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 木々が生い茂る林の中、一人の男が切り株の上に腰掛けていた。その男、高崎秀一は目をつむり、静かにただそこにあった。身動き一つせずに、これからの自分のやるべき事を 高崎は考えている。
(俺は……ガキの頃から曲がった事が嫌いだった。
 自分に筋道通してやってきた)
 どんな時も、一つの町を敵にしても、強く正しく在ろうとした。自分を曲げずにどんな時でも意地を張って、自分の道を歩いてきた。
(だけど……今は……)
 プログラム、当然ながら高崎もその存在は知っていた。たまにニュースでそれが行われた事を知るぐらいではあるが、それが学生同士を殺し合わせる狂気の催しである事ぐらいは知っていた。もし、それに自分が選ばれる事になったら絶対に叩き潰してやろうと思っていた。それが今まで高崎秀一という人間が歩いてきた道であり、何があろうともそれを踏み外す気は無かった。

 そして今、高崎はその只中にいる。

 最初、あの教室で目覚めて事態を把握したときは、このプログラムに反抗するつもりでいた。この島からうまく抜け出す事が出来ても、その後は逃亡人生になるだろうが、そんな事ぐらいで自分の意地を曲げるぐらいなら死んだ方がマシだと高崎は思っていたのだ。
 あの坂持とかいう下衆の一言を聞くまでは、確かにそう考えていたのだ。
 もしも、例年通りのプログラムならば悩む必要もなく、すぐさま高崎はなんであれ行動を起こしていただろう。しかし今回のプログラムは勝手が違う。
 チーム戦、この新ルールとこの島に自分と共に選ばれてしまった仲間たち。それが高崎に迷いを与え、この場に縛り付ける原因になっていた。
(このプログラムに選ばれた俺の知り合いは三橋に伊藤、
 それと理子ちゃんに良くんか……)
 三橋と伊藤は多分、一人でも問題ないだろうと高崎は考える。あの二人はそう簡単にくたばる程やわな人間でない事を高崎はよく知っていた。
 しかし、理子と良は早く探し出して保護しなければならないだろう。二人とも、そこらの不良程度なら問題なく撃退できるだろうが、この島で行われるのは町の喧嘩ではなく、殺し合いなのだ。しかし、高崎の足が動く事は無い。
(俺はどうするべきなんだ……)
 伊藤、理子、良の三人はまずこの殺し合いには乗らないだろうと高崎は考える。三橋は――正直、予想がつかない。
 従来通りのプログラムだったならば、絶対に三橋は殺し合いに乗ろうとはしないだろう。せこくて、ずるくて、卑怯で、金髪の悪魔などと呼ばれてはいるが、三橋貴志という男はそう、悪い人間ではない事を高崎は知っていた。だが……。
(あの下衆野郎達を倒す策が思いつかなければ、あいつはもしかしたら……)
 そしてそう思わせる理由、それが新たに追加されたチーム戦の恩恵、それは自分の知り合いたちは助かる可能性がある事だ。そのせいで三橋の行動は全く読めないものになっていた。
 どちらの可能性もあり、もしかしたら高崎の全く予想できない行動を取るかも知れない。そしてそれは高崎自身にも言えることであった。
(俺がこのプラグラムで優勝すれば……あいつらは助かるのか……)
 本来なら、絶対に浮かばない考えが高崎の頭の中に浮かび上がってきていた。なにも自分の命が惜しくなったわけではない。同じくプログラムに選ばれた仲間のためだ。
(俺はあいつらを死なせたくない。あいつらはこんな所で死ぬべき人間じゃ無いんだ)
 特にあの二人、三橋貴志と伊藤真司に返さなければならない恩が高崎にはある。高崎が全てに片がついたあとも埼玉に帰らず、今も千葉の軟葉高校に在学していたのも、全てはそれを返すためである。そして今こそ、その恩を返すときなのではないだろうか?
 もしプログラムから、この島から脱出する事ができてもそれからの人生、一生この国に追われることになるだろう。なにより家族にどんな災厄が襲う事になるか知れたものではない。
(どんな事をしてでも俺はあいつらを無事に家に帰したい
 しかし……俺に人を殺すことができるのか?)
 人を殺すという事、それは今までの高崎秀一という人間の全てを否定する事に繋がる。そして、どんな理由をつけようとも人を殺すという罪が軽くなるというわけではない。なにより、他校の生徒もこちらと条件は同じなのだ。今の自分のような思いを抱えてこの殺しあいに乗っている人間もいるかも知れない。そういう奴等を殺害する事ができるのか。
(一応、それなりの武器は支給されてるんだがな)
 高崎のズボンのベルトに一丁の銃が挟んである。トカレフTT-33、軍用の強力な自動拳銃である。この銃には安全装置がついていないらしく、銃に詳しいわけではない高崎ではあるが、それが危険な事だと判断する事ぐらいはできたので、念のためにマニュアルに従ってトカレフからマガジンを抜き、それをズボンのポケットの中にしまいこんでいた。予備の弾薬は無いようだった。
 他にはスポーツ用の冷却スプレーと、ごくごく普通の花火セットがデイパックの中に入っていた。スプレーはもしかしたら共通の支給品なのかも知れないが、花火は武器として支給されたのだろう。デイパックの中に入る程度のサイズなので打ち上げ花火みたいな派手なものは無いがそれでも一通りのものは揃っている。
 自分には使い道のないものだが、三橋ならもしかしたら使い道を思いつくかもしれないので捨てずに、デイパックの中に収めておく。
(そういえば……)
 このトカレフという銃に見覚えがある事を高崎は思い出した。
(そういえばこの銃……北川が使っていたのと同じ種類か?)
 北川との対決の最終局面で自分に向けられたモノと同じタイプの拳銃。その事になにか因縁めいたものを高崎は感じた。
 あの時、北川が撃った弾丸が自分の身体に食い込む事は無かった。
 しかし、今度は自分が放った弾丸が誰かの身体を食い破る事はあるのだろうか?
 高崎の想いは纏まらず、乱れて、何かが胸から込み上げてくる。
(俺は……俺は――――)
 自分の頭上の、緑の天蓋を見上げて静かに深く、高崎は迷い続ける。
 もう既に失われてしまったものがある事も知らずに。


【H-5 林/一日目 早朝】

【高崎秀一@今日から俺は!!】
【状態】:健康
【装備】:トカレフTT-33 マガジン(8/8)
【所持品】:支給品一式 花火セット 冷却スプレー
【思考・行動】
基本:どんな形であれ仲間を守る
1:これから俺はどう動く?
2:三橋と伊藤に恩を返したい
3:できれば花火は三橋に渡したい




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