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 朝日を受けて輝く海、その波打ち際に神楽はいた。
 寄せては返す波の前、神楽は地面に膝を立てる形で座り、その膝を両手に抱え込んでいた。いわゆる体育座りの形だ。ここに座り込んでからだいぶ時間が経つように思えた。それを確認する術が無いので実際にはそこまで時間は経ってないのかも知れないが。
 今、この場にいる事を夢だと思いたかった。
 しかし身体に吹き付ける冷たい風、その風に運ばれる潮の匂いと波の音、地面のざらざらとした感触。それら五感が伝える全ての事柄が、これが現実なのだと教えてくれた。
 黒沢先生が死んだのも現実だった。見知らぬ二人が殺されたのも現実だった。あの鉄臭い、血の匂いは良く覚えている。
 黒沢先生は一年の時の担任で、自分が入っていた水泳部の顧問で、短いようで長い付き合いだった。進路の相談にも乗ってくれた。……いい先生だった。
 じわりと熱いものが目の奥から溢れ出してくる。この島に来て、初めての涙だった。次から次にとめどなく溢れてくる。抑えようとは思わなかった。神楽は黒沢先生の為に静かに泣いた。

「これからどうしよう……」
 涙をあらかた出し尽くした後、少しは考える余裕ができたので少し今の状況を考える事にした。
 自分が巻き込まれたのはプログラム、大雑把に言えば学生同士の殺し合いだ。
 本来なら中学生が対象の筈の催しに、卒業までもう僅かな高校三年生の自分が何故選ばれたのか。それはひとまず考えないようにする。どうせ答えは出ないだろう。
 今、自分が考えるべきなのはもっと大切な、命に関わる問題だ。
 当然の事ながら神楽は殺し合いなどしたくない。争いとは無縁の学校生活を送ってきた女学生にいきなり殺しあえといわれても、そんな事はどだい無理な話なのだ。
 しかしながらこの島においてはそんな甘えは許されない。毎年、何人もの学生が死んでいってるのだ。政府が主催するこのプログラムに助けが来る筈もなし。逃げ出してしまいたかった。

 膝の間に落としていた視線を海の方に向けてみる。近くに幾つもの島が見える。冬の海とはいえ水泳部でそれなりには鍛えたので余分なものを捨てれば多分、そこまで泳ぎきれるだろう。この首輪さえ無ければの話だが。それになにかしらの方法で海も監視されてる可能性がある。
 いっそ自殺でもしようか。ここから見て右側に切り立った崖がある。あそこから飛び降りれば痛みを感じずに楽に死ねるかもしれない。
 そして立ち上がろうとして、やめた。死んだ後の事が気になったのだ。死んだ後とはいえ魚達に自分の身体を食い荒らされるのは嫌だ。死んだらなにも感じなくなるとはいえ嫌だ。そもそも何故、自分が死ななくてはならないのか。嫌だ、死にたくない。
 嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌―――
 どうしようもなく落ち込んでいく思考を中断。もっと前向きに考えてみることにする。

 殺すのも嫌、殺されるのも嫌、だがどちらかを選ばなければいけない。
 溜息も出ないほど絶望的な状況。その中で自分に何ができるのか。
 ふと自分の友達、一緒に巻き込まれたみんなの顔が思い浮かぶ。
 今回のプログラムのルールはいつもとは違い団体戦らしい。優勝すればみんなと一緒に帰れる。
 しかし、断言はできないが彼女達はこの殺し合いに乗らないだろう。
 それに乗ったとしても返り討ちにあう確立は高い。大阪はのんびりしてるし智もたいして動けない。ちよに至っては論外だ。安心できるのは榊ぐらいなものか。その榊も殺す側に回るとは考えがたい。……頼りにできるのは自分だけ。
 自分がやらなければきっと親友達は死んでしまう。殺されればそれで終わりだが、殺して、殺しつづけて優勝すればみんな一緒に生きられる。生きて帰れる。だとしたら自分は――
 ここまで考えて頭を振る。
「でも駄目だな……。私にはそんな力なんて無いし」
 体力には自信があるが力は無い。なにかまともな武器さえあれば――
「そうだ、武器……」
 自分に支給された物をまだ確認していなかった事にやっと思い至り、デイパックの中をごそごそ探ってみる。そして見つけた。
「これ、銃か……?」
 色々な物が詰まったデイパックの中で一際異彩を放つ、リヴォルバー式の拳銃が目に入った。取り出してグリップの部分を握ってみる。想像していたよりは軽く、小さい。これならなんとか使えそうだ。これが日常の中でならちょっとふざけてみる所だが状況がそれを許さない。

 銃には弾が込められていた。多分、実弾だろう。ハンマーを起こし、引き金を引けば弾が出る。それが当たれば相手は死ぬ。予備の弾薬もある。これさえあれば……。

 やろう。脆弱で、芯の無い決意ではあるが神楽はこのプログラムに乗る事を決断した。
 これからどこに行くべきかを、デイパックから地図を取り出して考える。
 南には学校がある。心情的に近寄りたくないので選択肢から消去する。北は海だ。とすると西か東か。考えるまでも無かった。立ち上がり西の、ここからでも見える鎌石村に足を向けて歩き出そうとしたその時――銃声が耳に届いた。

「っ……!」
 思わず身を伏せるが回りに人の姿は無い。ここではないどこかで、誰かが人に向けて銃を撃ったということだろうか。銃声なんて聞くのは初めてだから、それがここから近いのか遠いのか、そもそも本当に銃声なのか、判断はしにくいがそう遠くの事では無いように感じる。方角で言えば東、崖の辺りから響いたのだろうか。すぐにここから逃げ出したい気持ちが湧き上がってくるがそうはいかなかった。
 もしかしたら自分の仲間に銃口を向けられたのかもしれない、そうでなくても向こうにはとにかく人がいるのだ。その場に留まっているとは考えがたいが、この殺人ゲームに乗った神楽にとって行ってみても損はないだろう。そして神楽は生き残るために崖に向かって走り出した。


【C-6 海沿い/一日目 朝】

【神楽@あずまんが大王】
【状態】:健康
【装備】:S&W M10(6/6)
【所持品】:支給品一式 ランダム支給品0~2
 予備弾30
【思考・行動】
基本方針:みんなと一緒に生き残り、優勝する
1:銃声がした方へ行ってみる。人がいれば殺す……つもり
2:仲間を探したいが殺し合いに乗った事をどう説明しよう?



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