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 加東秀吉は森の中を歩いていた。背中で支給された荷物が揺れる。中に突っ込まれた地図だか
名簿だかの紙が他の荷物に押されているのだろう、ガサガサと耳障りな音がひっきりなしに漏れ
ていた。

(……ったく、鬱陶しいったらねえ)

 声には出さずに悪態をつきながら、彼は歩みを進める。久々に荷物など背負った――何しろ彼
には学校に鞄を持っていくという習慣がない――首の辺りがかったるいので、適当にまわしてみ
ればごきりと音がした。それを合図にしたかのように、突風が秀吉の左脇を吹きすぎていく。頭
上でザザ、と葉ずれの音がして、何とはなしに空を見上げてみれば、陽光が緑の葉を透かして降
り注いでいた。きらきらと光るそれは妙に美しくて、この場所の殺伐とした空気には不似合いだ。
今こうして彼が歩いている最中にもどこかで誰かが殺し合いをしているかもしれない、それでも
空は青く、太陽は勝手にそこら中を照らしている。

(なかなかどうして残酷な話じゃねえか、笑っちまうくらいに)

 秀吉は唇をわずかに笑みの形に歪めた。彼は15、6の少年でありながら、そんな表情もそれな
りに似合う程度に気の利いた男に育っている。

 実際、秀吉にとっては最悪すぎて『笑っちまう』ような話だ。つい先ほど彼が味わった目覚め
は、過去最低にして最悪だった。よくわからないうちにこんな何処とも知れない島につれてこら
れて、気づいたら知ってる顔も知らない顔も一緒くたに放り込まれた得体の知れない教室にいた
のだから。おまけにお世辞にも品がいいとは言えない面をした男が出てきて、何を言い出すかと
思えば「殺し合いをしろ」。しかもその男はご丁寧にも、へらへら笑いながら2つ、いや、すで
にそうなっていたものを数に入れれば3つもの死体を彼の前に並べたのだ。

(人間ってのは、そんなに簡単に殺していいもんだったのかよ)

 銃だのナイフだの持ち出せば、当たりどころや刺しどころひとつで人間など結構簡単に死んで
しまう、彼はその事実を知らなかったわけではない。殴られる痛みも殴る痛みもよく知っていた
分、そこらの高校生よりは身にしみていたはずだ。それでも今まで、あれだけ殴っても殴られて
も、秀吉は誰も殺さなかったし、誰にも殺されなかった。むしろ殴り合いの痛みは逆に、彼に命
の重さを教えていたくらいだ。

「……所詮ありゃあガキの喧嘩だったってか?」

 それで片付けられんのも癪な話だ、と、聞かせる相手もいない悪態を今度は口に出しながら、
地面に転がる小さな石を蹴飛ばした。足を前に動かしながら、彼の苛々はなおもつのっていく。
大体、プログラムというもの――秀吉にとってはそれ自体、唾でも吐いてやりたいようなものだ
ったのだが――はついこの間まで中学生が対象だったはずだ。それがいきなり学校対抗戦とやら
に変更されたうえ、高校生である秀吉までかり出されている。好きで生まれた訳でもない国の下
らない法律やら何やらに翻弄されるなど、彼はまっぴら御免だった。しかもそれがいつの間にか
勝手に変わるような決まりだというのだから、余計ふざけた話ではないか。それがどんなものだ
ろうが何だろうが、誰かが決めたルールに従うなどというのは、秀吉の流儀ではなかった。その
相手が彼の気にくわないなら、何処の誰だって知ったことではない。あの坂持とかいう教師でも、
この国で一番偉い誰かでも、それは変わりはしないのだ。

 まあしかし、プログラム云々をこえて、何よりもまず彼の気にくわないのは、喉元にかっちり
とはめられた首輪だ。狂犬が飼い犬の気分を味わわされて、我慢できるわけもない。

(できることならぶち壊してやりてぇ)

 という物騒な思いを最初からずっと抱きっぱなしであったのだが、不良とはいえそう頭の悪い
男でもない彼は、そういう無鉄砲な真似はしない。

(……俺ぁマサほどバカでもねえし、自殺する趣味もねえから、他の方法考えるけどよ)

 と、至極真っ当な結論に達するその過程で、ふと、ほとんど自分の家族と化しているマサこと
小林政成のことを、主に“バカだ”という身もふたもない理由で思い出した秀吉は、今更ながら、
この島の中にマサはいないのだ、と気づく。おそらく今頃、秀吉自身やその他のメンバーがプロ
グラムに選ばれたと知って驚いているだろうマサの顔を、彼は一瞬思い浮かべた。驚くくらいで
すんでいればいいが、あの教室で坂持が言っていた女教師のように、政府の奴にくって掛かって
殺されたりしていないだろうか、という不安が秀吉を襲う。

 だが、マサの生死について確証をうる方法などない。今この場で、そんな解答のない問題に頭
を悩ませている暇などないことくらい、秀吉は理解していた。だからこそ、その不安を無理に断
ち切って、今このときにすべきことを考える。とりあえずは、自分の学校から誰がここに呼ばれ
ていたかをはっきりさせておいた方がいいだろうと、彼はあの教室にいた見知った顔をひとりひ
とり、頭の中で確認しはじめた。

 ゼットンこと花澤三郎に桐島、坊屋、そこまで浮かべたところで一旦終了しかけたが、最初に
荷物を確認したとき目にしていた名簿の中にもう一人、よく知らない名前があったことを思い出
して踏みとどまる。少しばかり頭を回転させたところで、教室内で留年を告げられていた不幸き
わまりない人物がいたことに思い至った。その男が確か、名簿にあったのと同じ名前、つまりは
阪東秀人、と呼ばれていたことが秀吉の記憶の片隅に残っている。おかげで彼はどうにか自分の
学校の人間を全員把握することができた。

(よくわかんねえ最後の一人は置いておくにしても、まあそう簡単には死ななそうな面子だな)

 と、褒めているのか貶しているのかわからない感想を秀吉は胸中に抱く。

「……つうか殺しても死ななそうじゃねえか」

 思わず口に出した彼に罪はなかろう。まったくもって、秀吉の通う鈴蘭高等学校の鴉たちは、
彼自身を含めてそんな連中ばかりだった。この先、その楽観が裏切られることもないとは限らな
いが。





 踏み出した足の下でパキリと細い枝が折れる。秀吉はふと足をとめて辺りを見回した。歩き始
めに見た、この場所の地図らしきものが正しいなら、そろそろひらかれた道と民家が見えてくる
はずだ。サングラスごしの目を細めると、どうやら二股に分かれた道らしきものが木々の向こう
に見える。おそらくあの道を行けば鎌石村につくのだろう、と予測をたてた秀吉は、ひらける視
界に警戒して、ポケットの中のアイスピックを握る。そう、これが彼に支給された武器だった。
いや、より正確に言うならば、支給された武器のうちのひとつだった。もうひとつは今、学ラン
の下で彼の体を包んでいる防弾チョッキだ。与えられる武器として、この二つは当たりと言えな
くもない。拳銃やマシンガンが当たった人間に比べれば、さほどの運とは言いがたいけれども。

 幸い、道に出ても周囲に人影は見当たらなかった。そのまま歩いていくと、道の右手にある建
物が大きくなってくる。どうやら役場のようだった。敵意を持つ誰かが中にいる可能性には気づ
いていたが、もともと彼は何か役に立つものがあるかもしれない、という理由で民家のある村を
目指して歩いてきていたので、家捜しの手始めにその建物の扉をくぐることにする。そのまま中
へと踏み入ろうとしたとき、やおら人の気配を感じて、咄嗟に秀吉は右手のアイスピックを構え
た。

「す、ストーップ! ちょっと待ちなさいよ!」
「……?!」
「女の子にそーいう物騒なもの向けないでよね、もう……!」

 意外にも、彼の耳に入ったのは女の声だ。いささか拍子抜けしたが、構えたアイスピックをお
ろすことはしない。女に手をあげる下衆な男になるつもりはなかったが、状況が状況だ。相手が
何者か、どんな武器を持っているかもわからないのに、女だ、という理由だけで油断するのは得
策ではない。そんな秀吉の考えを知ってか知らずか、女は「何よ、武器持ってるじゃない」など
と、意味の分からないことをぶつぶつと呟いていた。それが余計に怪しく見えて、彼は声を低く
する。

「……俺ぁ女に手をあげる趣味はねぇが、アンタがどういうつもりかわからねえんでな」

 あいている左手でサングラスを少し下げて、秀吉は目の前で万歳のポーズをしている女の顔を
見つめた。小柄だが、意志の強そうな目をした女だ。一見したところ、武器を持っている様子は
ない。わずかながら見覚えのある顔だ、と秀吉は思った。どうやら、教室の中で立ち上がって、
あの坂持という教師に質問をした女のようだ、と記憶が繋がったところで、女はまた口を開いた。

「アタシは丸腰よ、見てわかんない? 丸腰の女にそーいうの向けるのって、どうかと思うわ」
「……アンタが本当に丸腰だっつー証拠はあんのかよ?」
「ほら、こうやって両手あげてるじゃない! それとも何よ、このジョータイの女ひとり相手に
武器持ってなきゃ勝てないような男なの?」
「……嫌な言い方しやがるな、てめぇ」
「……アンタが嫌な態度とるからでしょ」
「……」
「……」
「……チッ」

 しばし沈黙のまま睨み合った後、秀吉は舌打ちしてアイスピックをポケットにしまった。確か
に女の言うことにも一理ある。いくら異常事態とはいえ、少なくとも手に武器を持っていない女
に男が武器を向けるというのは、間違っても格好のいいことではない。秀吉は、自分が思ってい
たよりも動揺していたことに気づいた。普段どおりの彼であれば確かに、女が両手をあげている
ことを確認した時点で武器はおろしていただろう。自分の行動を振り返って、秀吉は少しばかり
恥じ入った。そして、女に向かって謝罪の言葉を口にする。

「……悪かったな」
「……わかってくれればいいの」

 女は、そう言うとちいさく安堵のため息をついて、にこりと笑った。その様子が思いのほか少
女らしかったので、秀吉は相手に対する印象――気が強くて扱いにくそうな女だ、というもので
ある――を幾分改めた。

「ねえ、貴方、名前はなんていうの? アタシは軟葉高校の赤坂理子っていうんだけど」
「鈴蘭の加東秀吉だ」
「えーと、カトーくん、でいい?」
「好きにしろ」
「あのさ、聞きたいんだけど、貴方はこれからどーする気? 武器をしまってくれたところを見
ると、カトーくんは思いっきり乗り気ってわけじゃないでしょ?」
「……んなくだらねえもんに乗ってたまるか」
「武器は持ってるけど、殺し合いする気はないってこと?」
「ねえよ、そもそも俺ぁ誰かに決められた通りに何かをするってのが嫌いなんだ……ルールなん
てクソくらえだろ」

 そう言い捨てた秀吉に、理子は軽く瞠目して、それから口を開いた。

「そーね、“クソくらえ”、ね」

 女の口から出て美しいものでもない言葉だが、言った理子がコロコロと笑うので、秀吉は眉を
ひそめるのを忘れる。理子は彼好みの年上の美人ではなかったが、少なくとも彼に嫌な印象を与
える女ではないようだ。

「……アンタはどうなんだ、武器はもってねえみてぇだが」
「アタシはね、全員で助かる方法ってのにかけてみようかなって思ったんだけど」
「全員で助かる方法?」
「そう、さっき会った子に言われたの、このプログラムって、『時間切れなら首輪の爆発はない
んじゃないか』って」
「……どういうことだ?」
「ほら、プログラムって毎回優勝者が出る訳じゃなくて、時間切れのときは失敗って扱いになる
じゃない。優勝者が出ても、その子が他の県に転校できるように結果はその学校のある県内でし
か発表されないし、ひょっとして、時間切れのときって全員生きたままってことも考えられるん
じゃないか、って」
「……アンタ、それを信じてるってのか」
「……信じてみたいって思ってるの」

 真剣な目で見つめてくる理子を前に、秀吉は頭の中ではっきりとその仮説に対して否定の答え
を出していた。そんなことがまかり通るなら、なぜあの教室で2人も殺されなければならなかっ
た? プログラムに反対したというあの教師は? あんなふうに人の命を軽く扱う奴らが、誰も
殺さずに皆をこの島から出すなど到底考えられない。それに、あのとき教室にいた人間も含める
なら、今この島の中に放り出された者たちはすでに“全員”ではないのだ。しかもこの時点でもう
誰かが殺されている可能性だって少なくはない。秀吉はため息をついた。

(……バカだ、この女)

 理子は見たところ落ち着いているように思えるけれど、そんな話を頭から信じる時点で冷静な
判断ができているとは言いがたいように彼には感じられた。面倒だ、と思いつつも秀吉は口を開
く。そこからこぼれ落ちるのは、理子にとって残酷な言葉だ。

「そんな都合のいい話、あるわけねえだろ」
「ないって決まったワケじゃないでしょ、あの子、言ってたもの……死の恐怖に負けず、見ず知
らずの他人を信じること。それがこのプログラムの本当の終了条件だ、って」
「……じゃあ聞くがよ、アンタ、今この島にいる奴で全員だと思ってんのか」
「……え?」
「あのとき、教室の中で意味もなく殺された奴らってのは、アンタの言う全員には入んねえのか、
って聞いてんだよ」
「……」
「わかるか? もうとっくにここにいるのは全員じゃねえんだ……下手したらもっと減ってるか
もしれねえ」
「……っ」
「それに、時間切れのときに全員生かして返すつもりがあるってんなら、何であんなに簡単にア
イツらはあそこにいた奴を殺すんだ? あの坂持とかいう糞野郎に逆らったってだけで2人も死
ななけりゃなんねえのに、あの野郎にさせられるハメになったこの下らねえ殺し合いに逆らった
数十人が生きて帰れるなんて話、どう考えてもおかしいだろうがよ。俺の記憶じゃ確か、アンタ
の真横にいた女も殺されてたんじゃなかったか? 今この島にいる奴が全員、あの糞野郎に逆ら
って生きて帰れるってんなら、あの女はなんで死ななけりゃならなかったんだよ?」

 畳み掛けるように言った秀吉から、理子は目をそらしてうつむく。その眦には涙が溜まってい
るようだった。

(泣かせた、か)

 秀吉は眉間に皺を寄せる。女を泣かせる男なんて、ろくなものではない。黙ったままの理子に
声をかけようかと思ったが、ふさわしい言葉は見つからなかった。どうもさっきからこの女に対
して不器用な態度をとってばかりだ、と、秀吉は理子に聞こえないように小さく舌打ちをする。
しばらく身動きの取れない沈黙にはまったまま、二人は向かい合っていた。それを破ったのはキ
ッ、と顔をあげた理子だ。

「それでも、信じたいじゃない」

 毅然とした態度で、理子は言った。ピン、とのばした背筋は、彼女の心の強さを表すかのよう
に、全く揺らぐことがない。理子はひと言ひと言、噛み締めるように言葉を連ねていく。

「甘いかもしれないってことくらい、アタシだってわかってる……私語だとか、そんなのでメグ
ミが、殺されたのだって……わかってるし、許せないわよ、こんなのメチャクチャだって、絶対
おかしいって、そんなとこでこんなの、甘いかもしれないってことくらい、アタシだってわかる、
でも」
「……」
「それでもまだ、一番たくさんの人が助かる可能性があるんなら、信じてみたいじゃないの」

 言い切った理子は泣いてなどいなかった。うすく溜まった涙は重力に耐えて、下睫毛の上で震
えている。理子はしっかりと秀吉を見据えて、気丈にも泣く一歩手前で持ちこたえていた。

(まったく、なんて女だ)

 秀吉はまたひとつ、ため息をついた。そこには呆れとともに、いくらかの感嘆が混ざっている。
信じた夢物語を頭ごなしに否定されて、それでも泣きもせずにこちらを睨んでくるこの女は、自
分の放り込まれたところが完全に狂った場所だとわかっていてもまだ、ほんのわずかな可能性に
賭けようとしているのだ。愚かだとも思ったが、それだけで終わりにするには、あまりにも理子
の目は澄んでいる。正論を言った自分のほうが悪者になったようで、いささか居心地の悪さを感
じながら、秀吉は髪をかきあげた。

「こんな状況で見ず知らずの人を信じるってすごく難しいけど、カトーくんだってアタシのこと、
信じてくれたから武器をしまってくれたんでしょ……アタシだってカトーくんのこと信じたから、
こうやって話してるんじゃない。アタシは貴方が入ってきたときに隠れてたってよかったのよ、
でも、話を聞いてほしいって思ったから、目の前に出ていったんだもの」

 そう言って理子はまた、秀吉の目をまっすぐに見た。その視線を受けとめながら、彼は紡ぐ言
葉を探す。そうして秀吉は初めて、自分と対峙している女の名前を口にした。

「……理子、だっけか」
「そーよ」
「これからアンタは、具体的にどうしようと思ってんだ?」
「えーと、最初にアタシにこの話をしてくれた子が、みんなに武装解除させてここにつれてくる
って言ってたのよね。それで、来た人たちをアタシが説得するってことになってるの。説得する
のに武器もってちゃ話聞いてもらえないだろうってことで、武器はあの子がどっかに隠したから
アタシ、丸腰なんだけど……だからとにかく、アタシはその子が帰ってくるのを待ってるわけ。
っていっても、昼まで帰ってこなかったら置き手紙して学校の仲間をさがそうと思ってるけど」
「つまり、そいつを待ってるとこに俺が入ってきたってことか?」
「そう。最初、カトーくんもあの子が武装解除させて、ここに来るようにって言ったのかなって
思った」
「ああ、それであのとき『武器を持ってる』とかなんとかぶつぶつ言ってたのか」
「そーなの、武器持ってるって思わなかったから最初、驚いたわよ、もう」

 この説明のおかげで、秀吉はやっと最初にはちあわせたときの理子の態度の理由が理解できた。
こちらも丸腰だと考えていたなら、ああやって無防備に近づいてきたのもまだわかる気がする、
と秀吉は思う。もっとも、たとえ丸腰だと勘違いしていたとはいえ、どうみても不良の男にあん
なふうに近づくというのは、少しばかり警戒心がなさすぎるように彼には感じられた。が、とり
あえず話を進めるために、秀吉はあえてそこに突っ込まず、別の質問を理子に投げかける。

「その、皆を武装解除させて回ってるってのは何て奴なんだ?」
「ええと、かれんちゃんって子よ、一条かれんちゃん」
「……そいつも女かよ」
「うん、でもすごく強かった、力もそうだけど、心も」
「……」

 こんな場所で見ず知らずの他人に武装解除をさせて回ろうという発想に至る女、というのは秀
吉の想像を絶していたので、彼は一瞬言葉を失った。

(……なんだかとんでもねえ女ばっかりいやがる)

 目の前のこの理子も、その一条とかいう女も、妙に芯の強い奴ばかりだ。まさかそんな女ばか
り選りすぐったわけでもないだろうに。

(だが、そういう奴は嫌いじゃねえ)

 少なくとも、彼の大嫌いな“ルール”にのっとっての殺し合いなどをする輩よりは、そういうと
んでもない女たちのほうがずっと好ましい、と秀吉は思う。しばしの黙考の後、彼はもう一度唇
に女の名前をのせた。

「……理子」
「なに?」
「俺にはその、時間切れで残った奴が生きて帰れるって話はどうにも信じられねえ、さっき言っ
た通りにな」
「……うん」
「でも、あの糞野郎の言う通りに殺し合いに乗るってのも気にくわねえ、そんな真似するくれー
なら、アンタの夢物語みてえな話のほうがよっぽどマシだとは思うぜ」
「……じゃあ」
「ああ、勘違いすんなよ、俺ぁアンタの賭けてるもんに相乗りする気はねえ」
「……」
「けど、その一条って女が戻ってくるまでか、もしくはアンタが昼にここを出るまで、ここで番
人をしてやってもいい」
「番人?」
「ああ。その女が帰ってくるまでに、また丸腰じゃねえ奴がここに入ってくるかもしれねえだろ。
そういう場合、誰も彼もが俺みてえに武器をおさめるとは思えねえ……丸腰の女なんて、殺そう
と思えば簡単に殺せちまうんだからよ」
「……そう、ね」
「そういう奴が来たときのために、俺がしばらくここにいてやる」
「……つまり、かれんちゃんがここに戻ってくるまで、アタシを守ってくれるってこと?」
「そういうことだ」

 理子はまじまじと秀吉を見つめてくる。それがまるで珍種の動物でも見るような目なのが癇に
障ったが、すぐに理子の口から感謝の言葉が出たので不問にした。

「ありがとう、カトーくん」





 こうして鈴蘭の二代目狂犬は一時的に、軟葉のじゃじゃ馬の番犬の役割を請け負うことになる。
それが彼と彼女にどんな運命をもたらすのかは、まだ誰も知らない。





【C-3 役場/一日目 朝】

【加東秀吉@クローズ】
【状態】:健康
【装備】:防弾チョッキ、アイスピック
【所持品】:支給品一式
【思考・行動】
1:とりあえずしばらくの間、この変な女を守ってやることにする
2:とにかくあの糞野郎(坂持)の言う通りにはしない
3:このむかつく首輪を外す方法はないものかと考えている(具体的な思考ではありません)


【赤坂理子@今日から俺は!!】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、整髪料
【状態】:健康
【思考・行動】
1:守ってくれるという秀吉の厚意に甘えることにする
2:一条を信用して待ち、とりあえず放送があるまでここに隠れている
3:昼を過ぎても一条が戻ってこないようなら、書き置きをして仲間を探しにいく



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