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 あれからずっと、三橋は大阪の亡骸の傍にいた。  大阪が息を引き取ってからは、ナイフで刺された腕の傷をおざなりに手当てしただけで、そ れ以外にはなにも行動をおこしていない。  三橋としては早いところ、この場を離れて理子たちを探しにいきたかった。  しかし、それができない。傷が痛むからではない。足に力が入らないのだ。  足を持ち上げ立ち上がり、歩く。それだけの事がどうしてもできない。  三橋は混乱していた、狼狽していた。  自分がなにをやったかも、何故そうしなければならなかったのかも、わかっていた。  全て自分で判断して、実行したことだ。しかし……。  何故、こんなことになったのか。どうしてこんな所に自分はいるのか。  そんな言葉がいくつも湧き出しては、ぐるぐると頭の中を巡る。    三橋は自身の人生の中で初めて、自分の感情を持て余していた。  基本的に三橋は感情の赴くままに行動する。ツッパリになったのも社会への反発などからで はなく、あくまで自分の好き勝手気ままに生きるためだ。  それと同時に非常に理性的な一面も持ち合わせている。彼がなにかにつけて下手にでるとき は必ず何らかの目的があり、それを達成する為に物事を合理的に判断して、感情を強引に押さ えつけているに過ぎない。  そして最終的にはなにがあろうと自分の意志を、自分が思うとおりの形で貫き通してきた。 それが他人にとってはどんなに迷惑な事であろうとだ。  つまりは三橋は今まで最終的な意味での妥協をしたことがないのである。  今回はじめて、自分が望んでいない事を三橋は自らの意思で手にかけた。  三橋は人殺しなどしたくは無かった。まして敵意の無い善良な女の子をだ。  それがどんなやむをえない事情があったにしろ……三橋は自分自身の手で、今まで培ってき たプライドを汚したのだ。  大阪という心優しき女の子を手にかけた、そもそもの殺人という行為に対する後悔などは、 もちろん大きなものである。  しかしそれらに匹敵、もしくはそれ以上に、三橋にとって自分をを曲げたという事実は重い。 それは三橋の今までの生き様を否定することになる。三橋が持っていた絶対的な価値観の揺ら ぎは三橋に大きくのしかかる。  それは全身を覆う倦怠感となり、三橋を縛り付ける。しかもその事を三橋は自分では意識し ていない。それは無意識の領域での話であり自力での解決は非常に難しい。  今のままでは、まだしばらくは動き出せそうにはなかった。しかし……そうはならなかった。  前述したとおり、三橋は感情で動く人間である。つまりは今のの感情の揺らぎを全て払拭す る、より大きな感情の波をよびおこせばいいというわけだ。 『皆さん、こんにちは 』  ――昼の定時放送が始まった。  坂持という男の声により、思考の渦に裂け目が出来た。  放送が進むに連れてそれは大きな亀裂になり広がっていく。  そして、田中良の名が呼ばれたとき、風穴があいた。  その穴はどんどん押し広げられ、三橋を内から呑み込んでいく。  疑問も後悔も……全て吸い込まれていった。  坂持が締めくくりの言葉を紡いだときにはそれはもう、手の施しようが無くなり。  一言で、わかりやすくいうならば……三橋貴志は、完全に――キレた。  三橋は放送が終わった瞬間から迅速に行動を開始していた。  床に落ちている三つのデイパックやナイフ等を瞬時に拾い集め、一つの中身を確認する。  まずは地図を手にとり、現在地を確認し、放送で聞いた禁止エリアに印をつけた。そして島 の地形を頭に叩き込む。  コンパスはポケットに突っ込んでいつでも取り出せるようにする。  鉛筆もポケットに忍ばせる。  時計とランタンがちゃんと使えることを確かめる。  パンをデイパックの中から取り出して水と一緒に、一気にかきこんだ。  名簿をざっと眺め、あの二人が嘘をいっていなかったこと……本当に伊藤や理子の名前があ ることを確かめてから、デイパックにしまった。大阪の名前が無かった事は少し気になったが 考えない事にした。殺した事実は消えないからだ。  残り二つのデイパックからは食料と水、鉛筆と紙だけ抜き取り、残りは放置した。  装備の点検をすると同時に、これからどう動けばいいかを模索する。  想像できうるかぎりの可能性を考え、行動方針を検討する。  結果、滝野智を追いかけることにした。  なんの情報もない以上、それ以外にするべきことがなかった。  装備も考えも纏まって、三橋は出口へと足を向ける。  外に出る戸口に足をかけたとき、一瞬だけ、動きが止める。  だが、すぐに走り出した。後ろは振り返らなかった。  数歩程地面を蹴ると、どこからか銃声が聞こえてきた。  すぐさま方向転換して、そちらの方角に三橋は駆け出した。  それからしばらく銃声は鳴りつづけていた。  それは三橋にとって道標のようなものだった。  □ □ □  三橋貴志は怒っていた。  過去に類を見ないほどに。  その昔、今井勝俊に嵌められた時の何倍も、何十倍も怒っていた。  怒りは三橋の全てを呑み込んだ。ただし消えたわけではない。  三橋が持つありとあらゆるものを怒りに転化しているのだ。  その怒りの源が何に対してであるか、三橋自身にも把握しきれてはいない。  しかし一つ、はっきりと理解した事もあった。  坂持という男、そしてこのプログラムに関わった全ての人間をこのまま無事に済ませるわけ にはいかないということだ。  なぜ、三橋は大阪を殺さねばならなかったか?――それがプログラムだからである。  これだけわかればもう簡単だった。要するにプログラムが、自分をプログラムに巻き込んだ 全ての人間が悪いのである、三橋はそう、この事態を解釈した。  もちろん大阪を殺したのは事実であり、それを否定はできない。  ただそうなる原因を作ったのは間違いなくあの坂持金発という男であり、それらに関わった 関係者であり、それだけで三橋が復讐の的にするのには充分であった。  それ以前に坂持はあの短い放送の中で三橋の神経を逆なでする発言を幾たびもしていた。  三橋貴志は忘れっぽい男である。しかし恨みだけは忘れない。  三橋貴志は傍若無人な男である。自分より偉そうな人間を許さない。  三橋貴志は自由奔放な男である。束縛し、強制されることに耐えられない。  そして……自分に危害を加えたものには、それを必ず百倍にして返す男だ。   もし三橋が最後まで生き残ったとき、このプログラムに携わった全ての人間が生き地獄、そ れ以上のものを見る羽目になるだろう。  しかしながら、三橋はリアリストでもあった。  少なくともこのプログラムの間中には復讐の機会が巡ってこない事は承知しており、それは いまつけている首輪ひとつを見ても明らかだ。  だからこそ三橋は優勝を目指す。優勝して生きて帰り、しかるべき準備をするために。  非常に苦々しい心持では在るが、それすら復讐の炎を更に燃え立たせるのだ。  そして一先ず三橋は目先の危険人物の排除を優先することにした。  フライパン一つしか持たない女一人より、銃をもつ何者かを先に始末しておいた方が後々こ ちらが有利になると判断したからだ。  坂持たちへのの復讐方法、銃声の主への対応、今もっている道具の活用方法等、悪魔と呼ば れた男はその頭脳をフルに働かせながら、道を駆けた。  □ □ □  三橋貴志は戦う事に恐れは無かった。  ただ、失う事を恐れていた。  もう戻らないものを思い浮かべながら。  二度と失わないために、三橋は走りつづけた。 【F-8 無学寺周辺/一日目 日中】 【三橋貴志@今日から俺は!!】 【状態】右腕付け根に刺し傷(軽傷だが少し痛みはある。ひとまずの手当てをしました)      静かに深く怒り 表面的には精神安定 【装備】FN M1906(5/6)、鉄扇(重さ600g程度) 【所持品】支給品一式、シュノーケル、水中ゴーグル、十徳ナイフ、割り箸一膳 【思考】 基本: 軟葉高校の他の仲間たちはどう考えても人殺しなどできない。 だから、仲間を守るためには、他の学校の人間を殺すことも仕方ない。 全てが終わった後、プログラムの関係者全員に復讐する。 1:銃声のしたほうに向かい、銃声の主を殺す 2:あいつら(坂持)に復讐する方法を考える 【三橋についての備考】 プログラムについての知識および情報は、滝野・春日両名によって補完されま した。最初から理解していた人間と比較しても、遜色はありません。 春日の本名を大阪だと勘違いしたままです。 【春日、滝野の所持品等についての備考】 無学寺の堂内に、春日歩のデイパックと滝野智のデイパックとが落ちています。

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