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「そう……、天満も……」

沢近愛理は、独り言を呟いた。
つい先ほど、このプログラムで最初の放送が行われ、地図も名簿も筆記用具も持っていない沢近は内容をメモすることも出来ず、ただ歩きながらそれを聞いていた。
しかし、死者の発表で播磨拳児と塚本天満の名前が挙がったところで、沢近は足を止めた。
沢近の知らないところで、天満もまた播磨と同じように、その命を落としていたのだ。

「どうして、こんなことに……」

沢近はギリッと奥歯を噛みしめ、止まっていた足を再び動かして歩き始めた。
今まで天満と話したことや、一緒に行った旅行のことなどが脳裏に蘇り、こみ上げてくる悔しさと悲しさでその場に泣き崩れそうになるのを耐えながら、沢近は歩き続けた。
泣くのも、後悔するのも、全てが終わった後でいい。

しばらく歩く内に、沢近は徐々に気持ちが落ち着いてきたのか、他のことも考えられるようになっていった。
ずっと興奮したままではこの先持たないだろうし、この殺し合いの舞台で冷静さを失ったままなのは、非常に危険なことに思えた。
冷たいようだが、今の沢近が冷静さを取り戻すためには、思考を他へ逸らすしかなかった。
そうして沢近は、放送の内容を思い返した。

「やっぱり、地図も持っていないのは、恐いわね」

正直、禁止エリアに関しては地図がないので、E-9とかJ-6とか言われても、
どこのことだか分からない。
今いる所や、これから向かう所が禁止エリアでないことを祈るばかりだ。
やはり、早く誰か地図を持った人と接触したい。
「それにしても、10人……、多いわね」

放送で読み上げられた死者の数は10人、次々と死者が読み上げられていた時には信じられない思いだったが、政府がここで嘘をつくとも思えない。
多分、真実なのだろう。

「西園寺さんは……、きっとあの女ね」

放送で読み上げられた名前の中で、沢近が自分の通う矢神学院高校以外に気になったのが、
西園寺世界だ。
沢近は、あのピンク髪の女が放った何かが、世界に突き刺さるところを見た。
しかし、銃弾を受けた自分も生きているし、その時点では世界は死んでいなかっただろう。
だが、自分が逃げたことで、その後、あのピンク女の矛先が世界に向ったであろうことは、
容易に想像できる。

「……私、見捨てたことになるのかしら?」

沢近は、今更ながらあの場で自分が逃げたという行為が、そういう意味を持っていたことに気づき、気分が悪くなった。

「仕方、ないわよね。あそこで私が出来ることなんて……」

あの瞬間、持っていた銃は弾き飛ばされ、ナイフは降ろしたデイバックの中に入っていた。
沢近は、完全に丸腰の状態で銃を突き付けられたのだ。
そんな状態から、生きて逃げ切ることが出来ただけでも奇跡的なことであり、その上で世界も助けることなど、どう考えても無理だったように思える。

「それに、あの子だって私を騙していたわけだし……」

そう、世界は盲人と偽って沢近に近づいてきたのだ。
最初は信用した沢近だったが、しばらく行動を共にして、その言動から嘘だと見破った。
しかし、もし嘘を見破れず襲われることもなかったら、世界に何をされていたか分からない。

「って、良くないわね。死んだ子のことを……」

そんな風に考えてしまうこと自体、まるでプログラムを肯定しているような気がして、
沢近は慌ててその思考を中断し、頭を切りかえた。

「10人ってことは、やる気になってるのが、あのピンク女以外にもいるってことね」

10人の死者の内、ピンク女が殺したと見て間違いないのは播磨と世界の2人。
もしかしたら、その前後にもう1人か2人くらい殺しているかも知れないが、
10人全てがあの女による仕業とは思えない。
地図もないため、とにかくまずは誰かと接触しようと思っていた沢近だったが、
その際は慎重になった方が良いだろう。
うっかりやる気になっている者に話しかけでもしたら、
丸腰の沢近は簡単に殺されてしまうかも知れない。そうしたら仇も討てなくなる。

「……あのピンク女だけは、私の手で!
そういえば私、あの女の名前も学校も知らないのね」

ピンク女は沢近のことを知っていたようだったが、沢近の方は彼女について何も知らない。
ちなみに、ピンク女こと宮崎都の髪は、実際には沢近が思うほどのピンクではなく、
もう少し落ち着いた色をしているのだが、閃光弾の影響で一時的に色覚がおかしくなっていたのか、あの時の沢近には、都の髪がピンク色に見えていた。

「へくし!くしゅん!」

都のことを考えていた沢近だったが、突然クシャミを2連発して、
今まで考えていたことが頭から吹き飛んだ。
「……寒い」

都から逃げるために飛び込んだ海で濡れた沢近の衣服は、冬の冷たい風が吹くたびに沢近から体温を奪い去っていった。
太陽は高く昇っており、沢近もなるべく日なたを歩くようにしていたのだが、
それでも冬の風が奪っていく体温は、太陽から得られる熱を大きく上回っていた。
先ほどから沢近が独り言を呟いていたのは、寒さを誤魔化すためでもあったのだが、
そろそろ、それも限界だった。

「はぁ……、はぁ……、はぁ……」

しかも、スポーツ万能の沢近だが泳ぎだけは苦手であり、今年夏の時点では2メートルしか
泳げなかったのを、命がかかっている状況だったため無理をして、
冬の海を着衣状態のまま泳いだので、体力の消耗が激しかった。
溺れずに済んだのは、運良く潮の流れに乗って打ちあげられたからだ。

「寒い、それに、頭痛い」

一度意識してしまった寒さは、もう誤魔化しようがない。
しかも、体力を消耗した状態で身体が冷えたためか、それとも閃光弾の影響か、頭まで痛くなってきた。
そんな中、都に撃たれた腕と肩の傷だけがじんわりと熱く、
まるで、そこから命そのものが流れ出ている気がして、沢近はゾッとした。

「なんか…、目の前が…、暗く…、なってきたわね」

銃で撃たれた傷は、かすり傷とはいえ放っておいても塞がるような小さな傷ではなく、
その傷口からは、今までにかなりの量の血が沢近の身体から流れ出していた。
幸い、出血によるショック症状が出るには至っていないが、
海から上がっても何の処置も出来なかった傷からは、今も少しずつ血が流れ出ている。
「これは…、まずい…、わね」

必ず播磨の仇を討つと決意した沢近だったが、その意志に反し沢近の体からは、そのための力が失われつつあった。
それどころか、早く体を温めて傷の手当てをしないと、命に関わるかも知れない。
何とか歩く足だけは止めずにいるものの、普段歩く速度の半分も出ていなかった。

「もうすぐの、はず、だけど……」

沢近は今、鎌石村の南にある平瀬村へ向かっていた。
ゲーム開始時に確認した地図は、あまりハッキリとは覚えていなかったが、
海沿いを通ってふたつの村をつなぐ道が南北に通っていたことは覚えていた。
海から上がってすぐ、沢近は左右に伸びる道にぶつかったのだが、
その道が、地図にあった南北に通っている道だろうと考え、右つまり南側へ歩いてきたのだ。

そして沢近の思った通り、前方に一軒の民家が見えてきた。

「家、あそこに、行けば」

沢近は、とにかくその家に入ることにした。
家の中ならば風で体温を奪われることもなくなるだろうし、
暖を取ったり、傷を手当てすることも出来るかも知れない。
しかし、ようやくその家にたどり着き、ドアノブを引いてみたがドアは開かなかった
鍵がかかっているのだ。

「ふぅ、そりゃ、そうよね」

沢近は、ドアから入ることを諦め、次に縁側へ回り込んでみた。
すると、そこはガラス戸が閉まっただけの状態で、これならガラスを破れば入れそうだった。

「入らせて、もらうわよ!っと」

沢近は、近くにあった石を拾い上げると、そのガラス戸に投げつけた。
パリンという音が響いてガラスが割れ、大きな穴が空いた。
そこから手を入れれば、ガラス戸の鍵を開けることができた。

「はぁ……、はぁ……」

もう、沢近の体力は本当に限界だったが、そうして家の中に入り、
今まで身体から体温を奪っていた風が遮られると、
それだけで少し暖かくなったような気がして、沢近は若干だが余裕が出てきた。

「何か、ないかしら?」

そして、何か暖が取れる物や、怪我の手当てができるものがないかと、
民家の中を探し回り、まずは、居間ある灯油ストーブを見つけた。
ストーブのタンクには燃料が半分ほど残っており、点火スイッチを押せばすぐに火がつく簡単なものだったので、沢近でもすぐに火をつけることが出来た。

(……あ)

そのままストーブの火を見つめていたい誘惑にかられた沢近だったが、他にもやる事があるのを思い出し、再び民家の中を探索して毛布やタオル、家庭用常備薬などを見つけた。

「ふぅ」

ストーブの前に戻ると、沢近は濡れていた服を全て脱ぎ捨てた。
誰が見ているわけでもないし、いい加減濡れた服は寒くてしかも気持ち悪い。
そうして沢近は裸になると、タオルで身体を拭き、毛布にくるまった。
ストーブにあたりながら毛布にくるまると、とても暖かくて一瞬気が緩みかけたが、まだやることは終わっていない。

脱ぎ捨てた制服には、かなりの量の血がこびり付いていたし、身体を拭いたタオルや、
今くるまっている毛布にも、赤い血が付着していた。

「……傷の、手当て、しないと」

沢近は、この家で見つけた家庭用常備薬の中から消毒液を取りだし、傷口に吹き付けた。

「くあぁ!」

それはあまりしみないタイプの消毒液だった筈だが、
傷が大きかったせいか、猛烈にしみた。





七原秋也は、このプログラム最初の放送を、炎上する小さな家を眺めながら聞いた。

「……藤岡」

「自分には必要ないから」と、藤岡ハルヒから手鏡と共に渡されたデイバックの持ち手を握りしめ、七原は呟いた。
七原はハルヒと別れた後、その満身創痍の体ではあまり遠くへ行くことも出来ず、
すぐ近くの民家に入ってその体を休ませながら、ハルヒのいる家を眺めていた。
途中、何度もハルヒを助けに戻ろうかと思ったが、少しでも体を動かすと怪我による痛みが
ズキリと体に走り、気が萎えてしまった。
体が本調子ならいざ知らず、今の状態ではそれこそ自殺行為だと自分に言い聞かせ、
七原は放送まで、その場に留まった。
放送で藤岡ハルヒの名が呼ばれた時には、もうあそこに戻る理由が無いんだなという一抹の寂しさと共に、どこか安堵感を感じてしまった。
「…なあ、三村。俺、これからどうしたら良いんだろうな?」

先ほどの放送で、七原の通う城岩中学から名前を呼ばれたのは相馬光子と三村信史の2人。
相馬はクラスでも接点が少なく、あまり話したことがないのでよく分からないが、
三村とは結構仲が良く、これからどうすべきか考えあぐねていた七原が、
真っ先に思いついたのが、豊富な知識を持ち、それを活かす知恵や行動力も
合わせ持っている三村と合流して、相談することだった。
そうすれば、何か活路が開けるのではないかと思ったのだが、それはもう叶わない。
あの「ザ・サード・マン」と呼ばれる三村が死んだなんて信じられなかったが、
目の前で死んでいった藤岡ハルヒの名前が呼ばれていた以上、放送の内容は正確なのだろう。

「……三村、お前が死んじまうような場所で、俺に出来ることなんてあるのか?」

当然、この場にいない三村は答えない。

パリン

そんな時、七原の耳にガラスが割れるような音が届いた。

「ん、何だ?」

燃えている家とは逆方向からのようだった。
何の音かと、しばらく耳を澄ませた七原だったが、それ以上は何も聞こえてこなかった。

「……行ってみるか」

ただ座り込んで火事を眺めるのも、飽きてきたところだ。
七原は立ち上がると、音の正体を確かめるべく、それまでいた民家を出た。
最後にチラッと振り返り、燃える家をもう一度だけ眺めた。
他の家が隣接しているわけでもないので、これ以上燃え広がることも無さそうに見える。

別に飛び火しないかどうかを見張っていた訳ではないが、七原は何となくそんな風に思い、その場を後にした。

(クソッ、体中が痛むな)

予想していたことだったが、そのボロボロの身体では、ただ歩くのも重労働だった。
やはり休んでいた方が良かったかと、七原は少し後悔もしたが、
ジッとしていると、どうしても色々なことを考えてしまう。
体を動かしていた方が、まだ気も紛れるというものだ。
七原は全身の痛みに閉口しながらも、ノロノロとしたペースで音のした方へ歩いて行った。

(あれは……)

そうしてしばらく付近を歩くと、縁側のガラス戸が割れている民家を見つけることができた。
近づいてみると、割れたガラスもまだ新しい。先ほどの音の原因はこれだろう。
ということは、中に誰かいるのか……。

(……入ってみるか)

しばらく迷った七原だったが、せっかく痛む体でここまで来たんだと思うと、
手に持った果物ナイフを握りしめ、意を決してその家の中に入った。

そうして見つけたのが、毛布にくるまり、ストーブの前で無防備に眠っている金髪の少女、
沢近愛理だった。

沢近は傷の手当てが済むと、そこでとうとう力尽き、気絶するように眠ってしまったのだ。

「すぅ……、すぅ……」
「……これは」

眠りについた時、はだけてしまったのか、毛布の隙間からは彼女の白い肌と、
大きさはそれ程でもないが、形の良い乳房が覗いていた。

(ゴクリ……)

それを見て、七原は生唾を飲み込んだ。こんな状況とはいえ、七原は健康な中学3年生だ。
女の子の肌を見て、何も感じないはずはない。
何とか目を逸らそうとするのだが、どうしても視線が沢近の方へ引きつけられてしまう。
頭がジリジリと痺れたような気がした。

「な、なあ、あんた」

七原が声をかけてみても、沢近の反応はない。
そこで、七原は少し毛布をめくり上げてみた。
普段の七原なら、もう少し理性というか、自制心のある行動を取ったのだろうが、
今の七原は、それも出来ないほど体と共に心も疲弊していた。

「…………」

毛布をめくると、片側だけが覗いていた沢近の乳房は両方が露わになり、七原の目はそこに釘付けになった。
相変わらず、沢近の反応は無い。余程深く眠っているらしい。

「!」

しかし、そこで七原は沢近の肩と腕に包帯が巻かれていること、そして沢近のくるまっている毛布に血が付いていることに気がついた。
包帯は、ずいぶんと乱暴というか、デタラメな巻き方に見える。
きっと彼女が自分で巻いたのだろう。
普段こんなことをしない彼女が、四苦八苦しながら自分の身体に包帯を巻く姿が、
七原の頭に思い浮かんだ。

「くっ」

そして、七原はめくり上げていた毛布を戻すと、肩までしっかり掛かるように整えた。

(この人は生きようとしている。藤岡とは違って、必死に生きようとしているんだ!)

それが分かると、先ほどまで理性が吹き飛んでいた七原だったが、
急に自分が、ものすごく失礼なことをしたように思えてきた。

「なあ、あんた、起きてくれよ!」

毛布を戻すと、七原は再び沢近に声をかけ、体を揺すった。
しかし、沢近は昏々と眠り続けたままだった。

「はぁ……、俺は一体、どうすればいいんだ……」

七原は、その場で頭を抱えた。

【F-1 民家/一日目 日中】

【沢近愛理@School Rumble】
【装備】: なし(裸で毛布にくるまっている)
【所持品】: なし
【状態】:身体的衰弱 腕と肩に銃のかすり傷(包帯ぐるぐる巻き)
頭痛 貧血 深い眠り
【思考・行動】
1:…………
2:ピンク女を殺す
3:地図もないため、誰かと接触する。
4:美琴、かれんと合流



【七原秋也@バトル・ロワイアル】
【状態】:疲労大 全身を負傷 激しい失意
【装備】:古い果物ナイフ(刃こぼれ・錆)、手鏡
【所持品】:デイバック 支給品一式
【思考・行動】
基本:これからどうすべきか考えあぐねている
1:俺は一体、これからどうすればいいんだ……
2:何とかこの人(沢近)を、起こす方法はないか?
3:本当は、みんなでプログラムから脱出したい、でも……