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 平瀬村分校跡には元の静けさが帰ってきていた。
 ついさっきまでのけたたましいベルの音は嘘のように鳴りを潜めている。
 その騒音を招く原因となった栄花段十朗は一人、なるべく窓から離れて、外に注意を払いな
がら廊下を歩いていた。デイパックを肩にかけ、しかしその手には支給された小銃の姿は無い。
「ふー、あと少しだあ」
 ダンが今何をしているのかと言うと。この学校にあった凶器になりそうなものを探し、片付
けて回っているのだ。途中、訪れた用務員室ではナイフや電動カッター、小型のチェーンソー
等が見つかった。
 機械類はあちらこちらの配線を切るだけでなんとかなるが、単純な刃物の類いはどうしよう
もないので学校のあちこちに隠して回っていると言うわけだ。
 ダンのデイパックの中にはこれから隠す短刀が数本、筆記用具や地図などのかさばらず、最
低限必要な軽い物のみが詰められている。狙撃用のスコープはいつでも使えるようにポケット
の中に入れてある。食料や水は今は必要ないので少しだけ食べて用務員室に置いてきた。

 そんな事をするのにはもちろん理由がある。
 さっきまで無造作に流れていた音がどこまで届いていたのかダンにはわからないが、分校跡
の近辺にいる参加者が音につられてやってくる可能性は低くは無い。それが重なれば何人もこ
の場に集まることになる。
 そして人が集まれば何が起きるか――殺し合いになる可能性は低くは無い。
 それがこの沖木島にいる学生達に課せられたものだからだ。
 そうなる可能性は否定したいし、ダンも今の所はそんな事をするつもりは無いが、そうなっ
た方が今の状況では自然だということ位は理解している。
 そしてそれを招き寄せる原因をつくったのは誰か? 他でもないダンだった。
 もし誰かがこの学校の周囲で死んだらそれはダンのせいだといっても過言ではない。
 そしてそれが室江高の、剣道部の仲間達だったら……。
 だからこそ自分なりのケジメをつけるために学校に居残っているのだ。
 人が訪れても積極的に接触するつもりは無いが、もし争いが起きればそれを何とかして止め
る、または防ぐ腹積もりだった。
 危険物を処理しているのも死の匂いをなるべく遠ざける為だ。なるべく隠れていたいがやれ
るだけの事はやっておきたいのだ。
 どうやって戦いを止めるか、それはまだわからないが、少なくとも銃を使うつもりはなかっ
た。
 さっきは強がりも言ってはみたが、先程の出来事のせいですっかり自信を失ってしまってい
た。下手をすれば自分にとって致命傷になりかねない。
 とにかく今はまだ使うべき時ではないのでとある場所に隠している。もちろん弾も抜いてだ。
「へへっ……」
 自分が動く、その状況を頭の中で思い描く。そうすると身体には震えが、顔には笑みが浮か
ぶ。それがダンには不思議でならなかった。
 震えるのはわかる。純粋に怖いからだ。もしかしたら死ぬかもしれない。
 しかしどうして笑いが零れるのだろうか。もしかしたら自分で思っている程、まだ実感が湧
いていないのかもしれない。もしかしたら戦いの予感に昂ぶっているのかもしれない。
 なんにしてもその根源がダンにはわからなかった。
 とにかく、もしもの時の手段を考えておかなければならないだろう。
 それと……覚悟も。
 その瞬間はすぐそこまで迫っているのかも知れないのだから。

「それにしても……」
 ダンは古い木の板張りの廊下を歩きながら、同じく板張りの見慣れぬ天井を見上げて呟いた。
「ここって、ちゃんと電気通ってるんだなぁ」
 先程まで激しく自己主張をしていた非常ベル、当然ながらその動力源は電気である。
 つまり騒音を止める確実な方法はその元を断つことだった。
 一時パニックになったダンは学校から逃げ出して、だけど殺意をもった人間と遭遇する可能
性を考えて、すぐに学校に戻り、とにかく騒音を止めようと、努めて冷静になってそれを考え
出した。どこから電力を供給しているのかはわからなかったので、その流れを止める事にした
のだ。
 ダンは学校をくまなく見て回り、配電盤のような、そんな装置のスイッチを端から端まで落
として回った。それで音はなんとか鳴り止んだ、様に思う。というのも、
「水道は止まってるんだよな」
 廊下の脇に配されている水道の蛇口を捻ってみる。そこから水は流れない。
 電気はよくて水が駄目というのはダンにはよくわからない事だった。
 政府の人間が居座っている場所からついでで流れてきているのか(この島にいるのかどうか
はわからないが)。それとは別に何か、発電機のようなものががどこかにあるのか。そもそも
自分の行動に意味が無く、単に非常用の電源が尽きただけなのか。
 火災報知機の電源は独立していてもあまりおかしくはないかもしれない。
 ……結局何が正解なのかはわからない。
 何はともあれ、つい最近まではこの建物が使われていた事は確かだろう。
 よく見れば学校の周囲はちゃんと手入れがなされているし、校舎の中もそれほど荒れてはい
ない。雑具の類いがあるのもそのためだろう。それを思うと少し申し訳なく思ってしまう。た
だ今は非常事態だ、見逃してもらうしかない。

「ふう……」
 歩きながら溜息をつく。どこまでも平坦な静寂は人の心を不安にさせる。
 今ここに留まっているのは仕方の無い事だと、ダンは思う。
 しかし大事な仲間達を探しにいけないのは、どうにも歯がゆい。
 今、みんなはどうしているのか。それが心配でたまらない。
 いつまでも学校にいても仕方ないので正午にはここからでていくつもりだった。
 しかし、その時にあるという放送で知った名前が呼ばれたら。
「ミヤミヤ……」
 愛する彼女の名前が呼ばれたら。
「俺は……」
 後悔せずにいられるか?
「……」
 この選択が正しいのかどうか、ダンにはわからない。が。
「だけど、俺だけの問題じゃないもんな」
 人が死ぬ可能性が今の平瀬村分校跡にはある。
 ある程度それを払拭できるまではここに残らなければならない。
 その小さな体躯に様々な思いを抱えながら、ダンは歩き続けた。
 今のところ、周囲に人の影は無い。

【G-3 平瀬村分校跡/一日目 午前】

【栄花段十朗@BAMBOO BLADE】
【状態】:健康
【装備】:
【所持品】、デイパック、筆記用具、時計、コンパス、地図、狙撃用スコープ
【思考・行動】
0:正午までは分校にいる
1:分校やその近くで争いが起きた場合、なんとかしてそれを止める
  そしてその方法を考える。それ以外での接触はなるべく避ける
2:室江高のメンバーと合流する。

※その他の支給品は用務員室に、
 モシン・ナガンM1891/30及び予備弾35発は分校跡のどこかに隠されています




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