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 花澤三郎は道を行く。
 目的の為に、決意の為に、覚悟の為に。

 □ □ □

 藤岡ハルヒは読書をしている。
 木製の椅子に腰掛けて、傍らにある小さなテーブルに手を伸ばし、その上の湯気がたつ
カップを手に取る。それを口にまで持っていき、一口。
 なんてことは無い、ただのインスタントコーヒーだ。
 かといって今の、プログラムが行われている沖木島ではそのインスタントコーヒーです
ら手に入れること、というよりも淹れる事が難しい。
 それをどうやって、いやそもそもハルヒが今どこにいて、何故一人で居るのか。

 まずはハルヒがどこにいるか……平瀬村のある一つの民家にいる。
 コーヒーはそこで手に入れたのだ。
 水は備蓄されていたものを使用し、火もカセットコンロがあったのでそれを使った。
 では何故そこにいるのか……花澤三郎に置いていかれたから。
 数時間前、二人一緒に道を進んでいたときに三郎が提案してきたのだ。
 三郎が言うには一緒に行動するよりも安全で、尚且つ一人の方が動きやすいとの事だっ
た。もし今日一杯、自分が戻ってこなければ好きにしてもいいとも。
 ハルヒとしては安全はどうでもよかったし、早く死にたいのだが……反対はしなかった。

 確かに自分の事はいいのだが、三郎に迷惑がかかるのが、どうにもうまくない。
 ハルヒは死にたいが、三郎は生きたい。だったらそれをなるべく邪魔はしたくない。
 そもそもは三郎の方から同行を提案してきたのだが、その事は指摘しなかった。
 その内に殺してくれるというのだから、歩き回るよりも家の中にいた方が楽でいい。


 それに、と部屋の片隅にあるベッドに視線を向ける。
 そこにはついさきほど帰ってきた三郎が担いでいた荷物が寝かされていた。
 男だった。顔は見るも無残に腫れ上がり、元の顔が全くわからない位に変形していたが。
 髪の色や着ている制服から見て桜蘭の人間ではない事はわかるが……それにしても酷い。
 恐らく三郎が男をこういう風にした張本人……なのだろう。

 花澤三郎は何も喋らなかったし、語らなかった。
 男をベッドに横たえ、それからすぐに出て行ったのだ。
 だからこの行為を為したのは彼だと断定できなかった。
 何故なら……三郎が無傷だったからだ。
 服にも汚れらしい汚れがなく、特に痛がっている様子も無かった。
 男の傷は、ハルヒにはそういった知識は無いが殴打によるものに見える。
 つまりは素手で、もしかしたら三郎が持っていたショットガンでかもしれないが、どち
らにしても、接近しての殴り合いでの事だと思われる。
 だとするとよほどの実力差が無ければ無傷で勝つ事は難しいのではないか?
 ましてこの島で行われているのは殺し合い、相手も死に物狂いだろう。
 その上で三郎が男をここまで痛めつけたと言うなら……彼は恐ろしく強いのだろう。

 とはいえ――ハルヒにとってはどうでもいい事だ。
 三郎の腕っ節も、二人の間に何があったのかも……死に行く者にとっては瑣末なこと。
 ハルヒは男が目覚めたら……自分を殺してもらうよう、頼むつもりだった。
 三郎には悪いが、ここに置いていった時点で彼にはもう強制力は無い。
 いや、三郎がこの場に置いていった以上、男にやる気は無いのかもしれない。
 なんの拘束もせずに置いていった事がそれを裏付けている。
 しかし……ここまで傷ついた人間が何もしない、という事があるだろうか?
 この島で生きる為には誰かの死を踏みつけにするしかない。
 もし、最初は良心が咎めて戦う気が無かったとしてもそれは絶対だ。

そして男は傷ついた。痛かっただろう、怖かっただろう。
 ――死を身近に感じただろう。
 だとするなれば……生き残ろうとするのではないか?
 そうする為には誰かを殺さなければいけない訳で……。
 もしその気が無かったとしても、思いが変わる可能性は充分にある。
 誰だって、生きたい筈なのだから。

 □ □ □

「ぐあっ……」

 人間が、まるで木の葉かなにかのように宙に舞う。
 花澤三郎の必殺の蹴りを喰らったのだ。
 そして、それでおしまいだった。
 五メートル近く吹き飛んだ後、七原秋也は動かなくなったから。
 これで七原秋也と花澤三郎の喧嘩は終わったのだ。

 ――思えばと、三郎は自身の荷物に向かって足を進めながら思い出す。

「そこのあんた! あんたはやる気なのか!?」

 大声で、無用心にも、秋也は声をかけてきたのだ。
 ショットガンを肩に吊るした三郎に向かって。
 誰がどこに潜んでいるとも知れないのにだ。
 誰のものとも知れない民家に置いてきた藤岡ハルヒに続いての不意打ちだった。
 呆然としながら声の元に目を向ける三郎に、何を勘違いしたのか辺りを気にせずに声を
響かせながら、走り寄ってきた。

 ――デイパックから、目当ての物を拾い上げる。


「俺は七原秋也だ。これから宜しく」

 それは知っていた。恐らく他の学生も知っている事だ。
 あの始まりの教室で、彼は名前を呼ばれていたから知っている。
 そして相手に引っ張られて自分も自己紹介をした事は覚えている。
 なにを宜しくしたらいいのかは、わからなかったが。
 とにかくその場を離れて話を聞くと、とち狂った事を喋り始めた。
 この島から脱出するという寝言をだ。

 ――拾い上げたものを見ながら一つ、息を吐いた。

「みんなと一緒に力を合わせれば、絶対にできるはずだ!」

 とりあえず、自制心を総動員して話を最後まで聞いた。
 とはいってもその、これからの展望はごく短いものだったが。
 みんなと一緒に力をあわせれば何でもできる。
 あまりにも馬鹿馬鹿しかった。
 この状況を考えればそんな事は到底不可能だった。
 町のチンピラたちを、鈴蘭の人間たちを見てきたから三郎にはそれがわかる。
 全員が銃などで武装し、誰がどこから襲ってくるかわからない。
 更には殺人を認められている。そして状況を同じくする仲間もいる。
 これで何十人もの大人数を纏め上げるなんて無茶を通り越して無謀だった。
 第一、そんなものをあの政府の人間達が許す筈が無い。
 だから、三郎は銃を秋也にむけた。
 その時の秋也の表情を、三郎はしばらく忘れる事ができないだろう。

 ――心を決めて歩き出す、倒れ付す男へ向かって。


「誰だってこんな事、殺し合いなんてしたくないだろう!」

 秋也は気丈だった。
 足は震えていたし、顔から汗が吹き出ていたけれど、三郎を説得しようとしていた。
 しかし三郎はそんな現実を見ていない戯言を聞く気は無かった。
 殺し合いがしたくない? そんな事は当たり前だ。
 事実、自分も怯えていたのだから。
 だが、三郎は不良だからこそ脱出なんて事が不可能だとわかる。
 この国はそれを許すほど甘くは無い。
 万が一出来たとしても、一生追われる身だ。
 三郎はそんなことは真っ平だった。
 だから生き残る為に秋也に引き金を――引けなかった。
 どうしても指に力が入らないのだ。
 今までの常識や良識が三郎の体と心を縛り付けたのだ。
 それはまともな人間だったら当たり前の事だった。
 命の重さはこんな国でも、いやこんな国だからこそ変わらない。
 命が尊ぶべきものだからこそ、このプログラムに意味があるのだから。

 ――秋也の傍まで辿り付き、そしてその顔を見下ろした。

「うぉ……うおおおぉぉおおぉおおぉぉぉぉ!」

 撃てない事を見透かしたのかそれを話の軸にして秋也は説得を続けた。
 それが、秋也を撃てなかったのが、どうしても歯がゆくて、悔しくて。
 ――三郎の嗜虐心に火がついてしまった。
 銃を下ろして、三郎はこんな事を持ちかけた。
 自分に喧嘩で勝てば、言う事を聞いてもいい、と。
 秋也は最初は断ったものの、最後にはしびしぶそれを聞き入れた。

 このままでは埒があかないと思ったのか、それとも腕に自信があったのか。
 どちらにしても、秋也は選択を誤った。
 そしてその結果が……今倒れているものだ。

 実際、藤岡ハルヒが想像した通りに花澤三郎は強かった。
 それは元野球少年、現ギター少年では相手にならない程に。
 三郎が学んだ空手の為か、元々の素質の為か。
 少なくとも彼がいた町で、実力で三郎に比肩するものは少ない。
 ここに呼ばれた学生のなかでも恐らく上位に入る実力者だ。
 そして秋也は散々、三郎に嬲られて、醜態を晒して負けた。
 ……もしどこかで誰かが一部始終を覗いていたら、そういう風に見えたかもしれない。
 だが――

 三郎は両手に二つのモノを持って秋也を見下ろしていた。
 ショットガンと、藤岡ハルヒから取り上げた大振りのナイフだ。
 このどちらを使っても、容易く事を為すことはできるだろう。
 秋也の顔は膨れ上がり、髪も乱れ、服は汚れに汚れている。
 蹴りは一回のみで――すぐに終ってしまうからだ――拳打のみを使った。
 骨は折れてないだろうが、しばらくは動けまい。
 だからヤるのは簡単だ、しかしそれでも動けない動かない。

 三郎はその場に膝をついた。身体から力が抜けたのだ。
 何故なら――三郎は七原秋也を知ってしまったから。
 藤岡ハルヒの時もそうだった。やろうと思えば一瞬だったのに、そうしなかった。
 花澤三郎は殺人などできる男ではない。
 彼は、弱きを助け強気を挫く、そんな言葉が似合う男だった。

 全ては言い訳の為だった。
 あいつが襲ってくるんだから自分がなにをしてしまっても仕方ない。
 全ては正当防衛なのだと、そんな状況にした国が悪いのだと。
 それは強引で無茶苦茶な、理屈にすらなってない自己の正当化。
 それでも三郎はできなかった。いや、できなくなった。
 七原秋也の覚悟を知ってしまったから。

 花澤三郎は自分の力がどれほどのものかを知っている。
 それをどの程度振るえば、相手を倒せるのかもだ。
 秋也は三郎の喧嘩してきた相手の中では決して強い方では無かった。
 最初は、秋也が超人的なまでの動体視力で三郎の攻撃を次々回避していた。
 だがその程度でどうにかなるほど、花澤三郎の底は浅くない。
 次々と三郎の拳が命中し始めた。
 手加減はしていたが、すぐに倒れると思っていた。
 それは経験的にわかる、三郎の実感だったのだが……違った。

 幾ら拳を打ち込んでも、秋也は倒れなかった。
 雄叫びを、最後には奇声をあげながらも、最後まで闘志を燃やして向かってきた。
 肌を刺すような秋也の意地、想いを三郎は全身で受け止めなければならなかった。
 最後には無意識の内に蹴りを放っていた。
 秋也はそれっきり、糸の切れた人形のように動かない。
 しかし三郎はどうする事もできなかった。惨めだった。
「だけど……どうすりゃいいってんだ」
 今の三郎には覚悟が足りないかった、相手の一切合財を踏み潰す冷徹な心構えが。
 例え秋也が意地を見せようとも、生きたいのならそれを越えなくてはいけない。
 三郎は――今でも生き残る気なのだから。しかし殺せない。

 そんな時にどこからかなにか、聞き覚えのある音を聞いた。
 今までは極限まで気を張っていた為か気づかなかったが、今では耳に届いてくる。
 これは……消防のベルの音だろうかと三郎が思ったときに頭に閃く事があった。


 ――坊屋春道。

 ここからでは音は遠いが、それでも目立つ。
 そしてあの男の事、なにをやっても不思議ではない。
 しかし、今あの男に会いたくは無かった。
 何故なら、引きずられてしまうだろうから。
 秋也が言えば戯言でも、春道が言えば真実になる。
 人を引き込む、そんな魅力のある男だった。
 だが――今度ばかりはそれでは駄目なのだ。
 餓鬼同士のいざこざじゃ無く、国が相手なのだ。
 だから……と考えて初めて三郎は気づいた。
 自分がやらねばならない、と。

 思えば、鈴蘭の人間が素直に殺し合いに乗るのか?
 阪東秀人は知らないが、桐島ヒロミに加東秀吉……。
 気性を考えれば無い可能性の方が遥かに高い。
 馬鹿だなんだという前にプライドの、誇りの問題だった。
 恐らく、七原秋也に出会わねば気づかなかっただろう。
 強固な意志を見たからこそ気づけたのだ。
 そして――自分の不甲斐なさにも気づいてしまったのだ。

 何故、藤岡ハルヒの始末を彼らにしてもらおうと思ってしまったのか。
 鈴蘭は自分で自分のケツを拭ける連中の集まりではなかったのか?
 つまりは自分はなりきれていなかったという事だろう。
 人間、危機に陥った場合に地金が出る。
 そして、自分がそういう卑劣な人間なのだという事に――気づいてしまった。
「ハ、ハハハ……」

 思わず笑ってしまうほどの情けなさだった。
 しかし、だからこそ、自分がなんとかするしかない。
 三郎は彼らに、春道たちに死んで欲しくは無かった。
 だが、彼らは上に尻尾を振るよりも、特攻して散る事を選ぶだろう。
 ――そんな事をさせるわけにはいかない。
 三郎は立ち上がった。
 これもまた自己を正当化させようとしているのかもしれないが……。
 守りたい、死なせたくないという意思は確かなものだった。

 かといって秋也を放ってもいけない。
 やはりまだ殺せそうに無いが、決意する。
 藤岡ハルヒも、七原秋也もいつか必ずこの手で殺す。
 だから秋也をかついで三郎は歩き始めた。
 これから先に言葉はいらない。
 ただ、自分の意志を示すのみ。
 ――この島から仲間を生きて帰すために。

 □ □ □

 七原秋也は慎重に、辺りに気を配りながら道を歩いていた。
 だから気づかれずに、相手を発見する事ができた。
 物陰に身を隠して、様子を窺う。
 本当はすぐにでも飛び出して話をしたかったのだが……。
(銃……だよな)
 ソレが肩にかけているものが気に掛かった。
 秋也とて、そこまで無謀ではない。
 国に、あの男に復讐するまでは死ねないのだ。
 死んでしまった親友の為に、その横っ面を殴りつけるまでは。
 正直、このまま見逃しても良かった。
 三村信史や杉村弘樹と合流してから、じっくり仲間を集めれば……。
(いや、違う)
 そんな時間なんてありはしない。それに……。
 三村は広い知識があるし、杉村は拳法が使えて頼りになる。
 対して自分には……何も無い、武器が無い。
 運動には自信があるがそれだけだし、それも三村と同程度のものだ。
 だったら自分は……勇気を見せなければならない。
 どこかの誰かが言っていた。

 勇気ある行動は人の心を開く、と。

 だったら、自分はそうしよう。
 例え目の前の男がこちらに襲いかかってきても、説得してみせよう。
 だから――
「そこのあんた! あんたはやる気なのか!?」
 秋也は自らを鼓舞するように声を張り上げて、男に呼びかけた。


【?/?/1日目-?】

【花澤三郎@クローズ】
[状態]:健康 少し疲労
[装備]:ショットガン(SPAS12) アーミーナイフ
[道具]:デイパック、支給品一式、単車のキー、ランダムアイテム1(武器ではない)
[思考]
基本:仲間を生かして帰す
1:俺は――――
2:覚悟を決める
3:ハルヒと秋也はこの手で殺す

※三郎がどこに向かうのかは次の書き手さんにお任せします

【F-2/民家/1日目-午前】

【七原秋也@バトル・ロワイアル】
[状態]:疲労大 気絶 全身を負傷
[装備]
[道具]
[思考]
基本:誰も殺さずにプログラムから脱出する?
1:…………

【藤岡ハルヒ@桜蘭高校ホスト部】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考]
基本:できるだけ楽に死にたい
1:男が目覚めたら、殺してもらうよう頼む
2:男と三郎に何があったかは興味なし

※秋也のデイパックはF-2エリアのどこかに置かれています




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