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滝野智は、無学寺を出た後ひたすらに森の中を走った。

「うわーん、うわーん!」

手にはフライパンを握りしめ、目からは涙を流し、声を上げて泣きながら、
それでも力の限り走った。
しかし、元々体力のある方ではない智が、そんな状態で走り続けられる時間はそれほど長くはなく、徐々に息が切れ、足取りも重たくなってきた。

「はー、はー、はー」

それでも、体力の続く限りは走ろうと足を動かし続けた智だったが、
体力の限界が訪れるよりも前に、何かに躓いて転んでしまった。

「ぬわー!」

智の持っていたフライパンが智の手から放り出され、近くの木に当たってカンと音を立てた。

「うぅ……、痛いよー」

幸い、智の転んだ場所は、落ち葉や枯れ草が敷き詰められている状態で、
大した怪我はせずに済んだが、先ほど無学寺で打ったところと同じ場所を
地面に打ちつけてしまい、智はその痛みに閉口した。

「くぅぅ……、あいつは!?」

そのまま地面に顔を伏せ、泣き出したい気持ちを堪え、智は辺りを見回した。
どうやら、あの金髪──三橋貴志は、追いかけてきてはいないようだ。

「はぁ…はぁ…、ここは?」
三橋の追跡がないことを確認し、周りを見る余裕が出てきた智は辺りを見渡して、
今、自分がいる場所に見覚えがあることに気がついた。
無学寺にたどり着く前、首から血を流した少年の死体を発見した場所だ。
どうやら、夢中で走っているうちに、戻ってきてしまったらしい。

(ん?ってことは)

そこで智は自分が躓いたものの正体に思い当たり、今まで周りを見渡すために、やや上に向いていた視線を恐る恐る下へと向けた。
そこには、智が思った通り、首から血を流している少年──田中良の死体が転がっていた。
智は今、これに躓いて転んでしまったのだ
正座のような姿勢でうずくまっていたその少年の死体は、
智が躓いたせいで、姿勢はそのままに横倒しになり、智の方へ後頭部を向けていた。

(…………っ!!)

それを見た智の体に、ザァッと鳥肌が立った。

『皆さん、こんにちは』
「うわ!」

ちょうどその時、この島で最初の放送が流れ始め、驚いた智は悲鳴を上げた。

『担任の坂持でーす。ちょうど、今、正午になりましたー。
みんな、元気にやってるかあ? 』
「ビッ、ビックリしたー」

それが放送だと理解すると、智はひとまずホッと胸をなでおろした。
その間にも放送は進み、まずは禁止エリアの発表となった。
『えー、オホン。それじゃあ禁止エリアについてでーす』
(え?禁止エリアってなんだっけ?)

智は禁止エリアのことを、この瞬間まで忘れてしまっていたが、
言われてやっと、最初の教室で言われたことを思い出した。

(そ、そうだ!そのエリアを出ないと首輪が爆発するってゆー)
『今からエリアと時間を言いまーす。
地図出してチェックしろよー』

禁止エリアのことは思い出した智だったが、今、智の手元には地図が無い。

(え!?チェックしろって言われても)

地図が無ければ、チェックのしようがない。
しかし、その間にも放送は着々と進んでいく。

智が慌てて周りをキョロキョロと見回すと、先ほど躓いた少年の死体の傍に放置されているデイバッグが目に入った。
おそらく、死んでいる少年のものだったのだろう。

『まず、今から一時間後、午後一時な』
「まっ、待って!」

一瞬躊躇した智だったが、放送は待ってくれない。
最早、迷っている場合ではなかった。
智は、そのデイバッグを掴むと一気にひっくり返し、中身を辺りにぶちまけた。

「地図、地図…あった!」
『一時にE-9
一時までにはこのエリアから出ること、わかったかー?』
智が地図を拾い上げるのと、最初の禁止エリアが発表されるのは、ほぼ同時だった。

「E-9!」

ひっくり返したデイバッグの中身には筆記用具も含まれていたが、それを拾うのは間に合わず、
智は地図のE-9部分を爪でガリガリと引っ掻いた。

「セ、セーフ」

後の禁止エリアも、智は同じ様にして間に合わせのチェックを済ませた。

死亡者の発表は、春日歩の部分以外聞き流した。
春日歩──大阪の本名だ。
歩のことを、智が付けた大阪という愛称で呼ぶようになってから2年以上が経過しており、
智は大阪の本名など忘れかけていたが、名簿もあるし、いくら何でも間違えたりはしない。

(大阪……)

放送が始まったのをキッカケに泣き止んでいた智だったが、
放送が終わると大阪のことを思い出し、再び涙が出てきた。

「うぅ…大阪ぁ……」

智は、1年生の時に転校してきた大阪とは何かと絡むことが多く、
修学旅行では、同じ班で西表島に行ったりダイビングを楽しんだりしたし、
最近は、よく一緒に受験勉強をしていた。
そんな彼女が、もう帰らぬ人になったなんて……。
大阪が撃たれるところを直接見ていた智だが、それでも信じられなかった。
ただ、とんでもない事になってしまったということだけは、智も理解できた。
「はぁ、帰りたいよー」

智は、よく突飛な事をやらかす子だったが、それはあくまで日常生活の中での話であり、
非日常的な環境で力を発揮できるタイプではない。
智はとうとう、現実逃避をし始めた。

「また、カラオケ行きたいな。よみのヘタな歌、聞いて……」

そんな智の頭に浮かんできたのは、この島にはいない、
小学校以来ずっと同じクラスの水原暦の顔だった。
よみの部屋行って、よみをからかって、よみと遊んで、よみの背中にセミくっつけて、
よみと……。

そんなことを考えていた智を現実に引き戻したのは、突然聞こえてきた銃声だった。

「ひぃ!?」

銃声は1回だけでなく、何回も立て続けに聞こえてきて、
しかも、その銃声が1種類ではないことは、智にも分かった。
何者かが、銃撃戦を繰り広げているのだろう。
音は、それほど近くからではないが、あまり遠くでもなさそうだった。

(三橋か!?)

現実に引き戻された智は、まず銃声と三橋を結びつけて考え、銃撃戦を行っている者の一人が、大阪を撃った三橋かも知れないと思った。
今聞こえてきた音が、大阪を撃った銃と同じものかどうかなんて分からなかったが、
ここからそれほど離れた場所でなく、銃を持っている者となれば、可能性は高いだろう。
そう考えた智は、急いで先ほどばらまいた少年の支給品を確認し始めた。

(武器は、無いか……)

何か武器があれば、そのまま銃声の方へ走って行って大阪の仇を打ってやろうかと思った智だったが、残念ながら武器になりそうな物は無かった。
武器も無しに、銃を持った相手に向かって行くのは自殺行為だ。
大阪のおかげで助かったこの命を、無駄にするわけにはいかない。
仕方なく、智は地面に散らばった支給品を確認しながらデイバッグに戻していった。

(水や食い物も無いんだな)

このデイバッグには、無学寺で大阪や三橋と確認したような基本的な支給品は揃っていたが、食料や水は入っていなかった。おそらく、少年を殺した者が持ち去ったのだろう。
一通り、地面に散らばった支給品の回収を終えると、智は拾った筆記用具で地図にちゃんとしたチェックを入れた。

(それにしても、まさかよみの顔が見たいと思う日が来るとはね)

銃声で我に返る前に考えていたことを思い出し、智は「はは……」と、力なく笑った。
普段でも、智の方から暦に会いに行ったりはするが、こんなに強烈に暦に会いたいと思ったことはない。

「痛たたた!」

支給品を整理しながら心も整理をして、少し落ち着いてきていた智だったが、
心が落ち着いて来ると、今度は左半身に負った打ち身がズキズキと痛みだした。
どうやら、少し熱を持っているようだ。

「うー、痛いよー」

しばらく痛む部分を押さえていたが、このまま放っておいても、痛みは引きそうにない。
とにかく、手当てができる所はないかと、先ほどデイバッグに入れた地図を取り出した。
(そういえば、ここって、どこだ?)

そこで智は、今、自分がいる場所が分からないことに気づき、コンパスも取り出して、
地図と、コンパスと、辺りの風景を見比べた。
無学寺から出て、どれだけ走ったのか分からないが、西に山が見え、周りに道などが無いことから、ここは地図で言うとE-7かF-7だろうと予想できた。

(あ、南の方に診療所があるじゃん)

地図によると、島の南側にある氷川村に診療所があるようだ。
今いる場所が智の思う通りなら、ここから南下すれば、その診療所にたどり着くはずだ。
大阪の仇は何としても打ちたいが、武器になる物がフライパンくらいしか手元にないのでは、
銃を持つ三橋に立ち向かうのは無理というものだ。
それなら、まずは怪我の手当てがしたい。
地図の縮尺が分からないので、距離も分からないが、
ともかく智は、氷川村の診療所に行くことにした。

「大阪、私、絶対生き残って仇取るからな!」

最後に、智は銃声のした方を振り返って呟くと、
それとは反対方向の氷川村に向かって歩き出した。

「痛いよー」

打ち身が痛む場所を手で押さえながら、トボトボと歩いた。

そうして智が立ち去ったその場には、横倒しになった田中良少年の死体だけが残された。

【F-7/林の中/1日目 日中】

【滝野智@あずまんが大王】
【状態】:左半身に打ち身 精神的動揺
【装備】:フライパン
【所持品】:デイバッグ 支給品一式(水と食料は無し)

【思考・行動】
基本:三橋のことが許せない。
1:大阪、ごめん、ごめん……!
2:三橋、絶対に許さない
3:打ち身が痛む。手当てをしたい
4:大阪の仇を討つために、何か武器が欲しい