※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

宮崎都は塚本天馬の死体から離れた後、一条かれん達が入った民家の近くにある民家へ入った。
近くとは言っても、ここは家と家との間が数メートルしか離れていないような住宅地ではなく、
農村とか漁村とかいった言葉が当てはまるような村だ。
一条かれん達のいる家からは、村役場を除けば最も近い民家でも、普通の住宅地で考えれば三軒分ほどの距離がある。

一条かれん達の様子を見張るには少し遠い気もしたが、他の家だとこの家よりも
さらに離れた所になってしまうし、一条かれん達のいる家に最も近い村役場は、
建物自体が目立つので、中に潜むのに向いているとは思えなかった。
それに、離れているのも悪い事ばかりではない。
遠ければ、それだけ相手の様子は分かりにくくなるが、
もし、こちらが物音などを立ててしまったとしても、気付かれる危険は減る。
都には、自分の身体に付いた返り血を洗い流したり、多すぎる荷物を整理したりと監視以外にもやりたいことがあるのだ。

そんな考えから都が選んだ木造の二階建ての民家は、南側に大きな縁側があり、出入り口は引き戸で、庭には井戸があるような、全体的に造りの古い家だった。
玄関の鍵は開いており、難なく家の中に入ることはできたが、都は最初、この家に先客がいるのかも知れないと思って警戒した。

(いや、もし家の中に隠れるなら、鍵くらい閉めておくわよね)

そう考えると、この家の戸はたまたま開いていた可能性の方が高いように思えた。
とはいえ、誰かがこの家の中にいる可能性もゼロではないだろう。

(一応、調べてみるか)

都は家の中に入り、ここまで運んで来た重たい荷物を下ろすと、銃を構えて玄関に近い部屋から順番に家の中を見て回った。
客間、居間、台所、寝室、浴室、トイレ……、特に人影は見当たらないし、さっきまで人がいたような様子も無い。

「ん?」

そうして都が家の中を調べていると、家の外からかすかに男の叫び声が聞こえた気がした。

「……何?」

今、人の声が上がるとしたら、一条かれん達のいる家からだろう。
そう思った都は、声の正体を確かめるべく、かれん達が居る家が見える部屋まで行き、
窓からそちら側の様子を見てみたが、この窓からは目的の家は見えても、
その家の中で何が行われているのかまでは分からなかった。

(やっぱ、見張るには遠すぎたか?……まぁ、近くても家の中は見えないか)

たとえもっと目的の家に近くても、家の中の様子までは分からないだろう。
そう思った都は、とりあえず中の見えない家を眺めることをやめ、今、自分がいる家の中の探索に戻ることにした。
探索のついでに、都は電気ストーブをつけようと試みたり、水道の蛇口をひねってみたりしたが、どちらも使えなかった。
どうやら、電気と水道は止まっているようだ。

(水道が使えないのか……、身体、洗いたいんだけどな)

全ての部屋を慎重に調べ終え、この家の中には誰もいないことを確認した都は、
次に、身体に付いた返り血を洗い流すことを考えた。
最初は、この家にある浴室を使わせてもらうつもりだったのだが、浴室の水道も使えなかったので、それはできない。

(そういえば、外に井戸があったな……)

そこで都は、この家に入る前に横目で眺めた井戸のことを思い出した。
井戸を見つけたその時は、使おうだなんて思いもしなかったが、
水道が使えないと分かった今では、事情が違う。
そこで、都は外に出て、まずは井戸が使えるかどうか確認することにした。
それは、つるべ式のいかにも古そうな雰囲気の井戸だったが、中は枯れておらず、底にはちゃんと水が溜まっている。
試しに都は、一度水を汲み上げて、使える水かどうかじっくりと観察してみた。

(うーん、キレイだと思うけど……)

つるべに括りつけられたバケツの中に汲み上げられた水は、特に濁っていたりはせず、少なくとも都の目には綺麗に見えた。

(変なにおいもしないし、まあ、身体を洗うくらいには使えるか)

飲めるほど綺麗な水なのかどうかは分からなかったが、身体を洗うのには問題ないだろうと、都はそう判断した。
飲み水ならば、ここまで運んできたデイバッグに水の入ったペットボトルが大量に入っている。
都、播磨、沢近、世界の4人分。都自身よくここまで運んで来たなと思うほどの量だ。
なので、この井戸の水を飲む必要はない。

(よし!)

この水で身体を洗うことにした都は、そのための準備に取り掛かることにした。


□ □ □


阪東秀人が加東秀吉との喧嘩を終わらせ、美浜ちよ、一条かれん、赤坂理子の三人が
いる部屋に戻った時、三人はそれぞれがこの島で目覚めてから、今までの経緯を教え合い、
さらにかれんと理子は、自分たちが目指すプログラム終了条件を、ちよに話したところだった。

「あ、阪東さん」
「ん?もう目ぇ覚めたのか」

阪東の姿を見るや、ちよはとててっと坂東の傍に寄って行った。
どうやら、ちよは島で最初に出会ったこの男に、だいぶ懐いてしまったようだ。
それはちよ自身、自覚はしていないだろうが、今回のプログラム参加者の中で最年長である
阪東の側が最も安心できると、この数時間で直観的に感じ取ったからかもしれない。

「あぅ、阪東さん……、痛そうです」

先ほどの秀吉との喧嘩で、阪東の顔にはいくつもの痣や腫れができていた。
阪東達の鈴蘭高校では日常茶飯事なことだが、ちよの今までの生活では、
こんな怪我にお目にかかることは、そうそうない。

「フン、こんなもん何でもねー」
「でも……」

そう返す阪東だったが、ちよは涙目で坂東を見つめ、相変わらず心配そうな顔をしている。

「あらら、まずは話がしたかったけど、その前に手当てをした方が良さそーネ」

そんな阪東とちよの様子を見ていた理子は、ちよ達に歩み寄ると、
ポンッとちよの頭に手を乗せて微笑みかけながらそう言った。

「エート、それで阪東サン、カトーくんは?」
「あの小犬なら、向こうでおネンネだ」

あの騒ぎの後、阪東だけが戻ってきたということは、そういうことだ。

「どーせ、カトーくんも怪我してるのよね?」

阪東は無言だったが、これは肯定と見ていいだろう。
それを見て、理子は一つため息をついた。

「ふぅ、いいわ、確か村役場に救急箱があったから、チョット取って来るわね」

理子は村役場でかれんを待っている間に、暇だったので村役場の中をいろいろ調べて回り、
救急箱など、備品の場所を確認おいた。
この民家にも、探せば救急箱くらいあるかも知れないが、既に有りかが分かっている所から
持ってきた方が確実だろう。
考えてみれば、こちらの民家に移る時に救急箱くらい持ってくればよかったのだが、
あの時にはメモを残したりしていて、忘れていたのだから仕方がない。

「あ、それじゃあ私も行きます」

そう言って立ち上がったのは、阪東が戻ってきてから今まで黙っていたかれんだ。

「え?」

救急箱を取ってくるくらいで、そんなに人手も要らないだろうと思った理子が聞き返すと、
かれんは少しうつむきながら続けた。

「あの、塚本さんを……」
「あ……」

その一言で、理子は大体の察しがついていたが、一応詳しく聞いてみることにした。
かれんは、天満の事を野晒しにならないようにと、この民家の前まで背負ってきたわけだが、
知らない人の家に死体を上げるのも何だか気が引けて、今は玄関先に座らせている。
だが、いつまでもそのままというわけにはいかないので、村役場に天満を運んで寝かせてあげたいらしい。
公共の施設ならば、知らない人の家よりもかれんの気が楽ということだ。

「そうね、だったら一緒に行きましょ。アタシも手伝うわ」
「あ、はい、ありがとうございます」
「それじゃあ、ちよちゃん、阪東サン、チョット待ってて」

元々は村役場が集合場所だったのだから、全員でそちらに戻ってもよかったが、
秀吉が気絶したままなので、今はどちらにしても救急箱を持って来るのがいいだろう。
こうして、理子とかれんは二人でドアから出て行き、部屋には阪東とちよが残された。

「オイ、ちよ」
「はい?」

二人が出て行ってから、阪東はちよに声をかけた。
自分がいない間、ちよが理子達と何を話していたのか確認しておこうと思ったのだ。

「アイツ等とは……、何ニヤニヤしてんだ?」

しかし、そこでなぜか笑顔になったちよが気になり、阪東はついそんな事を訊いてしまった。

「えへへ、ごめんなさーい。
阪東さんが、名前で呼んでくれるようになったのがうれしくてー」
「あぁ?」

確かに、出会ってからしばらくの間、阪東はちよの事を「お前」としか呼んでいなかったが、
いつの間にか、普通に名前で呼ぶようになっていた。

「そんなことで、か?」
「はい!」

思わず聞き返した阪東にちよは笑顔で答えると、また「えへへ」と笑った。

「…………チッ」

思わず出た阪東の舌打ちは、ちよの笑い声でかき消された。

(さっきまで、涙目だったクセに)

だが、プログラムという絶望的な状況の中でも、こうした小さい事を見つけて笑えるのは、
ある種の才能であり、強みかもしれない。
この小さな子供も、かれんや理子のような強さとは違うが、ただ弱いだけ人間ではないようだ。
笑顔のちよを見て、阪東はそんな風に思った。


□ □ □


「……あれ?」
「かれんちゃん?どうしたの?」

かれんと理子の二人が、天満を運ぶために民家の外へ出て天満の死体を見たその時、
かれんが不思議そうな声を上げた。

「塚本さんのリボンが無いんです……」

そう言って、かれんは自分の制服のリボンを指さしながら「こういうリボンを付けていたはずなんでけど……」と続けた。

「どこかで落しちゃったのかな?ここに来たときは塚本さんのリボン、ありましたっけ?」
「うーん、チョット覚えてないわ」

かれんも理子も、天満がここに運ばれたときにリボンをつけた状態だったかは、覚えていなかった。
天満のリボンがいつ無くなったのかは分からなかったが、しかしだからと言って、このままずっと止まっている訳にもいかない。
無いものは仕方がないと諦め、かれんは、外に出る前にあらかじめ濡らしておいた
ハンカチを取り出し、天満自身が吐いた血で汚れてしまっていた天満の口元を拭いた。

「塚本さん、今まで待たせてしまって、ごめんなさい」
「…………」

もちろん、天満は答えない。
理子は、かれんに何か言葉をかけようと思ったが、
その前に、かれんの方が理子に向き直った。

「さあ、理子さん。塚本さんを運びましょう」
「え、ええ、そーね」

そうして、かれんと理子は二人掛かりで天満を村役場に運び込むと、とりあえず待合室の長椅子に寝かせた。

「ふぅ…、えっと、運んで来たのはいいですけど、どこに寝かせてあげましょう?
ここでは、いくらなんでも……」
「そうね、向こうの応接室に大きなソファがあったから、そこに寝かせてあげましょ」

かれんのいない間に、村役場の間取りをほとんど覚えていた理子の提案で、
二人は天満を応接室まで運び、そこにあった大きなソファに天満を寝かせた。
その後、かれんはここまで運ぶ間に少し乱れてしまった天満の身なりを整え始め、
一方、理子はもう一つの用事を済ませるべく応接室を出ることにした。

「それじゃ、アタシは救急箱を取って来るわネ。すぐだから、少し待ってて」
「はい」

本当は、理子もこのまましばらくかれんのそばに居てあげたいところだったが、
民家に残してきた怪我人どものことを、放っておくわけにもいかない。

「……」

そうして部屋に残されたかれんは、理子が戻ってくるまでの間、
ずっと天満の顔を見て過ごした。
生前、天満はいつでも、居眠りしている時でさえ表情豊かで、
かれんは天満のこんな無表情な顔を今まで見たことが無かった。
そんな天満が、もう二度と表情を変えることはないのだと思うと、
もう散々泣いたかれんだが、再び胸にこみ上げて来るものがある。

「……塚本さん」

天満には、いつも一緒に行動する仲良しグループがあり、
かれんはそのグループの一員というわけでは無かったが、
それでも、例えばかれんが同じクラスの今鳥恭介と初めてデートをした時などは、
何かと世話を焼いてくれるなど接点は多く、親友とまではいかないまでも、
かれんと天満は十分に仲の良い友達だった。
そんな友達の死を、そう簡単に受け入れることはできない。

「お待たせ、かれんちゃん」

理子は自分で言った通り、救急箱を持ってすぐに応接室に戻って来た。

「あ、理子さん……」

そんな理子が目にしたのは、天満の横で泣きそうな表情をしているかれんだった。

(かれんちゃん……)

そんなかれんの表情を見た理子は、持ってきた救急箱を足元に置くと、
そっとかれんの横に座った。

「かれんちゃん、まだツライ?」
「……いえ、大丈夫です」

そう答えたかれんだったが、心配をかけまいと無理をしているのは明白だ。
理子は、そんなかれんの肩に手をかけると、自分の方へ引き寄せた。

「無理しないで、ツライときはツライって言って。こんな時だもの、助け合いましょ」

理子は天満を運んでいるとき、もしこれが良クン、田村良だったらと想像していた。
放送で彼の名前を聞いただけでは、まだあまり実感が持てずにいるが、
こんな風に死体に触れることになったら、自分はどうなってしまうだろうか?

きっと後先考えず、周りも気にせずに泣いてしまうのではないか?
もちろん、かれんと天満の関係は、理子と良の関係とは違ったものだろうが、
しかし、友達を失った悲しみがそれほど違うとは思えない。
だからなのか、理子には今のかれんの気持ちが何となくわかる気がした。

「理子さん……」

理子に抱き寄せられ、少しキョトンとしていたかれんだったが、
理子の鼓動と体温を感じ取ると目を閉じ、どこか安心したような表情になって、
そのまま理子の方へ体を預けた。

「ヨシヨシ」

理子は、そんなかれんの頭を撫でながら、かれんの気が済むまでそうしていようと思った。

「…………はぁ、もう大丈夫です」

かれんは意外に早く立ち直ると、少し恥ずかしそうにしながら理子から離れた。

「もう、イイの?」

そう言った理子だが、かれんの様子は確かに理子から見てもだいぶ落ち着いて見えた。
目つきはしっかりとしているし、呼吸も、姿勢も、立ち振る舞いも、理子がはじめに出会ったときに感じた強さが戻っているように思える。

「はい、早く皆さんのところへ戻りましょう」
「うん、でも苦しいときは言って。アタシの胸くらい、いつでも貸すから」
「あ……はい!」

こうして、二人は阪東達の待つ民家へと戻るため、応接室を出た。
部屋を出る時、かれんは最後にもう一度だけ振り返り。
ソファに寝かせた天満に、心の中でお別れを言った。

民家に戻ると、理子は阪東達のいる部屋に勢いよく入っていった。

「ホラ、救急箱持ってきたわよ。サッサと手当てしちゃいましょ」
「チッ、しょーがねーな。よこせよ、自分でやる」
「いーからアタシに任せて。こーゆーの、慣れてるから」

戻って来た理子に向かって、阪東はいかにも面倒くさそうな表情を浮かべながらも、
救急箱を受け取るべく手を出した。
しかし、道場の練習生が怪我をした時など、他人の手当てをする機会の多かった理子は、
自分がやった方が早いと、半ば強引に阪東の手当てをし始めた。
最初は自分でやると抵抗した阪東だったが、ちよやかれんにも勧められ、
結局、最後は阪東の方が折れた。

(クソッ、調子が狂う……いや、オレが年食ったのか……)

今まで、阪東の周りには、こんなに強引な女はいなかった。
しかし、狂犬だったころの阪東であれば、いくら相手が強引でも、
自分の方が折れるということは無かっただろう。
そう考えると、自分の年を感じてしまう阪東だった。

「それで、阪東サンに聞きたいんだけど……」

阪東がそんなことを考えていると、理子が手当てをしながら話しかけてきた。

「まずは自己紹介からかしら?」
「いや、大体ちよから聞いた」

阪東は、理子とかれんがいない間にちよと話し、理子とかれん、ついでに秀吉に関して、
ちよがわかる範囲の事をほとんど聞き出していた。
そういう事ならと、理子は自己紹介を軽めに済ませ、本題に入っていった。

「それで、阪東サン達がかれんちゃんと別れた後、そっちでは何があったの?」

まず理子が何があったか尋ねると、坂東は「ちよにどこまで聞いた?」と返した。

「えっと……ヨシ!完成!」

しかし、理子の口から発せられたのは、坂東への返答ではなく、手当て完了の掛け声だった。
この赤坂理子という女、なかなかマイペースな性格のようだ。

「これで大丈夫だと思うけど、あんまり激しく動いちゃダメよ」
「…………」
「私たちがちよちゃんから聞いたのは、
銃声のした方へ行くと地面に血が……というところまでです」

そんな調子の理子に代わり、阪東の質問には手当ての手伝いをしていたかれんが答えた。

「あら、ゴメンナサイ。そうそう、そこまで聞いたワ」
「ああ」

それを聞いて、阪東はそこで見た光景を思い出すと、理子とかれんにそこであったことを話すべく口を開いた。

「そこにあったのは……死体だ」
「そんな……」
「……そう」

理子もかれんも、ちよの話を聞いたときから予想はしていたが、
直にその言葉を耳にすると、やはりショックだった。
かれんは息をのみ、理子は残念そうに肩を落とした。

「黒い制服の、女の死体だったな……で、その死体なんだが」
「ひっ……あ……」
「ちよちゃん?」

阪東がその死体の事を詳しく語ろうとしたとき、かれんはちよの様子がおかしい事に気付いた。

「あ、そうだ理子さん。救急箱貸して下さい。私、加東くんの手当てをしておきます。
ねぇ、ちよちゃんも手伝ってくれないかな?」
「そーね、それがいいわ」

考えてみれば、ちよはそのときのことが原因で気絶したのだ。
彼女にとってトラウマになっているかもしれない事を、本人の目の前で話すことはない。
かれんは、秀吉の手当てを口実にちよを隣の部屋へ連れて行くことにし、
理子もそれに賛成した。

「すいません…、そうします」
「うん、それじゃあ行こう」

そうして、阪東の話は理子が聞いておくことにして、かれんとちよは救急箱を持って、秀吉のいるリビングへ移った。

「ごめんなさい阪東サン、それで……その死体っていうのは?」
「ああ」

そして部屋に残った理子に促され、阪東はその場所で見た、思い出すだけでも気分が悪くなる惨状について、詳しく語ったのだった。

「……そんなことって」

話の雰囲気やちよの様子から、それがただの死体ではなかったのだろうということは
理子も予想していたが、どうやらその死体の様子は理子の想像以上だったようだ。

「ところで…だ」

阪東は、そんな理子の様子をあえて無視し、話を先に進めた。
元々阪東は相手を気づかうようなタイプでも無いし、ここまで話をしてみて、
この女なら、多少のショックは引きずらないだろうと思った。

「お前ら、時間切れ狙ってんだってな?24時間死人が出ないってのを」
「え、ええ……」

「だったら、まずアレをやったヤツをどうにかしねーとダメだな。
でねーとこの先、死人は増える一方だろうよ」


□ □ □


一方、阪東達の間で話題のアレをやったヤツこと宮崎都は、かれん達を監視するために選んだ民家の浴室で身体を洗っていた。
水道が使えなかったので、使っている水は先ほどの井戸の水だ。
外は日が当っているとはいえ、少し風もあって寒いし、万が一、
身体を洗っているところを誰かに襲われたらと考えると、外で身体を洗うのは、
非常に危険な事に思え、わざわざ井戸で汲んだ水を浴室まで運んで使っている。
井戸の水を、この家にあったバケツや桶に入れて浴室に運ぶ作業はかなりの重労働だったが、
都も、伊達に剣道部に入ってから走り込みをしたり、立てなくなるまで素振りさせられたりしていたわけではない。
そのくらいの事ができる体力はついていた。

(そういえば、あたし、全然監視できてないな)

この家を選んだのは、身体を洗ったり、荷物を整理したりするほかに、
一条かれん達を監視するためでもあったわけだが、この浴室からは向こうの様子は見えないし、
その前も家の中を確認したりしていて、都はかれん達がいる家から目を放しっぱなしだ。

(やっぱり、直接乗り込まないと駄目ね)

他校の生徒と合流しているところを見ると、一条かれん達は殺し合いに乗っているとは
思えないし、無害を装って近づけば、恐らく受け入れてくれるだろう。

ザバァ

都はそこまで考えると、冷水を一気に身体へ浴びせた。
井戸から汲んで来た水は、興奮状態で火照っていた都の身体を冷まし、
同時に、高ぶっていた気持ちを落ち着かせてくれる。

(ふぅ……)

そうして落ち着きを取り戻していった都は、この島で目覚めてから今までに体験したことを順番に思い返していった。
まず、はじめに思い出すのは最初に出会った男、播磨拳児のことだ。
彼は、都が初めてその手で命を奪った人間でもある。
好きな子の事だけを想い、それ故に冷静さを失って空回りし、
最期はあっけなく崖下へと落ちて行った。

播磨を殺したことで、都はもう人を殺す事に対する迷いは無くなったと思った。
しかし、その次に出会った沢近愛理と西園寺世界の二人組のうち、
沢近愛理に銃を突きつけた瞬間、都は引き金を引くのを一瞬躊躇してしまった。
都が播磨を殺したときは、ただ崖から突き落としただけで、
実際に、生きた人間が死体に変わるその瞬間を見届けたわけではない。
この時点の都は、まだ覚悟が十分ではなかったのだ。
結局、それだけが原因ではなかったが、沢近愛理には逃げられてしまった。

今後も同じような事があるようでは、きっと優勝なんてできっこない。
そう思った都は、逃げ遅れていた西園寺世界を徹底的に嬲り殺しにした。
元々Sっ気のある都だが、何も好きで西園寺世界をそんな風に殺したわけではない。
今後、同じような事があっても、もう二度と人を殺すことを躊躇しないように、
人の命が消え行く様を実感しながら殺したのだ。
もしかしたら、多少は趣味もあったかも知れないが……。

(おかげで、次は迷わず人が殺せそうよ)

そして、完全に覚悟を決めた後に見つけた男女の4人組みだ。
その内の二人は、播磨拳児や沢近愛理と同じ矢神学院高校の一条かれんと塚本天馬だった。
その時は分からなかったが、塚本天馬はどうやら、この時点で死んでいたようだ。
少し様子を伺っていると、その4人(死体を人数に数えなければ3人)は二手に分かれ、
都は播磨や沢近と同じ学校の天満とかれんが気になって、そちらを尾行した。

途中で放送が流れたが、一条かれんはその間も歩き続けていたため、
都も禁止エリア以外は特にメモせず、後を追った。
都にとっては、彼氏の段十朗を含め室江の仲間が無事だった事が分かれば、
このときは禁止エリア以外、特に興味が無かったのだ。

一条かれんは待ち合わせをしていたらしく、村役場近くの民家で仲間が待っていた。
そしてかれんは、その仲間達と合流して民家へ入って行き、都はその民家を監視するためにこの家に来たというわけだ。
全然監視できていないのが現状だが。

(そういえば、もう10人死んでるんだな……)

この島での自分の行動を振り返った後、都は放送の内容で気になったことを思い返した。
半分くらいは聞き流していた放送だったが、今までに10人の死者が出ているという点は少し気になる。
その10人の内、都が分かっているのは自分が殺した播磨拳児、西園寺世界の2人と、
自分が見つけた時には既に死んでいた塚本天馬の計3人だ。

塚本天馬の死因は、後であの集団に接触したときに聞くとして、10人の内の残り7人は、
そのすべてが自殺や、誰かひとりの殺害数などということはないだろう。
すると、都以外にも殺し合いに乗ったものが、恐らく複数いるということになる。

(早くダンくんを見つけないと……)

最初の放送では名前の呼ばれなかった彼も、この先ずっと無事とは限らない。
殺し合いに乗る者がどれだけいるのか分からなかった放送前よりも、
自分以外に、殺し合いに乗った者がいるということがハッキリした今の方が、
早く彼氏の段十朗を見つけたいという気持ちは、大きくなっていた。
都にとっての最優先事項は、『段十朗と一緒に生きて帰る』ことなのだから。

(よし、キレイになった)

身体を洗い終えた都は浴室を出ると、あらかじめ灯油ストーブを準備しておいた部屋に入り、
ストーブにあたって、冷水で冷えた体を温めた。

(あー、寒かった。やっぱ冬に水で身体洗うとか無いわ……)

すっかり冷えてしまっていた身体が温まっていくのを感じ、都は生き返る心地だった。

(あ、着替え着替え)

そうして人心地ついた都は、次に着替えを考えた。
今の都は、この家にあったバスタオル1枚という格好だ。
幸いこの家には、歳は都よりもずいぶん上だろうが、体格は都と大体同じくらいの
女性が住んでいたらしく、都は着られそうなサイズの女物の服をいくつも見つけていた。

(うーん、何を着よう?)

まずは、改めて今まで着ていた室江高校の制服を確認してみる。
ブレザーやブラウス、リボンなどの上半身に着ていたものは、どれも血塗れで、
とても着られそうにない。
反面、下半身に着けていたスカートやソックスは、大した汚れも無く綺麗なものだ。
これなら、引き続き着ていても問題はないだろう。

(じゃあ……、これと、これかな)

そうして都は、この家で見つけた服の中で、今まで着ていた制服のブラウスとそう違わない白のブラウスを着て、制服のスカートをはいた。
そして最後に、同じくこの家で見つけた女物のダウンジャケット羽織り、着替えは完了だ。

(よし、あとは荷物の整理をしたら……、いよいよね)

都は荷物を整理した後、一条かれん達と接触するつもりだった。
作戦は、先ほど考えた通り。
まずは殺し合いに乗っていない風を装って接触し、そして必要な情報を聞き出した後は、殺す。
それが、都の考えだ。
しかし、それには一つ確認しておくことがある。
既に二人も人を殺めてしまった自分が、今さら無害なフリを出来るだろうか?
それを確かめるため、都はその部屋にあった姿見に向かって笑顔を作ってみることにした。

(ダンくんの事を考えれば……)

段十朗との楽しい日々を思い出しながら、また、そんな日々を取り戻すために、
都は鏡に向かって微笑んだ。

「ダンくぅ~ん」

その鏡には都自身も驚いたほどの、とびっきりの笑顔が写っていた。


□ □ □


かれんとちよが、リビングで気絶していた秀吉の手当てを済ませた頃、
一通りの話を終えた阪東と理子も、リビングへとやって来た。
秀吉は、かれん達が手当てをしている間も目を覚まさず、今も眠り続けたままだ。

「どう?カトーくんは」
「はい、まだ起きないですけど……ちよちゃんも手伝ってくれて手当ては終わりました」
「そう、エライわ、ちよちゃん」
「いえ、私にはこのくらいしか出来ませんから…」

女子三人がそんなやり取りをしていると、阪東が「オイ」と、かれんに声をかけた。


「オメーが持ってた銃、弾はあんだろ?いつでも撃てるようにしておけよ」
「え?」
「チョット!いきなり言われても分からないわヨ」

何の説明も無しにそんなことを言いだした阪東をたしなめながら、理子は軽く阪東を睨んだ。

「それに、決めるのはかれんちゃんだから!」
「フン」
「それじゃ、アタシが説明するから……かれんちゃん、こっちに来て」
「あ、はい」

理子は、ちよの方をチラッと見るとかれんの手を引いて部屋を出て行った。
そうして、阪東とちよは二人、いや、気絶中の秀吉を含めると三人でリビングに残された。

「あのー、阪東さん、どうしてあんなことを?」

理子達が出て行くなり、ちよは阪東に尋ねた。
あんなことというのは、銃の事だろう。

「殺し合いに乗ったヤツが、近くにいるかもしれねーんだ」

阪東は心の中で、(相当やばいヤツがな)と付け加え、「しかも、そいつは銃を持ってやがる」と、続けた。

「そう、ですか……」
「ああ」

それっきり黙ってしまったちよに、今度は阪東から話を振った。

「アイツ等の言ってた事だがな……」
「え?」
「時間切れなら、首輪が爆発しないってのは、あると思うか?」
「えっと……」

阪東は、その話を聞いたときから、そんなことはまずあり得ないだろうと考えていた。
その考えに、阪東はほとんど確信を持っているのだが、軍はそんなに甘くないだろうとか、
そういった、ある種勘のような考えでしかなく、その理由がハッキリしない。
そこで、ちよならば違った視点から、この事に関して答えを出せるのではと思ったのだ。

「それは…無いと思います」

少し残念そうに、だがしっかりとちよは自分の意見を述べた。

「なんでそう思う?」
「プログラムは……軍が行う戦闘シミュレーションと言う事になっていますけど、多分、他の目的もあると思うんです」
「どういうことだ?」

ちよは飛び級で高校に入学するほど学業において優秀であり、社会科の成績も良い。
そんな彼女は、当然プログラムに関する知識も一通り頭に入っており、
それを元に、表向きは国防上必要な戦闘シミュレーションという事になっているプログラムの、
別の狙いを考察することもできる。

「例えば…恐怖政治です。えっと、この国で政府に反対することは命がけですよね」
「ああ」
「しかも、本気で政府に反対しようとしたら、たくさんの人が団結しないといけません」
「だろうな」

ちよの言っている事は分かるが、それがプログラムの時間切れにどう繋がるのか分からない阪東は、適当に相槌を打って先を促した。

「それでプログラムですけど…プログラムで優勝者が出たということがニュースで流れたら、それを見た人はどう思うでしょう?
人は命がかかると、子供同士でも殺し合いをするんだなって思うんじゃないでしょうか?
一度そう思ってしまうと、完全には他人を信用できなくなると思うんです。
そうしたら、政府を相手に命がけで一致団結なんて、きっと出来なくなってしまいます」
「ほう」

話が進むにつれて、阪東は少しずつちよの話がつながってきたように感じた。

「もし、そういうことが政府の狙いだとしたら、プログラムではまず、優勝者が出ることが
重要なんです。一条さんたちの言っていた、死の恐怖に負けず、見ず知らずの他人を
信じるっていうのは、たぶん、政府の狙いと逆で…、だから、時間切れでみんなが
助かるとゆーのは、ちょっと……」
「なるほどな」
「優勝者が出なかった場合に失敗としてあつかわれてニュースにならないのは、
最期まで他人を信じてしまった結果ですから、それは政府にとって都合が悪いんです。
だからニュースにならないんだと思います」

ちよの話は阪東には少し回りくどく感じたが、プログラムとは政府が行う恐怖政治の
一環だと考えると、他人同士が殺し合いをするということそのものが重視されるはずで、
それとは逆の生還方法があることは考えづらいということだ。

「お待たせ、ちよちゃん、阪東サン」
「お待たせしました」
「あ、おかえりなさいー」

阪東とちよがそこまで話したところで、阪東達がいるリビングの扉がガチャっと開き、
理子とかれんが戻って来た。

「戻ったか。で、お前らどーする事にしたんだ?」
「そーね、かれんちゃん」
「はい」

理子に促され、かれんは自分の考えを話した。

「事情は分かりました。この近くに危険な人がいるかもしれない。
だから、銃が必要になるかも知れない……」
「そうだ」
「でも……、銃に弾を入れるのは、駄目です。私は…その人も説得したいですから」
「チッ」

どんな相手でも傷つけたくないと言うかれんの言葉に、阪東は思わず舌打ちをした。

(あんな事ができるヤツを説得だと?)

直接あの惨状を見た阪東には、それはあまりにも無茶な理想論に思えた。
しかし、直接死体を見ていないかれん達には、それが分かっていないのかもしれない。
阪東とかれん達には、その死体を作り上げた者に対する考えに、明らかな温度差があった。

「そうかよ」

阪東はそう言うと、自分の荷物だけを持って部屋を出て行こうとした。

「え、待って阪東サン、どこに行くの?」

それを理子が慌てて呼び止めると、阪東は首から上だけ振り返って答えた。

「これからどーするか考える。少し独りにさせろ」

阪東は、かれん達の考えには賛同できない。
しかし、殺し合いに乗らないという点においては、阪東もかれん達も同じだ。
わざわざ敵対関係になることも無いだろう。と、そこまでは考えた。
しかし、その先の考えがまとまらない。この理子という女が側にいると、どうも調子が狂う。
それに、この島のホテルで目覚めてから今まで、ずっとプログラムからの脱出についても考えてはいるが、未だその糸口さえ見つかっていない。
ガラじゃあないとは思うが、一度ゆっくり考えをまとめたかった。

「ついでに、その辺見回って来るつもりだ。一応、他の鈴蘭の連中も探さねーとな」
「でも……」
「心配すんな。次の放送までには戻ってきてやる」

そう言って今度こそ出て行こうとした阪東の、今度はちよが呼び止めた。

「ま、待ってください。あの、私もついて行っていいでしょうか?」
「なに?」
「え、ちよちゃん?」
「危ないわヨ。ここに居た方が……」

同行を申し出たちよに、阪東を含めた3種類の声が答える。

「私も、同じ学校のみんなを探したいですから。
それに阪東さん、言いました。考えるのは私だって」
「……フン、そうだったな。好きにしろ」

かれんと理子は反対したが、一度言い出したちよは頑固に自分の意見を曲げず、
結局は本人の意思を尊重することとなり、阪東とちよは二人で民家を出て行った。

「……行っちゃったわね」
「はい……」

理子とかれんは少しの間、あの二人を心配する言葉をかけ合っていた。
もし、二人が次の放送までに戻らず、さらに放送で名前を呼ばれたりしたら、
理子とかれんは悔やんでも悔やみきれないだろう。

「でも、戻ってくるって約束してくれましたし」
「まあ、カトーくんはここに残ったままだし、きっと戻ってくるわよね。
……それで、これからどうする?」

「私は……また他の人を探しに行こうと思います」
「わかった、アタシはまた待っていればイイ?」
「はい、お願いします」

かれんは、再び人探しをするため、天満と一緒に持ってきた3つのデイバッグのうち、
自分の分1つだけを持って立ち上がり、理子も、そんなかれんを見送るために腰を上げた。

「それじゃあ、いってきます」
「ウン、いってらっしゃい」

そうして、玄関へ移動した理子とかれんがあいさつを交わしドアを開けた瞬間、
二人とは違う女の子の声が上がった。

「きゃ!」
「え?」
「あ……」

かれんが開けたドアの外には少女が一人、立っていた。

「……」
「……」
「……」

少しの間、沈黙がその場を支配した。
その沈黙を最初に破ったのは理子でもかれんでもなく、ドアの外に立っていた少女だった。

「はじめましてー、宮崎都です」