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 本来なら全国の学校、その一クラスのみを対象に行われる筈であった、今回はまた違ったルールで行われるプログラムに不幸にも選ばれてしまった少女はE-4エリアの中央部に位置するホテル跡の一室にある黴臭いベッドの上で目覚めることになった。
 少女の名前は美浜ちよ、10歳で高校に飛び級した天才少女である。

 ちよは初め、目覚めた直後は自分の置かれている状況がまったく理解できなかったが、ベッドから身を起こし部屋の中を見回して自分の置かれている異常な状況をはっきりと認識させられることになった。
 自分の寝室とは全く雰囲気の異なる荒れ果てた部屋に、硬いベッド。
 何故自分がこんな場所にいるのかと、まだぼんやりとした頭で自分の身に何が起こったのか考えながらベッドから降りたとき、あの教室での出来事を思い出した。
 思い出した瞬間、全身から力が抜けてその場にへたりこんでしまった。
 そして――泣いた。
 人が死んだ、人が死ぬのを見るのは初めてだった。
 何人も死んだ、三人も死んだ。
 一人は女の人だった。ナイフを突き立てられて死んだ。
 もう一人は男の人だった。自分も今嵌めている首輪が爆発して死んだ。
 最後の一人は――黒沢先生だった。
 どうやって死んだのかはわからないがとにかく酷く惨い死体だった。そこまで思い出してちよは泣きながら吐いた。教室にいた時にこうなってしまわなかったのが不思議だった。
 胃の中の物を全て吐き出した後はまた泣いた。
 黒沢先生が死んでしまったのが悲しかったから泣いた。
 あんな惨たらしい殺し方ができる人間がいるという事実に泣いた。
 今いる場所が暗くて寒くて重いから泣いた。
 両親や忠吉さんが恋しくて泣いた。
 一人でいるのが寂しくて泣いた。
恐怖のためか身体が鉛の様におもく、ここから一歩も動けそうになく、ただちよは泣き続けるしかなかった。泣いて、泣いて、泣いて、一つ思い出した。
 なんで忘れていたのだろうか。そう、あの教室には確かに自分のかけがえの無い友人達がいたのである。

「智ちゃん……榊さん……大阪さん……神楽さん……」

 ちよはまだ幼い子供である、だが同時に天才でもあった。ちよの類い稀な頭脳はあの場でおこった事、説明されたルールを正しく認識し、把握していた。自分が巻き込まれたのはあのプログラムであり、つまりはちよの友人達がが黒沢先生のような――

「そんなの……そんなの絶対に駄目です!!」
 それを一瞬でも想像してしまい、我知らず叫んでしまっていた。誰かがこの辺りに潜んでいるかも知れないがそんなのはお構いなしにだ。頭の中の理性というものは全て消し飛んでしまっていた。
 それだけちよにとって彼女達は大切な存在であり、だから彼女はベッドの隅に置いてあった
デイバッグを掴んで立ち上がった。いつのまにかさっきまで感じられた身体の重さは無くなり、そしてちよは歩き出していた。

 とにかくみんなに会いたかった。みんなと会った所で何かができるという訳ではない。 むしろみんなの足を引っ張る可能性のほうが高いし、みんなと会う前に誰かに殺されてしまうかもしれない。
 ちよは多分、今回のプログラムの中で一番の弱者だろうし、戦う為の知識も無いからだ。それでも足は止まる事無く、出口に向かって突き進む。
 そして部屋の出口――扉は無かった――から廊下に出た時、一人の男に出会った。

  □ □ □

 男、阪東秀人は薄暗い廊下を歩きながら思案に暮れていた。
 阪東にはあの場所で、あのふざけた男の言われた通りに学校対抗の殺しあいに参加する気はまるで無かった。
 別に人を殺すのが嫌だという訳ではない。一昔前の阪東なら積極的にプログラムに参加していただろうし、今現在の阪東も自分の身を守るためならきっと他人を犠牲にしてでも生き残ろうとしただろう。
 伊達で武装戦線の四天王に名を連ねていた訳ではなく、人を傷つける事への罪悪感というものは、余り持ち合わせてはいない男だった。

 ただ、気に入らなかった。こんな島に勝手に連れてきた挙句、殺しあいを強要する馬鹿共も気にいらないが、それ以上に気にいらない事がある。
 鈴蘭を卒業し、幾度も回り道をしてやっと見つけた自分の進むべき道。共にその道を歩む仲間もできてさあこれからだという時だった。
 その矢先にこんな所に呼び出されて阪東のこれまでの努力を一切合財全てぶち壊しにされたのである。これで頭にこない方がどうかしている。
 そもそもの問題としてだ、阪東はもう学生ではないのである。あの時はあれ以上追求する事はできなかったが、今更留年とはいったいどういうことなのか。
 このプログラムにすでに参加させられている以上、もう何をいっても仕方の無い事ではあるがそれがどんな理由であれ理不尽な事である。
 そしてそんな理不尽を受け入れるつもりは阪東には無く、気にいらない連中の命令も了解する気にはなれず、だからこのプログラムに乗るつもりは全く無かった。
 そして、このプログラムにおいて殺しあい以外に取るべき道はただ一つ。
 この島からの脱出である。
 そのためには様々な障害があり、たとえ脱出できたとしても、その後の人生は波乱に満ちているだろう。
 しかし、それがどうしたというのか。
 死への恐怖は確かに阪東の中にも存在する。しかしあの時、坊屋春道に倒され硬く、そして冷たいアスファルトの上に転がったときに阪東は本当の自分というものに目覚めた。その決してぶれない軸が存在する今の阪東の中には諦めという言葉は存在しない。
 例え一人になろうとも、どれだけ傷つき倒れる事になろうとも、最後まで足掻き続ける覚悟が今の阪東にはあった。
 だからこそ、ごつごつとした剥き出しのコンクリートの床の上で目覚めた阪東はすぐに行動を開始することにした。

 まずは近くに置かれてあった自分に支給されたらしいデイバッグの中身を確認し、デイパックに入っていた地図や近くにあった窓から見える景色を見て自分の現在地を確認した。
 どうやらここはF-4エリアにあるホテルの跡地らしい。とにかくまずはホテルの中を探索しようと歩き出した。
 その後、周囲を警戒しながらホテルの中を物色しつつ今後、具体的にどう行動するべきかをずっと考えていた。しかしだ……

「なにから手をつけるか……」
 これから何をするべきかさっぱり分からないのである。
 やるべき事は多すぎて、しかし今の阪東にはどれを実行する力も無い。
 やはり仲間を集めるべきなのか? しかし自分の後輩達はともかく、他校の人間と協力するのは今回のプログラムのルールを考えるに一筋縄にはいかないだろう。
 だったら鈴蘭の人間だけで脱出を目指すべきかとも考えるが、それはとてもじゃないが無理な話だ。
 阪東を含め鈴蘭の人間は腕っ節は強いが、頭の方はお世辞にもいいとはいえない。首輪を解除するなどという事はできそうに無いし、むしろ優勝を目指した方が早いくらいである 。
 それに他校の奴等と組んだ所で脱出できるかといえばそれも怪しい。わざわざそういった技術を持った人間をプログラムに参加させるというのは少し考えにくいのだ。
 こんな具合に色々と考えて、そろそろ頭が痛くなりだした時だった、すぐ近くで何者かの声が聞こえてきたのは。
 それを聞いた阪東は僅かの逡巡の後、走り出していた。危険があるかもしれないが、このまま一人で考え続けるよりも誰かと接触した方が余程マシだと判断したのだ。
 そして走って、走って、一人の少女に出会った。

  □ □ □

「あの! 私と同じ制服を着た人に会いませんでしたか?」

 何の戸惑いも無しに、はっきりとした口調でこちらに声を掛けてきた少女にに阪東は少し驚きつつ、少女の真っ赤に泣き腫らした顔を見ながら、少し間を置いて答える。
「人にあったのはおまえが初めてだ」
「そうですか……すいません、ありがとうございます。あの……」
「何だ」
「あの、これから私と同じ制服を着た人を見かけたら私、
 ええと美浜ちよが探していたと伝えておいてもらえませんか?」
「別にかまわねーが…… おまえはこれからどーすんだよ」
「私はこれからみんなを、大切な友達達を探さなければいけないんです。
 だからこれで失礼します」

 ぺこりと一つ頭を下げて、ちよは阪東から背を向けて立ち去ろうとした。見知らぬ人間に背中を向けるというあまりにも無防備なその姿に、阪東は思わず声をかけていた。

「おい、ちょっと待て」
「……何でしょうか?」
「仲間探すつってもそれからどうする気なんだよ。
 一緒に殺しあいにのるつもりか?」

 別にのると答えても阪東はどうこうするつもりは無かった。このプログラムにおいてはそれが普通であり、非難するなどできはしない。
 殺しあおうとしない阪東の方がこの島においては異常なのである。
 しかしそれを少女は僅かな怒りをみせながらきっぱりと否定した。

「そんなことは絶対にありえません」
「……それなら別にいいんだけどよ。だったらいったいなんなんだ、
 一人でいるのが心細いからか?」
「私は……」

 少し間を置いて、表面上は落ち着きながらも、ちよはその問いに答えた。

「私はみんなに死んでほしくないんです。黒沢先生のように死んでほしくないんです。」

 黒沢先生というのはあの袋の中に入っていた死体の事だろうかと阪東は思った。

「もしかしたら足手まといになるかもしれないけれど、凄く危険な目にあうかも知れない。けれど、それでもみんなのそばにいたいんです。」
「……そうか」
「それでは急ぎますのでこれで失礼します」

 それだけ言い残してちよは今度こそ阪東の前から去っていった。
 続いて阪東は舌打ちを一つついてどこかへ歩き去り、その場には誰もいなくなった。

  □ □ □

 あの後、ホテルの中を歩き回り何とか外に出ることができたちよは、地図を確認してひとまず鎌石村を目指す事にした。それから南下して平瀬村、氷川村と各集落を回って学友 達を探して回ろうと計画を立てて、また歩き出したのだが……

「あ、あの」
「…………」
「な、何で私についてくるんですか?」
「…………」
 何故かさっき出会った――落ち着いて見たらなんだか怖い――お兄さんがちよの後ろをずっとついてきていた。もう何度か声をかけてみたのだが何故か全部無視された。
 どうやらこちらを害するつもりは無いらしく、それならばと思いこちらも無視するつもりだったのだが、それでもやっぱり落ち着かないので声をかけ続けていた。
 それもやはり無視されるのだが。

(でも……)

 やはり誰かがそばにいるというのはいいものだとちよは思った。誰かがそばにいるだけでこんなにも心が落ち着いていくのかと内心驚いていた。
 ついさっきまで見えなかった事が色々と見えてくる気がする。
 名前も知らない人だけど――あ。

(そういえば……)

 まだ名前を聞いていなかった。
 また無視されるかもしれないけどやっぱり聞いておいたほうがいいだろう。そう思って働きつづける足を止めて振り返り相手の顔を見て、あまりにも今更な事を尋ねた。

「あの、お兄さんのお名前はなんていうんですか?」
「阪東だ」
「…………へ?」
「俺の名前は阪東秀人だ」

 まさか返事が返って来るとは思っていなかった。慌ててちよも名乗り返そうとする。

「あ、え、えーとあのその私は――」
「美浜ちよだろ。さっき自分で言ってたじゃねーか」
「え? え?」
 そういえばそんなこともあったような……とちよが考えている内に、さらに阪東は言葉を続ける。

「おまえ、今どこに向かってるんだ」
「え、えーとこの先にある鎌石村に行こうと思っているんですが……」
「じゃあ、さっさといくぞ」

 それだけ言って阪東はその言葉通りにさっさと歩き出し、ちよの脇を通り過ぎていった。
 いきなりこちらに反応しだした事に驚いて硬直している間に、どんどん先に進んでいく阪東に少し混乱しながらも慌ててちよはその背中を追いかけ始めた。



 阪東は別に意味も無くちよの事を無視して訳ではない。ただ落ち着くのを待っていただけである。なにやら頭に血が上っているようだったので、少し時間を置いただけの事だった。
 どうやら効果はあったようで、回りの事に気を配れる程度の余裕はできたようだ。

 それと、ちよについていく事にしたのにはそれなりに理由があった。
 あの時、教室を見回した時にほとんどの生徒は自分と同年代に思えた
中、特異な人間が混じっている事を阪東は確認していた。
 その中の一人が目の前の美浜ちよと名乗る少女である。明らかに一人だけ世代が違う様に思われるのだが、何故このプログラムに参加することになったのか。

 自分の様に単なるイレギュラーなのかも知れないが、なにか特別な理由があると考えた方が妥当だろう。そしてその理由はこの島を脱出する為の大きな手がかりにになるのではと阪東は考えたのである。
 春道やヒロミの事も気にはなるが、あいつらなら何があっても多分大丈夫だろうと阪東は考え、今の所他にやるべき事も考えつかなかったので目の前の手がかりに専念する事を決めたのであった。

 とにもかくにも男と少女は肩を並べて鎌石村を目指して歩き出した。

【E-3 道/一日目 早朝】

【美浜ちよ@あずまんが大王】
【状態】:健康 少し精神が不安定
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式 ランダムアイテム1~3(本人確認済み)
【思考・行動】
1:鎌石村に向かう
2:みんなと合流する
3:誰も殺したくない
4:阪東さんはなにを考えてるんだろう?

【E-3 道/一日目 早朝】
【阪東秀人@クローズ】
【状態】:健康
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式 ランダムアイテム1~3(本人確認済み)
【思考・行動】
1:しばらくちよと一緒に行動する
2:襲ってくるなら誰であろうと叩きのめす
 ただし余程の事が無い限り殺す気は無い
3:ヒロミ達とはできれば一度合流しておきたい
4:この島から脱出する


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