EB@Wiki 裕紀Ver  二章

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第二章

「っ…!!」
声にならない叫びで、巴が叫ぶ。 傷は思いのほか深いようだった
「大丈夫…か?」
隣に腰掛けていた裕紀が心配するが、今の巴の耳には全くと言っていいほど届いてはいなかった。

母艦に戻ってすぐ巴は緊急治療室に運ばれた。医師によると大事には至らなかったが当分の間安静にして
おかないと傷が開くかもしれない、だそうだ。
思わず診断結果を聞いてしまった裕紀だが、それ以上巴をどうしてやる事も出来ず、ただ己の無力さを恨
み、苛立ちを壁にぶつけながら叫んだ。
「俺が…俺が躊躇しなければ…巴は…ッ!」
戦場での躊躇は死を意味する。兵法の基本であるそれに背いた結果巴は…
そう思えば思うほど、裕紀の気分は沈んでいった。

とりあえず体を動かして気を紛らわせよう。そう考えた裕紀は機体を整備しに格納庫へ向かった。



誰も居なくなった治療室の中で巴は、激痛に顔を歪めながら同じ瞬間を脳内で何度も再生しては巻き戻し、
再生しては巻き戻していた
六歌仙を庇ってしまった自分、大量の血を流しながら痛い痛いと嘆きながら運ばれる自分
――どれも、自分の甘さが作り出した現実なのかも知れない
眼を閉じ、過去を見る。
――裏切り者である六歌仙に対して自分は親しさとか、友情とか、そういう甘ったれた感情
を抱いてしまっていた。さらにはそれを戦いの場に持ち込み…
ここまできて、また眼を開ける。胸が裂けるよな感覚に襲われながらも、大きく息を吸い込み、深呼吸を
する。巴は自分がやった事の罪深さをもう一度、噛み締める。
――こんな中途半端な事したら、裕紀はもう戦えない。
巴と裕紀、そして六歌仙は同級生だった。それ故に、互いの事を他の誰よりも知ってる自信があった。
――なのに…六歌仙は何も言わずに目の前から消えてしまっていた。私は、愚かだった。目の前の
“現実”から逃げるばかりで直視すらしなかった。それでも裕紀は六歌仙と戦えていた。なのに私は…
気がつくと巴は泣いていた。自分の弱さを責めつつも、どこか心の奥底では自分を擁護する。
そんな微妙な状態に長時間耐え続けていた巴の心はボロボロだった。
泣きながら巴は決意をした。それは弱い自分から決別するための決意であり、同時に弱い自分であり続け
るための決意。
――“私が敵に回れば…裕紀は、また戦える”


自分の機体を調整するついでに見た巴のナイトガンダムには、弾痕があちこちに残っていた
それは普段なら意に介さないレベルまで慣れきった動きで敵に…いや、殺意を覚えた相手に残り
その相手を爆散させるという弾痕…ではない。
中途半端にコックピット、スラスターの位置からずれ、カメラや間接を貫いている。
それは相手を…六歌仙を殺すことを拒んでしまった、何よりの証拠。
V2ガンダムのパイロットシートに体重全てを預けながら裕紀はその証拠を薄れ行く意識の中で見続けた。
躊躇…巴…倒す…六歌仙…殺す…逃がす…。
いつの間にか寝てしまっていた裕紀が見たのは、悪夢だった。


次の日の朝、状況は突如動いた。
重症のはずの巴が、急に失踪したのである。
同時に、動く程度には修復されていたナイトガンダムが何者かの手によって強奪されたことも確認さ
れていた。
裕紀は直感する。“巴は六歌仙の後を追うつもりだ”と
そしてそのまま影でうごめく何かに操られるように私服の状態でV2ガンダムに乗り込み
アサルト装備も、バスター装備も付けず出撃した。

焦りと怒り。
二つの感情に押しつぶされそうになりながらも裕紀はV2ガンダムで宇宙を駆ける。
頭の中によぎるのは最悪の展開――巴がレジスタンスへ…
いや、そんな事は無い。そう自分に言い聞かせ駆けた。ただ、ひたすらに。
だが、巴は居なかった。付近にこれといった熱源も無かったということは恐らく…

泣くしかなかった。
ただひたすらに泣き、同時に信頼を置かれてなかったのかという自責の念も湧き出てくる。
そんな中、一通の召集令状が届く。その内容はシンプルかつ単純なものだった。
“裏切り者の六歌仙を撃破せよ。”

“裏切り者の六歌仙を討て”
最新鋭の機体を強奪した挙句、その機体で軍に多大な被害を与えた。
それだけならまだしも、仮にもエースの一員だったのだ六歌仙は軍のトップでしか知りえない情報を知っ
ている。いつ、どこで軍の機密情報が流出してもおかしくない。よってこれを撃破せよ
だが、組織を相手にした時、個人の所在を探るのはハイリスクローリターンだと言う結論に軍はたどり着き、
“裏切り者の六歌仙を討て”という命令は次第に“レジスタンスの壊滅”へと姿を変えた

昼食を取ろうと部屋を出る。巴が脱走した事で軍部は焦っていた。
レジスタンスに脱走したとしたら六歌仙同様ほっておくわけには行かない。通路ではそんな話で持ちきりだ。
とりあえず現状を知ろうとランウジに足を運ぶ。そこには「情報屋」として有名なあいつがいるからだ。

彼はそこにいた。いつものようにアイスティーを脇に音楽を聴いている。
裕紀に気が付いた彼は手を大きく振って手招いていた。裕紀はアイスコーヒーを手にすると彼の元に行く。
「よぉ裕紀。大変な状況になってきたな」
「まったくだ。で、聞きたいことがある」
さっそく話を切り出す。彼も裕紀の聞きたいことを悟っているようだ。
「いきなりだな。で、何が知りたいんだ? 知ってる範囲でなら答えてやるよ」
「巴のことだ。ナイトで脱走したらしいな。本当か?」
「ふむ・・・。やっぱり巴の事が気になってたのか。本当だよ。巴はナイトで脱走した」
「本当・・・なのか?」
裕紀は信じたくなかった。巴が脱走するはず無い、そういう気持ちがあったからだ。
しかし、現実はそう甘くは無かった。
「本当だよ。巴はナイトで脱走した。外部の者が進入した形跡はゼロ。
巴がナイトに乗る瞬間を目撃した整備兵までいる。脱走したのは確実。それが軍部の見解だ」
「そうか・・・」
改めて現実を突きつけられると何も言えない自分がいた。そしてそんな自分がとても情けなかった。
「あと、六歌仙についてだが・・・」
裕紀は顔を上げる。
「Ex-νを使ってレジスタンスと共に現在交戦中のようだ。まったく、情けない話よ。
Ex-ν以外のレジスタンスの機体は全てジンだというのに1小隊全滅させられたそうだ。
それがEx-ν・・・いや六歌仙の実力ということだな」
裕紀は顔をしかめた。確かに六歌仙がEx-νを使えば1小隊落とす事など造作もないことだろう。
あまりに現実離れしたそれを聞くうちに裕紀はこれ以上ここで悩んでも仕方が無い…そう判断し、
その場を後にすることにした。
「分かった。飯でも食ってくるよ。ありがとう」
裕紀が席を立ち、行こうとすると「情報屋」は呼び止めた。
「これだけは覚えておけよ。お前は軍人だ。」

1人になりたくて人気の無い通路に出た。窓からは宇宙が見える。
夜をまるまる泣いてすごした裕紀は、ラウンジで友人に聞いた近況を頭の中で整理していた。
これから出撃になるんだ、出来るだけ状況を把握して置こう…そう考えているのに、思うように整理できない
どう考え直しても、整理しようとしても頭の中を巡るのは六歌仙と巴のことばかり。
つい昨日、一昨日までは同じ軍に所属していて、同じ敵と戦って…
ふと泣きそうになってる自分に気付き修正するが、それでもやはり頭の中は整理しきれなかった。

翌朝6:00。艦内に警報が鳴り響く。レジスタンスの掃討作戦開始の合図。そして、仲間との決裂の日。

第一陣の出撃が始まった。そこにはあのEx-νがあった。搭乗者、葵。
彼女は連邦の期待の新人だ。入軍テストを90点以上でクリアし、その素質に上層部を驚かせ、十数年に一度の闘神と言わせた。
即戦力としてMSに搭乗し初出撃で敵MSを5機落としたことは記憶に新しい。
そして今回搭乗するEx-ν。試作機のため2機作られた。これを使い、先輩である六歌仙と共に『友軍』として戦場に駆けるはずだった。
だが、その夢ははかなくもこの広い宇宙の彼方へと消えたのだった。しかし未練は無い。もはや敵となった味方に用は無い。
ただ・・・潰すのみ。
「葵、Ex-ν2号機。行くわ!」

出撃してしばらく経った。第二陣がそろそろ出撃している頃だろう。
レジスタンスの船は発見した。外見は全て情報と一致している。
敵艦はこちらに気付いていないらしい。それはそうだ。ブースト出力も最低限に抑え、デブリと同じような動きをしてここまで来たのだから。
母艦には敵艦補足と入電してある。奴らに勝ち目は無い。葵は各機に伝える。
「これより『レジスタンス掃討作戦』を開始する。本作戦の目的は敵艦撃破だ。敵艦は現在S方向に約100km/hで鈍行している。
現在時刻6:47.12。48秒後の6:48.00にフォーメーションDで攻撃を開始する。全員気を引き締めてかかれ!!」
「了解!!」
葵は勝利を確信していた。敵の戦力はジン30機、ジンの個人改良形と思われるものが5機、Ex-ν1号機が1機。
対してこちらはゲイツ35機、シグーディープアームズ20機、Ex-ν2号機1機。更に支援隊として第二陣が来る。
戦力の違いは圧倒的だった。

6:48.00。
攻撃開始。全機、ブーストを唸らせ敵艦を取り囲む。そして有無を言わさず攻撃を開始する。
緑の閃光が船を突き刺す。何本も、何本も。
敵艦は突然の攻撃に対処できなかったのか、対MS砲撃すらしてこない。
こちらの攻撃は全弾命中している。ブリッジは大破し、中が露出している。
葵は勝利の旨を母艦に連絡しようとする。味方はみな、勝利を喜んでいた。
「こちら第一陣指揮、葵。敵艦の撃破を確認した。これより」
目の前のゲイツが爆発し、吹き飛んだ。機体の右端で「G-23 Defeating」の文字が赤く光っていた。
「な・・・」
葵は言葉を失った。何故だ?敵は全て討ったはず。
しかし味方撃墜の警報は止まない。そうこうしている内に味方のゲイツ13機、シグーディープアームズが8機落ちていった。
落ち着け・・・。敵を確認するんだ。さっき見えた「小さい何か」それは・・・。
「奇襲とは、やるな葵・・・。」
葵は我が目を疑った。
「しかし、俺たちの方が一枚上手だ。」
あの艦にいたはずの、落としたはずのEx-ν1号機がそこにいた。

生きているのはEx-νだけではなかった。後ろからはジンの集団がたたずんでいる。
いきなりの事で葵たちは反応に遅れた。また一機、また一機と落ちていく。
「馬鹿な!!あんたがいるあの艦は落としたのに何故!?」
「あれは囮だ。」
そう、あれはただの囮だったのだ。第一陣が接近しているのを知っていた六歌仙は艦から全員を脱出させていた。
艦内はもぬけの殻だったのだ。
「すでに艦長たちは別の所に移動している。まだまだ青いな。」
ジンたちが前方に出た。連邦軍はジンたちを即座に狙った。
しかし、六歌仙はそれを許さない。自分から注意を背けた者を的確に打ち抜いてゆく。
このままだと連邦の負けは目に見えていた。
「くっそぉぉぉぉぉ!!!!!」
葵は六歌仙に向かって攻撃を開始する。だが当たらない。
「どうした?お前の実力はそんなものか?」
六歌仙の言葉は葵を激情させる。突然の攻撃のせいで頭が真っ白になっていた葵は我を忘れていた。
いつもだったらこんな挑発に乗らないのに。
「あんたなんかに!!!!」
葵はファンネルを全射出しビームサーベルを抜き、六歌仙に突撃する。
が、ファンネルの攻撃は軽く避けられた。しかし、その避け終わった地点、そこを葵は狙っていた。
「終わりよ!!!」
葵は横に切りつける。しかし、その攻撃も虚しく・・・。
「葵、確かにお前は強い。だが、俺とお前では圧倒的差がある」
Ex-ν2号機はビームライフルで打ち抜かれた。
「経験だ。素質だけで、戦場では生き残れない」
第一陣、大敗。

第二陣に組み込まれていた裕紀は出撃準備を終え、V2ガンダムに乗り込む。
全ての機器をチェックし、戦闘に支障が出ないか確認する。と同時に、次々とカタパルトから射出される
連邦軍のMSを見て、自分の出撃が近いことを改めて実感する。
しばらくすると通信機からこの作戦指揮官の声が飛び込んでくる。
「裕紀、出撃準備は終えたか?」
業務的な質問だ…そう思いながらも裕紀は答える。
「はい、完了しました」
こちらの声も業務的だと取られたのだろう、それを分かりきったような声で一言。
「そうか…ここで貴様を失う訳には行かないんだ。精一杯頑張って来い…裕紀の発進準備をしろ!」
そう、指揮官が言った直後、裕紀のV2ガンダムはV2アサルトバスターガンダムへと変貌した
どちらかと言うとスリムなV2ガンダムの空きスペースに出来るだけの火器を取り付けた機体。
それが生む爆発的な攻撃力が裕紀の自慢であり、全てだった。
その攻撃力を以てすれば何であろうと破壊できる。はずだった…が、今はそんなことはどうでもいい
ただ・・・敵を討つだけだ。
カタパルトにV2アサルトバスターガンダムをセットした裕紀は、“一個人”ではなく、
“軍人”になっていた。
オペレーターから発進準備が整ったことを告げられ、裕紀は宇宙に挨拶でもするかのように言い放つ。
「裕紀、V2アサルトバスターガンダム。行きます!」
宇宙を白い一閃の光が奔った。

一帯に広がるデブリ。その一つが機体につき当たる。
機体内に生じた振動でその機体…Ex-νガンダムのパイロット、葵は目を覚ました。
一瞬記憶喪失したような感覚に襲われるが、機体周辺のデブリを見、全てを思い出す。
レジスタンスを壊滅せよ。その命を受け、第一陣として軍の最新鋭機Ex-νガンダムを駆り出撃した葵
当初は物量で勝る連邦軍の勝利を誰もが疑わなかった。だが戦況は皮肉にも葵と同じEx-νガンダムによっ
て変わってしまった。

レジスタンスで主に使われている連邦軍製の前世代主力MS“ジン”
それは現在連邦軍で使われている量産型MS“ゲイツ”とは比べ物にならないくらいスペックが低く、ジン
3機でやっとゲイツ1機を抑えれる程度で、全くと言っていいほど脅威にはならなかった。
だが、Ex-νガンダムの出現によりその状況は覆されたのだった。
負けるわけにはいかなかった。連邦軍としてではない。一軍人として。
だが、呆気ないほど簡単に葵のEx-νガンダムは中破させられてしまった。
結果として、当初の予想は覆され、生き残ったのは葵のみという大敗だった。

そんな物思いに耽りながらも、葵はEx-νガンダムのOSを再起動させた。
「よ…し。まだ動くな」
どこかショートしているのだろう。コックピットのあちこちから火花が散っている。
そんな状態になってもEx-νガンダムは何とか動くようだった。それもそのはずだ。
六歌仙が致命的ダメージを与えないところを撃ったのだから。
キッと前を見据え、先程の戦いを思い出した葵の口は知らず知らずの内に言葉を発していた。
「裏切って、好き勝手やって…許さない!」

六歌仙ほかレジスタンスのメンバーはレジスタンスの本拠地へと向かっていた。
レジスタンスとしての六歌仙の立場は確立していた。裏切り者の六歌仙はレジスタンスでも疑われたが
再三の戦闘により、信頼を得ていた。自分のいるべき場所。もうここを離れない。
本拠地まで半ばに差し掛かったとき、熱源を感知した。支援隊が来たか。
やはり、裏切り者は生かしておくわけにはいかない、そういうことか。

次々とジンを落としていた裕紀の前に見慣れた機体が立ちはだかる。
…Ex-νガンダムだ。パイロットは?
考えを巡らせる前に答えが話しかけてきた。
「よぉ、久しぶりだな。殺人鬼」
聞き覚えのある声。紛れもなく六歌仙だった。
…やっぱり、いざ目の前にするとな…
不安と怒りを噛み殺し、何とか裕紀も言葉を返す。
「ああ、久しぶりだ」
――両者は、無言の内にライフルを突き付けあっていた。