※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

 ――俺の名は播磨拳児、この上なく分かりやすい不良の高校生だ。
 今は、状況からして、学校で居眠りしたのだろう。
 机の上で突っ伏していて、たった今目覚めたところだ。

 回りを見渡すと、やっぱり教室だった。
 しかし良く見ると見慣れた教室じゃなかった。
 教室が、いつもの教室より一回りも二回りも広い。
 それに、窓の外の空は黒で塗り潰されていた。明らかに授業時間外だ。
 そして何より――

 知らない制服を着た、でもどこかの学校の生徒みたいな男と女達が、やっぱり俺の回りの机に、もたれて眠っていた。

 ――

 拳児が覚醒してから数分、その回りの生徒も目覚め始め、教室内が騒がしくなってきた。
 やはり誰一人としてこの訳の分からない状況を把握している生徒は居ないようだ。
 拳児が知らない生徒ばかりではない。
 一条かれんに、沢近愛理に、周防美琴に、そして――塚本天満も、教室の中で座っていた(天満は拳児から前に二席程離れた位置だった)。
 まずは、天満と自分達の教室から此処までに何があったか、確認を取らなければならない。
「天満ちゃ――」

 天満を呼び掛けようとし、彼女は振り向いて拳児の存在を認識したようなのだけれど、しかし、突然の出来事により、その確認は中断された。
 突然の出来事――それは見知らぬ男が、教壇側のドアから教室に入ってきたのだ。
 男は特徴的な肩口まで伸ばされた髪、とても血色の良い顔。
 そして着ていたグレーのスーツの襟元には、この大東亜共和国の政府の関係者であることを示す桃色のバッジを付けていた。
 男は教壇に立つと、もう全員が目を覚ましていたことを確認すると、快活な声で言った。

「みなさーん、よく眠れましたかー?」
 その声で、回りが一斉に黙った。
 それを認めると、男は笑みを浮かべながら黒板に、何か文字を書いた。

『坂持金発』

「はい、今回、皆さんの担任になった坂持金発です。よろしくなー」
 ――担任? 何言ってんだこいつ。
 しかし、拳児の脳内には、ある単語が浮かんでいた。
 その単語とは、拳児、及び学生にとっては最大の驚異だと言ってもよい。
 何故なら――

「今日は、皆さんにちょっと殺し合いをしてもらいまーす。最後の一校が残るまでです。反則はありませーん」
 ――“プログラム”。
 そう、それとは正に、たった今、坂持が告げた内容だったので。

「皆さんは、今年のプログラム対象学校に選ばれました」
 先程とは一変し、教室内が騒がしくなった。
 プログラム――国防上必要な戦闘シミュレーションと称する殺人ゲームのことである。
 詳しいことは分からない。世間ではたまにプログラムの結果を伝える臨時ニュースが流れるだけだ。
 しかしただ一つ確かなことがある。
 ――生き残れるのは、ただ一人。

「あの」
 拳児の隣の席に座っていた茶髪気味の髪を肩まで伸ばした女子生徒が、突然立ち上がった。
 机の横に下げられた鞄に付けられたネームプレートには『赤坂理子』と書かれている。
 その赤坂理子の首には、真面目そうな雰囲気には似合わず、銀色に輝くごつい首輪がはめられていた。
 ダセェ。
 ――

「よくわかりません」
 ――自分の首元を意識してみれば、拳児の首にも首輪らしきものが付いていた。
 理子に合わせたように、辺りの生徒がどんどん立ち上がる中、拳児はその首輪をひたすら指で弄っていた。
 幾ら引っ張っても、外れる気配が無いのだけれど。
 これは、これは一体――

 その内に一人の生徒が、叫んだ。
「先生は? 先生はどうなって――」
 妙な笑みを見せると、坂持はそれに返した。
「あー、先生達な。何人かの先生方は君達がプログラムの対象にされるのに、ほら、反対したんだよ」
 坂持は困ったなと言うように、笑みを維持したまま頭をかいた。それから、おもむろに入口に向けて呼び掛けた。
「お前達ー入って来てくれー」
 呼び掛けに答えて入口から入って来た兵士らしい風貌の男達は、肩にアサルトライフルを吊ら下げ、腰には拳銃のホルスター。
 そして、その内の二人は何か寝袋のようなものを抱えている――

「さ、見せてあげて下さい」
 坂持は寝袋を教卓に置くように指示すると、兵士がそのジッパーに手をかけた。
 そしてそのジッパーを引いて――
「きゃあああああああ!!」
 誰か、最前列の女子生徒が叫んだようだった。続けて悲鳴が唱和した。
 拳児からの位置でも十分に分かった。
 ジッパーから情報を総合して、何処かの教師であるのは確かであった。
 ただ、頭から顔半分が消失していて、もはや見る影もないのだけれど。
 血はもう乾いているようで、しかし変わりにぽっかりと空いた顔半分があった場所からは何か灰色のゼリーらしきものが伺える。
 とにかく――ひどかった。
 その死体を見た一部の生徒から「にゃも!?」とか言う声が聞こえた気もした。
 恐らく『にゃも』とはあの死体がかつて、教師だった頃の愛称だろうか。
 しかしあの状態でよく認識できる。拳児は呑気にそんなことを考えた。
「はいはい、静かに、静かにしなさーい。全くお前達はー」
 兵士がにゃもの死体を教室の脇に投げ出し、もう一人の兵士が拳銃を撃ち出した頃には悲鳴は止んでいた。
「まあ、こっちも突然だったし、悪かったとは思うけどなー」

 部屋が完全に静まり返った。
 中には事を何かの冗談だと思っていた者も居ただろう。
 しかし――もはやその幻想も打ち砕かれていた。
 にゃもの状態を見れば、相手が本気であるのは明白だからだ。
「ああ、ちゃんとみんなの親には連絡してるからなー。安心して殺し合ってくれていいぞー」
 坂持は相変わらず、先程と変わらぬ調子で話し始めた。

「おい」
 ――それを聞き、またも一人の男子生徒が立ち上がった。
「俺は――親が居ないんだけど」
 ぎょろりとした目が特徴的な男子だ。
 坂持はやや睨み付けたような表情を見せ、言った。
「えーと、確か君は七原秋也だったなー。思想的に問題があるそ――」
「七原秋也は俺だ」
 半ば割り込むように、もう一人の生徒が立ち上がった。
 こちらはウェーブが掛かった髪が印象的だ。
 坂持はその秋也をちらと見て、再びぎょろりとした方の生徒の方を向いた。
 他の生徒達も黙ってその生徒を見つめていて、兵士達はと言うと――その生徒に拳銃を構えていた。
「ああ、ごめんなー。じゃあそっちは国信慶時君かー。それでな、孤児院の安野先生にちゃんと話したよ。プログラムに反対したんで、婦女暴行しちゃったけどなー」

 ――婦女、暴行?
 拳児を含め、何人かの生徒がぽかんとした様子だった。
 しかし、その意味を思い出した時に、拳児は坂持に怒りを覚えた。
 その安野生徒が何者かは知らない。
 しかし――坂持が、男として最低ランクなのが理解出来たのだ。

「えーと、婦女暴行したのは安野先生だけだし、他の親達も大体は死んでないから安心し――」
「ぶっ殺してやる!」
 楽しげに語る坂持に、慶時が叫んだ。
「殺してやる! 殺して肥溜めにぶち込んでやる!」
 慶時はひどく憤慨したような顔を見せていた。
 そりゃそうだろう。育ての親のような人を強姦されたんだから。
「国信ー、お前も黒沢先生と同じかー」
 汚い言葉を吐かれているにも関わらず、何故か坂持は楽しげな表情を浮かべている。
 一体何を考えているのだろうか?
「よせ、慶時――」
「殺してやる殺してやる殺してやる!」
 秋也の制止も振り切り、慶時は坂持に飛び掛かった。
「しょうがないなー、本当にお前はー」
 瞬間、坂持が達観したように粘着質に微笑んだ。


 真っ赤。
 ただ、一面の赤。

 そんな霧が、火花と一緒に飛び散った。

 ――慶時の首元から。

「慶時!」
 床に倒れ込んだ慶時に、秋也が駆け込んだ。
 慶時は、もう首に空いた穴から、血を噴き出させていただけだった。

 拳児達他の生徒が、坂持が手にした小型のリモコンに気付き、首輪を爆破したのだと把握するにはそれから数秒を要した。
 坂持は慶時と秋也を見下げ、相変わらず笑みを浮かべていた。

「慶時!」
 秋也はまだ慶時の肩を揺らした。
 その度に、慶時の首から、更に血が零れる。
 二人は友人だったのだろうか、だとしたら、秋也は突然友人を失ったことになる――
「あー、ほらほら、座りなさい。説明の邪魔になるから殺しちゃうぞ」
 坂持が、秋也にリモコンを向けた。
 それにも関わらず、まだ茫然とした秋也に、スタイリングウォーターか何かで持ち上げたような前髪の男が立ち上がって近寄り、秋也の肩を持った。
「立て、七原」
 ――この男は七原秋也と知り合いなのだろうか?
 男は秋也に何か合図するように空いた左手をぐっと下に押し下げるように動かしてから席に戻すと、自らも席に座り、明朗な声で言った。
「センセー、そろそろ説明を始めませんかー?」


「ああ、確か君は三村だっけ。すまんなー」
 三村は陽気な感じで顔を掻いたが、しかしその顔は明らかに強張っていた。
 ――七原を助けに入ったのだろうか?

「じゃ、説明しまーす。ルールは簡単です。お互いの学校で殺し合ってくれればいいだけです。
 他校の生徒がみんな死ねば、いくら同じ学校の人が残っていようとゲームセット。
 つまり同じ学校の生徒同士で戦う必要は全くありませーん。チーム戦でーす」

 拳児は疑問に思った。
 確か、プログラムは一クラスで行って、生き残れるのは一人だったのでは?
 しかしその疑問は直ぐに解消された。
「今年からプログラムが改正されてなー。 もっと戦争に近い状態で戦闘シミュレーションの統計を取る為に、学校対抗で殺し合うことになったんでーす」
 坂持は、それを言い終わるとはっとした表情を見せ、続けた。
「ああ、先生言い忘れてたけど、ここは島でーす。いいかー、ここはこの島の分校です。
 先生、ここにずっといるからなー。みんながんばるの、見守ってるからなー」

 教室内に、国信慶時の新鮮な血の臭いが流れ始めた。
 それに構わず、坂持は教卓の上にデイパックを出す。
「さて、いいですかー。
 これからみんなが渡されるデイパックの中には水や食料、地図やコンパス、武器が入っています。
 武器は銃だったりナイフだったり、数もまちまちでーす。
 プログラムが始まったらどこへ行っても構いません。
 けど、毎日、六時間毎に、全島放送をします。一日四回なー。
 そこで、地図に従って、何時からこのエリアは危ないぞー、って先生知らせます。
 地図を良く見て、磁石と地形を照らし合わせて、 速やかにそのエリアを出てください。なんでか、と言うとー」
 一息置いて、言った。
 拳児には予想出来た。
「その首輪が爆発するからです」
 予想通りだった。
「いいか、だからー、建物の中にいてもだめだぞー。
 穴掘って隠れても電波は届きまーす。
 後は逆らったり、その首輪を外そうとしたり、脱走しようと試みた場合は先程の国信の様に即座に首輪が爆発して殺されると思ってください」


 それを聞いて、始めて首輪に気付き、首元を触り始めた生徒も居た。
 おいおい、じゃあ国信慶時の首は一体なにで吹っ飛んだんだと思ってたんだ。

「そうそう、ついでですがー、建物の中に隠れるのは勝手でーす。
 あー、それともう一つ。タイムリミットがあります」

 坂持は教壇に手をついて、皆の顔を見渡した。
「いいですか、タイムリミットでー――うらー! そこ、私語をするんじゃない!」

 坂持が教壇から手を離し、突然何かを投げ付けた。
 拳児のナナメ左、赤坂理子と話していたらしい女子生徒がその叫び声で坂持の方を振り向き――
 その額に、何かの取っ手らしいものが出現した。

 その女子生徒の身体がぐらつく際、拳児には取っ手の先が見えた。
 それは決して場違いな幻想ではない。
 ――ナイフだった。

 女子生徒が倒れる時に、赤坂理子の机にこめかみがぶつかり、理子の机ががたっと揺れた。
 そのまま女子生徒は国信慶時と同じく、どさりと倒れた。
 ――生きていられるはずも無い、確実に絶命している。
 赤坂理子は明らかに目を見開いていたのだけれど、もう他の生徒は悲鳴も上げてすらいなかった。
 ――この糞野郎、人の命を何だと思っていやがる!

「もう勝手なことは厳禁でーす。あまり動く人には先生悲しいけどナイフ投げるぞー」
 坂持はやはりと言うか、変わらない笑みを――
 ――もう表情について追求するのは止めよう。
 とにかく、坂持からは人を二人も殺したと言う自責も何も、全く感じられなかった。
「では仕切直して、タイムリミットでーす。
 プログラムでは、どんどん人が死にますがー、二十四時間に渡って死んだ人が誰もでなかったらそれが時間切れでーす。
 あと何人残っていようと、コンピュータが作動して残ってる人全員の首輪が爆発しまーす。
 優勝校はありませーん。
 じゃ、ここまでで何か質問のある人居ますかー?」

「おい」
 また一人、生徒が手を上げた。
 拳児達は国信慶時の時の様にその生徒に視線を向けた。
「オレは確か卒業した筈だ。なんで此処に居るんだよ?」
 坂持はその生徒に解答した。
「あー、阪東秀人君か。君は実は留年してたの」
「はあ?」
 秀人は信じられないと言った表情をして、続けた。
「もっと早く言えよ」
 またもや頭を掻きながら、申し訳なさそうに、坂持は秀人に言う。
「最近になって国から報告がきたんだよ。ごめんなー」


阪東秀人はチッと悪態を付きながらも、そこで質問を止めた。
 “私語=処刑”の例があったので、これ以上騒ぎ立てる事が出来ないのだ。
「他に質問のある人はー?」
 坂持に合わせて、拳児も辺りを見た。
 七原秋也と赤坂理子は、それぞれ国信慶時と額にナイフを生やした女子生徒を見たまま、固まっている。
 三村と阪東秀人は、何か思い詰めたような表情をしていた。
 他の生徒も――みんな、死体を見ているか、他校の生徒の顔を見合わせている。
 疑心暗鬼になっているのだ――

 坂持はもう誰も出てこないことを確認すると、言った。
「さーて、それじゃこのデイパックと、皆さんの私物を持って、拠点に行ってもらいまーす」
 坂持がそれを言い終わった途端、次の瞬間には何かが起きた。
 何か――その現象が何かは、詳しくは知らない。
 しかし、気付いた時には拳児は、意識を放棄させられていた。



【黒沢みなも@あずまんが大王(教員) 死亡確認】
【国信慶時@バトル・ロワイアル 死亡確認】
【メグミ@今日から俺は!! 死亡確認】
【残り40人】



投下順で読む