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お前は俺に負けておけ」(2009/06/21 (日) 23:53:14) の最新版変更点

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役場から民家に移動して程なく、第一放送という残酷な現実が幼い二人に告げられた。 今は周りを見渡せる二階の窓際に、互いの声が通じる距離で膝を抱えている。 「……そんな……良くん……」 「……チッ」 10人という数の中に存在した二人の近しい人物 強気な少女、赤坂理子にとっては田中良 常に傍にいて自分を案じていてくれた存在、三橋とは違う意味で頼りにしていた友人の死亡にただ呆然となる。 そして、今は狂犬を収め、番犬という役割を演じている男、加東秀吉にとっては桐島ヒロミ。 決して、良い先輩後輩の仲ではなかった。むしろ、逆に数回ぶつかり合ったこともある仲だった。 一年戦争終結時には、ゼットンが春道に挑んでいたその時、秀吉はヒロミへと挑んだほどだ。 結果としては敗北したが、あの時から秀吉は鈴蘭に入学したと実感が出来た。 鈴蘭は坊屋春道だけが強いわけではない……鈴蘭は伊達じゃないと身に染み、喜びに震えたことも覚えている。 本人は納得しないかも知れないが、秀吉にとって先輩と呼べるものは桐島ヒロミ一人だけだったのかも知れない。 日常的な会話を交わしてきたわけでもなく、ただ喧嘩をしただけ……しかし、ヒロミの死亡は秀吉の胸を燻り続けていた。 「……オイ!」 そんな二人の感傷を遮るように、木が茂る奥から一筋の影が秀吉の目に映った。 それは、一人の幼女を背負った少女。 同じ制服を着こなしている二人の歩く姿だった。 「あれは……かれんちゃん!」 秀吉の言葉を聞き、すぐに窓から覗いていた理子が目を輝かせて声を張り上げる。 「あれが、話に出てた一条ってやつか……」 「ええ、そうよ!かれんちゃーん!」 窓から堂々と大声で叫び出す理子を静止しようかと思った秀吉だったが 目に映る距離に、誰もいないことを確認し、ほっておくことにした。 理子の話を聞く限り、一条という人物は安全であり 先ほどまでの理子の落ち込みようを見ている秀吉にとって かれんと呼ばれる少女との再会で明るさを取り戻し はしゃいでいる姿の方がまだ見てる分に関して楽だと思ったのだ。 「ほら……迎えにいってやれよ」 「うん、ありがとうカトーくん」 満開の笑みで返事をする理子。 理子はそのままにドアを開け、階段を駆け下りていく。 階段を下りる時の、ドタドタという大きな足音が窓際に佇む秀吉の耳にも聞こえてくる。 「それにしても……」 軽く呟く秀吉には思うところがあった。 普通ならば第一に気にすることであったはず。 しかし、プログラムの環境が普通という状況を生み出さない。 それは、簡単明快、かれんと呼ばれる少女の空気と背中に背負う同じ制服の少女 その異質な光景こそが違和感の全てだった。 理子はかれんが無事に帰ってきたという一点にのみに笑顔を見せ、駆け出したはず。 だが、このプログラムはそんなに軽いものなのだろうか? 今や、歩く少女の表情さえ読めるほどに近いが、あれは希望を抱いて戻ってきた顔ではない気がする。 そして、その少女の肩に頬を寄せ背負われている少女は、表情どころか生気すら感じない。 ……その数点の情報から持たされる答えは 「かれんちゃーん、元気でよかったー」 二階から下り、玄関から景気よく飛び出した理子の姿が窓を通して映る。 秀吉は目を背けたかった。 自分の答えが正しければ、理子の表情はまた絶望へと戻るだろう。 自分の浮かれた姿に後悔しながら、謝っていいのか一緒に悲しめばいいのか分からない表情を重ねるだろう。 いくら番犬を買ってでた秀吉でも、そこをどうすることも出来ない。 何も出来ない自分に戸惑いながらに目を背けるか悩んでいるうちに 理子はかれんの元へとたどり着いた。 あの距離だ、もう理子だって答えは出ているはず。 あの顔がまた絶望へと歪む……見たくない光景が広がると思った。 ……俺は彼女を舐めていたのかも知れない 窓を通し、広がる世界は病院で死の宣告を告げられた家族のようなものだと思っていた。 しかし、秀吉の目に映るその景色は違っていた。 曇った瞳で歩く一条の前に凛と立ち尽くすと ただ、真っ直ぐにその瞳を見つめる理子 言葉は発せずとも空気が澄んでいくのを感じる 「……おかえり、かれんちゃん」 「……ただいま、理子さん」 満開の笑顔ではない、微笑むような笑顔 聖母のような笑顔なんて言うつもりはない 実の子に向ける母親のような、そんな笑顔 遠目に秀吉はそう思った。 「……私、守れなかった……大切な友達を」 「……分かってるわ……でもかれんちゃんは生きてるでしょ」 今度こそ、満開の笑顔になる。 一瞬、泣きそうなほど表情が緩むと 理子に釣られて一条も気持ち程度の笑顔を見せる。 「かれんちゃんは強い!……私がこれ以上言うことはないわよね」 笑顔から真剣な顔の筋を見せ、理子は語る。 一条はそれを飲み込むと、何度も泣き、くまの出来た目頭を右手で振りぬく。 薄く走っていた涙は、手の甲を伝い、空へ可憐な液体となって飛散する。 「……理子さん、ありがとうございます」 「いいのよ」 (……強い女たちだ) 理子は一条を見つけたその瞬間から、一条のことを考えていた。 それが一目で分かる光景だった。 背負っている少女のことが目に入っていなかったわけでもない。 今から思えば、一条の様子が怪しいということもすぐに理解していたはずだ。 普段は恍けた空気を醸し出しながらも、いざという時は『デキル』 学校特有の空気もあるのかも知れないなと秀吉は思う。 (……軟葉高校だったか) だが、理子だけでなく諭された一条という女も間違いなく強いオンナ それも二人のやり取りでわかった。 数時間前に理子から聞いた「うん、でもすごく強かった、力もそうだけど、心も」 それは本当だった。 理子が必要以上に慰めないのは、一条の強さを知っているから ほっておいても一条は立ち直る、それは少女の死体を運んでいることからも分かる。 だからこそ、理子はキッカケを与えることしかしなかった。 二人とも強い、秀吉が強い女と思うのは最ものことだった。 秀吉に理子のようなことは出来ない……そして、一条のように哀しみを表に出すことも、それを超えることも出来ない。 ……秀吉自身はそのことに気づかない……それは高校一年という幼さが見せるものなのだろうか □ □ □ □ □ □ 一般的な木製のドアに、大量の漫画が連なる本棚 反社会的なものであろうと堂々と立て掛けられているギター 恐らく、十代のヤンチャな学生の部屋であっただろうと、一目で分かる一室に三人は座り込んでいた。 一条は天満を先に埋葬してあげたかったが、それよりも情報交換を先に行うことが理子への恩返しになると思い 天満を民家の前へ綺麗に立て掛けていた。 「……これが放送内容ね、次からはちゃんと聞かないと駄目よ!」 「すみません、ありがとうございます……でも播磨さんもなんて……それに理子さん……」 田中良の死亡 一条は天満を抱え、役場を目指すことを一番にしていた為 放送をどこか流してしまっていた。 その為、今、放送内容を聞いていたのだが理子の大事な人まで死亡しているなんて思ってもいなかった。 「悲しいわ、でもね……よく言うじゃない死んだ人は、ってやつ」 「そうですね……私もこれ以上の犠牲者を出さないように頑張るつもりです」 「……」 「あの……理子さん、この人は?」 理子と一条で話を進めていた横で黙り込み、窓から外を窺っている男 加東秀吉について一条はようやく切り出す。 「えーっとね、加東秀吉くん。私を此処まで守ってくれたのよ」 「はじめまして、一条かれんです。理子さんを守ってくれてありがとうございます」 「ああ」 守ってねえよ、そんな機会なかっただろ。 そう思ったが、口には出さずに無粋に返す。 「それよりもよ、一条だっけか? 死体を背負ってたということは何かあったんだろ?説明しろ」 「ちょっと!カトーくん!」 「いえ、いいんです。私も説明をするつもりでしたから」 そう言うと一条は、理子と別れてからの出来事を事細かに説明を始めた。 と言っても、一人で人を探していた時間が長く阪東たちと出会ってからの話がほとんどを占めていた。 「というわけで、阪東さんとちよちゃんが無事なら此処に来るはずです」 「オイ、阪東とちよってのはアイツらか?」 「アイツら?」 秀吉が声を発しながら、指を刺した先にあるものは紛れもなく阪東とちよの姿だった。 「そうです!あの二人が阪東さんとちよちゃんです!」 「……またか」 「え?」 「いや、なんでもない」 先ほどの一条と天満のように、今度も阪東という男がちよという女を背負っている。 また、死んでるかもな……そんな言葉が口から出かけたが抑える。 そんな秀吉の思惑をよそに一条と理子は、秀吉を置いて外に駆け出し あいさつもほどほどに阪東を民家へ連れ込んできた。 どうも、阪東と秀吉が同じ学校同士ということで自分たちよりも二人の再会を優先してあげたいと思ってるらしい。 (……チッ、知らねえ相手なんだよ) 「加東さん、阪東さんとちよちゃんです。ちよちゃんは……その……」 「生きてる、ただ気絶しているだけだ」 プログラム開始前に聞いたことのある堂々とした声と、その姿 面と向かったその阪東という男は、秀吉にとってどこか死んだ桐島ヒロミの面影を思い出させた。 そして、それが……軽く神経を撫でる。 「で、卒業したってのにプログラムに参加させられたマヌケが何の用だ?」 「ちょっと!カトーくん!」 理子や一条が動揺する中、秀吉は鼻で笑っていた。 よく考えると、秀吉と阪東がこの沖木島に降り立ってから 自分と同じ性別『男』と出会ったのは初めてのことだった。 不良が男に出会ったら?不良が不良に出会ったら? 「どうも、この部屋にはちょんべんくせえ小犬がいるらしいなあ」 愉快気に周囲を見渡し、阪東が口を開く。 「あっ?なんだとコラ!」 「耳クソが詰まった穴にも聞こえるように、もう一度言ってやろうか?」 一触即発、阪東はいつの間にか、ちよをソファーに降ろし 二人の顔は3センチも間がないほど近寄っている。そう、俗にいうメンチを切るってやつだ。 「ちょっと!二人とも喧嘩してもいいけど、ここではしないでよ!」 理子がそう言うと、二人は自然とドアを開け、廊下を進み 二階にある、もう一つの少し広めな部屋に出る。 二世帯住宅になっているらしく、リビングとしての役割を果たしているようだ。 「じゃあ、こいよオッサン」 「尻尾は振らなくていいのか?場合によっては手加減してやるぞ?」 同校の生徒だと言うのに、この二人は何を考えているのか。 第三者みれば、ただの馬鹿に映るかも知れない。 しかし、プログラムの会場であっても馬鹿を失わないのが鴉としての誇り。鈴蘭高校の誇り。 世代から見て、決して交わることの無かった二人の邂逅が今始まる。 ――――二人の出会いは鈴蘭らしく、不良らしく、彼ららしく 「「うおおおおおおおおおおお」」 □ □ □ □ □ □ 「あの、理子さん……あの二人止めなくてよかったんですかね?」 「ふふふ……そう言いながらかれんちゃんも止めなかったじゃない」 「それは……その」 「いいのよ、あの二人はあれで」 理子は髪の尖った熱血漢と卑怯が代名詞なような男を思い出す。 喧嘩は何も負しか生まないわけじゃない。 女が割り込む必要のない世界だってある。 それを深く理解しているからこそ、理子は途中から口を挟まなかった。 そして、一条もまた同じクラスメイトの何名かの男子を思い出す。 一緒にドジビロンで盛り上がり、どこか淡い想いを抱いていた今鳥。 もう死んでしまった、いつも空周りしているような印象を受ける播磨。 その播磨にことあるごとに対決を挑む花井。 ほんの数時間前までは普通の光景だったはずなのに、今では恨めしいほどに過去と思える。 理子と一条、二人は鈴蘭の阪東と秀吉を見つめ。 どこか遠い昔だったような日常を思い出す。 二人とも女と思えないほど強い。だからこそ、あの二人を認められるのかも知れない。 隣の部屋からは、怒号のような叫びや物音が聞こえるが 理子と一条に流れる空気はどこか幸せそうなものになっていた。 「……ちよちゃんには申し訳ないけど、そろそろ起きてもらおうかな」 「そうですね、阪東さんがアレなんで情報交換は先にしておいた方がいいかも知れませんね」 そう言うと、一条が軽くちよを揺らし目覚めさせようとする。 最初は険しい顔をして中々起きなかったが、寝覚めはいい方なのか目を開くと直ぐに喋り出した。 「おはようございます、一条さん……って此処は?」 「おはよう、ちよちゃん。此処は話した通り、理子さんが待機してくれてた場所ですよ」 「はじめまして、ちよちゃん。私は赤坂理子ね、よろしく」 「はじめまして、よろしくお願いします、私は美浜ちよです。」 「ふふふ……知ってるわ」 寝ている姿が小さなお人形みたいで可愛いと思っていた理子だったが 目を覚まして言葉を交わすと、それ以上に可愛く思えた。 まるで妹が出来たみたいにワクワクしているのが、一条の目から見ても実感できる。 「それで早速で悪いけど、かれんちゃんと離れた後の話を聞かせてくれる?」 「いいですけど阪東さんは?」 ショート髪二人の顔と指が壁の右方向へと向く。 「うらああああああ!!!!」 「立て、おらあああああ!!!!」 「……すみません、私が話します」 またですかと一人呟き、ちよは現状を何となく理解した。 軽く足を組みなおし、話が聞こえやすいよう一歩二人に近づく。 「それで、一条さんと別れた後なんですけど……実は私もあまり覚えてなくて」 「まあ、気絶しちゃってたぐらいだしねー」 「確か、銃声のした方に向かっ……て……」 話し始めて直ぐにちよの言葉が乱れていく。 途端に手が震え、肩が震え、頭、腰、全身と震えが伝わっていくのが二人にも分かる。 「地面……に…、血が……血が……そして、その先に……」 「ストップ!もういいよ、ちよちゃん!!」 理子がそう叫ぶと即座に震えているちよを抱きかかえた。 「もういい、無理に思い出さなくていいよ……後は阪東さんから聞いておくから」 「……でも」 「どっちみち、気絶しちゃったなら、その後は阪東さんに聞かないと駄目なわけだし、ね」 二人は自分達の軽率な言動に後悔した。 ちよの見た目に損傷は何一つない。 ならば、気絶は精神面でのもの他ならない。 一種のトラウマと化しているはずの出来事を わざわざ自分たちが掘り起こそうとしただなんて、迂闊だったと反省する理子と一条。 「すみません……私からは何もなしで申し訳ないんですけど  その……今、阪東さんといる人とか色々と教えてもらえませんか?」 先ほどまでの動揺を即座に切り替え、逆に質問をしてきたちよに驚く二人だったが ちよの言う通り、理子はちよにプログラムが始まってからの経緯、そして、自分たちが目指すプログラム終了条件の話を語っていくのだった。 【C-3 役場近くの民家/一日目 日中】 【赤坂理子@今日から俺は!!】 【状態】:健康 【装備】:なし 【所持品】:支給品一式、整髪料 【思考・行動】 1:ちよと情報交換 ※役場に一条が戻ってこなかった場合の為に書置きを残しました 【一条かれん@スクールランブル】 【状態】:疲労(中)、空腹、口内出血(軽傷)、頭にたんこぶ、      腹部にあざ、精神的動揺(大)、どうしようもない後悔 【装備】:ワルサーP38(弾数0/8) 【所持品】:支給品一式×3、デイパック×3、塚本天満の亡骸      ランダムアイテム1~3 取っ手付き麺棒 【思考・行動】 1:ちよと情報交換 2:塚本さん…… 3:他校の生徒を探し出し、無力化しつつ説得 4:仲間全員に取り返しのつかなくなる前に自分の仮説を伝えたい 【美浜ちよ@あずまんが大王】 【状態】:空腹、精神的ショック(一種のトラウマ化) 【装備】:なし 【所持品】: 【思考・行動】 1:理子と情報交換 2:阪東を待つ □ □ □ □ □ □ 秀吉と理子が一条を見つけ、理子が駆け寄ったとき 少女、宮崎都も二人の存在を確認していた。 重い荷物と疲労感が、移動スピードを遅らせていたが 追っていた一条もまた、天満とデイバック三つという枷、阪東との戦闘の疲労があった為 一定の距離を測りつつも、十分ついてこれた。 隠れながら慎重に進んでいたこともあり、理子と秀吉に見つかることはなかったが 秀吉が常に窓から外を覗いていた為、迂闊に村に侵入することはできなく、都は村の端の草木に身を隠し機会を待ち続けることにした。 ああ、体中にベタつく血を早く洗い流したい。 第一放送でも、室江高校の面子は誰一人として呼ばれることはなかった。 当然、愛するダンの名前なんて呼ばれるわけもない。 お嬢こと、沢近愛理が生きていることに多少引っかかったが、構わなかった。 そんな気がしていた。だからこそ、あの時追いかけたのだ。 逃がしたことは反省し、今に生かしている。 慎重にそして大胆に攻めていく、それがダンと共に生還する道へと続く……そう今でも信じている。 この重い荷物もどこかに保管したい やることは沢山ある。 播磨を殺した時点で自分は一人での行動を決めた。 だからこそ、簡単に歩みを止めるわけにもいかないが 今はある意味、休息を取る絶好のチャンス。 一条が入っていこうとしている民家の横に連なる家のうち、どれでもいい。 こちらが一方的に向こうを監視できる場所に立て込み、保管場所を決め荷物を捌き、体も洗い流したい。 集団相手になるとこちらも迂闊に攻め込めないし、できれば情報も仕入れておきたい。 それには、向こうの集団に入りこむのが一番だが、自分の服を見るとそれはできないとわかる。 また前回のような奇襲も体力の消耗加減と相手の人数を考え、今は得策ではないと判断できる。 そんな、興奮を抑え、現状を冷静に見渡していた都だったが、ここで彼女を刺激する事実が判明した。 (………!?……あの子、死んでる?) それは、一条が民家に入る直前。 塚本天満を降ろし、重力に負けてうな垂れている腕を見た都が抱く当然の反応だった。 それを他所に、一条は死体となった天満の手足を上手く綺麗揃え、座らせて民家に入っていく。 (……播磨、アンタの愛する彼女はもう死んでるわよ?) 返事があるわけがない。播磨は自分が殺害した。放送でも呼ばれた。 そう言えば、室江高校から誰も呼ばれなかったことの安堵から意識が周らなかったが、その時に塚本天満の名前も呼ばれていた気がした。 播磨拳児と塚本天満と沢近愛理 三人の恋は全部終わっている。 それはある意味、都だけが知りえる事実。 ―――お嬢の想い人は私が殺した。 ―――播磨の想い人は私が見た時には死んでいた。 ―――唯一の生き残りは私への復讐に燃えているはずのお嬢一人 一方で自分は友人も先輩も、そして一番に大切な彼氏である栄花段十朗も失わずに生き残っている。 一本の火とて消え失せていない。一線の関係図すら消えてもいない。 (……この差はなんだと思う?播磨) 返事が来ないことは理解しているのに、都は再び播磨へと問う。 体を洗い流したい、荷物を整理したい。 そんな行動方針を忘れるほどに天満の死亡へと都は喰い付いて行く。 (……アンタの愛した彼女に一目会いたい) 民家に入っていった一条が自己紹介でもしているのだろう 窓から覗く男の視線が外れた瞬間に塚本天満へと駆けて行く。 疲労で体の節々は痛み、荷物の重りが都を鈍足とさせているが そんなことに気を取りもせずにただ真っ直ぐに天満へと駆ける。 (……これがアンタの言った天満ちゃんね、播磨) 見つかったかも知れない。そんな思考にも結びつかずに都は天満の髪を撫でる。 軽く手の甲で触れると、今度は自分の頬と天満の頬を擦り合わせる。 死体となった天満からは冷たくて硬い皮膚の感触しか感じない。 それが、哀しくも嬉しく自分の今までの功績を言葉通り肌で感じていた。 場合によってはありえた現実。都とダンが同じ結果になることもありえたはず。 播磨と塚本の死亡と都とダンの生存。 この違い……それは…… (……私の決断は正しかったのよ、播磨) 決断 別に迷ったわけでもない。 ダンの生存を一番に考えた結果だ。 ifがあっても自分は同じ選択をしただろう。 だが、ダンは認めない。それは彼女である自分が一番分かっている。 だからこそ、違う立場でありながらダンと同じ行動を取ろうとする播磨には認めさせたかった。 ダンも自分の為にみんなの為に必死にもがいているはず。 (……元気一杯って話だったけど、全然静かじゃない?播磨) ―――死体が元気なわけがない (……いつも、俺に微笑んでくれるって言ってたじゃない?播磨) ―――死体が笑うわけがない (……アンタの告白、この子に伝えてから殺してあげたかったわ) ―――死体は答えない そっと、天満の胸に包まれた朱色のリボンをほどくと、今まで所持していた播磨のサングラスを取り出す。 人差し指で軽くリボンをなぞると、丁寧にそしてゆっくりとサングラスへと結んでいく。 「……私からのサービスよ、播磨」 小声で呟くと、サングラスをデイバックへ仕舞い込み 隣の民家へと静かに侵入していく。 デイバックの中では、黒く光るサングラスが泣いているかのように リボンと凶器の数々に触れ合っていた。 【C-3 秀吉らの隣の民家/一日目 日中】 【宮崎都@BAMBOO BLADE】 【状態】:若干の興奮状態 健康 血塗れ 【装備】:コルトM4カービン(30/30) スタームルガーブラックホーク(6/6) 【状態】:支給品一式×2 播磨のサングラス(天満のリボン付き) 閃光弾(3/4) スペツナズナイフ三本      FN ハイパワー(5/13) FN ハイパワー予備弾13×3、手榴弾(4/4)      コルト M4 カービンの予備マガジン×3      スタームルガーブラックホークの予備弾30 【思考・行動】 基本:栄花段十朗と生き残る 1:一条を含む集団を監視するが、まだ襲わない 2:栄花段十朗を探す。他校の人間は殺す 3:室江高校の人間は誰も殺せないだろうとアテにしてません 4:色々と整理したい。身体も洗いたい 【その他】 矢神高校出身者の特徴や性格を播磨の認識を元に簡単に知りました。全員安全だと思っています スタームルガーは大腿にベルトで止めて隠しています。 □ □ □ □ □ □ とある民家の二階、そのうち一室では静かに情報交換が行われている。 ……が、もう一室では 「おらぁ!」 「こいよ!!」 互いの拳が交互に重なり、罵詈雑言が鳴り響いていた。 最初はなんでもありの蹴りやら、壁を利用した攻撃を互いにしていたが いつの間にか、拳だけの勝負になっていた。 プライドが高い二人だけあって、膝に手を置き阪東も秀吉も一度も倒れていない。 「おらあ!」 叫びと共に、阪東の拳が秀吉のボディへとメリ込む。 だが、秀吉はニヤリと笑うと迂闊に近づいた阪東の頬へと拳を繰り出す。 クリーンヒットと言えるほどの手ごたえを感じる己の拳と、派手に吹き飛んだ阪東を見て秀吉は勝利を確信した。 「フフ……此処まで隠していて悪かったなあ」 そう言うと、服を露わにし、中に着込んだ防弾チョッキを大げさなまでに見せ付ける。 秀吉は、この為に腹部を狙った攻撃だけは防御を確実に取ってきた。 その犠牲として、他の箇所の防御は疎かになっていたが、その努力もこうして実った。 二人の対決がはじまって最初で最後となる床に伏せたものは阪東秀人 ……とは簡単にならないのが鈴蘭 気づくと、阪東は秀吉の前で既に立ち上がっていた。 此処に来るまでにも戦闘を経験しているのだろう。 肩で息をし、片方の瞼は半目だがそれでも、確実に二の足で地面を捉えている。 「……防弾チョッキか」 「……卑怯ってか?」 「……言うわけねえだろ」 それはそうだ、秀吉が知るところではないが、阪東だって過去にナイフを使うこともあれば 堂々と不意打ちをしてヒロミを襲ったことも、リンチまがいに多人数で少数を襲ったこともある。 「……だがよ」 言うなり、表情を変え秀吉に突撃していく。 そして、そのままに右拳を秀吉の顔面へ突き立てる。 それを受けて、今度は秀吉が派手に後方へと吹き飛び、倒れ込むその前に阪東は声を荒げる。 「何でオメーが着てんだッ!!!」 (……ッッ!!!) 全身が痛かった 拳を喰らった頬は痛み、拳の威力により叩きつけられた地面への強打が全身を襲った。 だが……それよりも何よりも、阪東の言葉が秀吉の胸を抉っていく。 そんな秀吉を置いて、阪東は容赦なく、秀吉の襟を掴み無理やりに立たせると叫びを続ける。 「そんなヌルいものを女に渡さずにお前一人で着込んでいたのか?ああ?後輩よ」 「……お前の知ったことか!」 そう言うと顔を近づけていた阪東へと唾を吐きつける。 「そうか」 襟を持つ右手を離し、秀吉が地面へ重心を預ける前にワンステップ踏み込み 防弾チョッキ着用のボディへと体ごと全力で蹴り込む。 鋭い衝撃、つまりは拳銃などの射撃に強い防弾チョッキであっても 体重を乗せられて踏み込まれた衝撃は、緩和する場所もなく秀吉の体を持ち上げる。 秀吉の全身は地面から小指サイズの空間が開けたままに、再び壁へと激突していく。 背中を中心に打ち付けられ、痺れが全身に伝染し、まともに息も出来なくなる。 「ク…ソ、この化け物め」 「……俺が化け物?お前が弱いんだよ」 「この俺が弱い…だと…」 「ああ、そうだ。お前よりも一条って女の方が強かった。理子ってヤツの方が強そうに見えた。  お前も分かってんじゃねえのか?」 「……うるせえ!」 何かをかき消すように、狂犬は立ち上がる。 だが、それを見守る阪東は闘志を残しつつも、どこか先ほどまでと違う。 (……鈴蘭の卒業生……そんなの関係ねえ……これ以上言わせ……!?) 此処で、秀吉は気づいた。 今までも、確かに引っかかっていたが プログラム開始前に名前よりも先にその姿を見ていた為、逆にピンとこなかった。 自分を此処まで追い詰めるその気力と闘志に喧嘩センス、阪東の背中から……背景から薄っすらとある紋章がイメージされてくる。 相手を威嚇するような、そのマーク……セニドクロ 鈴蘭とはまた違った漢達が揃う集団『武装戦線』 そう、例え学年が離れようと当時中学生であろうと、嫌でもその世界の話は入ってくる。 噂に流れる男達の一人……熱い闘争の中にいた立役者の一人。 「……お前……元武装戦線、阪東秀人か!」 「……チッ、そんなことはどうでもいい。俺のことよりもお前自身のことを考えたらどうだ?  お前は何のために戦う?これから何を目指す?今まで何をしていた?」 今までの怒号の重なり合いと違って、阪東からの明確な質問。 阪東秀人の本当の正体を思い出した秀吉には、何一つとしてまともに答えることが出来なかった。 ルールもクソッタレ。首輪もクソッタレ。目の前にいるヤツもクソッタレ。クソッタレのクソッタレ。 理子の番犬といいつつ、実際はただ一緒に居ただけ。 一条が現れたときも何も出来ずに、結局は理子が全てを解決していた。 防弾チョッキの件にしても、特に考えていなかったわけじゃない。 渡すかと思うことはあった……しかし、実際は思っただけ。そこで終わっていた。 今、阪東と戦っているのだって自分の感情に任せたもの。 ……だが、そこには秀吉のポリシーが詰まっている。ここだけは否定させない。 あの阪東だと分かったからこそ、このプログラムの中、自分が喧嘩を挑んだ理由が理解できた。 「……俺は昔から、しょっちゅう喧嘩ばかりしててよ」 「……」 阪東は黙って、肩で呼吸を行う秀吉の話に耳を傾ける。 「……でも不思議と負けることが多くてな」 「……」 話を聞きながらに、秀吉へと一歩一歩近づいていく阪東 「……俺はよお、自分より「オラァ!!!」」 秀吉の台詞を遮るように、阪東の拳が秀吉の顔面へめり込んでいた。 その勢いに上半身が地面へと叩きつけられる。 「言わせねえよ、続きは」 肉体も体力もボロボロな秀吉は、意味も分からずにフローリングへとキスを強制される。 「お前が語るのは此処じゃねえ」 「……チキショー、意味が分からねえ」 口内で切ったのか、血が唇の下へと流れ止まらない。 「今は意味も分からなくていい……だがな、先輩から後輩へありがたい言葉を捧げてやるよ」 ふぅーと、一息吐き出し 阪東は口を吊り上げる。 「――――お前は俺に負けておけ」 ゴスッと鈍い音を残し、阪東と秀吉の喧嘩は終結した。 意識を失いかけている秀吉に聞こえないよう、阪東はそっと呟く。 ―――俺がアイツに負けたようにな 【C-3 役場近くの民家/一日目 日中】 【阪東秀人@クローズ】 【状態】:疲労(中)、精神的ショック(中)  肉体損傷(中) 【装備】:鎌 【所持品】:支給品一式×2、鉄パイプ、トラロープ 【思考・行動】 1:ちよらがいる部屋へ戻り情報交換 2:襲ってくるなら誰であろうと叩きのめす   ただし余程の事が無い限り殺す気は無い 4:この島から脱出する 5:くそったれ……! 【加東秀吉@クローズ】 【状態】: 肉体損傷(大) 気絶 【装備】:防弾チョッキ、アイスピック 【所持品】:支給品一式 【思考・行動】 1:……チキ……ショー 2:とにかくあの糞野郎(坂持)の言う通りにはしない 3:このむかつく首輪を外す方法はないものかと考えている(具体的な思考ではありません)

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