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――正午を廻った直後の沖木島で二本の樹が揺れていた

島の南東、誰も存在しない空間と流されていない悪臭だけが残された琴ヶ崎灯台を離れた金髪の二人
坊屋春道、千葉キリノは黙って放送を聴きとめていた。
手に鉛筆と参加者名簿、地図をそれぞれに持ち、醜く濁るような声を聞き入れる。
最初は禁止エリアの発表、次に死亡者の発表、そして、最後に憎たらしさ全開のありがたいお言葉。
途中幾度となく、むしずが走ったが生き残るために必要な情報
二人は悔しくも大人しく最後まで聞き入れるしかなかった。

「……本当に死んだ人がいるの?」

放送が終わった後、第一声はキリノのそれだった。
薄くどこか定まらない焦点でひとり呟く。
隣に存在する男はその独り言に合わせるように一言ああと返事を返すだけ

「でも……十人だよ?十人も本当に死んだって信じられるの?」

いつもの笑顔も表情にできずに、今度は目の前の男に正面から聞き返す。
だが、男はもう一度、ああと言うだけでそれ以上の言葉を返してこない。

「……ああって春道くん……」

目の前にいるのに、顔の上部。鼻から上にかけて、どこか影が射しているように感じる。
ここまで、二人で和気藹々と足を進めてきたが、これほどまでに無愛想な春道を紀梨乃が感じたのは初めてだった。
確かに、死亡者が出て自分も春道が落ち込む気持ちはわかる。
でも、だからこそ、ここは自分の意見に対して『うそに決まってるさ、キリノちゃん』
なんてマヌケな一言がほしかった。……うそでもいい。
政府が嘘をつくメリットなんて存在しないし
過去数十年もプログラムは成功を収めており、そこに過ちなんてないってのはわかってる。
でも、今だけは安心の二文字がほしかった。
唯一出会った人物である坊屋春道自身の口から……

「……キリノ、悪いけどトイレ行って来ていいかな?」
「?……えっ、いいけど」

そんな場合じゃないでしょと言いたかった。
しかし、紀梨乃はようやくゆっくりとある一点の事象に気がついた。
……そうだった、冷静になれていないのは自分だったのかも知れない。
死亡者と発表された中には、春道と同じ学校の生徒がいたではないか
自分にとっては、出会ったことがない人物十人の死亡でも
春道にとっては、ひとりのかけがえのない友人ひとりが混ざっているのだ。
知り合いでもない十人が死亡した事実だけでも、これまでの人生で感じたことのない動揺を抱えた
更にその中に友人が混ざっていたらどうなる?

泣く?叫ぶ?暴れる?……わからない。

自分が主将を務める室江高校剣道部のメンバー
誰一人として放送で名前を読み上げられることはなかったが、他の学校は確実に一人以上の死亡者を出している。
はっきりと自覚し、語弊も恐れずに言うならば、自分はこの島で一番楽
悲しみという言葉を容易く発してはいけない気がする。
自分の前で死亡した人がいるわけでもない、誰かに襲われたこともない、自分の友人たちが死亡したとも告げられていない。
ましてや、今は自分のことを守ると宣言してくれているナイトさえいる。
一番に守られた立場にありながら、そのナイトの心を読み取る気遣いさえ足りなかった。
ちょうど、そのナイトである春道の背中が消えていく中、紀梨乃は思った。
今の自分にやれることなんて、ないに等しい。
だからこそ、せめて春道が帰ってきた時に、笑顔になっていようと


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



一方、草木を掻き分け進む春道は冷静だった。
普段見せるようなおちゃらけた空気はどこかに消え、周りの大気は澄み切ったように静止して見える。
普段と違った振る舞いを見せた紀梨乃と同じように春道も普段とは違った姿をみせる。
トイレと言い、立ち去った春道だったが、チャックを下ろす動作は微塵も見せずにポケットからタバコを取り出す。
口に含み、大げさなまでに炎が飛び出るライターの位置を調節してタバコに火を灯す。
じわっと火の赤みがタバコの先に広がると口の中にも、煙特有の苦味が侵食していく。

「……ヒロミ」

不良の高校、カラスの学校、鈴蘭高校に転向して最初に熱い勝負をしたのが
死亡した男、桐島ヒロミだった。
プログラムが開始されたとき、誰が死んでも仕方がない。
不良とは喧嘩で死ぬこともある。それこそ、恨みっこなしな勝負が喧嘩といわれるもの。
仕方がないし、死ぬわけもないとどこかで腹を括っていたかも知れない。
だが、実際はヒロミが死亡した。
不思議と悔しいと思わなかった。
心を埋めるものは何もなく、逆に心から抜き取られたかのように空白が広がるのみ。

「ポン、マコ、すまねえ」

海老塚三人衆の二人へと謝罪の声が自然と漏れる
自分には何もできなかったかも知れない。
出会えてもいないから、自分に罪はないという人もいるかも知れない。
だが、島にすらいないあの二人よりは、より確実にヒロミを救えたことは明らか。

坊屋春道は、あまり過去を語らない。
特に辛い過去は語らない。
だから、今も後悔は残さないし、周りにも見せない。

――ただ、今だけ
このタバコを吸い終わるまではヒロミへの黙祷を捧げたかった。

フン!名前がボーヤで頭は金髪かよ、バカじゃねーか!!

そんな最悪でサイコーな初対面
本当に色々とあった。
毎回、影でフョローをくれてることは、それとなく気づいていた。
武装戦線の時も、ブルと喧嘩別れした時にしても
他にも美籐兄弟の時に嗅ぎまわってくれてたこともヤスから聞いていた。
感謝なんて気持ちがあるわけじゃない。互いが楽しいから連れ合っていただけ。
……それでも……それでも……

「……もう終わりか」

火を灯していたタバコは先端から根元まで移り、ついには儚く消えていく。
それを確認すると、残した根元を親指ではじき上空へと打ち上げる。
短くなったタバコは緩やかな放射線を描き最高到達点へとたどり着くと
重力に負け、再び地上へ向かう。
そこへタバコが残り一メートルで地面へ転がる前に、横に立つ男の鋭い雷鳴のような蹴り足がタバコを捉える。
足はそのままに近くにそびえたっている樹へと加速し、蹴り足がタバコと樹の両方を撃蹴、怒号が鳴り響く。
樹と春道の足の裏にて挟まれたタバコは摩擦を起こし無数の塵となり
衝撃の行き先であった一本の樹は激しく揺れる。
振動が数メートルも上である末端まで伝わったのか、直接蹴られたかのように何枚もの数、新緑に染まった木の葉が乱れ落ちていく。

「……さあ、キリノちゃんの元へ戻るか」

隣で揺れている樹は無視をして、春道は進む。
後悔も、無念もマイナス的な思考は全て捻じ込み、笑顔を作り歩き出す。
戻った時、紀梨乃も一緒に笑っているような気がした。


■ ■ ■ ■ ■ ■


沖木島の南西、坊屋春道の後輩であり
桂言葉からの逃亡を果たした花澤三郎も正午の放送を終え
無表情のままに立ち尽くしていた。

「……十人」

三郎には人を殺す覚悟がありながらも、実際は一人も殺せていない。
その事実がありながらも、十人の死亡者
相変わらず顔の筋が変わないため、傍目では感情が読めない
悲しんでいるのか、喜んでいるのか

三郎が優勝を目指している以上、十人の死亡者というのは喜ぶべきところかも知れない。
しかし、鈴蘭の先輩である桐島ヒロミの死亡
己が置いてきた藤岡ハルヒの死亡
これについて、何も感じていないわけがない。
特に藤岡ハルヒの死亡に、三郎は深く関わっている。
藤岡と共に置いてきた七原が殺害したとも考えられない。
もしかしたら、他の殺害者が現れて藤岡を襲ったのかも知れない。
それとも、最初から所望していた自分自身の殺害……つまり、自殺を図ったのかも知れない。
どちらにせよ、三郎が止めようと思えば止められた。
守ってやってもよかった、説得してやってもよかった。
だが、三郎は最初から反対を選択している。
死にたがっているものに説得どころか、自分が殺してやろうとさえ思っていた。
言葉から逃げた今、七原と藤岡を殺しに戻る選択肢も三郎にはあった。
しかし、放送で流れた藤岡ハルヒの名前を聞くともう二度とあの場所へ戻る気にはなれなかった。

襲われたか、自殺
このどちらでも、七原秋也はもういないだろう
そして、それよりも自分が殺すことも出来なく
守ることも出来なかった曖昧な迷いの中での結果によって生まれた藤岡ハルヒの死亡。
それを死体という形で視認したくなかった。

鈴蘭高校一年戦争覇者、花澤三郎は基本無表情だ
これから先、表情豊かになっていくとしても今現在高校一年の三郎は無表情
悲しみも喜びも簡単にわかるものではない……いや、藤岡ハルヒならば読めたかも知れない
だが、そんな可能性も今はもうない。
自分たちが優勝するために三郎は動かなくてはならない。
桐島ヒロミの死亡も、藤岡ハルヒの死亡も歩みを止める存在であってはならない。
三郎はそれを自認すると、目の前にそびえたつ一本の樹に目を留める。
そして、ふぅーと体中から搾り出すように空気を吐くと豪快に脚を振り上げる。

七原に決めたときと同じように、ダンに決めたときと同じように
感情すべてを振り脚に込めて捻り込む。

三郎の想いを受け取った樹は、悲しみを伝わって幹をせり上がり
木の葉まで伝道した衝撃は、喜びを表すようにガサガサと音を撫でる。

午後十二時十五分
名もない二本の樹だけが静かに揺れていた。


【H-9/道/1日目-日中】

【千葉紀梨乃 @BAMBOO BLADE】
 [状態]: 健康
 [装備]: 短刀
 [道具]:デイバッグ、支給品一式、チャッカマンなどの雑貨数点、常備薬
 [思考]
  基本:殺し合いはしない。
  1:室江高校のみんなを探す
  2:そのために、島を一周する。まずは氷川村へ
  3:春道は、信用できそうだと思っている

 [備考]
※春道から、加東秀吉以外の鈴蘭高校出身者の特徴を聞きました。



【坊屋春道@クローズ】
 [状態]: 下痢気味(薬によって回復傾向)
 [装備]: ワルサーPPK、ワルサーPPKのマガジン、改造ライター(燃料:90%)
 [道具]:デイバッグ、支給品一式、救急箱、缶詰、私物のタバコ
 [思考]
  基本:キリノと仲を深める
  1:キリノを守る
  2:電話番号をもらう
  3:できれば、その先も……

 [備考]
※紀梨乃から、室江高校出身者の特徴を聞きました。


【G-5/森の中/1日目-日中】


【花澤三郎@クローズ】
[状態]:健康 少し疲労
[装備]:ショットガン(SPAS12) アーミーナイフ
[道具]:デイパック、支給品一式、単車のキー、ランダムアイテム1(武器ではない)
[思考]
基本:仲間を生かして帰す
1:俺は――――
2:覚悟を決める