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「坊……春道く~ん、そっちはどうですかぁ~?」

灯台の屋上。千葉紀梨乃が階段側から顔を出し、先に到着していた坊屋春道に声をかけた。

「おー、こっちには誰もいないぜ、キリノちゃん」

春道は振り返ってそれに答えると、紀梨乃の方へ歩み寄った。

トイレ前でのやり取りの後、紀梨乃の提案で、二人は手分けして灯台内部を探索していた。
他にも、灯台に人がいないかどうかの確認と、何か備品などで使える物がないか探すためだ。

そして今、最後の探索場所である屋上の確認を終えたところで、
結局、この灯台には紀梨乃と春道以外の人はいなかった。

春道の、紀梨乃に対する呼び方が、いつの間にか「キリノちゃん」になっていたが、
これは、自分だけ「春道くん」と呼ばせておいて、紀梨乃に対しては、いくら「キリノ」でいいと言われたとはいえ、
呼び捨てというのは何か違うな、と思った春道が、勝手にそう呼び始めたのだった。

普段、親や友達などからも、ちゃん付けで呼ばれることなど無い紀梨乃は、若干照れくさかったが、
それ以外、特にやめて欲しい理由もなかったので、そのまま春道の呼びたいように呼ばせている。

ちなみに「後で電話番号教えてくれない?」という春道の頼みはというと。

「じゃあ後で」

と、後回しにされ、その後もはぐらかされてしまっている。訊き方が悪かっただろうか?
そういえば、会ったばかりの時はフレンドリーな感じの紀梨乃だったが、
今は少しだけよそよそしくなった気がする。

「そうですかぁ、すぅ~…、は~」

紀梨乃は春道の返答を聞くと、ひとつ深呼吸をした。
さすがに屋上には、あの悪臭も漂っていない。

「それじゃ、これからのこととか相談したいんで、こっちついてきて下さい」

そう言って紀梨乃は、階段を下りていった。
紀梨乃は、先ほどまでの探索で、ダイニングキッチンと事務所と応接室が一緒になったような部屋を見つけていた。
じっくりと話し合うには良さそうな部屋だったので、探索が終わったら、そこで今後のことを相談しようと思っていたのだ。

トイレ前で無駄な時間を費やしてしまった紀梨乃は、出来ることならすぐにでも剣道部のみんなを探しに行きたかった。
しかし、闇雲に探しても見つかるとは限らない。ここは落ち着いて、春道と作戦を練ろうというのだ。

「ああ、わかった」

もちろん、女の子からの誘いだ。春道に断る理由はない。
紀梨乃の、歩くたびにピョコピョコ動くポニーテールや、ヒラヒラと揺れる短めのスカートを眺めながら、
紀梨乃の後について行った。

(ヒョーキンにせまってみよーか、渋くせまってみよーか)

そんなことを考えながら。

そうして階段を下りると、また例の悪臭が漂ってきた。
紀梨乃は鼻をつまみ、春道も顔をしかめた。

そしてトイレの前を通りかかったとき、とうとう春道が口を開く。

「なあキリノちゃん、自分の出したもんがそこにあるっつーのは、なんか落ちつかねーんだけど……、何とかならねーかな?」

「ん~、そうですねぇ」

紀梨乃は目を細め、クセの猫口になって少し考えると、近くにあった掃除用具入れからバケツを取り出して言った。

「下の海から水汲んできて流せば、流れると思いますよ」

たとえ水道が止まっていても、トイレに水さえ流してやれば、そこにあるものは流れるはずだ。

「おー!そうか!!」

春道はそれを聞くと、引ったくるようにしてバケツを受け取り、一目散に海へと走っていった。

「ああ、春道くん!それじゃあたし、この部屋で待ってますからねー!」

紀梨乃は慌てて、自分たちが向かっていた部屋のドアを指さしながら叫んだ。

「ああ、わかったわかった」

何とか伝わったようだ。

「ふぅ」

紀梨乃は、事務所のドアを閉めると一息ついた。
この部屋は、紀梨乃が探索した時に窓を開けておいたので、中の空気も悪くない。
そのかわり、少し寒い。

紀梨乃は改めて部屋を見渡した。あちこちに、この灯台の写真や絵が飾っており、
ここで働いている職員達の、灯台に対する愛着のようなものが感じられる。

紀梨乃から見て、手前側にはダイニングテーブルや椅子、食器棚が配置してあり、職員達が食事を作ったり食べたりするのだろう。
そして奥には、そこだけ見ればいかにも事務所という感じの机や椅子、資料棚などが並んでいる。
しかし、そのすぐ横には応接室のようなソファとガラステーブルが置いてある。
そして、この部屋の奥にはさらに、宿直室か仮眠室のような部屋があることも紀梨乃は確認済みだ。
色々な用事のほとんどを、この部屋で済ませてしまうのだろう。

「さぁて、どーしますかね」
ぐるるるるぅぅぅ~

紀梨乃が独り言を呟いた瞬間、紀梨乃の腹の虫の音が、あたりに鳴り響き渡った。

「お腹空いた……」

そう言えば、眠らされてばかりで時間の感覚がまるで無かったが、
最後に食べ物を口にしてからどれだけの時間が経っているのだろう?
そう思ったとたん、強烈な空腹感が紀梨乃を襲った。

ぐぅ~
ぐるるぅぅ~

紀梨乃の腹の虫も、断続的に自己主張を繰り返す。

「うぅ……」

紀梨乃は腹を押さえ、ヨロヨロとキッチンへ向かった。

「確か、ここに……」

紀梨乃がキッチンにある戸棚を開けると、中にはたくさんの缶詰やレトルト食品が入っていた。
電気、水道が使えないので、紀梨乃は多少の調理が必要なレトルト食品には手をつけず、
戸棚から缶詰をいくつか取り出し、次に食器棚から箸と缶切りを取り出した。
あとは、デイパックからパンと水を取り出すと、紀梨乃はダイニングテーブルについた。

「いただきまーす」

腹が減っては戦は出来ぬ。
紀梨乃は、とりあえず腹ごしらえをすることにした。


ザパーン

「おお、流れた流れた」

春道は、海からバケツで汲んできた水を流し、綺麗になった便器を確認すると、満足げにトイレを出た。
これで心おきなく紀梨乃を口説けるというものだ。やはり年下だし、渋くせまってみよーか。
そんなことを考えながら、紀梨乃が待つ部屋の前まで歩いて行き、ドアの前で立ち止まった。

「しまったなー」

そういえば、ついてきてと言われていたのに、あんな風に走り去ってしまって、紀梨乃は怒っていないだろうか?
怒っているようなら、ひと言謝らないとな。
そう思い、詫びの言葉を考えながら、春道はドアを開けた。

「お待たせ、キリノちゃん」

「むぐむぐ」

そうして春道が見たのは、パンを頬張る紀梨乃の姿だった。
予想とはだいぶ違う紀梨乃の様子に、春道は戸惑い、何も言えなかった。

「むぐむぐ……、んくんく、ごくん。あ、春道くんもどうですか?」

しばらく間があった後、紀梨乃は水を飲んで口の中を空けると、そう言って春道に缶詰を差し出した。
そんな紀梨乃を見て、先ほどまで下痢でそれどころではなかった春道も、猛然と食欲が湧いてきた。
空腹なのは春道も同じだったのだ。

「お、おー、食う食う!」

こうして春道も紀梨乃と共に、少し早いランチを取ることとなった。

十数分後。

「ふー、食ったなー」

「そうですねぇ」

春道が、数時間前とは違った理由で腹をさすりながら発した食後の何気ないひと言に、紀梨乃は、使い終えた食器や空き缶を片づけながら答える。
一時は高まった、春道に対する警戒心も、食事を共にすることで大分和らいでいた。

「はい春道くん、これ」

そして片づけが終わると、紀梨乃はこの部屋で見つけた常備薬の中から、食後に飲むタイプの胃腸薬を取り出し、春道に手渡した。

「お、サンキュー」

春道が薬を受け取って礼を言うと、紀梨乃はニッコリと微笑んで「どういたしまして」と言った。

(うぉ、やっぱ可愛いぜ)

春道は、紀梨乃の笑顔にドキドキしながら、渡された薬を口に含むと、ペットボトルの水で流し込んだ。
これで腹の具合も回復するだろう。

ところで春道は、今の紀梨乃の笑顔を見るまで、渋くせまってみよーとか、紳士的に振る舞おうとか、考えていたことをすっかり忘れていた。
そして、そんな自分に驚いていた。

春道が女性と話すときは、いつも面白おかしく喋ったり、猫なで声になったりしたものだが、
紀梨乃に対しては、ほとんど普段男友達に対する態度と変わらない様子で話していた。

そんな風に、自然に女の子と接するのは、春道にとっては、かなり久しぶりだった。
それは、誰とでも仲良くなれる、紀梨乃の社交性の高さ故なのか、それとも下痢のせいで、春道がいつもの調子ではないのか……。

「それじゃ、本題に入りましょうか」

春道がそんなことを考えている間に、紀梨乃はデイパックをテーブルの上に載せ、先ほどよりも幾分真剣な表情で切り出した。

「お、おう」

春道も思考を中断し、床に置いてあった自分のデイパックをテーブルに上げた。
食事が終わったら、まず自分たちの持ち物を確認しようと、食事中の会話で決めていたのだ。
というのも、春道はまだデイパックの中身を確認しておらず、紀梨乃に教えてもらうまで、中にパンが入っていることさえ知らなかったのだった

そうして、まずは春道の支給品を確認するところから始まった。
地図、コンパス、筆記用具、名簿…………、紀梨乃のデイパックにも入っていたような物が、春道のデイパックから出てくる。
やはり、坂持が言ったとおり、武器以外は同じ物が支給されているようだ。

「それから、これだな」

そう言って春道が取り出したのは、茶色の木で出来た柄と、同じ素材で作られた鞘を持つ短刀だった。

(ドス!?)

そう、それは映画などでよくヤクザが持っている、ドスとも呼ばれるような代物だった。
鞘には収まってはいるものの、独特の迫力があり、紀梨乃は思わず目を見開いた。

「えーと、それから……お!」

そして、最後に春道が取り出したのは、大型のライターだった。

「ラッキー」

春道はそう言って、いそいそとポケットからタバコを取り出した。このタバコは春道の私物だ。
先ほど屋上でも、春道は一度タバコを吸おうとしたのだが、ポケットの中には、タバコはあってもライターが無かった。
どうやら、春道の身体検査をした政府の人間は、武器にならないタバコはそのままに、武器になりそうなライターだけ没収したようだ。律義なもんだ。

紀梨乃は、高校生がタバコなんて…と思ったが、春道がとても上機嫌なので水は差すまいと黙っていた。

しかし、そんな紀梨乃の気遣いは、この場合無駄に終わったのかも知れない。

ゴオオオォォォーーー

春道がライターの火を点けた瞬間、信じられないほど大きな火柱が、ライターから立ち上った。

「うお!?」
「ひゃあ!?」

驚いた春道はすぐに火を消したが、部屋の天井には、大きな焦げ跡が残った。
春道が口にくわえていたタバコはテーブルに落ち、紀梨乃と春道は、その場でしばらく固まってしまった。

「な、なんだこりゃあ?」

「え、えっと、そうだ」

自分に支給されていた銃のことを思い出した紀梨乃は、いち早く硬直状態から脱すると、春道のデイパックの中をのぞき込んだ。

(やっぱり)

そうして紀梨乃は、デイパックの隅に、まだ小さな紙切れが残っているのを発見した。

「なんだ、その紙?」

春道も硬直が解け、紀梨乃の肩越しに紙切れをのぞき込む。
それは、春道が握りしめているライターの説明書だった。
説明書によれば、このライターは小型の火炎放射器として使えるよう改造されたものらしい。
この国のどこかで押収された違法改造ライターを、今回のプログラムの担当官が支給品に紛れ込ませたのだ。最近のプログラムは、リサイクルにも力を入れているんだぜ。

「改造ライターか……、こいつでタバコの火ぃつける訳にはいかなねーわな」

春道は、残念そうに改造ライターをテーブルの上に置いた。

「あ、チャッカマンで良ければありますよ」

紀梨乃は、とにかく話題を変えようと考え、この部屋で見つけていたチャッカマンを持ってくると、テーブルの上に転がった春道のタバコを拾い、火をつけようとした。

「あれれ?」

しかし、どうにも上手くつかない。

「あぁ、タバコって吸いながらじゃねーと、なかなかつかねーんだ」

そう言って春道は、紀梨乃が手で持っていたタバコを口にくわえると、チャッカマンの火にかざした。
ポゥッとタバコの先が赤く光った。

「へぇ~、そうなんですねぇ」

タバコを吸わない紀梨乃には、知りようのない知識だった。

さて、春道の支給品を確認し終えたので、次は紀梨乃の番だ。

「あたしのは、これとこれと」

そう言いながら、春道のデイパックにも入っていたのと同じ物を、テーブルに並べていく。

「それから……、これと、これです」

そして最後に、今までブレザーの下に隠していたワルサーPPKと、弾が込められた予備のマガジンを取り出して、テーブルの上に置いた。

紀梨乃はトイレ前で待っている間に、銃をブレザーの下に隠していたのだ。殺し合いには乗らない、と即答した春道の言葉に嘘は感じなかったし、春道を下手に刺激しないようにという配慮もあった。
しかし、どうやら春道は信用できそうな人物なので(頭は良く無さそうだし、明らかに鼻の下伸びてる時もあるが)、この際、見せることにした。

「へぇ」

春道は、なるべく表情を変えないように努力したが、内心穏やかではなかった。

(人生これからっていうティーンエイジャーに、こんな物持たせてやがって!)

こんな物を紀梨乃に支給した政府と、そんなことが許されるプログラムに対して、激しい怒りを覚えていた。
それに、少しヤバイな、という気持ちもあった。
鈴蘭高校では喧嘩最強の春道だが、今まで鈍器や刃物持った奴を相手にしたことはあっても、銃を向けられたことなど無い。

「あはは、なんだか物騒なものばかりですねぇ」

銃、短刀、改造ライターが置かれたテーブルを見て紀梨乃は、困ったもんですねぇ、と言う風に笑った。
軽く笑い飛ばすような言い方だったが、春道は、紀梨乃の瞳に一瞬、不安げな影が差し込んだように思えた。

普段は、決して人に弱いところを見せない紀梨乃だが、命がかかったこの状況では、いつものように上手く強がることが出来なかったようだ。

そんな紀梨乃を見て、春道の中で生まれた怒りは、紀梨乃を守らなければという思いに取って代わり、春道は心の中で誓った。

(キリノちゃんはオレが守るぜ!!)

その後、紀梨乃と春道は、名簿を見ながらお互いの学校の参加者の特徴を教えあった。

個人の特徴の他にも、紀梨乃の室江高校は、今、紀梨乃が着ているようなえんじ色のブレザーが目立つので、見ればすぐわかるだろうと紀梨乃は付け加えた。
確かに、高校生の制服は黒か紺、そうでなければ白系がほとんどで、えんじ色というのは珍しい。
紀梨乃は、あの教室でもすぐに剣道部のみんなを見つけていた。
紀梨乃の記憶が正しければ、全員制服姿だったはずだ。
しかし、あの教室には似たような色の、セーラー服の女子達がいたのだが、そのことは紀梨乃の頭に残っていなかった。

一方春道は、加東秀吉以外の鈴蘭高校生のことは、何とか伝えることが出来た。
ゼットンとヒロミはよく知っている奴だし、特徴もある。
阪東秀人は、あの教室で留年したとか言われてた奴だ、と教えれば、紀梨乃は覚えていたようで納得した。
だが、加東秀吉のことを、春道は人に説明できるほどには良く知らなかった。

「わりぃ」

と、春道が謝ると、紀梨乃は「仕方ないですよ」と答えた。

「学年も違うし、同じ部活ってわけでも無いんですよね?」

「ああ、オレは部活入ってねーんだ」

紀梨乃には、春道が部活に入っていないと言うことが意外だった。
室江高校が全員剣道部だったので、今回のプログラムは部活別で選ばれたと思っていたのだ。
しかし、春道の鈴蘭高校からは、同じ部活でもなければ、学年もクラスもバラバラの生徒達が選ばれている。一体どういう選考基準なんだろうか?

紀梨乃は疑問に思ったが、そんなことは考えていても結論が出るわけではない。
話を次に移そうと、紀梨乃は名簿をデイパックに戻し、地図を広げながら春道に確認した。

「それで、あたしは剣道部のみんなを探しに行きたいんですけど、春道くんも手伝ってくれるんですよね?」

「ああ!」

春道は即答した。男に二言は無いとばかりに。
そしてさらに、先ほど心の中で立てた誓いを、今度は口に出して言った。

「キリノちゃんはオレが守るぜ!!」
「へ?」

紀梨乃は、春道の言葉を聞いて、一瞬、呆気にとられてしまった。
まるで、漫画の主人公がヒロインに向けて言うような台詞。そんな台詞が、まさか自分に向けられることがあるなんて、思っても見なかった。

「えっと……、ありがとうございます」

頬を赤く染めながらも、紀梨乃はペコリとお辞儀をして、素直に礼を述べた。

「ああ、任せな。オレは鬼のよーに強いぜ」

春道は、胸を張って、なるべく渋い声でそれに答えた。
もっとも、心の中は狂喜乱舞の状態だったが。

(やった!やったぞ!!)

自分でもクサ過ぎるかと思ったさっきの台詞を、目の前の女の子は、真っ直ぐに受け止めて、お礼まで言ってくれた。
こんなに嬉しいことはない。

「そ、それじゃあ、これからのコトなんですけどね」

春道が余韻に浸っていると、紀梨乃が地図を見ながら、先ほどまでよりも早口で話を進めた。かなり照れているのだ。

「まずは、この島を一周しようと思います。今、あたし達がいるのは、この灯台なんで…」

紀梨乃は、地図の端を指さした。そこには琴ヶ崎灯台と書かれていた。

「最初は一番近くにある氷川村へ、そこに誰もいなかったら、今度はこっちの平瀬村。途中で、この鷹野神社や分校跡にも寄れると良いですね」

紀梨乃は、指で地図をなぞりながら説明していく。

「それでもみんなが見つからなかったら、こう、ぐるっと島を回ってみようかなと思います」

最後に紀梨乃は、指を島の海岸線沿いに一周させて、説明を終えると、どうですか?と、春道の方を見つめた。

「ああ、オーケーだ」

元より春道は、紀梨乃の意見に反対するつもりなど無い

「それじゃあ、荷物をまとめたら出発しましょうか」

「おう」

話が終わると、紀梨乃はテーブルに並べた支給品を片づけだし、春道もそれにならった。
支給品を片づけ終えると、紀梨乃はこの部屋で見つけていた救急箱や常備薬、缶詰、それにさっき使ったチャッカマンなど、使えそうな雑貨を持ち出した。

「お、それはオレが持つぞ」

春道は、救急箱や缶詰など、重くてかさばるものを一手に引き受けた。
力仕事も男の役目だ。

そうして荷物も大体まとまったころ、春道が紀梨乃に訊いた。

「なあ、キリノちゃんって剣道部の部長なんだよな?」

「はい、そうですけど?」

「だったら、こいつはキリノちゃんが持っててくれ」

春道がそう言って差し出したのは、春道に支給されていた短刀だった。
春道は今まで、たとえ相手が凶器を持っていても、自分は素手で、己の拳で立ち向かってきた。それが春道のスタイルであり、今回もそのスタイルを変える気はなかった。
ならば、自分よりも剣道部の紀梨乃が持っていた方が、いざと言うとき役に立つと思ったのだ。

「え……、でも」

紀梨乃は戸惑ったような表情を浮かべる。それでは春道の武器が、あのライターだけになってしまう。

「いいから、いいから」

それでも、春道は押しつけるように、短刀を紀梨乃に手渡した。

「はぁ」

あまり頑なに拒むと、この場の空気が悪くなりそうだと思った紀梨乃は、曖昧な返事をしつつも、その短刀を受け取った。
そして、一度鞘から短刀を抜いてみた。
その短刀の刃渡りは25センチほど。厚めの立派な刀身を持っている。

(しかたないなぁ)

人を殺す気などない紀梨乃は、使わずに済むことを祈って刀身を鞘にしまうと、今度は紀梨乃から、春道にあるものを差し出した。

「それじゃあ、これ、春道くんが持ってて下さい」

「これは……」

紀梨乃が差し出したのは、ワルサーPPKと予備のマガジンだった。

「いいのかよ?」

武器など使うつもりのない春道だったが、女の子から差し出されたものを無下には断れず、困惑しながらも受け取って、尋ねた。
紀梨乃のような女の子が戦うためには、こういう物も必要なはずだ。

そんな春道の考えを知ってか知らずか、紀梨乃はニコッと笑うと、こう答えた。

「だって、危なくなったら春道くんが守ってくれるんでしょ?」

(う、うおおおおぉぉぉぉぉ!!!)

紀梨乃はちょっとした軽口のつもりだったが、それは春道の心に、これまでに無いほどの衝撃を与えた。

「あ、ああ!当たり前だ!!」

春道は叫ぶと、紀梨乃に背を向け、灯台の出口に向かって足早に歩き出した。

(クソッ、涙が出てきやがった)

春道の目には、感動のあまり涙が溢れていた。
紀梨乃の可愛さと、女の子に頼られているという現在の状況が、春道にはたまらなかった。

「ちょ、ちょっと!?」

紀梨乃も、残った荷物を急いでまとめると、春道の後を追ったが、春道はもう灯台を出てしまっていた。せめて、涙腺の緩みが収まるまでは、紀梨乃に顔を見られたくなかったのだ。

「ふぅ、もうあんな所に…」

紀梨乃もすぐに灯台を出たが、すでに春道はかなりの距離を進んでいる。

「待って下さいよ~」

紀梨乃は小走りで、春道の背中を追いかけた。

こうして、坊屋春道と千葉紀梨乃の二人は、灯台を出発したのだった。

【H-9/道/1日目-昼】

【千葉紀梨乃 @BAMBOO BLADE】
 [状態]: 健康
 [装備]: 短刀
 [道具]:デイバッグ、支給品一式、チャッカマンなどの雑貨数点、常備薬
 [思考]
  基本:殺し合いはしない。
  1:室江高校のみんなを探す
  2:そのために、島を一周する。まずは氷川村へ
3:春道は、信用できそうだと思っている

 [備考]
※春道から、加東秀吉以外の鈴蘭高校出身者の特徴を聞きました。

【坊屋春道@クローズ】
 [状態]: 下痢気味(薬によって回復傾向)
 [装備]: ワルサーPPK、ワルサーPPKのマガジン、改造ライター(燃料:90%)
 [道具]:デイバッグ、支給品一式、救急箱、缶詰、私物のタバコ
 [思考]
  基本:キリノと仲を深める
  1:キリノを守る
  2:電話番号をもらう
  3:できれば、その先も……

 [備考]
※紀梨乃から、室江高校出身者の特徴を聞きました。





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