうしてあいつがボムの撃ち方なんて知ってるんだ!?」
ミヤシタ「初めての機体をあそこまで…!」

びーびー!

イナモリ<くそっ!油断してたら関節部分が砂でイカレちまった!>
ミヤシタ<こちらもです。破壊された岩石の欠片でセンサーがやられました。ここは一度引きましょう。>
タツヤ<………了解。>
イナモリ「くそぉぉぉ!理論値では木星の超重力下で問題なく動くガンダモが!」
飛び去る3機の後を追うイナモリ。
ミヤシタ<だめですイナモリ!今は追うべきときではありません!理論値だけが性能ではないんです!ガンダモは!(ぴぴっ)…よかった、アルシアから追跡部隊が出ています。補給の後に合流を…>
イナモリ<く…わかっ…た…!>

~火星・アルバ基地北東~

ユウスケ「く…ここまで来れば…まもなくツクヨミとの合流地点だ。」
ミナ「みんな無事…?」
ケイゴ「クソが…おれが任務失敗かよ…」
ユウスケ「マフティ…火星軍の情報操作だな。新型開発情報の漏洩はワザとだ…」
ケイゴ「ハメられたってことかよ!?」
ユウスケ「あぁ…奴らの目的は戦争を始めるきっかけをつくることだ…」
ミナ「そんな…!」

~地球軍強襲機動特装艦“ツクヨミ”第二格納庫~

オペレーター・ミカン<フラウド隊3機、収容完了しました。>
フラウド「おつかれニャ。それにしても危ニャいとこだったニャ…。」
ミナ「ええ…でも結局、今回の潜入ではあまり何も得られなかったわね…。むしろ新たな火種をつくってしまったわ…」
ユウスケ「いや、俺達はハメられたんだ…ミナが気にすることはないよ…。」
ケイゴ「んぁ。そういうことだ。今はお偉方に任せるんしかねェんじゃね?」
ミナ「うん…そうね。まぁ、今はゆっくり休みましょう。あたしはもうヘトヘト。フラウド、あとはよろしく。」
自分の部屋に入っていくミナ。
ユウスケ「それにしてもあの声は一体……女性のような……。」
ケイゴ「あん?なんか言ったか?」
ユウスケ「いや、なんでもない。それよりも問題は…戦争だ…また沢山の血が無意味に流されるのかもしれない…」
ケイゴ&フラウド「…」

~火星軍高速宇宙戦艦“アルシア”パイロット用ロッカールーム~

イナモリ「見失っただと!?追跡班は何をしていた!?」 

がんっ

イナモリ「くそっ、あんなド素人に、してやられるなんて!!」
イナモリが自分のロッカーに拳をぶつけて毒づく。
ミヤシタ「仕方ないでしょう。こちらも油断していたのは事実です。実戦データも得られましたし…まだ正式な武装も完成していません…。万全な状態でまともに戦えば技量の差は明らかです。次の機会を待ちましょう。」
タツヤ「…次こそ……殺す。」
イナモリ「畜生!!ガンダモの完成を急がせろ!!」

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最終更新:2006年07月27日 02:05