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「ここは少し気をつけてね」  沢近愛理は目の見えない西園寺世界を、丁寧に誘導しながら北へと進んでいた。  世界と遭遇してから沢近は、川が近くにあること  ホテル跡が見える位置にいないことから、自分達の居場所がD-1で間違いないと確信していた。  それを元に行き先を考慮した場合、北には鎌石村、南には平瀬村この二つが目的地にあがる  どっちでも良かったのだが沢近が選んだのは鎌石村だった。  平瀬村の方が近いのだが何故か南よりも、北の道の方が整備されており盲目の世界を連れて移動するなら  鎌石村に向かう方が効率がいいと思い、北へと道を進めていた。  それに沢近は直感的に感じていた。北に同じクラスメイトがいる気がすると  ………それは、女の勘というもの 「すいません、私のせいで沢近さんにまで迷惑をかけて……」  沢近に声をかける少女、西園寺世界は普段つけなれていないサングラスに戸惑いながらも  盲目を装い、沢近を騙し続けていた。  騙しているがために、沢近の誘導するとおりに北へと進んでいたが、内心は穏やかではなかった。  村に向かうために北へ進むのはわかる、だが鎌石村でなくとも平瀬村でいいのではないか?  という疑念がある。盲目を演じているだけの世界には、沢近の盲目への配慮が理解できない。  どちらにしても沢近を利用しつつ、誠、刹那ら同じ学校の生徒と合流を果たしたい世界からすると構わないのだが  沢近と同様に世界もまた直感的に北からあることを感じていた。  ただ、世界の直感は沢近のそれとは違い、嫌な予感そのもの  ………それも、女の勘 「いいのよ、私が好きでしてるのだから」 「……ありがとうございます」  それぞれの思いを胸に秘めつつ  騙す女と騙される女の歩みは、着実に北へと向けられていく。 「そういえば忘れてたけど、お互い、同じ学校の生徒の情報交換しない?」 「……そうですね」  そう言うと世界に気を利かせながら、ゆっくりと座らせて、沢近も地面へと座り込む。 「それじゃあ、悪いけど西園寺さんの学校から聞いていい?」 「いいですよ」  ニコリと笑う沢近に世界は話し始める。 「私達の榊野学園は、私以外、男一人に女三人ですね」 「……うんうん、それで特徴とかもできれば教えてくれないかな?」  世界は沢近が、こんなにも笑う人間だとは思っていなかった。  こんな場所で盲目の少女相手に微笑みかけながら話しかける沢近に感心する。  ………この人は、なんて馬鹿なんだと  世界の頭の中では沢近はただの人形にすぎない。  敵が現れれば盾にするなり、置いて逃げるなりと利用できるだけ利用してやる予定だ。  だが、人形自体がこちらに信頼を寄せてくれるに越したことはない。  どう利用するにしても信頼があれば楽に利用できる。  情報ごときで得られる信頼なら安いもの……更に世界は情報を沢近に与えていく。 「まずは伊藤誠、見た目も中身も少し馬鹿な所があるけど頼りになるよ」 「……うんうん、他の人は?」  沢近の笑顔が一層、厚くなる。 「次に清浦刹那、私の親友で博識だから、かなり頼りになると思う  身長は低めで、頭には赤いリボンを着けてるよ」 「……ふーん、次は?」  しつこく聞いてくる沢近に、若干のイラつきを覚えながらも続ける。 「えーっと……次は桂さんかな。 桂言葉さん、この人は髪がロングで何と言っても胸がでかいかな」 「へー……胸ねぇ」  気のせいか、沢近のトーンが下がった気がしたが、最後の一人を紹介してしまう。 「最後は加藤乙女さんかな、私は直接の面識は薄いから、正直なところよく分からない人  まあ、こんなところですけど」 「……そう、ありがとう」  今までで、最高の笑顔を向ける沢近 「じゃあ、次は私の番ね。――――でも、その前に答えてほしいことがあるんだけど、いい?」 「? いいですよ」  聞きながら、横に置かれているコルトM4カービンを手に取る沢近  その手がゆっくりと世界の方向へと向けられる。  当然、コルトM4カービンの銃口も世界へと向く。 「西園寺さん、何で嘘をつくの?」 「な、なにをするんですか? 沢近さん!!」  慌てて問い詰めるが、その突撃銃の銃口は動かない。 「……なんで、私が銃を構えているとわかるの?」 (………しまった) 「なんで、貴方、同じ学校の生徒の名前言えるわけ? 私、貴方に名簿読んであげてないわよね?」  世界は今になって気づく、沢近の目が冷たく沈んでいたことに………。  沢近が笑いはじめてから、顔は笑っていても、目はずっと、あの目だった。 「それは……沢近さんが読んでくれたじゃないですか?」 「嘘よ、私が忘れるわけないでしょ」 「銃も、音がしたから分かっただけですよ」 「嘘よ、それに貴方、私が銃を手に取る時、目で追ってたわよ」 「………クッ」  逃げられない攻めに、対応が遅れていく。 「いい加減に認めなさいよ、貴方、目、視えてるんでしょ?  この状況でその嘘をつくってことは、理由は少ししかないわよね」 「…………」  もう、この状況では言い逃れできないと判断した世界は  ゆっくりと太ももに挟んであるスタームルガーに手をかける。  二人の少女が対峙する  金髪の少女が疑惑と疑問を抱き、黒髪の少女へと突撃銃を構える  黒髪の少女は全てを利用して生き残る為に、太ももへと手を伸ばす。  ―――――瞬間、眩い光が空気を切り裂いた。  あまりにも強烈な光に、空気の膜を全身で感じるほどだった。  人間は強烈な光を浴びると全員がほぼ同じ行動を取る。  それは[体を丸める]こと。  目を覆うことよりも先に、人間の本能として体を丸めて倒れ込んでしまう。  光が降り注いだこの場の人間も、当然、倒れ込んでしまう。  だが、西園寺世界は倒れ込んでいる沢近を尻目に蒼然と立ち尽くしていた。  その立ち尽くしている少女、西園寺世界に駆け寄る、一つの影  ウェーブのかかったロングな髪を揺らし現れたそれは、光を放った原因の少女、宮崎都  宮崎都は奇襲のタイミングを計っていた。  播磨を殺害した後、愛する彼氏、ダンを急いで探すために南へと進んでいたが  いくら急いでいても、道のど真ん中を歩くほど馬鹿じゃない彼女が草木を掻き分けながら  進んでいたところにみつけたのが、沢近と世界の二人だった。  隠れながら二人の様子を窺っていた都だったが、沢近が誘導する姿を見て世界が盲目だということに気づくと  あとは沢近をどうにかすれば、ほぼ勝ちが確定すると確信した。  デイバックの中には彼女らを殺害できる凶器は十分に揃っている。  愛する彼氏のためにも二人を殺害することに、一切の迷いはなかった。  片方の少女、金髪の方は播磨から聞いたお嬢……沢近愛理と特徴が一致している  つまり殺す前に情報を聞きだす必要があるのは隣の盲目の少女  そして、先に戦力を奪わないといけないのは情報通りだと運動神経抜群、且つ、銃器を所持している沢近愛理  実質一人だが決して侮れない……ミスは一度たりとも許されないのだ。  沢近を無力化してから世界に情報を聞き出す。  それを実行できる凶器は持っていたが、飛び込むタイミングに都は迷っていた。  迷っていたところで二人が座り始め、話し始めたのでそれを好機とみると  播磨拳児のかけていたサングラスをかけ  支給品のうちの一つ、閃光弾(フラッシュバン)を取り出し、ピンをはずし、全力で投げつけた  眩い閃光の中、走り出して即座に沢近にトドメをさせると思っていた都であったが、  想像よりも閃光弾の威力は凄まじく、空気の振動を肌で感じる程であったため、出足が遅れてしまう。  二人の前に駆けつけると予想通り、盲目の一人は立ち尽くしており、沢近の方は目を押さえて倒れ込んでいた。  予定通りに沢近の方へ拳銃、FN ハイパワーの銃口を向ける。 「グッバイ、お嬢」  皮肉を込めて、播磨が沢近に使う愛称で呼び指先に力を加えようとするが  打つ前に気づく、都からみて左側から銃口が都自身に向いていることに……… 「この光はあなたの仕業?」  銃口を都へと向けているのは西園寺世界、盲目のはずの黒髪少女だった。 「うぅ……何が起こったかわからないけど説明してもらうわよ。西園寺さん」  視力が完全に回復はしていないが、起き上がり、世界のいる方向へと銃口を再び向ける沢近愛理  ピンクの髪の少女の銃口は金髪の少女へと向く  金髪の少女の銃口は黒髪の少女へと向く  黒髪の少女の銃口はピンクの髪の少女へと向く  三者三様、It,s  a  triangle  宮崎都の失態は世界を盲目と信じてしまっていたこと。  それに伴い最初の標的を沢近にし、サングラスをかけていた世界に対して多大な隙を与えてしまった。  豪勢な支給品に浮かれて、目先のことに注意が向いてなかったことに唇をかみ締める。  それでも愛する彼氏、ダンのために彼女は負けられない………  沢近愛理の失態は閃光を世界が発生させたものと勘違いしたこと。  目が視えるようになったときに冷静に状況を判断し、銃口を都へと向けていれば今の膠着状態はありえなかった。  一旦、この状態になったら銃口を動かすわけにもいかない。  沢近の感情を示すかのように髪が舞う。  西園寺世界の失態は沢近が目覚めるまでに都を始末できなかったこと。  彼女も不意に訪れた閃光に動揺してしまい判断を誤ってしまった。  愛する誠のため、そして自分の為に打たなければならない瞬間だったが  人を打つことに躊躇した数秒が運命を分けてしまった。  焦る思いと共に汗が掌を伝う。  ――――三者の対面が続く。  □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □  時間にして、五分ぐらいが経過しただろうか  トライアングルの一角、沢近が口を開く。 「貴方、さっき私のことをお嬢と呼んだわよね?」 「……呼んだけど、それがなに?」 「嫌なやつを思い出すから、止めてくれないかしら?」 「その嫌なやつって播磨のこと?」 「!! ヒゲと会ったの?」 「会ったけど何?」 「どこにいるのよ!!」 「……どこにいるのよって、このサングラス見ても分からない?」  そう言うと余った左手でサングラスを軽く持ち上げる。 「……………ま さ か」  沢近も内心では気づいていた。  このピンク女がお嬢と呼んだ瞬間に冷たい思考が流れ込み、一瞬で答えは出ていた。  それでも答えはほしくなかった。しかし、ピンク女のかけているサングラスは間違いなくあの播磨拳児のものだった。  それを見誤ることはないと自分自身が一番にわかっている。 「………ヒゲを殺したの?」 「ヒゲ? ああ播磨のことね………殺したわよ、私とダン君のために」 「……貴方が殺したの?」 「当然」  周りの空気が張り詰める。激情に揺れる心を沢近は自分でも制御できない。  このピンク女は何を言っているの? 何であんなに冷静に、楽しそうに殺したと言えるの?  …………ヒゲ  何かと腐れ縁の多かった播磨拳児と沢近愛理  特別な感情がないようであるようで  沢近にとって、言葉にはできない想いが募るのは播磨拳児ただ一人だった。  いつも一緒にいて、周りを賑やかにさせてくれる親友達には言葉にできる想いが幾重にもある。  でも本当に自分自身でもわからない感情を抱ける人物は、いつもただ一人だけ  怒り、悲しみ、情熱、全力で体当たりしてもそれ以上のものを返してくれる人物  表も裏も全て受け止めてくれた。  ………くれた。  全身がねじきれるような哀しみが沢近を襲う。  張り詰めた空気が動き出す。  沢近の突撃銃が瞬時に都へと向く。  世界も都も分かっていたかのように動揺がない。 「……貴方は私の手で殺す」  ツインテールが揺れる。 「さて、1対2だけど、どうするの?」  静観を保っていた世界も状況の変化により喋り出す。  現在、都に二つの銃口、沢近に一つの銃口が向けられている。 「ふぅ……大ピンチってやつか」  言葉とは正反対の態度を取る少女。   「……話は変わるけどさ、あんた達、愛する人とかいる?」  都の場違いな質問  だが、同年代の年頃には大きな問題 「………いるわ」  即座に返事をするのは西園寺世界 「…………答える気はないわ」  今、都を殺すことしか頭にない彼女に答える気がないのは当然であった。 「……そう、私もいるわ。答える気がないと言ったあんたにもきっといるはず  でも、その想いはどれ程のものなわけ? その相手と違う環境になったら冷める程度?  それとも、これから一生を懸けて愛していきたい人?   私はあんた達とは違う  ダン君がいて、私がいる  ダン君の為に、私は動く  私は愛するダン君のためにだったら人も殺す。  私達が優勝して、私とダン君で日常に帰る。  だから……………」  都の背景から黒い蒸気が吹き出し、その膜が放射線上に広がっていく。 「私の愛が一番深いのよッッッッ!!!!!」  世界と沢近は見た、都の左袖からナイフのようなものが出現するところを  その見たこともないナイフが左手に収まる  それと同時に都の両手からそれぞれの狂気が打ち出された。  右手、FN ハイパワーからは弾丸が―――  左手、スペツナズナイフからは刃が―――  放たれた二つの狂気の先から、それぞれ悲鳴がとぶ。  弾丸は沢近の突撃銃を弾き飛ばし、刃は世界の右手の付け根、右胸へと突き刺さっていた。 「お嬢、あんたツイてるわね」  そう言い、悲鳴を喚き散らしている世界を置いて、沢近一人へとFN ハイパワーの銃口を定める。 「……クッ、貴方は許さない!!」 「どの口が言ってんのよ? 今の立場分かってるの?」 「次に……次に会った時…………貴方は私が必ず殺す! 」 「次? 次なんかないのよ! 今、死ね!!」  指に力を込め、発砲するが指よりも先に沢近は駆け出していた。  一秒前まで沢近が立っていた場所を弾が通過する。 「クソ! 逃げ切れるわけねえだろ!!」  疾走する沢近に次々と撃ち込む  撃ち込むが当たらない、肩や腕に微かに当たっている気もするが決定的な一発が当たらない。  それは、沢近の逃げ足が想像以上なこと、都が銃器を撃ちなれていないことが大きかった。  撃ち込むたびに、沢近の姿が小さくなっていく。  だが、此処は見晴らしのいい道、林側は沢近が逃げている方向とは逆だ。  逃げている方向には海しかなかった。  それを確かめると沢近が落とした突撃銃、まだ喚いている世界が落としたスタームルガーを急いで拾い追いかける。 「逃げられるわけないじゃない! いい加減、諦めろ!!」  黒いオーラを放出しながら、沢近を追いかける都、その顔にはピンクの面影は一つもない。  遂に崖まで追い詰めたが………ブラック都は驚愕した。  なんと沢近は崖目前だというのに一切減速しないのだ、いや、それどころか更に加速していく。 「………まさか!!」  沢近の行動に予想はつく……つくがそれは大きな賭け、だがその賭けすらさせるわけにはいかない。  確実に命を奪わなければ意味がない。  距離はまだあるが足元を狙ってFN ハイパワーを次々に撃ちこむ。  やはりと言うべきか、沢近の足には当たらない。  もう都には沢近のその『賭け』を見詰めることしかできなかった。  ……………沢近愛理  その少女には迷いがない。  全力で逃走するその姿は美しくもある。  後ろも下も見ない、その疾走する少女の視線の先には蒼い空のみが広がっている。  崖が目前に迫ろうとも加速する彼女を見つめるのは神か悪魔か―――――― 「………私はまだ死ねない………あのピンク女を殺すまで……そのためにも………」  その呟きは誰のためなのか――――― 「いっけ――――――――――――!!!!!!!!!」  そして、少女は空へと飛び込んだ。  □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □  水面の過度な衝撃に身を痛め  冷たい塩水が全身を濡らし、体温を奪う。  だが、空を駆けた少女、沢近愛理は『賭け』に勝っていた。  飛び込んだ先の海に岩場が剥き出ていたなら、即死は免れなかったであろう。  しかし、賭けに勝ちはしたが、海というものは沢近が想像するよりも過酷を極める自然の驚異だった。  微かに被弾した肩と腕も痛み、意識が薄くなっていく。 『お嬢!! 死ぬな! お嬢!!!』  …………遠くから、あいつの声が聞こえる 『生き延びろ、お嬢!!』  …………あんたは簡単に言うけどね、肩や腕は痛むし  思ったよりも流れがきつくて、上手く泳げないのよ 『いいから生き延びろ!!!』  …………本当にあんたは自分勝手ね  助けてくれるわけじゃないクセに 『馬鹿ヤロウ! 自分の未来は自分で切り開け!!』  …………わかってるわよ! ヒゲ、あんたのため  いや、私自身のために生き延びてやる!  がむしゃらに泳ぐ、どこに着くかも分からない。  意識もほとんどなく朦朧としていたが  生きる意志だけが彼女を支えていた。  どれだけ時間が経過しただろうか?  狂気の祭典が行われている、この沖木島で  太陽に煽られ、その少女が目を覚ます。 「うぅ………私、生きてるの?」  制服はズボ濡れ、デイバックは都が奇襲してきた場所に置いてきてしまった。  それでも少女、沢近愛理の眼が死ぬことはない。 「見てなさい、ヒゲ! 仇は取ってあげるわ」  復讐と恋愛においては女は男よりも野蛮になれる  無意識のうちにも、その二つを併せ持つことになった沢近愛理の行く末は―――― 【E-1 高原池/一日目 昼】 【沢近愛理@School Rumble】 【装備】: 【所持品】: 【状態】:若干の身体的衰弱  腕と肩に銃のかすり傷 【思考・行動】 1:ピンク女を殺す 2:地図もないため、誰かと接触する。 3:天満、美琴、かれんと合流  痛い! 痛い! 痛い!  右手の付け根に食い込んでいるナイフの刃から赤い血が滴り落ちる。  逃げないと……銃も奪われた……  早く逃げないと……  あまりの激痛に思考も低下するが今、一番にしなければならない行動は本能が察している。  ……逃走、それしかない。  右手をぶらりと下ろしながらも、必死に林へと逃避する世界  痛みに悶えている間に、あの二人はこの場にいなくなっていた。  何が起こったかはわからないが、今のうち、今のうちに逃げなければ殺される。  何が悪かったかもわからない。  少女はただ、自分のために人を利用としただけ  利用される側にじゃなく、利用する側に回った。ただ、それだけ  それが少女の想いの全てだった。  (何で私がこんな目にあわないといけないのよ  あの襲ってきた人にしても、沢近さんにしても、私が何をしたっていうの?)  愚痴を声に出して呟きたいが、今はそんなことさえも体力の消耗に繋がる  一歩、また一歩進むごとにナイフの刃が揺れて、肉を切り裂く。 (うぅ……死ぬ程痛い!!)  血が腕を伝わりポタポタと地面に落ちていく。  刃を抜いてしまいたい世界であったが、立ち止まる余裕がない  林に入って身を隠してから抜こう、そう決意して右手を庇いながら歩いていく。 「はぁ……はぁ……もう少し……」 「はぁーい、残念ー」  その声と同時に首筋に衝撃を受け、世界は意識を失った。  □ □ □ □ □ □ □ □ □ □  「ンー……ンー」  草木に囲まれた一本の木  その木に手足を縛られている少女。  その少女の目はどこか上の空で、右胸周辺にはナイフが突き刺さっていた。  少女の名前は西園寺世界  ナイフの痛みと後頭部への打撃のせいか意識は朦朧としている。 「……ンー!」 「うるさい!!」  木に縛られている少女に蹴りを入れるもう一人の少女、宮崎都  彼女は世界に顔を近づけて質問する。 「さあ、答えなさい あんたの学校の生徒の特徴を!」  そう言い、口に嵌めさせていた草を外す。 「誰が言うか!」  即座に蹴りを入れる都。  だが蹴りを入れても世界に答える様子はなかった。 「仕方ないわね………」  そう言うと世界の手を取り、爪の中にナイフの刃を突き入れた。 「キャァァァァァー!」  あまりの激痛に喉の奥から悲鳴が湧き出る。  爪からは血が滲み出ていたが、それをみて満足そうに都は笑う。 「どう? 喋る気になった?」 「うぅ……喋らないって言ってるでしょ!!」  涙目でも意地だけは通そうとする世界を見て、虫唾が走る都。  都はその世界の目を見て、一人で納得すると元来のS魂に火がついたのか、次々にデイパックから凶器を取り出していく。 宮崎都自身の支給品 閃光弾3つ、スペツナズナイフ3本 播磨拳児を殺害して手に入れた支給品 FN ハイパワー(自動拳銃)と弾丸、手榴弾4つ 沢近愛理が置いていった支給品 コルトM4カービン(突撃銃)、アーミーナイフ 西園寺世界から奪った支給品 スタームルガー ブラックホーク  広げてみると思わず、うっとりとするほどの凶器に囲まれ、都はご満悦であった。  特に都の支給品と播磨の支給品は素晴らしく、都自身、盾にでもできそうな播磨を殺したのは  二人の支給品を確認した時に、これ程の武器が揃えば播磨と共に行動して動向を探るより  自分ひとりで行動して他校の生徒を積極的に殺害したほうが  効率がいいという理由があった。  ただ、今回はその支給品によって油断をしてしまい実質一人逃がしてしまうことになってしまった。  反省しなければならないと都は自分に言い聞かす。  支給品による油断、更には今回、一番最初に沢近へ銃口を向けたときに一瞬、躊躇してしまった。  その一瞬をもう一人の世界に狙われてしまったのだ。  心では人を殺す覚悟ができていても、まだいらない理性が残っている……。  そのいらない理性はこの島においては不必要なもの。  二人に銃口を向けられたときに逆転できたのも二人の理性に救われたわけだが逆に言えば、その理性は危険なのだ。  銃は撃てても、人の命を打てないなら、それは意味を成さない。  だから此処で、その理性を全て吹き飛ばす。 「答えないなら答えないで一向に構わないわ、こっから先は……地獄よ!」  笑顔で語るその言葉に世界の背筋が凍る。  まるでピクニックに、どのお菓子を持って行こうか悩んでいる小学生のように、武器を見比べている。 「決ーめた! 拷問って言ったら、これしかないわね」  そう言い、手に取ったものはアーミーナイフ  恋人をみる目でうっとりとナイフの刃を見詰める都。 「これ使っちゃうけど、本当に答えないでいいの?」 「…………」 「へー、頑張っちゃうんだ、愛する彼の為? 確か、お嬢があんたの名前、西園寺って言ってたわよね」  デイバックから名簿を取り出し、西園寺世界を見つけると同じ学校の生徒を読んでいく。 「伊藤誠、桂言葉、加藤乙女、清浦刹那か……男は一人? いや、この刹那ってのも男の可能性があるか」 「女よ!」 「じゃあ、この伊藤誠ってやつがあんたの彼氏?」 「……そうよ」  世界にとって誠の彼女ということは絶対に譲れない  人には譲れないことが一つは必ずある。  世界にとって、それは譲れないものだった。 「彼氏ねぇ、あんたさ、その彼氏をどれだけ愛してるわけ?」 「…………あんたよりは愛してるわよ」  瞬間、目の横を何かが通りすぎた。  ……1秒、何が起きたかわからない。  ……2秒、都の持つアーミーナイフが赤く光っている。  ……3秒、右下の地面に何かが落ちている。  ……4秒、頭の右半分が猛烈に熱い  ……5秒、激痛と共に落ちているそれが何か分かった。  ……それは世界自身の右耳 「キャァァァァァー!!!!!!!!!」  もう何度になるか分からない悲鳴が上がる。  17年間、頭に付属していた右耳が地面にあること  その右耳のあった位置から吹き出る血しぶきに痛みよりも恐怖が先にくる。  その前では都がブラック全開、世界を殺す勢いで睨みつけていた。 「私よりも愛している? 何寝ぼけてんの? 私のダン君への愛にあんた如きが敵うわけないでしょ!」 「耳が、耳が!!」 「黙れ! そして私の話を聞け! 私のダン君への愛はこの島、この国、この世界、この宇宙で一番深い!!!!」  その声は最早、言葉というものではなく、叫びに近いものだった。   「あんたなんかとは根本的に違うのよ  今回、もしチーム戦じゃなくて通常通りのプログラムだったなら、あんた、彼を殺したんじゃない?  でも私は違う、私は最後までダン君の為に戦って最後にはダン君の前で綺麗に散ってみせる!」  都の語りも世界の耳には入らない。  胸を刺され、爪を突かれ、耳を削がれて意識が遠くへと飛びつつある。  口からも咳のように血が吹き出る。 「何? もう死ぬつもりなの? まだ死んでもらったら困るわ」  そう、彼女は情報がほしかったはずだ。  私を簡単に殺せるはずがない。  世界はまだ、自分が助かるものだと心底、信じきっていた。 「………まだ私が満足してないもの」  えっ?  何って言ったの? 「あんたの学校の生徒の情報なんかいらないわ、どうせ全部殺すから無駄」  じゃあ、私はどうなるの? 「あんたには死んでもらう」  ようやく此処にきて、絶望と向き合う世界  ―――彼女の世界が消えようとしていた。  □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ 「世界! 助けに来たぞ!!」  ……あぁ、誠、やっぱり助けにきてくれたんだ。 「当然じゃないか!! 俺は世界の為なら何時でも駆けつけるさ」  ……そんな嬉しいこと言ってくれちゃって 「世界、大丈夫?」  ……刹那、あんたまで 「世界は私の親友、助けにくるのは当然」  ……ありがとう、刹那 「さあ、他の生徒は全員殺したから早く帰ろう」  ……本当? たまにはやるじゃない、誠 「当然さ!」 「当然よ」  ……ありがとう……誠……刹那……  ありがとう……誠……刹那……  …………ありがとう 「あ……り………が……ま……こ……」  木に括られている少女の口からは涎が垂れ流れ、辺りにできている血の池溜まりに薄っすらと涎の膜ができていた。  右耳はなく、全ての爪は真っ赤、右胸から太腿にかけては一線の切り筋が走り  小爪の三日月のように美しかった唇には無数の切り傷が刻まれ、小米桜のように白かった歯は全て地面へと転がっている。  体中を切り裂かれ制服の中にあった素肌はほとんど剥き出し状態であった。  その括られている少女にはもう、西園寺世界の面影はない。  そして、全てに後悔を残し彼女の命の灯火は消え去っていった………。    その西園寺世界の肉片から少し離れた道にてピンクの女、宮崎都は微笑む。  これで、この島にいらない理性は全て置いてきた。  次、誰かに会っても彼女は躊躇しないだろう  ダンを守る為、優勝の決意を一層固め、彼女は歩き出す。  ――――その足跡には黒い霧が漂っているようだった。 &color(red){【西園寺世界@School Days 死亡】} &color(Slateblue){【残り34人】 } 【C-2/1日目-午前】 【宮崎都@BAMBOO BLADE】  [状態]: 若干の興奮状態 健康  [装備]: コルト M4 カービン (30/30)   スタームルガー ブラックホーク(6/6)予備弾30  [道具]:デイバッグ×2(基本支給品は全て二人分) 播磨のサングラス  閃光弾(3/4)      スペツナズナイフ三本 FN ハイパワー(5/13)予備弾13×3、手榴弾(4/4)      コルト M4 カービン の予備マガジン×3  [思考]  基本:栄花段十朗と生き残る   1:栄花段十朗を探す。他校の人間は殺す。   2:室江高校の人間は誰も殺せないだろうとアテにしてません  [その他]  矢神高校出身者の特徴や性格を播磨の認識を元に簡単に知りました。全員安全だと思っています  スタームルガーは大腿にベルトで止めて隠しています。 *投下順で読む Next:[[<ハロー、グッバイ>]]
「ここは少し気をつけてね」  沢近愛理は目の見えない西園寺世界を、丁寧に誘導しながら北へと進んでいた。  世界と遭遇してから沢近は、川が近くにあること  ホテル跡が見える位置にいないことから、自分達の居場所がD-1で間違いないと確信していた。  それを元に行き先を考慮した場合、北には鎌石村、南には平瀬村この二つが目的地にあがる  どっちでも良かったのだが沢近が選んだのは鎌石村だった。  平瀬村の方が近いのだが何故か南よりも、北の道の方が整備されており盲目の世界を連れて移動するなら  鎌石村に向かう方が効率がいいと思い、北へと道を進めていた。  それに沢近は直感的に感じていた。北に同じクラスメイトがいる気がすると  ………それは、女の勘というもの 「すいません、私のせいで沢近さんにまで迷惑をかけて……」  沢近に声をかける少女、西園寺世界は普段つけなれていないサングラスに戸惑いながらも  盲目を装い、沢近を騙し続けていた。  騙しているがために、沢近の誘導するとおりに北へと進んでいたが、内心は穏やかではなかった。  村に向かうために北へ進むのはわかる、だが鎌石村でなくとも平瀬村でいいのではないか?  という疑念がある。盲目を演じているだけの世界には、沢近の盲目への配慮が理解できない。  どちらにしても沢近を利用しつつ、誠、刹那ら同じ学校の生徒と合流を果たしたい世界からすると構わないのだが  沢近と同様に世界もまた直感的に北からあることを感じていた。  ただ、世界の直感は沢近のそれとは違い、嫌な予感そのもの  ………それも、女の勘 「いいのよ、私が好きでしてるのだから」 「……ありがとうございます」  それぞれの思いを胸に秘めつつ  騙す女と騙される女の歩みは、着実に北へと向けられていく。 「そういえば忘れてたけど、お互い、同じ学校の生徒の情報交換しない?」 「……そうですね」  そう言うと世界に気を利かせながら、ゆっくりと座らせて、沢近も地面へと座り込む。 「それじゃあ、悪いけど西園寺さんの学校から聞いていい?」 「いいですよ」  ニコリと笑う沢近に世界は話し始める。 「私達の榊野学園は、私以外、男一人に女三人ですね」 「……うんうん、それで特徴とかもできれば教えてくれないかな?」  世界は沢近が、こんなにも笑う人間だとは思っていなかった。  こんな場所で盲目の少女相手に微笑みかけながら話しかける沢近に感心する。  ………この人は、なんて馬鹿なんだと  世界の頭の中では沢近はただの人形にすぎない。  敵が現れれば盾にするなり、置いて逃げるなりと利用できるだけ利用してやる予定だ。  だが、人形自体がこちらに信頼を寄せてくれるに越したことはない。  どう利用するにしても信頼があれば楽に利用できる。  情報ごときで得られる信頼なら安いもの……更に世界は情報を沢近に与えていく。 「まずは伊藤誠、見た目も中身も少し馬鹿な所があるけど頼りになるよ」 「……うんうん、他の人は?」  沢近の笑顔が一層、厚くなる。 「次に清浦刹那、私の親友で博識だから、かなり頼りになると思う  身長は低めで、頭には赤いリボンを着けてるよ」 「……ふーん、次は?」  しつこく聞いてくる沢近に、若干のイラつきを覚えながらも続ける。 「えーっと……次は桂さんかな。 桂言葉さん、この人は髪がロングで何と言っても胸がでかいかな」 「へー……胸ねぇ」  気のせいか、沢近のトーンが下がった気がしたが、最後の一人を紹介してしまう。 「最後は加藤乙女さんかな、私は直接の面識は薄いから、正直なところよく分からない人  まあ、こんなところですけど」 「……そう、ありがとう」  今までで、最高の笑顔を向ける沢近 「じゃあ、次は私の番ね。――――でも、その前に答えてほしいことがあるんだけど、いい?」 「? いいですよ」  聞きながら、横に置かれているコルトM4カービンを手に取る沢近  その手がゆっくりと世界の方向へと向けられる。  当然、コルトM4カービンの銃口も世界へと向く。 「西園寺さん、何で嘘をつくの?」 「な、なにをするんですか? 沢近さん!!」  慌てて問い詰めるが、その突撃銃の銃口は動かない。 「……なんで、私が銃を構えているとわかるの?」 (………しまった) 「なんで、貴方、同じ学校の生徒の名前言えるわけ? 私、貴方に名簿読んであげてないわよね?」  世界は今になって気づく、沢近の目が冷たく沈んでいたことに………。  沢近が笑いはじめてから、顔は笑っていても、目はずっと、あの目だった。 「それは……沢近さんが読んでくれたじゃないですか?」 「嘘よ、私が忘れるわけないでしょ」 「銃も、音がしたから分かっただけですよ」 「嘘よ、それに貴方、私が銃を手に取る時、目で追ってたわよ」 「………クッ」  逃げられない攻めに、対応が遅れていく。 「いい加減に認めなさいよ、貴方、目、視えてるんでしょ?  この状況でその嘘をつくってことは、理由は少ししかないわよね」 「…………」  もう、この状況では言い逃れできないと判断した世界は  ゆっくりと太ももに挟んであるスタームルガーに手をかける。  二人の少女が対峙する  金髪の少女が疑惑と疑問を抱き、黒髪の少女へと突撃銃を構える  黒髪の少女は全てを利用して生き残る為に、太ももへと手を伸ばす。  ―――――瞬間、眩い光が空気を切り裂いた。  あまりにも強烈な光に、空気の膜を全身で感じるほどだった。  人間は強烈な光を浴びると全員がほぼ同じ行動を取る。  それは[体を丸める]こと。  目を覆うことよりも先に、人間の本能として体を丸めて倒れ込んでしまう。  光が降り注いだこの場の人間も、当然、倒れ込んでしまう。  だが、西園寺世界は倒れ込んでいる沢近を尻目に蒼然と立ち尽くしていた。  その立ち尽くしている少女、西園寺世界に駆け寄る、一つの影  ウェーブのかかったロングな髪を揺らし現れたそれは、光を放った原因の少女、宮崎都  宮崎都は奇襲のタイミングを計っていた。  播磨を殺害した後、愛する彼氏、ダンを急いで探すために南へと進んでいたが  いくら急いでいても、道のど真ん中を歩くほど馬鹿じゃない彼女が草木を掻き分けながら  進んでいたところにみつけたのが、沢近と世界の二人だった。  隠れながら二人の様子を窺っていた都だったが、沢近が誘導する姿を見て世界が盲目だということに気づくと  あとは沢近をどうにかすれば、ほぼ勝ちが確定すると確信した。  デイバックの中には彼女らを殺害できる凶器は十分に揃っている。  愛する彼氏のためにも二人を殺害することに、一切の迷いはなかった。  片方の少女、金髪の方は播磨から聞いたお嬢……沢近愛理と特徴が一致している  つまり殺す前に情報を聞きだす必要があるのは隣の盲目の少女  そして、先に戦力を奪わないといけないのは情報通りだと運動神経抜群、且つ、銃器を所持している沢近愛理  実質一人だが決して侮れない……ミスは一度たりとも許されないのだ。  沢近を無力化してから世界に情報を聞き出す。  それを実行できる凶器は持っていたが、飛び込むタイミングに都は迷っていた。  迷っていたところで二人が座り始め、話し始めたのでそれを好機とみると  播磨拳児のかけていたサングラスをかけ  支給品のうちの一つ、閃光弾(フラッシュバン)を取り出し、ピンをはずし、全力で投げつけた  眩い閃光の中、走り出して即座に沢近にトドメをさせると思っていた都であったが、  想像よりも閃光弾の威力は凄まじく、空気の振動を肌で感じる程であったため、出足が遅れてしまう。  二人の前に駆けつけると予想通り、盲目の一人は立ち尽くしており、沢近の方は目を押さえて倒れ込んでいた。  予定通りに沢近の方へ拳銃、FN ハイパワーの銃口を向ける。 「グッバイ、お嬢」  皮肉を込めて、播磨が沢近に使う愛称で呼び指先に力を加えようとするが  打つ前に気づく、都からみて左側から銃口が都自身に向いていることに……… 「この光はあなたの仕業?」  銃口を都へと向けているのは西園寺世界、盲目のはずの黒髪少女だった。 「うぅ……何が起こったかわからないけど説明してもらうわよ。西園寺さん」  視力が完全に回復はしていないが、起き上がり、世界のいる方向へと銃口を再び向ける沢近愛理  ピンクの髪の少女の銃口は金髪の少女へと向く  金髪の少女の銃口は黒髪の少女へと向く  黒髪の少女の銃口はピンクの髪の少女へと向く  三者三様、It,s  a  triangle  宮崎都の失態は世界を盲目と信じてしまっていたこと。  それに伴い最初の標的を沢近にし、サングラスをかけていた世界に対して多大な隙を与えてしまった。  豪勢な支給品に浮かれて、目先のことに注意が向いてなかったことに唇をかみ締める。  それでも愛する彼氏、ダンのために彼女は負けられない………  沢近愛理の失態は閃光を世界が発生させたものと勘違いしたこと。  目が視えるようになったときに冷静に状況を判断し、銃口を都へと向けていれば今の膠着状態はありえなかった。  一旦、この状態になったら銃口を動かすわけにもいかない。  沢近の感情を示すかのように髪が舞う。  西園寺世界の失態は沢近が目覚めるまでに都を始末できなかったこと。  彼女も不意に訪れた閃光に動揺してしまい判断を誤ってしまった。  愛する誠のため、そして自分の為に打たなければならない瞬間だったが  人を打つことに躊躇した数秒が運命を分けてしまった。  焦る思いと共に汗が掌を伝う。  ――――三者の対面が続く。  □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □  時間にして、五分ぐらいが経過しただろうか  トライアングルの一角、沢近が口を開く。 「貴方、さっき私のことをお嬢と呼んだわよね?」 「……呼んだけど、それがなに?」 「嫌なやつを思い出すから、止めてくれないかしら?」 「その嫌なやつって播磨のこと?」 「!! ヒゲと会ったの?」 「会ったけど何?」 「どこにいるのよ!!」 「……どこにいるのよって、このサングラス見ても分からない?」  そう言うと余った左手でサングラスを軽く持ち上げる。 「……………ま さ か」  沢近も内心では気づいていた。  このピンク女がお嬢と呼んだ瞬間に冷たい思考が流れ込み、一瞬で答えは出ていた。  それでも答えはほしくなかった。しかし、ピンク女のかけているサングラスは間違いなくあの播磨拳児のものだった。  それを見誤ることはないと自分自身が一番にわかっている。 「………ヒゲを殺したの?」 「ヒゲ? ああ播磨のことね………殺したわよ、私とダン君のために」 「……貴方が殺したの?」 「当然」  周りの空気が張り詰める。激情に揺れる心を沢近は自分でも制御できない。  このピンク女は何を言っているの? 何であんなに冷静に、楽しそうに殺したと言えるの?  …………ヒゲ  何かと腐れ縁の多かった播磨拳児と沢近愛理  特別な感情がないようであるようで  沢近にとって、言葉にはできない想いが募るのは播磨拳児ただ一人だった。  いつも一緒にいて、周りを賑やかにさせてくれる親友達には言葉にできる想いが幾重にもある。  でも本当に自分自身でもわからない感情を抱ける人物は、いつもただ一人だけ  怒り、悲しみ、情熱、全力で体当たりしてもそれ以上のものを返してくれる人物  表も裏も全て受け止めてくれた。  ………くれた。  全身がねじきれるような哀しみが沢近を襲う。  張り詰めた空気が動き出す。  沢近の突撃銃が瞬時に都へと向く。  世界も都も分かっていたかのように動揺がない。 「……貴方は私の手で殺す」  ツインテールが揺れる。 「さて、1対2だけど、どうするの?」  静観を保っていた世界も状況の変化により喋り出す。  現在、都に二つの銃口、沢近に一つの銃口が向けられている。 「ふぅ……大ピンチってやつか」  言葉とは正反対の態度を取る少女。   「……話は変わるけどさ、あんた達、愛する人とかいる?」  都の場違いな質問  だが、同年代の年頃には大きな問題 「………いるわ」  即座に返事をするのは西園寺世界 「…………答える気はないわ」  今、都を殺すことしか頭にない彼女に答える気がないのは当然であった。 「……そう、私もいるわ。答える気がないと言ったあんたにもきっといるはず  でも、その想いはどれ程のものなわけ? その相手と違う環境になったら冷める程度?  それとも、これから一生を懸けて愛していきたい人?   私はあんた達とは違う  ダン君がいて、私がいる  ダン君の為に、私は動く  私は愛するダン君のためにだったら人も殺す。  私達が優勝して、私とダン君で日常に帰る。  だから……………」  都の背景から黒い蒸気が吹き出し、その膜が放射線上に広がっていく。 「私の愛が一番深いのよッッッッ!!!!!」  世界と沢近は見た、都の左袖からナイフのようなものが出現するところを  その見たこともないナイフが左手に収まる  それと同時に都の両手からそれぞれの狂気が打ち出された。  右手、FN ハイパワーからは弾丸が―――  左手、スペツナズナイフからは刃が―――  放たれた二つの狂気の先から、それぞれ悲鳴がとぶ。  弾丸は沢近の突撃銃を弾き飛ばし、刃は世界の右手の付け根、右胸へと突き刺さっていた。 「お嬢、あんたツイてるわね」  そう言い、悲鳴を喚き散らしている世界を置いて、沢近一人へとFN ハイパワーの銃口を定める。 「……クッ、貴方は許さない!!」 「どの口が言ってんのよ? 今の立場分かってるの?」 「次に……次に会った時…………貴方は私が必ず殺す! 」 「次? 次なんかないのよ! 今、死ね!!」  指に力を込め、発砲するが指よりも先に沢近は駆け出していた。  一秒前まで沢近が立っていた場所を弾が通過する。 「クソ! 逃げ切れるわけねえだろ!!」  疾走する沢近に次々と撃ち込む  撃ち込むが当たらない、肩や腕に微かに当たっている気もするが決定的な一発が当たらない。  それは、沢近の逃げ足が想像以上なこと、都が銃器を撃ちなれていないことが大きかった。  撃ち込むたびに、沢近の姿が小さくなっていく。  だが、此処は見晴らしのいい道、林側は沢近が逃げている方向とは逆だ。  逃げている方向には海しかなかった。  それを確かめると沢近が落とした突撃銃、まだ喚いている世界が落としたスタームルガーを急いで拾い追いかける。 「逃げられるわけないじゃない! いい加減、諦めろ!!」  黒いオーラを放出しながら、沢近を追いかける都、その顔にはピンクの面影は一つもない。  遂に崖まで追い詰めたが………ブラック都は驚愕した。  なんと沢近は崖目前だというのに一切減速しないのだ、いや、それどころか更に加速していく。 「………まさか!!」  沢近の行動に予想はつく……つくがそれは大きな賭け、だがその賭けすらさせるわけにはいかない。  確実に命を奪わなければ意味がない。  距離はまだあるが足元を狙ってFN ハイパワーを次々に撃ちこむ。  やはりと言うべきか、沢近の足には当たらない。  もう都には沢近のその『賭け』を見詰めることしかできなかった。  ……………沢近愛理  その少女には迷いがない。  全力で逃走するその姿は美しくもある。  後ろも下も見ない、その疾走する少女の視線の先には蒼い空のみが広がっている。  崖が目前に迫ろうとも加速する彼女を見つめるのは神か悪魔か―――――― 「………私はまだ死ねない………あのピンク女を殺すまで……そのためにも………」  その呟きは誰のためなのか――――― 「いっけ――――――――――――!!!!!!!!!」  そして、少女は空へと飛び込んだ。  □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □  水面の過度な衝撃に身を痛め  冷たい塩水が全身を濡らし、体温を奪う。  だが、空を駆けた少女、沢近愛理は『賭け』に勝っていた。  飛び込んだ先の海に岩場が剥き出ていたなら、即死は免れなかったであろう。  しかし、賭けに勝ちはしたが、海というものは沢近が想像するよりも過酷を極める自然の驚異だった。  微かに被弾した肩と腕も痛み、意識が薄くなっていく。 『お嬢!! 死ぬな! お嬢!!!』  …………遠くから、あいつの声が聞こえる 『生き延びろ、お嬢!!』  …………あんたは簡単に言うけどね、肩や腕は痛むし  思ったよりも流れがきつくて、上手く泳げないのよ 『いいから生き延びろ!!!』  …………本当にあんたは自分勝手ね  助けてくれるわけじゃないクセに 『馬鹿ヤロウ! 自分の未来は自分で切り開け!!』  …………わかってるわよ! ヒゲ、あんたのため  いや、私自身のために生き延びてやる!  がむしゃらに泳ぐ、どこに着くかも分からない。  意識もほとんどなく朦朧としていたが  生きる意志だけが彼女を支えていた。  どれだけ時間が経過しただろうか?  狂気の祭典が行われている、この沖木島で  太陽に煽られ、その少女が目を覚ます。 「うぅ………私、生きてるの?」  制服はズボ濡れ、デイバックは都が奇襲してきた場所に置いてきてしまった。  それでも少女、沢近愛理の眼が死ぬことはない。 「見てなさい、ヒゲ! 仇は取ってあげるわ」  復讐と恋愛においては女は男よりも野蛮になれる  無意識のうちにも、その二つを併せ持つことになった沢近愛理の行く末は―――― 【E-1 林の中/一日目 昼】 【沢近愛理@School Rumble】 【装備】: 【所持品】: 【状態】:若干の身体的衰弱  腕と肩に銃のかすり傷 【思考・行動】 1:ピンク女を殺す 2:地図もないため、誰かと接触する。 3:天満、美琴、かれんと合流  痛い! 痛い! 痛い!  右手の付け根に食い込んでいるナイフの刃から赤い血が滴り落ちる。  逃げないと……銃も奪われた……  早く逃げないと……  あまりの激痛に思考も低下するが今、一番にしなければならない行動は本能が察している。  ……逃走、それしかない。  右手をぶらりと下ろしながらも、必死に林へと逃避する世界  痛みに悶えている間に、あの二人はこの場にいなくなっていた。  何が起こったかはわからないが、今のうち、今のうちに逃げなければ殺される。  何が悪かったかもわからない。  少女はただ、自分のために人を利用としただけ  利用される側にじゃなく、利用する側に回った。ただ、それだけ  それが少女の想いの全てだった。  (何で私がこんな目にあわないといけないのよ  あの襲ってきた人にしても、沢近さんにしても、私が何をしたっていうの?)  愚痴を声に出して呟きたいが、今はそんなことさえも体力の消耗に繋がる  一歩、また一歩進むごとにナイフの刃が揺れて、肉を切り裂く。 (うぅ……死ぬ程痛い!!)  血が腕を伝わりポタポタと地面に落ちていく。  刃を抜いてしまいたい世界であったが、立ち止まる余裕がない  林に入って身を隠してから抜こう、そう決意して右手を庇いながら歩いていく。 「はぁ……はぁ……もう少し……」 「はぁーい、残念ー」  その声と同時に首筋に衝撃を受け、世界は意識を失った。  □ □ □ □ □ □ □ □ □ □  「ンー……ンー」  草木に囲まれた一本の木  その木に手足を縛られている少女。  その少女の目はどこか上の空で、右胸周辺にはナイフが突き刺さっていた。  少女の名前は西園寺世界  ナイフの痛みと後頭部への打撃のせいか意識は朦朧としている。 「……ンー!」 「うるさい!!」  木に縛られている少女に蹴りを入れるもう一人の少女、宮崎都  彼女は世界に顔を近づけて質問する。 「さあ、答えなさい あんたの学校の生徒の特徴を!」  そう言い、口に嵌めさせていた草を外す。 「誰が言うか!」  即座に蹴りを入れる都。  だが蹴りを入れても世界に答える様子はなかった。 「仕方ないわね………」  そう言うと世界の手を取り、爪の中にナイフの刃を突き入れた。 「キャァァァァァー!」  あまりの激痛に喉の奥から悲鳴が湧き出る。  爪からは血が滲み出ていたが、それをみて満足そうに都は笑う。 「どう? 喋る気になった?」 「うぅ……喋らないって言ってるでしょ!!」  涙目でも意地だけは通そうとする世界を見て、虫唾が走る都。  都はその世界の目を見て、一人で納得すると元来のS魂に火がついたのか、次々にデイパックから凶器を取り出していく。 宮崎都自身の支給品 閃光弾3つ、スペツナズナイフ3本 播磨拳児を殺害して手に入れた支給品 FN ハイパワー(自動拳銃)と弾丸、手榴弾4つ 沢近愛理が置いていった支給品 コルトM4カービン(突撃銃)、アーミーナイフ 西園寺世界から奪った支給品 スタームルガー ブラックホーク  広げてみると思わず、うっとりとするほどの凶器に囲まれ、都はご満悦であった。  特に都の支給品と播磨の支給品は素晴らしく、都自身、盾にでもできそうな播磨を殺したのは  二人の支給品を確認した時に、これ程の武器が揃えば播磨と共に行動して動向を探るより  自分ひとりで行動して他校の生徒を積極的に殺害したほうが  効率がいいという理由があった。  ただ、今回はその支給品によって油断をしてしまい実質一人逃がしてしまうことになってしまった。  反省しなければならないと都は自分に言い聞かす。  支給品による油断、更には今回、一番最初に沢近へ銃口を向けたときに一瞬、躊躇してしまった。  その一瞬をもう一人の世界に狙われてしまったのだ。  心では人を殺す覚悟ができていても、まだいらない理性が残っている……。  そのいらない理性はこの島においては不必要なもの。  二人に銃口を向けられたときに逆転できたのも二人の理性に救われたわけだが逆に言えば、その理性は危険なのだ。  銃は撃てても、人の命を打てないなら、それは意味を成さない。  だから此処で、その理性を全て吹き飛ばす。 「答えないなら答えないで一向に構わないわ、こっから先は……地獄よ!」  笑顔で語るその言葉に世界の背筋が凍る。  まるでピクニックに、どのお菓子を持って行こうか悩んでいる小学生のように、武器を見比べている。 「決ーめた! 拷問って言ったら、これしかないわね」  そう言い、手に取ったものはアーミーナイフ  恋人をみる目でうっとりとナイフの刃を見詰める都。 「これ使っちゃうけど、本当に答えないでいいの?」 「…………」 「へー、頑張っちゃうんだ、愛する彼の為? 確か、お嬢があんたの名前、西園寺って言ってたわよね」  デイバックから名簿を取り出し、西園寺世界を見つけると同じ学校の生徒を読んでいく。 「伊藤誠、桂言葉、加藤乙女、清浦刹那か……男は一人? いや、この刹那ってのも男の可能性があるか」 「女よ!」 「じゃあ、この伊藤誠ってやつがあんたの彼氏?」 「……そうよ」  世界にとって誠の彼女ということは絶対に譲れない  人には譲れないことが一つは必ずある。  世界にとって、それは譲れないものだった。 「彼氏ねぇ、あんたさ、その彼氏をどれだけ愛してるわけ?」 「…………あんたよりは愛してるわよ」  瞬間、目の横を何かが通りすぎた。  ……1秒、何が起きたかわからない。  ……2秒、都の持つアーミーナイフが赤く光っている。  ……3秒、右下の地面に何かが落ちている。  ……4秒、頭の右半分が猛烈に熱い  ……5秒、激痛と共に落ちているそれが何か分かった。  ……それは世界自身の右耳 「キャァァァァァー!!!!!!!!!」  もう何度になるか分からない悲鳴が上がる。  17年間、頭に付属していた右耳が地面にあること  その右耳のあった位置から吹き出る血しぶきに痛みよりも恐怖が先にくる。  その前では都がブラック全開、世界を殺す勢いで睨みつけていた。 「私よりも愛している? 何寝ぼけてんの? 私のダン君への愛にあんた如きが敵うわけないでしょ!」 「耳が、耳が!!」 「黙れ! そして私の話を聞け! 私のダン君への愛はこの島、この国、この世界、この宇宙で一番深い!!!!」  その声は最早、言葉というものではなく、叫びに近いものだった。   「あんたなんかとは根本的に違うのよ  今回、もしチーム戦じゃなくて通常通りのプログラムだったなら、あんた、彼を殺したんじゃない?  でも私は違う、私は最後までダン君の為に戦って最後にはダン君の前で綺麗に散ってみせる!」  都の語りも世界の耳には入らない。  胸を刺され、爪を突かれ、耳を削がれて意識が遠くへと飛びつつある。  口からも咳のように血が吹き出る。 「何? もう死ぬつもりなの? まだ死んでもらったら困るわ」  そう、彼女は情報がほしかったはずだ。  私を簡単に殺せるはずがない。  世界はまだ、自分が助かるものだと心底、信じきっていた。 「………まだ私が満足してないもの」  えっ?  何って言ったの? 「あんたの学校の生徒の情報なんかいらないわ、どうせ全部殺すから無駄」  じゃあ、私はどうなるの? 「あんたには死んでもらう」  ようやく此処にきて、絶望と向き合う世界  ―――彼女の世界が消えようとしていた。  □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ 「世界! 助けに来たぞ!!」  ……あぁ、誠、やっぱり助けにきてくれたんだ。 「当然じゃないか!! 俺は世界の為なら何時でも駆けつけるさ」  ……そんな嬉しいこと言ってくれちゃって 「世界、大丈夫?」  ……刹那、あんたまで 「世界は私の親友、助けにくるのは当然」  ……ありがとう、刹那 「さあ、他の生徒は全員殺したから早く帰ろう」  ……本当? たまにはやるじゃない、誠 「当然さ!」 「当然よ」  ……ありがとう……誠……刹那……  ありがとう……誠……刹那……  …………ありがとう 「あ……り………が……ま……こ……」  木に括られている少女の口からは涎が垂れ流れ、辺りにできている血の池溜まりに薄っすらと涎の膜ができていた。  右耳はなく、全ての爪は真っ赤、右胸から太腿にかけては一線の切り筋が走り  小爪の三日月のように美しかった唇には無数の切り傷が刻まれ、小米桜のように白かった歯は全て地面へと転がっている。  体中を切り裂かれ制服の中にあった素肌はほとんど剥き出し状態であった。  その括られている少女にはもう、西園寺世界の面影はない。  そして、全てに後悔を残し彼女の命の灯火は消え去っていった………。    その西園寺世界の肉片から少し離れた道にてピンクの女、宮崎都は微笑む。  これで、この島にいらない理性は全て置いてきた。  次、誰かに会っても彼女は躊躇しないだろう  ダンを守る為、優勝の決意を一層固め、彼女は歩き出す。  ――――その足跡には黒い霧が漂っているようだった。 &color(red){【西園寺世界@School Days 死亡】} &color(Slateblue){【残り34人】 } 【C-2/1日目-午前】 【宮崎都@BAMBOO BLADE】  [状態]: 若干の興奮状態 健康  [装備]: コルト M4 カービン (30/30)   スタームルガー ブラックホーク(6/6)予備弾30  [道具]:デイバッグ×2(基本支給品は全て二人分) 播磨のサングラス  閃光弾(3/4)      スペツナズナイフ三本 FN ハイパワー(5/13)予備弾13×3、手榴弾(4/4)      コルト M4 カービン の予備マガジン×3  [思考]  基本:栄花段十朗と生き残る   1:栄花段十朗を探す。他校の人間は殺す。   2:室江高校の人間は誰も殺せないだろうとアテにしてません  [その他]  矢神高校出身者の特徴や性格を播磨の認識を元に簡単に知りました。全員安全だと思っています  スタームルガーは大腿にベルトで止めて隠しています。 *投下順で読む Next:[[<ハロー、グッバイ>]]

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