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閃光弾と銃声がもたらしたもの」(2010/04/17 (土) 20:39:26) の最新版変更点

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「今、何か光りました?」 「ああ」 美浜ちよと阪東秀人の二人は、鎌石村に向かう途中、その鎌石村から少し外れた所で何かが光るのを目撃した。 光ったのは一瞬で、木などの障害物もあったため、何の光なのかは分からなかったが、 障害物越しにも光ったと分かるほどの、かなり強い光だった。 それを見て、閃光弾の知識など無い二人だが、明らかに人工の光だということは分かった。 ということは、光の元に誰か居るということだ。 「行ってみるか」 「はい」 阪東もちよも、自分と同じ学校の仲間と(阪東の場合、仲間と呼べるような関係でもないが)合流したいと考えていたが、今はそのための手がかりが無い状況だ。 ならば、人がいるところを片っ端から確認して回るしかない。 その点では、阪東もちよも考えは同じだった。 しかし、その先は違っていた。 ちよは単純に、行く先に同じ学校の誰かが居たらいいなといった程度に考えていたが、阪東は別の可能性も考えていた。 光の元にいるのが同じ学校出身者ではなく、さらに殺し合いに乗っている場合だ。 ここは殺し合いの舞台であり、さらに光の正体も分からないのだから、警戒するに越したことはないだろう。 この辺りは頭の良し悪しというより、これまで踏んできた場数の違いだった。 「油断すんなよ」 阪東は、自分のデイパックから支給品の鎌を取り出しながら言った。 この鎌は、阪東に唯一支給された武器だった。 「っ!!……はい」 それを見て一瞬怯んだちよだったが、そこでやっと阪東と同じ考えに至り、戸惑いながらも同意した。 「あれ?なんだろう?」 塚本天満が閃光弾の光を目撃したのは、三村信史を探して鎌石村にさしかかった頃だった。 しかし天満も、当然だが閃光弾の知識など無く、それが何の光なのか分からなかった。 (花火……かな?) もし花火だったら、もう1回光るかも知れない。 二人分のデイパックを抱えてここまで歩き、疲れていた天満はそんな風に考え、 その場で立ち止まると、ボーッと光った方を眺めてみた。 「……今のは?」 一条かれんもまた、閃光弾に気が付いた人物の一人だった。 かれんは赤坂理子と別れ、村役場を出た後は他の参加者を探して鎌石村の中を隅々まで探索していた。 しかし、残念ながら鎌石村では他の参加者に出会うことが出来ず、 また、民家を一軒一軒調べていくその作業は、思いのほか時間がかかっていた。 そこで一度、理子の所に戻ろうと村役場に向かう途中で閃光弾の光を目撃したのだ。 「……なんだろう?」 もちろん、他の参加者と同じく閃光弾の知識など無いかれんは、何の光だか分からずに、しばらくその場で立ちつくしていた。 「あ!」 しかし、それが参加者の誰かによるものかも知れないという可能性に気が付くと、 すぐに光った方へ向かって走り出した。 「チッ、銃声か!?」 阪東は身を低くすると悪態をついた。 阪東とちよが先ほど光った方へ向かって歩いていると、突然、進行方向から銃声のような音が聞こえてきたのだ。 「あ、あわ…」 「バカか!つっ立ってんじゃねー!!」 阪東と違い修羅場慣れしていないちよは、 その音に驚き、体を硬直させることしか出来なかった。 阪東はそんなちよの腕をつかむと、近くにあった木の陰に移動した。 「い、痛いです」 ちよは抗議の声を上げたが、阪東はその声を無視して音のした方に注意を向けていた。 その後、少し間を置いて、今度は立て続けに何発も銃声が(もう銃声で間違いないだろう)鳴り響いた。 「どーやら、オレ達を狙っているワケじゃねーみてーだな」 「…………」 その音は、よく聴けば阪東達からだいぶ離れたところのようだったし、 近くに着弾した様子もないことから阪東はそう判断し、少しだけ緊張を解いた。 「おい、お前…」 阪東はちよの方へ振り返り、声をかけた。 ちよは、顔色は真っ青で目は涙目、体も震え、明らかに怯えている様子だった。 しかし、阪東も早急に大事なことを確認しなければならなかったので、 ちよが受け答えできる状態かは分からなかったが、ここでは質問することを優先した。 「オレに支給された武器はこれだけだ。お前の支給品に銃はあったか?」 阪東は鎌を見せながらそう言い、ちよの持っている武器を確認しようとした。 「…………」 ちよは、まだショックで声を出すことが出来なかったが、阪東の言っていることは分かったようで、無言で首を振るとデイバックを開け、阪東に差し出した。 阪東はそのデイパックの中を覗き込むと、軽く舌打ちをした。 ちよのデイバックには、食料や水といった支給品一式の他には、 鉄パイプと、トラロープが入っていた。 鉄パイプの長さは50センチほど、 トラロープの長さは、巻かれているので正確には分からないが、 おそらく10~20メートルほどだろう。 まるで工事現場かどこかから拾ってきたような支給品だった。 (チッ…、どうするか) 今の銃声で、阪東達が向かう先では殺し合い、しかも銃撃戦が行われている可能性が一気に高まった。まさか威嚇や試し撃ちであんな風には撃たないだろう。 そんなところにノコノコ出て行くのは自殺行為だ。 せめて銃があれば立場は対等だが、ふたりの支給品の中で武器として使えそうな物は、阪東の鎌とちよの鉄パイプぐらいだった。 どちらも使い方によっては人を殺すことも可能だが、銃に対抗するには貧弱すぎる。 「あ、あのー、阪東さん」 「ああ?」 阪東が迷っていると、意外なことにちよから声をかけてきた。 どうやら、阪東が支給品を確認している内に、少しは落ち着いたようだ。 顔色は相変わらず悪かったが、涙目ではなくなっていた。 「やっぱり、その、むこうの様子は見に行ってみませんか? むこうにいるのが私か阪東さんの学校の人なら、話し合いは出来ると思いますし」 ちよは声こそ震えていたが、それでもゆっくりと、しっかりと、自分の意見を伝えた。 「じゃあ、違ったらどーすんだ? 相手は銃を持ってんだぞ?」 「はい、ですからまずはこっそり様子を見てみて、違ったら戻ってきましょう」 最初は相手に気付かれないように様子を見て、同じ学校なら声をかける。 違う学校なら声をかけずに戻ってくる。 先ほどの銃声で、相手の位置は大体分かっているし、慎重にやれば出来るだろう。 勿論危険はあるし、阪東の趣味には合わないが、この島ではそんなこと言っていられない。 「わかった」 阪東は、それだけ言うと再び歩き出し、ちよもそれについて行った。 「う、動かないで下さい!!」 そのとき、ふたりの背後から声がかかった。 「なに!?」 「え!?」 阪東とちよが驚いて振り向くと、ふたりの背後に拳銃を構えた女子が立っていた。 一条かれんだ。 他の参加者を探して走っていた彼女が、阪東とちよを見つけたのは、 銃声がしたすぐ後のことであり、阪東とちよは銃声に気を取られて、 背後から接近するかれんに気付かなかったのだ。 もちろん、かれんも先ほどの銃声は気になっていたが、 今は目の前のふたりを説得して、村役場に行ってもらうのが先だと考えていた。 「抵抗しないで武器を捨てて下さい。 そうしてくれれば、危害を加えたりしないと約束します」 銃を構えたかれんは、ふたりが振り返ったのを確認すると、そう付け加えた。 「それで、武器を捨てさせた後は!オレ達をどーする気だ!?」 阪東は、かれんを睨みつけながら叫んだ。 「わ、私、いま仲間を集めているんです」 「オレ達も、てめーの仲間になれってことか!?」 「そうです!」 「チッ…」 阪東は、この島に来て何度目か分からない舌打ちをすると、考え込んでしまった。 確かに、かれんは嘘を言っているようには見えなかったが、 しかし人を見た目だけで判断すると痛い目を見るということも阪東は知っていた。 情報だけ聞き出して、いきなりズドンという可能性だってあるし、 何より銃を突き付けられて、同行を強要されているということが、 阪東には腹立たしかった。 「あ、あのー、私達は…」 阪東が黙ってしまうと、今度はちよが口を開いた。 そのとき、阪東の頭にひとつ案が浮かんだ。 「きゃ!?」 阪東は突然ちよの後ろに回り込むと、肩を掴み、首に持っていた鎌を突き付けた。 ちよは突然のことに、小さく悲鳴を上げた。 「てめーこそ銃を捨てな!!でないとこいつが死ぬことになるぜ!?」 『えぇ!?』 ちよとかれんの声がハモった。 そこで阪東は、ちよにだけ聞こえるように耳打ちした。 「(合わせろ…、いや、黙ってジッとしてろ)」 最初は、状況に合わせて演技をするように言おうとした阪東だったが、 すぐに、ちよはこの状況で演技なんて出来るのか?という疑問が頭に浮かび、 静かにしているよう、指示を変更した。 「え、でもこの人は…」 ちよは、かれんのことを信用できそうな人だと感じていたので、 阪東の行動が演技だと分かると、そんな事をする必要はないと言おうとした。 「いいから黙ってろ!!」 「ひっ」 阪東はそんなちよに向かって怒鳴ると、カマを首に押しつけた。 演技だと分かっていても、そんなことをされては恐ろしくて、ちよは黙るしかなかった。 「な、なんで…」 一方、かれんは状況について行けず、混乱していた。 かれんから見て、ふたりは行動を共にしている仲間に見えたのだが、それは勘違いだったのだろうか? (と、とにかくあの子を助けないと。…どうすれば?) そう考えたかれんだったが、阪東はかれんが考えをまとめる時間など与えず、どんどん詰め寄っていった。 「さあ、どーすんだ!?仲間を集めてんだろ? 早くしないと、その仲間が死ぬんだぞ?」 「……」 ちよはもう口を開かず、阪東に言われた通り黙ってジッとしていた。 「え、あ、あの……」 (死ぬ?あの子が死んでしまう?こんな弾の入っていない銃のせいで?) 「さあ!!」 「わ、わかりました」 どうせ弾の入っていない銃だ。 かれんはそう結論づけると、持っていた銃を足元に置いて後ずさった。 「これで…、いいですか?」 「もっと銃から離れろ!」 そう言われて、かれんはさらに何歩か後ずさりした。 阪東はそれを確認すると、ちよに鎌を突き付けたまま前進し、銃の元へたどり着くとちよを解放して銃を拾い上げた。 (今だ!) かれんはそれを見ると、阪東に向かって猛然と突っ込んだ。 「なに!?」 それは阪東にとって、まったく予想外の動きであり、結果、阪東はかれんのタックルを綺麗にもらってしまった。 「うお!!」 ドサッと地面に倒れ込み、その衝撃で阪東は持っていた銃と鎌を落としてしまった。 それだけ、勢いのあるタックルだった。 (バカな!銃を持ったヤツに突っ込んでくるだと!?) (よし!あとは赤坂さんの時と同じように押さえ込んで……) 今度は先ほどとは逆で、阪東が状況について行けず、赤坂理子がそうされたように簡単に組み伏せられてしまった。 「とにかく私の話を…、い、痛い!痛い!!」 しかし、ここからが理子と阪東では違っていた。阪東はかれんの髪をグイグイと引っ張り、無理矢理引きはがそうとしたのだ。 「ふざけんなあぁぁ!!」 「くうぅ」 かれんは、たまらず押さえ込むのに使っていた手を離し、自分の頭にのばしてしまった。 その隙を見逃す阪東ではない。かれんが少し体を浮かせた瞬間、ガバッと一気にひっくり返して体勢を入れかえた。 「オラァ!!」 そのままかれんに馬乗りになった阪東は、顔面に向けてパンチを繰り出そうとした。 阪東は、相手が女だろうと容赦する気は無い。しかし、かれんも負けてはいなかった。 「えぇい!」 阪東に上に乗られた瞬間、すかさずブリッジをして阪東の体勢を崩すと、すぐさま阪東の下から脱出した。 パンチを出そうとしていた阪東は、この動きに対応できなかった。 しかし、下からの脱出は許してしまった阪東だが、すぐに追撃し、かれんが立ち上がる瞬間に顔面へ蹴りを放った。 「シャアァ!!」 「くっ」 とっさに腕でガードしたかれんだったが、腕一本では阪東の蹴りの衝撃は殺しきれず、 跳ね上がった腕が自分の口に当たり、バチンと音を立てた。 その際、かれんは口内を切ってしまい、口の中に血の味が広がった。 それでも何とか立ち上がったかれんは、バックステップで距離を取った。 蹴りを放った直後で、体勢が不十分だった阪東もいったん下がり、 両者の間には、一気に3メートル程の距離が生まれた。 「ハッ、ハッ、ハッ……」 「はぁ…、はぁ…」 時間にしてほんの十数秒間の攻防だったが、ふたりとも肩で息をしていた。 それだけ、ふたりとも全力だった。あるいは緊張状態の中、激しく動いたせいかもしれない。 (レスリングか、予想外だったな) 阪東は、かれんの意外な能力に驚いていた。 見た目で判断するべきではないとは思っていたが、 まさかあんな華奢な体にあれほどの力が備わっているとは思わなかった。 銃さえ何とかすれば、後はどうとでもなると考えていたのだ。 だが、阪東が今まで鈴蘭や武装戦線で戦ってきた相手の中には、アマレス経験者もいた。 そうと分かれば対処法はある。 (どうしよう……?) かれんは、阪東のラフな戦い方にどう対応していいか分からず、困惑していた。 今の攻防でかれんは、阪東に対してタックルを決めること自体は、 それほど難しく無いと感じてたが、問題はその後だった。 今と同じように組んでも、また同じように髪を捕まれてしまうだろう。 しかし、阪東の鋭い眼光を見ると、その他の隙の大きい技は決まる気がしなかった。 (腕も固めて押さえ込むしかない!) ただタックルを決めるよりもよほど難しいが、やるしかない。 かれんは覚悟を決めると、再びタックルに入るべく、体勢を低くした。 「…………」 ちよは、まだ阪東に言われたとおり、黙ってジッとしていた。 「シッァ!」 先に動いたのは阪東だった。 軽く踏み込んで間合いを詰めると、かれんの顔面にむけてパンチを繰り出した。 (行ける!) かれんはそれを下に避けると、阪東の腰に組み付くべくタックルに行った。 その瞬間、ドゴッという音がしてかれんの体に衝撃が走った。 「かはっ!?」 かれんの腹に阪東の膝がめり込んでいた。 先ほど阪東が放ったパンチは、この膝蹴りを決めるための囮だったのだ。 (終わったな) 阪東は自分の勝利を確信した。並の男なら、今の一撃で悶絶し、戦意を喪失する。 レスリングをやっているとはいえ、こんな華奢な体の少女が耐えられる訳がない。 「ん?」 「はぁ、はぁ、はぁ……」 しかし、かれんは崩れ落ちず、膝蹴りを決めた阪東の足にしがみついていた。 「こいつ!!」 阪東は、その事実に驚いた。確かに、かれんの動きが阪東の予想以上だったため、 阪東の膝蹴りは完全に威力が乗り切る前に、かれんにヒットしてしまっていた。 だが、男の膝蹴りが女に突き刺さったのだ。無事で済むはずがない。 これは、阪東が予想した以上に、かれんの腹筋が強靱だったということだろう。 しかし、阪東は驚きつつも、体の動きは止めなかった。 「オラァ!」 まずは足を振ってかれんを振りほどこうと試み、それで離れないとかれんの頭に拳を振り下ろした。 「放せやコラァ!!」 「くっ」 ゴッという生々しい音が響いた。 しかし、阪東の拳も体を密着させた相手には思うような威力が発揮できず、かれんの体を引き離すには至らなかった。 (痛い…、それに、息が苦しいよぅ……) 何とか阪東の膝蹴りに耐えたかれんだったが、その衝撃はすさまじく、体にほとんど力が入らず、呼吸も苦しい状態だった。 しかしかれんは、ここで離れてしまったらもう自分に勝機はないと感じていた。 だから、意地でもしがみついた腕は放さなかった。 「チッ」 阪東は、もう一度鉄槌を振り下ろすべく拳を振り上げた。 思うような威力が出ないとはいえ、今は自分が相手を一方的に殴っている状況だ。 ならば、このまま何度も殴って心を折ってやろうと考えた。 「ウラァ!」 「うぅ…」 そうして2度目の鉄槌が振り下ろされ、ガッという音がした。 しかしかれんは、痛みとは裏腹に、自分の体に力が戻りつつあることを感じていた。 試しに少しだけ足を動かしてみると、スッと思ったように動かすことができた。 日頃鍛えている彼女の身体は、回復力も並外れていたのだ。 (これなら……) 今なら、片足タックルの要領で倒すことが出来る。 そう判断したかれんは、自らの足に力を込めた。 阪東はちょうど、3度目の鉄槌を振り下ろすべく、拳を振り上げたところだった。 「やめなさい!!」 その瞬間、突然第三者の声が割り込んだ。 『!?』 かれんも、阪東も、思わず声の方へ振り向いた。 するとそこには、黒いくて髪を頭の両側で縛った背の低い少女が、阪東の落とした銃を構えて立っていた。塚本天満だ。 閃光弾にはすぐに反応できなかった彼女だが、さすがに銃声を聞いてた後は、 ただ事ではないと理解し、ここまでやって来たのだった。 そして今、眉をつり上げ、口をへの字に曲げ、怒りをあらわにした彼女は、続けて言った。 「早くカレリンから離れて!男の子が女の子を殴るなんて最低だよ!」 「塚本さん……」 「大丈夫だよカレリン。こんな人、私がやっつけちゃうからね!」 それを見て、阪東は内心焦った。 阪東が焦るもっとも大きな理由は、天満がデイパックを2つ持っているということだ。 おそらく、1人1つしか支給されないであろうデイパックを2つ持っているとうことは、 この「塚本さん」と呼ばれた少女は、ここに来るまでに人ひとり殺すなりして、デイパックを奪ってきたということになる。 そんなヤツが、今、自分に銃を向けている。 (クソッ…、これまでか?) さすがに万事休すかと思った阪東だったが、次にかれんが予想外の一言を発した。 「ま、待って、塚本さん。その銃、弾は入っていないんです」 「あぁ?」 「ええ!?」 それを聞いて、天満はとたんに慌てだすと、ゴソゴソとデイパックに手を突っ込み、 調理に使うような取っ手付き麺棒を取り出して、バットの様に構えた。 「さ、さあ、こ、来い!」 阪東は、その様子を疑問に思った。 (なんだ?これが人を殺したヤツの態度か? いや、違うのか?) 天満の様子は、人ひとり殺した者のそれとは、とても思えなかった。 そして、阪東はかれんの方を見た。もう、阪東の足からは離れていた。 (さっきは弾の入ってねー銃だったから、向かってこれたってワケか。 本当に撃つ気はなかったらしいな。簡単に手の内を明かすのはどーかと思うがな) 天満がデイパックを2つ持っていた理由は、未だに分からなかったが、 ひとまず、このふたりに危険はないと判断した阪東は、不意に横を向いた。 「……やめだ」 「え?」 「あんたとやり合うつもりは無ねーよ。てめーもだ。」 そう言って阪東は、呆気にとられているふたりを余所に、ちよの元まで歩いた。 「…………」 「お前、いつまでそーしてるつもりだ?」 「…黙ってろって言ったのは、阪東さんです」 「拗ねるなよ」 どうやらちよは、人質役にされた事が不満のようだった。 少しの間、そうして膨れっ面を披露していたちよだったが、阪東が軽く肩を叩き、 目配せするとすぐに元の顔に戻った。 (後は任せたぞ) (あ、わかりましたー) この瞬間、ふたりの間では不思議と言葉に出さなくても、意志の疎通が出来ていた。 そうして、ちよはかれんと天満の元に走っていって挨拶した。 「はじめましてー、私、美浜ちよといいます。向こうの人は阪東さんです」 「あ、初めまして。一条かれんです」 「わー、かっわいい。私は塚本天満だよー。よろしくね!」 どうやら、彼女たちはすぐにうち解けたようだった。 その様子を見て、阪東は思った。 (フン、これでいい) やはり危険のない相手なら、交渉はちよに任せた方がうまく行きそうだ。 阪東は自分のデイパックから水を取り出すと、飲みながら成りゆきを見守ることにした。 3人は自己紹介も終わり、かれんが最初に銃を向けたことを謝っているところだった。 「その、さっきはごめんなさい」 「もういいですよー。それでー塚本さん、そのデイパックって、どうしたんですかー?」 ちよはまず、阪東が今の時点でもっとも気になっていたことを天満に訊いた。 「あ、これはね三村くんのなの。そうそう、私ね、三村くんって子を探してるんだ。 酷いんだよ、その子、荷物も私も置いて先に行っちゃうんだもん」 天満は三村信二と出会った時のことや、彼の特徴などを話した。 「そうだったんですかー」 どうやら、嘘をついている風でもないし、殺して奪った訳ではないようだった。 「それじゃあ、私達も人を探しているところですから、一緒に探しましょー」 「うん、ありがとね!」 そこで、ちよと天満は握手を交わした。 次にちよは、かれんに向き直った。 「それで、一条さんは仲間を集めてるって言ってましたよね。 いま何人くらい集まってるんですかー?」 「うん、まだ私以外は1人だけなんだ。赤坂理子さんって人が協力してくれてるよ」 「赤坂さん、ですかー?」 それは、ちよの学校の生徒の名前ではなかった。 そこでちよは一度阪東に視線を送った。その視線に気付いた阪東は、静かに首を振った。 どうやら、阪東の学校の生徒でもなかったようだ。 「それでね、出来ればちよちゃんと向こうの阪東さんにも仲間になって欲しいの。 私、全員が生き残れる可能性に気付いたんだ。 向こうの村役場なんだけど、一緒に来てくれないかな?」 「えっとー」 全員が生き残る可能性という言葉はかなり気になったが、ちよはひとりでは決められず、 もう一度、阪東に視線を送った。 阪東は、今度は話に加わるべく、3人に近づきながら口を開いた。 「さっきの銃声はどーすんだ?もうだいぶ時間経っちまったが、 向こうにも人がいるのは確実だ。オレ達はそれを確かめに行くところだったんだぜ」 「えっと、それは…」 かれんは、最初に阪東とちよを発見した時、ふたりには武装解除してもらった上で、 二人だけで村役場に行ってもらい、自分はそのまま銃声の元へ行くつもりだった。 しかし、未だに二人の武装解除は果たせていない。 あまり時間をかけていると銃声の主がどこかへ行ってしまう可能性もあるし、 いまさら武装解除を頼んでも、ちよはともかく阪東は承知しないだろう。 そして、武装解除していない状態では、自分も一緒に村役場へ行って理子に説明をしなければならない。 「あのー。それじゃあ、こーしませんか?」 困惑しているかれんを見て、ちよが助け船を出した。 「私達みんなで、その、銃声がしたところを確かめに行って、その後みんなで村役場に行くのはどーですか?」 「え、でも」 折衷案としては妥当かも知れないが、それだとちよや他のみんなを危険にさらす可能性がある。 まだ困った様子のかれんに、今度は天満が声をかけた。 「そうしようよカレリン!うん、決まり!それじゃあ行こう!」 「つ、塚本さん?」 天満は、声をかけるだけでなく、かれんの手を引っ張って歩き出した。 結局、他に考えが浮かばなかったかれんは、そのまま引っ張られて歩き出し、 ちよと阪東も後に続いた。 「あ、そうだカレリン、お腹空いてない? 私、いいもの持ってるんだー。ほら!」 天満はごそごそとデイパックを漁り、おにぎりを取り出した。 「ん……、大丈夫です。今はお腹空いてないんです」 このかれんの答えは嘘だった。本当は、かなりの空腹を感じていたかれんだったが、 先ほどの阪東との戦いで切った口内の傷が、まだふさがっておらず、 時折自分の血を飲み下しながら喋っている状態だった。 血が口から溢れてくる訳ではないので軽傷のはずだが、そんな状態で食べ物を口にする訳にはいかないだろう。 「そっかー。それじゃあ、ちよちゃん!どう?」 天満は特に追求することはせずに、同じおにぎりを今度はちよに勧めてみた。 「ありがとうございます、でも、私もいまはあんまり食欲が無くてー」 このちよの答えは嘘ではなかった。 ちよは、ホテル跡で目覚めたときに、胃の中のものを全部吐き出してしまっていたので、 胃の中は空っぽだったが、今はまだ、何か食べてもすぐに戻してしまいそうな気がして、食欲が湧かなかった。 「うーん、そっかー」 最後に天満は、チラッと阪東の方を見た。彼は、歩きながらパンをかじっていた。 (あれなら、おにぎりはいらないよね。欲しがってもあげないけど!) そうして、天満はおにぎりにかじりついた。 「むぐむぐ…、ほらー、美味しいのにー」 そう言って、天満はケラケラと笑った。 かれんとちよもつられて笑っていた。 阪東は、笑ってはいなかったが、それほど悪い気はしなかった。 「ゲホッ……、あ、れ?」 そうしていると突然、笑っていた天満が口から血を吐き出し、その場に崩れ落ちた。 「え?」 「塚本さん?」 「なに?」 慌てて他の3人が駆け寄ったが、天満はすでに事切れていた。 「そんな…、塚本さん!塚本さん!」 「どーしたんですか? 塚本さん?」 「おい、どうした!?」 かれんは、信じられないといった様子で何度も天満の名を呼び、ちよはそれを心配そうに見つめていた。 「……死、んで、ます」 かれんは、それだけ言うとその場で座り込み、シクシクと泣き出してしまった。 「うぅ、なんで…、ふぇぇぇ…」 「そんな…」 「くそ、どうなってる?」 その後、3人はしばらくその場を動くことが出来なかった。 &color(red){【塚本天満@School Rumble 死亡】} &color(Slateblue){【残り30人】} 【C-3 道/一日目 午前】 【美浜ちよ@あずまんが大王】 【状態】:空腹、精神的ショック 【装備】:なし 【所持品】:支給品一式、鉄パイプ、トラロープ 【思考・行動】 1:………… 2:島からの脱出方法を考える 3:鎌石村へ向かう 4:仲間を探す 5:誰も殺したくない 6:閃光弾と銃声の元を確認する 7:その後、かれんの言った村役場へ向かう 【阪東秀人@クローズ】 【状態】:疲労(小)、精神的動揺 【装備】:鎌 【所持品】:支給品一式  【思考・行動】 1:………… 2:しばらくちよと一緒に行動する 3:襲ってくるなら誰であろうと叩きのめす  ただし余程の事が無い限り殺す気は無い 4:ヒロミ達とはできれば一度合流しておきたい 5:この島から脱出する 6:閃光弾と銃声の元を確認する 7:その後、かれんの言った村役場へ向かう 【一条かれん@スクールランブル】 【装備】:ワルサーP38(弾数0/8) 【所持品】:支給品一式、ランダムアイテム1~3 【状態】:疲労(小)、空腹、口内出血(軽傷)、頭にたんこぶ、腹部にあざ、精神的ショック 【思考・行動】 1:………… 2:他校の生徒を探し出し、無力化しつつ説得 3:仲間全員に取り返しのつかなくなる前に自分の仮説を伝えたい 4:閃光弾と銃声の元を確認する 5:その後、阪東達を連れていったん村役場に戻る 【その他】 塚本天満の持ち物(デイパック&支給品一式×2、毒おにぎり、取っ手付き麺棒)は、天満の死体が持っています
「今、何か光りました?」 「ああ」 美浜ちよと阪東秀人の二人は、鎌石村に向かう途中、その鎌石村から少し外れた所で何かが光るのを目撃した。 光ったのは一瞬で、木などの障害物もあったため、何の光なのかは分からなかったが、 障害物越しにも光ったと分かるほどの、かなり強い光だった。 それを見て、閃光弾の知識など無い二人だが、明らかに人工の光だということは分かった。 ということは、光の元に誰か居るということだ。 「行ってみるか」 「はい」 阪東もちよも、自分と同じ学校の仲間と(阪東の場合、仲間と呼べるような関係でもないが)合流したいと考えていたが、今はそのための手がかりが無い状況だ。 ならば、人がいるところを片っ端から確認して回るしかない。 その点では、阪東もちよも考えは同じだった。 しかし、その先は違っていた。 ちよは単純に、行く先に同じ学校の誰かが居たらいいなといった程度に考えていたが、阪東は別の可能性も考えていた。 光の元にいるのが同じ学校出身者ではなく、さらに殺し合いに乗っている場合だ。 ここは殺し合いの舞台であり、さらに光の正体も分からないのだから、警戒するに越したことはないだろう。 この辺りは頭の良し悪しというより、これまで踏んできた場数の違いだった。 「油断すんなよ」 阪東は、自分のデイパックから支給品の鎌を取り出しながら言った。 この鎌は、阪東に唯一支給された武器だった。 「っ!!……はい」 それを見て一瞬怯んだちよだったが、そこでやっと阪東と同じ考えに至り、戸惑いながらも同意した。 「あれ?なんだろう?」 塚本天満が閃光弾の光を目撃したのは、三村信史を探して鎌石村にさしかかった頃だった。 しかし天満も、当然だが閃光弾の知識など無く、それが何の光なのか分からなかった。 (花火……かな?) もし花火だったら、もう1回光るかも知れない。 二人分のデイパックを抱えてここまで歩き、疲れていた天満はそんな風に考え、 その場で立ち止まると、ボーッと光った方を眺めてみた。 「……今のは?」 一条かれんもまた、閃光弾に気が付いた人物の一人だった。 かれんは赤坂理子と別れ、村役場を出た後は他の参加者を探して鎌石村の中を隅々まで探索していた。 しかし、残念ながら鎌石村では他の参加者に出会うことが出来ず、 また、民家を一軒一軒調べていくその作業は、思いのほか時間がかかっていた。 そこで一度、理子の所に戻ろうと村役場に向かう途中で閃光弾の光を目撃したのだ。 「……なんだろう?」 もちろん、他の参加者と同じく閃光弾の知識など無いかれんは、何の光だか分からずに、しばらくその場で立ちつくしていた。 「あ!」 しかし、それが参加者の誰かによるものかも知れないという可能性に気が付くと、 すぐに光った方へ向かって走り出した。 「チッ、銃声か!?」 阪東は身を低くすると悪態をついた。 阪東とちよが先ほど光った方へ向かって歩いていると、突然、進行方向から銃声のような音が聞こえてきたのだ。 「あ、あわ…」 「バカか!つっ立ってんじゃねー!!」 阪東と違い修羅場慣れしていないちよは、 その音に驚き、体を硬直させることしか出来なかった。 阪東はそんなちよの腕をつかむと、近くにあった木の陰に移動した。 「い、痛いです」 ちよは抗議の声を上げたが、阪東はその声を無視して音のした方に注意を向けていた。 その後、少し間を置いて、今度は立て続けに何発も銃声が(もう銃声で間違いないだろう)鳴り響いた。 「どーやら、オレ達を狙っているワケじゃねーみてーだな」 「…………」 その音は、よく聴けば阪東達からだいぶ離れたところのようだったし、 近くに着弾した様子もないことから阪東はそう判断し、少しだけ緊張を解いた。 「おい、お前…」 阪東はちよの方へ振り返り、声をかけた。 ちよは、顔色は真っ青で目は涙目、体も震え、明らかに怯えている様子だった。 しかし、阪東も早急に大事なことを確認しなければならなかったので、 ちよが受け答えできる状態かは分からなかったが、ここでは質問することを優先した。 「オレに支給された武器はこれだけだ。お前の支給品に銃はあったか?」 阪東は鎌を見せながらそう言い、ちよの持っている武器を確認しようとした。 「…………」 ちよは、まだショックで声を出すことが出来なかったが、阪東の言っていることは分かったようで、無言で首を振るとデイバックを開け、阪東に差し出した。 阪東はそのデイパックの中を覗き込むと、軽く舌打ちをした。 ちよのデイバックには、食料や水といった支給品一式の他には、 鉄パイプと、トラロープが入っていた。 鉄パイプの長さは50センチほど、 トラロープの長さは、巻かれているので正確には分からないが、 おそらく10~20メートルほどだろう。 まるで工事現場かどこかから拾ってきたような支給品だった。 (チッ…、どうするか) 今の銃声で、阪東達が向かう先では殺し合い、しかも銃撃戦が行われている可能性が一気に高まった。まさか威嚇や試し撃ちであんな風には撃たないだろう。 そんなところにノコノコ出て行くのは自殺行為だ。 せめて銃があれば立場は対等だが、ふたりの支給品の中で武器として使えそうな物は、阪東の鎌とちよの鉄パイプぐらいだった。 どちらも使い方によっては人を殺すことも可能だが、銃に対抗するには貧弱すぎる。 「あ、あのー、阪東さん」 「ああ?」 阪東が迷っていると、意外なことにちよから声をかけてきた。 どうやら、阪東が支給品を確認している内に、少しは落ち着いたようだ。 顔色は相変わらず悪かったが、涙目ではなくなっていた。 「やっぱり、その、むこうの様子は見に行ってみませんか? むこうにいるのが私か阪東さんの学校の人なら、話し合いは出来ると思いますし」 ちよは声こそ震えていたが、それでもゆっくりと、しっかりと、自分の意見を伝えた。 「じゃあ、違ったらどーすんだ? 相手は銃を持ってんだぞ?」 「はい、ですからまずはこっそり様子を見てみて、違ったら戻ってきましょう」 最初は相手に気付かれないように様子を見て、同じ学校なら声をかける。 違う学校なら声をかけずに戻ってくる。 先ほどの銃声で、相手の位置は大体分かっているし、慎重にやれば出来るだろう。 勿論危険はあるし、阪東の趣味には合わないが、この島ではそんなこと言っていられない。 「わかった」 阪東は、それだけ言うと再び歩き出し、ちよもそれについて行った。 「う、動かないで下さい!!」 そのとき、ふたりの背後から声がかかった。 「なに!?」 「え!?」 阪東とちよが驚いて振り向くと、ふたりの背後に拳銃を構えた女子が立っていた。 一条かれんだ。 他の参加者を探して走っていた彼女が、阪東とちよを見つけたのは、 銃声がしたすぐ後のことであり、阪東とちよは銃声に気を取られて、 背後から接近するかれんに気付かなかったのだ。 もちろん、かれんも先ほどの銃声は気になっていたが、 今は目の前のふたりを説得して、村役場に行ってもらうのが先だと考えていた。 「抵抗しないで武器を捨てて下さい。 そうしてくれれば、危害を加えたりしないと約束します」 銃を構えたかれんは、ふたりが振り返ったのを確認すると、そう付け加えた。 「それで、武器を捨てさせた後は!オレ達をどーする気だ!?」 阪東は、かれんを睨みつけながら叫んだ。 「わ、私、いま仲間を集めているんです」 「オレ達も、てめーの仲間になれってことか!?」 「そうです!」 「チッ…」 阪東は、この島に来て何度目か分からない舌打ちをすると、考え込んでしまった。 確かに、かれんは嘘を言っているようには見えなかったが、 しかし人を見た目だけで判断すると痛い目を見るということも阪東は知っていた。 情報だけ聞き出して、いきなりズドンという可能性だってあるし、 何より銃を突き付けられて、同行を強要されているということが、 阪東には腹立たしかった。 「あ、あのー、私達は…」 阪東が黙ってしまうと、今度はちよが口を開いた。 そのとき、阪東の頭にひとつ案が浮かんだ。 「きゃ!?」 阪東は突然ちよの後ろに回り込むと、肩を掴み、首に持っていた鎌を突き付けた。 ちよは突然のことに、小さく悲鳴を上げた。 「てめーこそ銃を捨てな!!でないとこいつが死ぬことになるぜ!?」 『えぇ!?』 ちよとかれんの声がハモった。 そこで阪東は、ちよにだけ聞こえるように耳打ちした。 「(合わせろ…、いや、黙ってジッとしてろ)」 最初は、状況に合わせて演技をするように言おうとした阪東だったが、 すぐに、ちよはこの状況で演技なんて出来るのか?という疑問が頭に浮かび、 静かにしているよう、指示を変更した。 「え、でもこの人は…」 ちよは、かれんのことを信用できそうな人だと感じていたので、 阪東の行動が演技だと分かると、そんな事をする必要はないと言おうとした。 「いいから黙ってろ!!」 「ひっ」 阪東はそんなちよに向かって怒鳴ると、カマを首に押しつけた。 演技だと分かっていても、そんなことをされては恐ろしくて、ちよは黙るしかなかった。 「な、なんで…」 一方、かれんは状況について行けず、混乱していた。 かれんから見て、ふたりは行動を共にしている仲間に見えたのだが、それは勘違いだったのだろうか? (と、とにかくあの子を助けないと。…どうすれば?) そう考えたかれんだったが、阪東はかれんが考えをまとめる時間など与えず、どんどん詰め寄っていった。 「さあ、どーすんだ!?仲間を集めてんだろ? 早くしないと、その仲間が死ぬんだぞ?」 「……」 ちよはもう口を開かず、阪東に言われた通り黙ってジッとしていた。 「え、あ、あの……」 (死ぬ?あの子が死んでしまう?こんな弾の入っていない銃のせいで?) 「さあ!!」 「わ、わかりました」 どうせ弾の入っていない銃だ。 かれんはそう結論づけると、持っていた銃を足元に置いて後ずさった。 「これで…、いいですか?」 「もっと銃から離れろ!」 そう言われて、かれんはさらに何歩か後ずさりした。 阪東はそれを確認すると、ちよに鎌を突き付けたまま前進し、銃の元へたどり着くとちよを解放して銃を拾い上げた。 (今だ!) かれんはそれを見ると、阪東に向かって猛然と突っ込んだ。 「なに!?」 それは阪東にとって、まったく予想外の動きであり、結果、阪東はかれんのタックルを綺麗にもらってしまった。 「うお!!」 ドサッと地面に倒れ込み、その衝撃で阪東は持っていた銃と鎌を落としてしまった。 それだけ、勢いのあるタックルだった。 (バカな!銃を持ったヤツに突っ込んでくるだと!?) (よし!あとは赤坂さんの時と同じように押さえ込んで……) 今度は先ほどとは逆で、阪東が状況について行けず、赤坂理子がそうされたように簡単に組み伏せられてしまった。 「とにかく私の話を…、い、痛い!痛い!!」 しかし、ここからが理子と阪東では違っていた。阪東はかれんの髪をグイグイと引っ張り、無理矢理引きはがそうとしたのだ。 「ふざけんなあぁぁ!!」 「くうぅ」 かれんは、たまらず押さえ込むのに使っていた手を離し、自分の頭にのばしてしまった。 その隙を見逃す阪東ではない。かれんが少し体を浮かせた瞬間、ガバッと一気にひっくり返して体勢を入れかえた。 「オラァ!!」 そのままかれんに馬乗りになった阪東は、顔面に向けてパンチを繰り出そうとした。 阪東は、相手が女だろうと容赦する気は無い。しかし、かれんも負けてはいなかった。 「えぇい!」 阪東に上に乗られた瞬間、すかさずブリッジをして阪東の体勢を崩すと、すぐさま阪東の下から脱出した。 パンチを出そうとしていた阪東は、この動きに対応できなかった。 しかし、下からの脱出は許してしまった阪東だが、すぐに追撃し、かれんが立ち上がる瞬間に顔面へ蹴りを放った。 「シャアァ!!」 「くっ」 とっさに腕でガードしたかれんだったが、腕一本では阪東の蹴りの衝撃は殺しきれず、 跳ね上がった腕が自分の口に当たり、バチンと音を立てた。 その際、かれんは口内を切ってしまい、口の中に血の味が広がった。 それでも何とか立ち上がったかれんは、バックステップで距離を取った。 蹴りを放った直後で、体勢が不十分だった阪東もいったん下がり、 両者の間には、一気に3メートル程の距離が生まれた。 「ハッ、ハッ、ハッ……」 「はぁ…、はぁ…」 時間にしてほんの十数秒間の攻防だったが、ふたりとも肩で息をしていた。 それだけ、ふたりとも全力だった。あるいは緊張状態の中、激しく動いたせいかもしれない。 (レスリングか、予想外だったな) 阪東は、かれんの意外な能力に驚いていた。 見た目で判断するべきではないとは思っていたが、 まさかあんな華奢な体にあれほどの力が備わっているとは思わなかった。 銃さえ何とかすれば、後はどうとでもなると考えていたのだ。 だが、阪東が今まで鈴蘭や武装戦線で戦ってきた相手の中には、アマレス経験者もいた。 そうと分かれば対処法はある。 (どうしよう……?) かれんは、阪東のラフな戦い方にどう対応していいか分からず、困惑していた。 今の攻防でかれんは、阪東に対してタックルを決めること自体は、 それほど難しく無いと感じてたが、問題はその後だった。 今と同じように組んでも、また同じように髪を捕まれてしまうだろう。 しかし、阪東の鋭い眼光を見ると、その他の隙の大きい技は決まる気がしなかった。 (腕も固めて押さえ込むしかない!) ただタックルを決めるよりもよほど難しいが、やるしかない。 かれんは覚悟を決めると、再びタックルに入るべく、体勢を低くした。 「…………」 ちよは、まだ阪東に言われたとおり、黙ってジッとしていた。 「シッァ!」 先に動いたのは阪東だった。 軽く踏み込んで間合いを詰めると、かれんの顔面にむけてパンチを繰り出した。 (行ける!) かれんはそれを下に避けると、阪東の腰に組み付くべくタックルに行った。 その瞬間、ドゴッという音がしてかれんの体に衝撃が走った。 「かはっ!?」 かれんの腹に阪東の膝がめり込んでいた。 先ほど阪東が放ったパンチは、この膝蹴りを決めるための囮だったのだ。 (終わったな) 阪東は自分の勝利を確信した。並の男なら、今の一撃で悶絶し、戦意を喪失する。 レスリングをやっているとはいえ、こんな華奢な体の少女が耐えられる訳がない。 「ん?」 「はぁ、はぁ、はぁ……」 しかし、かれんは崩れ落ちず、膝蹴りを決めた阪東の足にしがみついていた。 「こいつ!!」 阪東は、その事実に驚いた。確かに、かれんの動きが阪東の予想以上だったため、 阪東の膝蹴りは完全に威力が乗り切る前に、かれんにヒットしてしまっていた。 だが、男の膝蹴りが女に突き刺さったのだ。無事で済むはずがない。 これは、阪東が予想した以上に、かれんの腹筋が強靱だったということだろう。 しかし、阪東は驚きつつも、体の動きは止めなかった。 「オラァ!」 まずは足を振ってかれんを振りほどこうと試み、それで離れないとかれんの頭に拳を振り下ろした。 「放せやコラァ!!」 「くっ」 ゴッという生々しい音が響いた。 しかし、阪東の拳も体を密着させた相手には思うような威力が発揮できず、かれんの体を引き離すには至らなかった。 (痛い…、それに、息が苦しいよぅ……) 何とか阪東の膝蹴りに耐えたかれんだったが、その衝撃はすさまじく、体にほとんど力が入らず、呼吸も苦しい状態だった。 しかしかれんは、ここで離れてしまったらもう自分に勝機はないと感じていた。 だから、意地でもしがみついた腕は放さなかった。 「チッ」 阪東は、もう一度鉄槌を振り下ろすべく拳を振り上げた。 思うような威力が出ないとはいえ、今は自分が相手を一方的に殴っている状況だ。 ならば、このまま何度も殴って心を折ってやろうと考えた。 「ウラァ!」 「うぅ…」 そうして2度目の鉄槌が振り下ろされ、ガッという音がした。 しかしかれんは、痛みとは裏腹に、自分の体に力が戻りつつあることを感じていた。 試しに少しだけ足を動かしてみると、スッと思ったように動かすことができた。 日頃鍛えている彼女の身体は、回復力も並外れていたのだ。 (これなら……) 今なら、片足タックルの要領で倒すことが出来る。 そう判断したかれんは、自らの足に力を込めた。 阪東はちょうど、3度目の鉄槌を振り下ろすべく、拳を振り上げたところだった。 「やめなさい!!」 その瞬間、突然第三者の声が割り込んだ。 『!?』 かれんも、阪東も、思わず声の方へ振り向いた。 するとそこには、黒くて髪を頭の両側で縛った背の低い少女が、阪東の落とした銃を構えて立っていた。塚本天満だ。 閃光弾にはすぐに反応できなかった彼女だが、さすがに銃声を聞いてた後は、 ただ事ではないと理解し、ここまでやって来たのだった。 そして今、眉をつり上げ、口をへの字に曲げ、怒りをあらわにした彼女は、続けて言った。 「早くカレリンから離れて!男の子が女の子を殴るなんて最低だよ!」 「塚本さん……」 「大丈夫だよカレリン。こんな人、私がやっつけちゃうからね!」 それを見て、阪東は内心焦った。 阪東が焦るもっとも大きな理由は、天満がデイパックを2つ持っているということだ。 おそらく、1人1つしか支給されないであろうデイパックを2つ持っているとうことは、 この「塚本さん」と呼ばれた少女は、ここに来るまでに人ひとり殺すなりして、デイパックを奪ってきたということになる。 そんなヤツが、今、自分に銃を向けている。 (クソッ…、これまでか?) さすがに万事休すかと思った阪東だったが、次にかれんが予想外の一言を発した。 「ま、待って、塚本さん。その銃、弾は入っていないんです」 「あぁ?」 「ええ!?」 それを聞いて、天満はとたんに慌てだすと、ゴソゴソとデイパックに手を突っ込み、 調理に使うような取っ手付き麺棒を取り出して、バットの様に構えた。 「さ、さあ、こ、来い!」 阪東は、その様子を疑問に思った。 (なんだ?これが人を殺したヤツの態度か? いや、違うのか?) 天満の様子は、人ひとり殺した者のそれとは、とても思えなかった。 そして、阪東はかれんの方を見た。もう、阪東の足からは離れていた。 (さっきは弾の入ってねー銃だったから、向かってこれたってワケか。 本当に撃つ気はなかったらしいな。簡単に手の内を明かすのはどーかと思うがな) 天満がデイパックを2つ持っていた理由は、未だに分からなかったが、 ひとまず、このふたりに危険はないと判断した阪東は、不意に横を向いた。 「……やめだ」 「え?」 「あんたとやり合うつもりは無ねーよ。てめーもだ。」 そう言って阪東は、呆気にとられているふたりを余所に、ちよの元まで歩いた。 「…………」 「お前、いつまでそーしてるつもりだ?」 「…黙ってろって言ったのは、阪東さんです」 「拗ねるなよ」 どうやらちよは、人質役にされた事が不満のようだった。 少しの間、そうして膨れっ面を披露していたちよだったが、阪東が軽く肩を叩き、 目配せするとすぐに元の顔に戻った。 (後は任せたぞ) (あ、わかりましたー) この瞬間、ふたりの間では不思議と言葉に出さなくても、意志の疎通が出来ていた。 そうして、ちよはかれんと天満の元に走っていって挨拶した。 「はじめましてー、私、美浜ちよといいます。向こうの人は阪東さんです」 「あ、初めまして。一条かれんです」 「わー、かっわいい。私は塚本天満だよー。よろしくね!」 どうやら、彼女たちはすぐにうち解けたようだった。 その様子を見て、阪東は思った。 (フン、これでいい) やはり危険のない相手なら、交渉はちよに任せた方がうまく行きそうだ。 阪東は自分のデイパックから水を取り出すと、飲みながら成りゆきを見守ることにした。 3人は自己紹介も終わり、かれんが最初に銃を向けたことを謝っているところだった。 「その、さっきはごめんなさい」 「もういいですよー。それでー塚本さん、そのデイパックって、どうしたんですかー?」 ちよはまず、阪東が今の時点でもっとも気になっていたことを天満に訊いた。 「あ、これはね三村くんのなの。そうそう、私ね、三村くんって子を探してるんだ。 酷いんだよ、その子、荷物も私も置いて先に行っちゃうんだもん」 天満は三村信二と出会った時のことや、彼の特徴などを話した。 「そうだったんですかー」 どうやら、嘘をついている風でもないし、殺して奪った訳ではないようだった。 「それじゃあ、私達も人を探しているところですから、一緒に探しましょー」 「うん、ありがとね!」 そこで、ちよと天満は握手を交わした。 次にちよは、かれんに向き直った。 「それで、一条さんは仲間を集めてるって言ってましたよね。 いま何人くらい集まってるんですかー?」 「うん、まだ私以外は1人だけなんだ。赤坂理子さんって人が協力してくれてるよ」 「赤坂さん、ですかー?」 それは、ちよの学校の生徒の名前ではなかった。 そこでちよは一度阪東に視線を送った。その視線に気付いた阪東は、静かに首を振った。 どうやら、阪東の学校の生徒でもなかったようだ。 「それでね、出来ればちよちゃんと向こうの阪東さんにも仲間になって欲しいの。 私、全員が生き残れる可能性に気付いたんだ。 向こうの村役場なんだけど、一緒に来てくれないかな?」 「えっとー」 全員が生き残る可能性という言葉はかなり気になったが、ちよはひとりでは決められず、 もう一度、阪東に視線を送った。 阪東は、今度は話に加わるべく、3人に近づきながら口を開いた。 「さっきの銃声はどーすんだ?もうだいぶ時間経っちまったが、 向こうにも人がいるのは確実だ。オレ達はそれを確かめに行くところだったんだぜ」 「えっと、それは…」 かれんは、最初に阪東とちよを発見した時、ふたりには武装解除してもらった上で、 二人だけで村役場に行ってもらい、自分はそのまま銃声の元へ行くつもりだった。 しかし、未だに二人の武装解除は果たせていない。 あまり時間をかけていると銃声の主がどこかへ行ってしまう可能性もあるし、 いまさら武装解除を頼んでも、ちよはともかく阪東は承知しないだろう。 そして、武装解除していない状態では、自分も一緒に村役場へ行って理子に説明をしなければならない。 「あのー。それじゃあ、こーしませんか?」 困惑しているかれんを見て、ちよが助け船を出した。 「私達みんなで、その、銃声がしたところを確かめに行って、その後みんなで村役場に行くのはどーですか?」 「え、でも」 折衷案としては妥当かも知れないが、それだとちよや他のみんなを危険にさらす可能性がある。 まだ困った様子のかれんに、今度は天満が声をかけた。 「そうしようよカレリン!うん、決まり!それじゃあ行こう!」 「つ、塚本さん?」 天満は、声をかけるだけでなく、かれんの手を引っ張って歩き出した。 結局、他に考えが浮かばなかったかれんは、そのまま引っ張られて歩き出し、 ちよと阪東も後に続いた。 「あ、そうだカレリン、お腹空いてない? 私、いいもの持ってるんだー。ほら!」 天満はごそごそとデイパックを漁り、おにぎりを取り出した。 「ん……、大丈夫です。今はお腹空いてないんです」 このかれんの答えは嘘だった。本当は、かなりの空腹を感じていたかれんだったが、 先ほどの阪東との戦いで切った口内の傷が、まだふさがっておらず、 時折自分の血を飲み下しながら喋っている状態だった。 血が口から溢れてくる訳ではないので軽傷のはずだが、そんな状態で食べ物を口にする訳にはいかないだろう。 「そっかー。それじゃあ、ちよちゃん!どう?」 天満は特に追求することはせずに、同じおにぎりを今度はちよに勧めてみた。 「ありがとうございます、でも、私もいまはあんまり食欲が無くてー」 このちよの答えは嘘ではなかった。 ちよは、ホテル跡で目覚めたときに、胃の中のものを全部吐き出してしまっていたので、 胃の中は空っぽだったが、今はまだ、何か食べてもすぐに戻してしまいそうな気がして、食欲が湧かなかった。 「うーん、そっかー」 最後に天満は、チラッと阪東の方を見た。彼は、歩きながらパンをかじっていた。 (あれなら、おにぎりはいらないよね。欲しがってもあげないけど!) そうして、天満はおにぎりにかじりついた。 「むぐむぐ…、ほらー、美味しいのにー」 そう言って、天満はケラケラと笑った。 かれんとちよもつられて笑っていた。 阪東は、笑ってはいなかったが、それほど悪い気はしなかった。 「ゲホッ……、あ、れ?」 そうしていると突然、笑っていた天満が口から血を吐き出し、その場に崩れ落ちた。 「え?」 「塚本さん?」 「なに?」 慌てて他の3人が駆け寄ったが、天満はすでに事切れていた。 「そんな…、塚本さん!塚本さん!」 「どーしたんですか? 塚本さん?」 「おい、どうした!?」 かれんは、信じられないといった様子で何度も天満の名を呼び、ちよはそれを心配そうに見つめていた。 「……死、んで、ます」 かれんは、それだけ言うとその場で座り込み、シクシクと泣き出してしまった。 「うぅ、なんで…、ふぇぇぇ…」 「そんな…」 「くそ、どうなってる?」 その後、3人はしばらくその場を動くことが出来なかった。 &color(red){【塚本天満@School Rumble 死亡】} &color(Slateblue){【残り30人】} 【C-3 道/一日目 午前】 【美浜ちよ@あずまんが大王】 【状態】:空腹、精神的ショック 【装備】:なし 【所持品】:支給品一式、鉄パイプ、トラロープ 【思考・行動】 1:………… 2:島からの脱出方法を考える 3:鎌石村へ向かう 4:仲間を探す 5:誰も殺したくない 6:閃光弾と銃声の元を確認する 7:その後、かれんの言った村役場へ向かう 【阪東秀人@クローズ】 【状態】:疲労(小)、精神的動揺 【装備】:鎌 【所持品】:支給品一式  【思考・行動】 1:………… 2:しばらくちよと一緒に行動する 3:襲ってくるなら誰であろうと叩きのめす  ただし余程の事が無い限り殺す気は無い 4:ヒロミ達とはできれば一度合流しておきたい 5:この島から脱出する 6:閃光弾と銃声の元を確認する 7:その後、かれんの言った村役場へ向かう 【一条かれん@スクールランブル】 【装備】:ワルサーP38(弾数0/8) 【所持品】:支給品一式、ランダムアイテム1~3 【状態】:疲労(小)、空腹、口内出血(軽傷)、頭にたんこぶ、腹部にあざ、精神的ショック 【思考・行動】 1:………… 2:他校の生徒を探し出し、無力化しつつ説得 3:仲間全員に取り返しのつかなくなる前に自分の仮説を伝えたい 4:閃光弾と銃声の元を確認する 5:その後、阪東達を連れていったん村役場に戻る 【その他】 塚本天満の持ち物(デイパック&支給品一式×2、毒おにぎり、取っ手付き麺棒)は、天満の死体が持っています

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