84pの小説

二封気番外編

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(二封気視点)
耳に届く音は歪み、俺自身を内包する液体が口に流れ込む――俺自身の尿や体液が混ざったものだか、ストレスは無い。
そんな単純動作の繰り返しだけで過ぎていく時間、比較する物こそも知らないがとにかく長い沈黙――突如として、俺が世界から引きずり出される瞬間が訪れた。
頭蓋骨が歪む、道は狭い――はじめて見た世界、引きずり出したのは黒い頭の巨人、
―――喉が冷える、苦しい、体の中が締めつけられる、目に見えない何かに襲われているようだ。

   「あ、息してないやん、この子。はな、泣いてー。」

白い服の巨人のひとりが俺の背中にガスっと手刀を入れる、痛い。
もういちど叩く、痛い。 
叩く、痛い。
叩く、痛い。
叩く叩く叩く叩く叩く
どれだけ殴ってるんだ!?
おまえ!

ほがぁ! ほがぁ!

俺が叫ぶと、巨人は手刀を止めた。
そして、声と共に内臓の痛みも消えた。
巨人は、着て居た黒い布に俺を包み、別の人間に渡した―――、
俺は反射的に理解した。俺が今まで居た世界はこの女性の中だ、守ってくれてたんだ。

これが俺、列効二封気の人生最初の思い出である、『出産前から出産後に掛けての記憶』だ。
俺は生まれてから今まで、一秒たりとも『忘れた』ということがなかった。
思い出す時間を5分くれれば、10年前の学校の給食だって思い出せるし、初めて買ったパックに入っていたカードも思い出せる。
なのに、俺は数週間前、ウジャト眼の刻まれたブローチを買った辺りからどうやっても思い出せない『空白の時間』が生まれるようになった。

――聞いた話によれば、産気づいたお袋は事故によってエレベーターに取り残され、
偶然、エレベーターに同乗していた松猪四郎という刑事によって取り上げられた。
その松猪さんの話だが、何秒か泣くのが遅れていれば酸欠に陥り、脳に障害が残る可能性もあったそうだ。

もしも松猪さんがいなければお袋も俺も死んでいたかもしれないが、そもそもエレベーターに残されなければ危険もなかったわけで。
運が良かったんだか、悪かったんだか、俺の人生はそんな劇的な始まり方をした。



   「おい、二封気、起きろ、着いたぞ。」

優しかった母さんの顔が霞み、視界が晴れた時には母さんは細目のアメリカ人に変わっていた……あれ?

   「あぁー、寝ぼけてんのか二封気、着いたぞ、デュエルキングダムだ。」

   「……クロックか、今、何時だ?」

   「あぁー、7時30分だな……起きたなら、お前の腹の上で寝てる猫を起こしておいてくれ。」

都会の夜とは違って、真っ暗な自然の夜だ、
そして、ランタンが無ければ本当にデカイ猫に見えていたかもしれない、緑色のフードに包まったシャモンを揺り起こした。

   「シャモン、起きろ、着いたぞ。」

   「……ンンン?」

   「あぁー、グールズのヤツらはもう上陸してるだろうしな、
    カードを奪うんだったらさっさと行ったほうが良いぜ。」

デュエルキングダム――I2社が開催した孤島一切を使った史上最大の大会。
出場者も大会入賞者などの著名選手を揃え、優勝賞金も破額の20万ドルと名実共に史上最大の大会だ。

しかし、それにしては選手への紹介状を配布したのも開催直前の一週間前で、
さらに紹介状以外にその大会を知る機会は存在しない、と異常とも言うべき機密性が有った。

この機密の理由こそ、グールズに今大会で優勝者に配布される9枚のレアカード、『パワードカード』を察知させないためだったのだが……、
そこはそれ、独自の情報網を持つ灸焔3兄弟によって、開催二ヶ月前からグールズや俺たち正念党の耳にまで入ってきていたのだ。

俺達の今回の目的もグールズと同じく、『パワードカード』の奪取だ。
――王国の予選・決勝を誰が勝ちあがっても、最後のエキシビジョンマッチでペガサス・J・クロフォードが勝利は固い。
そして、KCの買収と9枚のパワードカードを公表し、自身のヒーロー性のアピールとして終らせる腹積りだろう。――

まあ、別にそれでも俺達としてもぜんぜん困らないのだが、
黙ってみているというのも気に食わない俺とクロック・ジュフ、シャモン・B・ウノンテがバッテリー切れのモーターボートでここまで来た、というわけだ。

   「シャモン、『星』を起動させてくれ。」

   「……うぷー……あおー……うん、分きゃった。」

シャモンはフードの中からカップメン大の円盤を取り出した。
この円盤は、この決闘王国において使われているデュエルボックスのシステムを極小化した物で、
グールズや正念党では標準装備となっている『デュエルディスク』だ。
※作者注、KCから発売された物とは多少手を加えなければ、互換性を持つことは無い。

   「あぁー? デュエルディスクがどうしたよ?」

   「クロックは『星』の能力を見るのは初めてだっけか、
    正念党の連中には俺が独自改造したオマケ機能付きの一点物のデュエルディスクを持たせてるんだよ。」

シャモンの特性によって、グールズたちの所在地は即座に分かった。
既に、城に侵入している。

   「あぁー、出遅れちまったな、こりゃぁ。」

   「散開して攻撃だよね、二封気?」

   「当然。」


(シャモン視点)
   「すっごーい! 新発売のカードだぁー!」

最初に入った部屋は、秘密裏に製作・調整されているカードくんたちだ!

   「パック名は『LAST OF FUSION』、発売日は…え、明日? 聞いてないよぉ~?」

バチっ   ボゥアァ

いきなり着いた電気と、後ろに出現した気配。

   「そこに居るのは誰だ? ここに入るにはペガサス様の許可が必要だぞ!」

   「人に名前を聞く時には、自分から名乗るのが礼儀だって、猩々鬼に借りた漫画に書いてあったよ。」

   「……私の名前は天馬、君は?」

   「やっぱり言いたくないかな~、デュエルで勝てれば、ってことじゃダメ?」

   「――良いだろう、ここは決闘者の聖域だ。」


(クロック視点)
俺は探索中に思いもしない男を見つけた。

   「あぁー、そこのアメリカバンダナのヒゲのオッサン、ちょっと止まれよ?」

ビクッ、と肩を震わせ、目の前のオヤジは右手に持っていたカードを胸ポケットに突っ込み、振り向きもせずに喋りやがった。

   「お…おう、なんだ?」

後ろめたいことでもあるのだろう、背中ごしでも動揺が伝わってくる。

   「あぁー、別に隠さなくとも良いぜ、俺も正義の味方ってわけでもねぇし、他人のカードがどうなろうが知ったことじゃねぇし。
    用事ってのは、ちょいとばかし古傷が痛んで眠れねぇからよぉ、デュエルの相手を探してたんだ、やらねぇかぃ?」

   「ククク……せっかくのお誘いだが…大切な試合がある日は、早寝早起きってやつに限るぜ、ふぁああ。」

と、わざとらしい欠伸をひとつ。

   「あぁー、全米ナンバー1のカード・プロフェサーのキースさんとも有ろう人に切り落とされた指だからなぁ、てめぇごときじゃオルゴールにもならねぇか。」

   「…あ?……、あああああああっっ!?」

振り向いたその顔は、サングラスこそ付けていないが俺の指を切り落としたキース・ハワードに間違いない。

   「てめぇ、あン時の……なんでこんなところに居やがる!」

   「あぁー、そんな事はどうでも良いんだよ、あの時の借り…きっちり返させてもらうぜ!」
※遊義皇3話、冒頭ニュース参照。


(二封気視点)
   「お前が9大レアの所持者だな!?」

   「そうですよ。」

I2社の社員っぽいヤツに片っ端から全員に言うつもりが、最初でいきなり当たった。
しかし――さすがは全世界規模のI2社と言うべきか、容姿がかなりイカれている。
服装こそはフォーマルスーツだが、後頭部から伸ばしたミツアミを口元にマスクのように巻きつけ、
目には片メガネならぬ、片サングラス…・・・何の意味があるんだ、何の。

   「…やけに素直だな、あんたも。」

   「最初は誤魔化していたんですがね、会長に嘘を吐けと命じられたわけではありませんし、
    ……レアハンターも あなたで15人目、ウソを吐くにも私のボキャブラリーが限界でしてね。」

   「そりゃお疲れ様、俺に負けた後はゆっくり休んでくれよな。」

男は無言で机の上に置かれたデュエルディスクを手に取り、腕に装着した。

   「私の名前は天辺あまべ切将きっしょう、あなたは?」

   「敵陣で名前を売るほどバカじゃないんでね、『お前』や『あなた』で結構。」

   「……それでは、アンティの確認をさせていただきます。
    あなたの提示したレアカードに応じて、こちらはパワードカードを賭けさせていただきます。」

パワードカードとは、元々Ⅰ2社内で使われ、情報流出とともにレアハンター内でも使われている9大レアの俗称だ。

   「そんじゃ、俺はこの3枚を賭けるぜ。」

言いながら二封気は、デッキから3枚のカードを選び出し、切将に見えるようにビッっと扇子開きにした。

   「……本物、ですか?」

   「いや、もちろん贋作、コピーカードだ。
    俺が賭けるのはこのカード自体というよりも、それぞれを入手したルートだな。
    オリジナルの所在地と、誰が持ってるか―、そいつが今、どこに居るのかまでは分かるぜ?」

   「ふむ……それならば、こちらのアンティは『最強の永続罠』1枚、といったところですね。」

アンティ、成立!

   『デュエル!!』
二封気 VS 切将
(8000)    (8000)

   「先攻は俺が貰うぜ、ドロー(手札6)、
    ……俺はモンスターと伏せカードを1枚ずつセットして、ターン終了だ。(手札4・伏せ1)」

警戒し、防御を固めるだけで終了する二封気。

   「私のターンです(手札6)、 それでは手札より〔マジック・クリエイター〕を召喚し、裏守備モンスターへ攻撃します。」

マジック・クリエイター 闇属性 魔法使い族 レベル4 ATK1800 DEF1550
このカードがモンスターを破壊し、墓地に送った時、このカードに魔力カウンターを1個乗せる(最大3個まで)
このカードに乗った魔力カウンターを3個取り除く事で、デッキから通常魔法カード1枚を手札に加える。(その後デッキをシャッフルする)(オリカ)

〔マジック・クリエイター〕(攻撃力1800)VS(守備力1450)〔巨大ネズミ〕→巨大ネズミ破壊、墓地へ。

    「〔巨大ネズミ〕の効果発動! デッキから〔ドリーム・ピエロ〕を特殊召喚する。」

デッキ→二封気の場(ドリーム・ピエロ)
マジック・クリエイター 魔力カウンター:0→魔力カウンター:1

巨大ネズミ 地属性 獣族 レベル4 ATK1400 DEF1450
このカードが戦闘によって墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下の地属性モンスター1体を自分のフィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
その後デッキをシャッフルする。

ドリーム・ピエロ 地属性 戦士族 レベル3 ATK1200 DEF900
このカードの表示形式が攻撃表示から表側守備表示に変わった時、相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。

ネズミの死体からカラフルなピエロが這い出す姿は中々ホラームービーチックだが、切将は気にも留めない。

   「私はカードを2枚セットし、ターン終了です。(手札3・伏せ2)」

   「ドロー!(手札5) 俺は〔ドリーム・ピエロ〕を守備表示に変更し、効果発動だ。」

ピエロは、片膝を地面につくと同時にマジック・クリエイターへ向けてナイフを投げ付け……

   「チェーンはありません。」

命中した。

マジック・クリエイター→墓地へ。

   「更に! 手札から〔融合呪印生物-闇〕を召喚し、
    〔融合呪印生物-闇〕の効果で〔デビル・ボックス〕を特殊召喚するぞ!」

融合呪印生物-闇 闇属性 岩石族 レベル3 ATK1000 DEF1600
このカードを融合素材モンスター1体の代わりにする事ができる。
その際、他の融合素材モンスターは正規のものでなければならない。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードと融合素材モンスターを生け贄に捧げて、闇属性の融合モンスター1体を特殊召喚する。

デビル・ボックス 闇属性 悪魔族 レベル7 ATK2300 DEF2000
「マーダーサーカス」+「ドリーム・ピエロ」

ドリーム・ピエロ、融合呪印生物-闇→墓地へ。
デビル・ボックス 融合デッキ→二封気の場。

   「行くぜ! 〔デビル・ボックス〕の直接攻撃ッ!」

   「ふむ、攻撃力2300ならばこのカードも出番ですな。
    私は九極の通常罠〔偉大なる障壁―グレート・ウォール〕を発動します。」

発動の宣言はあった、だが――。

   「何も――発動していないようだが?」

   「いや、発動はしていますよ――巨大すぎて見えないかもしれませんが!」

〔デビル・ボックス〕の放ったエネルギー弾は、破壊力を炸裂させる事なく空中で停止し膨れ上がっていく。

   「〔グレート・ウォール〕は縦・横の2次元に高密度のエネルギーバリヤーを作るトラップカード……如何なる攻撃も、100倍反射です!」

肥えて、元の数倍の大きさになったエネルギー球は、ビデオの巻き戻しのように〔デビル・ボックス〕へと突き進む!

じっだダダダダダダァッ

デビル・ボックス→破壊・墓地へ。
二封気LP8000→LP5700

偉大なる障壁―グレート・ウォール 通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手フィールド上のモンスターを全て破壊し、破壊したモンスターの攻撃力の合計分のダメージを相手に与える。
また、セットされたこのカードが破壊され墓地に送られた時、相手フィールド上のカード1枚を破壊することで自分フィールドにセットする事ができる。(オリカ)

   「な……〔聖なるバリア〕+〔魔法の筒〕に破壊耐性!? ブッ飛んだ効果だな。」

   「デュエルとは人生に例えることができる、人間はデッキという名の寿命が尽きた時に死に至り、
    他人との戦いで力を消耗すればデッキが残っていても、ライフポイントが尽きてやはり死にます。」

   「面白い意見だがな、それなら……」

   「そして、公平に見えても実際は公平でないところも人生とデュエルは似ています、
    人間は生来から顔・体格・体質・人種、 デッキは資金・構築技術によってデッキバランスなどによって差が生じる。
    私のデッキには九大レアが全て存在している――その事実は、プレイングや運だけでは埋め尽くせない圧倒的なアドバンテージなのですよ。」

盲目的かつ断定的な切将の発言に、二封気は威圧感と危機感を感じざるを得なかった。

   「そいつはすごいな、俺は手札から通常魔法カード〔合身〕を発動する。」

合身 通常魔法
融合デッキから融合モンスター1体を選択して発動する。
墓地またはフィールドから選択したモンスターの融合素材を選択しゲームから除外し、選択した融合モンスター1体を特殊召喚する。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする。)(KOBのさくらさんのオリカ)。

   「ほお? もう一度〔デビル・ボックス〕を召喚するつもりですか?」

   「……同じモンスターのゴリ押しで勝てるなら苦労はないんだがな。
    墓地の〔巨大ネズミ〕と〔融合呪印生物-闇〕を融合し、〔巨大格闘鼠 チュー助〕を融合召喚する。」

融合呪印生物-闇・巨大ネズミ→ゲームから除外
巨大格闘鼠 チュー助→二封気のフィールド。

巨大格闘鼠 チュー助 地属性 獣族 レベル7 ATK2350 DEF1450
「格闘ねずみ チュー助」+「巨大ネズミ」
このカードが戦闘で破壊したモンスターはゲームから除外される。(オリカ)

   「ターンエンドだ。(手札3・伏せ1)」

   「私のターンです、ドロー(手札4)、 手札から〔共同発掘計画〕を発動します。」

共同発掘計画 通常魔法
全てのプレーヤーは、墓地から「共同発掘計画」以外の魔法カードまたは罠カードを1枚ずつお互いのフィールドにセットする。
この効果でセットしたカードは、セットしたターンに発動する事ができない。(オリカ)

   「お互いの墓地には〔グレート・ウォール〕と〔合身〕の一枚ずつしかないので、選択の余地無くその2枚をセットしましょう。」

合身→二封気のフィールド
偉大なる障壁―グレート・ウォール→切将のフィールド

   「私は裏側守備表示でモンスターをセット、ターン終了とさせてもらいましょう(手札2・伏せ2)」

攻撃の全てを増幅し、プレイヤーにまで致命的ダメージを与えるほどの強力罠が復活したにもかかわらず、二封気の顔には不敵な笑みが浮かんだ。

   「俺のターン、ドロー!(手札4) 俺は手札から〔撲滅の使徒〕を発動!
    指定するのは〔共同発掘計画〕によって伏せられた〔偉大なる障壁―グレート・ウォール〕だ!」

撲滅の使徒 通常魔法
裏側表示の魔法または罠カード1枚を破壊しゲームから除外する。
もしそれが罠カードだった場合お互いのデッキを確認し、破壊した罠カードと同名カードを全てゲームから除外する。
その後デッキをシャッフルする。

   「〔グレート・ウォール〕が復活できるのは墓地に送られたときのみ、
    この〔撲滅の使徒〕でゲームから除外すれば問題なく除去できる!」

   「なるほど、我らがI2社名誉会長様も考えた理想的な除去方法ですが――私もその弱点は対策済みです。
    伏せられた九極のカウンター罠〔時間操作〕によって防げます。」

時間操作 カウンター罠
モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚または、魔法・罠・モンスターの発動と効果を無効にしてデッキの1番下に戻す。
また、ライフを500ポイント払う事で、このカードが発動したフェイズをスキップする事ができる。

   「このカードの効力により、〔撲滅の使徒〕の時が逆流を起こし、
    デッキに再度眠りにつき、そしてライフポイントを500ポイント払う事で追加効果発動、
    メインフェイズ1はスキップされ既にバトルフェズに突入しています――〔チュー助〕で〔グレート・ウォール〕へ特攻しますか?」

切将:LP8000→LP7500
二封気:メインフェイズ1→バトルフェイズ

   「……いや、俺はバトルフェイズを終了してメインフェイズ2で、
    手札から〔バイオレット・インスペクター〕を攻撃表示で召喚し、終了だ。(手札2・伏せ2)」

バイオレット・インスペクター 地属性 植物族 レベル4 ATK1100 DEF700
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り罠カードは発動できず、全てのフィールド上罠カードの効果は無効になる。(オリカ)

   「ふむ、〔バイオレット・インスペクター〕は破壊効果ではないので〔グレート・ウォール〕も無効にできますね、
    私のターン、ドロー(手札3)、私は手札より最強の通常魔法――いや、最強のカードを発動しますよ! その名は〔サンダグラウ・モンスン〕ッ!」

突如としてフィールドを包み込む雷雲、ガラガラと唸る空……、
その迫力は唯のソリッドビジョンの枠を超え、闇のゲームと見違うほど。
緩急もなく、デュエルディスクが表現しうる最大の光量と轟音が生まれ、フィールドを包み込んだ。



ズッ……っがああァアアアああッ!



光と音が止み、二封気が目を開けたとき、バイオレット・インスペクターとチュー助の姿が消えていた。

   「〔グレート・ウォール〕や〔時間操作〕は既存のカードを凌駕し、
    このカードも御多分に漏れず、他の強力な通常魔法たちを超越しているという事です。」

サンダグラウ・モンスン 通常魔法
次の効果から1つを選択して発動する。
●相手フィールド上のモンスターを全て破壊し、このカードのコントローラーは破壊した枚数分+1枚のカードをドローする。
●相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊し、破壊したカードの枚数×1000ポイントのダメージを相手に与えるか、自分のライフポイントを回復する。
この効果によって、3枚以上のカードを破壊した時、相手はランダムに手札を2枚捨てる。(オリカ)。

切将:手札2→手札5

   「禁止クラスの効力を束ね、〔サンダグラウ・モンスン〕はパワード・カードの中でも最強として君臨しています。」

1枚の発動でモンスターを全滅させ、さらに切将の手札もしっかり増えている。

   「……反則じゃあないのか? その効果。」

   「レアハンターたるあなたと理について答弁する気は有りません。
    私は〔聖なる魔術師〕を反転召喚し、〔サンダグラウ・モンスン〕を回収しますよ。」

聖なる魔術師 光属性 魔法使い族 レベル1 ATK300 DEF400
リバース:自分の墓地から魔法カードを1枚選択する。選択したカードを自分の手札に加える。

サンダグラウ・モンスン→切将の手札

   「……うそーん。」

   「更に用済みとなった〔聖なる魔術師〕を生贄にささげ、第四のパワードカード〔万物の法則〕を発動します、
     このカードは全てのモンスターに使用できる九極の儀式魔法、手札から〔光神機-轟龍〕を召喚させて…いただきましょう。」

万物の法則 儀式魔法
手札を1枚捨てるかフィールド上のモンスターを1体を生贄にして発動。
手札のモンスター1枚を召喚条件を無視して儀式モンスター扱いで特殊召喚する。 (オリカ)

光神機-轟龍 光属性 天使族 レベル8 ATK2900 DEF1800
このカードは生け贄1体で召喚する事ができる。
この方法で召喚した場合、このカードはエンドフェイズ時に墓地へ送られる。
また、このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

   「他のパワードカードに比べたらやけに大人しいカードだな?」

   「元となるカテゴリの儀式カードにバリエーションが少ないのでね、
    ――続く、第5のパーワードカード・〔無限の力〕を装備させれば、その弱点も補うことができます。」

無限の力 装備魔法
このカードを装備したモンスターは魔法・罠・モンスターの効果を受けず、攻撃力・守備力を2000ポイントアップする。(オリカ)

光神機-轟龍 攻撃力2900→攻撃力4900 守備力1800→守備力3800

   「攻撃力4900で全効果無効、しかも貫通付き……インフレ、ここに極まり、だな。」

   「行きます! 〔光神機-轟龍〕の攻撃! ライトニング・クラッシャー!」


二封気LP5700→LP800

   「これにて! ターン終了です!(手札4・伏せ2)」

完全な迎撃体制だ。
攻撃は全て〔偉大なる障壁―グレート・ウォール〕で迎撃、しなくとも二封気の防御は〔サンダグラウ・モンスン〕で除去、というわけだ。

   「俺のターン………白熱するしかないほどに不利だな、
    ここは頼むぜ! 俺のデッキ! ドロー!」

ドローカード:融合

   「(よし、このカードなら…)」

   「通しません、〔はたき落とし〕発動です。」

はたき落とし 通常罠
相手のドローフェイズ時に発動する事ができる。
相手はドローフェイズでドローしたカード1枚をそのまま墓地に捨てる。

二封気ドローカード(融合):手札→墓地へ

   「……獅子は兎を打倒としても渾身に身を震わせ、身中の虫にも持ちうる策を尽くす……
    会長より預かったカードの力を引き出し、I2社の敵は全て……我らが蹴散らします。
    そのデッキのキーカードである融合を失った今、あなたには〔光神機-轟龍〕の攻撃を防ぐ手段は無い、違いますか?」

   「ない…な。」

   「サレンダーしますか?」

   「諦める、って言葉はな、40歳以下の若者が使っちゃいけないって法律で決まってるんだ。
    最後の最後まで………〔轟龍〕の攻撃が届くまで、俺は負けねぇ! ターン・エン…………」

――後に二封気はこの瞬間から『記憶が無い』と述べた。
彼の脳はそのデュエルを記録せず、体はそのデュエルを体験しなかった。
特段、雰囲気や口調が変わったわけでもなく、ただ記録だけができなかった。

   「……ってのは止めるとして――、
    俺にはあんたがパワードカードってライオンの威を借りてるだけのキツネにしか見えないがな。」

   「減らず口も結構ですが、狐が威を借るのは虎です。」

   「細かいことに気にしてると足をすくわれるぜ…ところで、今、何時だ?」

『猩々鬼』の問いかけに、切将は柱時計をクイっ、と指差した。
時計は、11時56分を示している。

   「弱ったな、そろそろシャモンが眠くなる時間だ、
    さっき昼寝させといたが……あいつはよく寝るからなぁ。
    切将さんよ、このデュエルが終わったら勝ち負けナシに、連れの子供を探しに行っても良いか?」

   「遁走されては困りますからね、私が探しておきますよ。」

   「……口にミツアミを巻いたオッサンが近くに居たら、どんなに目蓋の重い子供でも、怯えて眠らないぞ?」

   「ご心配なく。
    手前、子供の相手はデュエルよりも慣れております。」

   「……オッサン、子供が居るのか? 男? 女?」

   「今はデュエル中ですし、談話はここまでとさせていただきます。
    ………それよりも、手が無いのならば、早くターン終了の宣言をして欲しい物ですな。」

   「ああ、『今』は打つ手は無いが……少しばかり待ってくれ。」

   「――次のターン、何もするな、と?」

   「いや、違う。」

   「されば、2ターン?」

   「それも違う――あと30秒ばかり待ってくれ、
    ………24、23、22、21、20、19、18、17、16、15…・…」

……ボーン ボーン ボーン

『猩々鬼』の笑みを誘うように時計が鳴いた。

   「何か、変わりましたか。」

嘲りなどは微塵も無く、純粋に答えを問うためだけの質問だ。

   「……裁定変更、って知ってるよな、おっさん。」

その言葉に、切将の眉が跳ね上がった。

   「カードが発売された後に、同名の別効果カードがリリースされた場合、
    事前に発売されていたカードも、あとに発売されたカードと同じ効果として扱う…そうだよな。」

   「――はい、間違いありません。」

   「この島に来る前に俺達の組織では、『近々、融合に関するパックが発売される』って情報があった。
    今、手札に有るカードか伏せカードのどっちかが、その新パックの中でエラッタ――裁定変更が掛かる可能性も0じゃない。」

   「そんな天文学的な…いや、奇跡的なことが在るはずがないでしょう?」

   「0に比べりゃ、100%も0,00001も変わらない、
    ――『ほぼ0%』のほぼってのは…無限大なんだからよ?
    奇跡で行くぜ! 伏せカード発動! 〔合身〕!」

合身 通常魔法
融合デッキから融合モンスター1体を選択して発動する。
墓地またはフィールドから選択したモンスターの融合素材を選択しゲームから除外し、選択した融合モンスター1体を特殊召喚する。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする。)(KOBのさくらさんのオリカ)。

         ↓(裁定変更)

合身 通常罠
融合カードに定められたモンスターを融合する。(オリカ)

合身は新パック「ラスト・オブ・フュージョン ―終末の融合―」で、唯一効果が調整されたカードであり、
『猩々鬼』のデッキにもたった1枚しか存在しないカードであり、切将の〔共同発掘計画〕がなければ既に墓地に有ったカードだ。
――正しく天文学的確立によって起きた奇跡だった。

   「そんな……バカなァアアアアアア!?」

   「――なるほどな、〔龍の鏡〕やら〔ミラクル・フュージョン〕の完全上位のぶっ壊れだと思ってたが……、
    エラッタでは〔融合〕の罠カードバージョンか! はははははは! 弱いなァ! コレ!
    手札の〔オベリスクの巨神兵〕・〔オシリスの天空竜〕・〔ラーの翼神竜〕を融合し――来い! 〔光の創造神 ホルアクティ〕!」

光の創造神 ホルアクティ 神属性 幻神獣族 レベル10 ATK0 DEF0
「ラーの翼神竜」+「オベリスクの巨神兵」+「オシリスの天空竜」
このカードは上記の融合素材による融合召喚でのみ、特殊召喚できる。
このカードが特殊召喚されたターン、フィールド上に存在するカードの効果を任意で無効にできる。
1ゲームに一回だけ、フィールド上に存在するカード1枚を除外する。

強い光が部屋の中に満ちた。
サンダグラウ・モンスンの豪光とは違ち、強いだけでなく、何かを守るような――柔らかな、心地よい閃光の中から、女神が現れた。

   「三幻神のコピーカードを融合した?!」

   「アンティとして提示した時にシャッフルが甘かったらしくてな、初手からセットで有ったんだ、
    俺のバトルフェイズ! 空・地・創! 滅・帰・浄! 光に消えろ轟龍! ジェセル!」

閃光の中、轟龍は消えていった。

光神機-轟龍:切将のフィールド→切将の墓地
無限の力:切将のフィールド→切将の墓地

   「そして、伏せカード発動! 〔融ゥぅううううう合ォおおお解ィイイ除ォオオ〕!」

融合解除 速攻魔法
フィールド上の融合モンスター1体を融合デッキに戻す。
さらに、融合デッキに戻したこのモンスターの融合召喚に使用した融合素材モンスター一組が自分の墓地に揃っていれば、
この一組を自分のフィールド上に特殊召喚する事ができる。

ホルアクティは光に分裂し、3体の偉大なる獣へと変わった。

   「雄々しく咆えろ〔オベリスクの巨神兵〕!
    踊るように飛べ〔オシリスの天空竜〕!
    剛毅に猛れ〔ラーの翼神竜〕!」

SAINT DRAGON -THE GOD OF OSIRIS- 神属性 幻神獣族 レベル10 ATK??? DEF???
精霊は歌う。大いなる力、すべての万物を司らん。
その命、その魂、そしてその骸でさえも。

THE SUN OF GOD DRAGON 神属性 幻神獣族 レベル10 ATKX000 DEFX000
天空に雷鳴轟く混沌の時。
連なる鎖の中に古の魔導書を束ね、その力無限の限りを誇らん。

THE GOD OF OBELISK 神属性 幻神獣族 レベル10 ATK4000 DEF4000
その者、光臨せしむれば、灼熱の疾風大地に吹き荒れ、
生きとし生ける者すべて屍とならん。

室内なのでソリッドビジョンの大きさも調整され、オシリスたちは人間大の大きさまで縮小されているが、
その闘姿は変わらず、威圧的かつ威圧的かつ絶対的だ。

   「ぐうう……凄いな、神のカードは………コピーカードを使うだけで……精神が…ぶッ潰れそうだ。」

シンシンと、猩々鬼の額に浮かぶ汗の塊。

   「……で、オッサンも知ってるとは思うが、神には〔偉大なる障壁―グレート・ウォール〕も効かない、
    そして、〔オベリスクの巨神兵〕には生贄2体を生贄に捧げることで、無限大の攻撃力を得る効果が有る。」

   「それで?」

   「――さっきとは立場が逆になるが、サレンダーしてくれないか?
    コピーといっても、これだけのエネルギーを持つ神のカードだ、
    攻撃なんてくらえば、あんたの精神のひとつくらいは余裕で壊すかもしれない。」

   「さっき自分で言った言葉をお忘れですか?
    可能性が僅かでもあるならば諦めるには値しない、と。
    九極の〔偉大なる障壁―グレート・ウォール〕ならば止められる可能性も0ではありません。」

   「だが、しかし……」

   「若い方! あまり私を嘗めないで頂こう!
    私はI2社、企画開発部部長の天辺切将! 神のコピーカードの攻撃の一発や二発、受け止めて見せましょうぞ!」

確かに、神といっても所詮はコピー、人間を一撃で死亡させることなどできるはずもないが、
それでも、世の中には当たり所が悪く、自転車で轢かれて死ぬ不運な方も存在するのだ。
だが、『猩々鬼』は覚悟を決めた。

   「茶を濁して悪かったな、 それなら全力で殴らせてもらうぜ!
    〔オシリス〕と〔ラー〕を生贄に捧げ、〔オベリスクの巨神兵〕! ソウルエナジーMAXッ!」

2体の神竜は炎へと姿を変え、オベリスクの両腕へと巻きついた。

   「究極の鉄槌………インヒニティィイ・ゴォォドォ・インパクトォッ!!」

オベリスクは両腕をカタパルトのように利用し、炎となった二神を打ち出す!

   「〔偉大なる障壁―グレート・ウォール〕を発動しま……ああ! 破られ…ぐどぅろりゃあああああ!」

切将:LP7500→LP0

3神は音もなく障壁を打ち破り、やはり無音で切将のライフを奪い去った。

   「はあ゛っ はあ゛っ ぶあー……効いたァー!」

だが切将は、直撃したにもかかわらず、切将は肩で息をしながらも2本の足で立っていた。

   「お、おい、大丈夫か、オッサン?」

   「こ、この程度の攻撃が耐え切れずに……ペガサス様の下に勤める資格なし!」

   「…そ、それは……よかった。
    でも、オッサンのライフは0だからな、アンティの『究極の永続罠』を渡してもらうぞ。」

   「会長のご命令を守れはできませんでしたが、
    ……楽しかったですよ、最後の逆転劇も踏まえて、ね。」

切将は潔くデッキから1枚のカードを探し出して、『猩々鬼』へと渡した。

   「最強の永続罠〔王宮の暴政〕か、確かに貰――
    俺はこのままターンエン…って、うわ!? なんだ!?」

   「どうかなさいましたか?」

   「俺、どうして決闘に勝ってるんだ!?」

   「は?」

   「さっきまで……〔轟龍〕相手にどうしようもなかったってのに、どうして勝ってるんだ!?」

――『二封気』の脳髄には、日付変更による効果改定なんて勝利方法は全く存在していない。

   「どうして俺はアンティを受け取ってるんだ、どうして!?」

ばきめきゃ☆

   「ここか!?」(※:英語です。)

突如として扉を開き(つーか壊して)、入ってきたのは黒いフードを纏った身長2メートルを優に超える大男だった。

   「グールズか!?」

   「制々正念党!」(※:英語です。)

突然の襲来に対しても、二封気の対応は早かった。
素早く身を翻し、窓を……一瞬蹴破ろうとするが、痛そうなので中止し、普通に窓を開けてそこから飛び降りた。
残されたのは、身長240cmの乱入者と切将のみ。

   「……どうやらお前が天辺切将らしいな……
    逃げた画像への直リンク並みにダメそうな男が9大レアを預かっているはずもないからな……。」(※:英語です。)

   「あ、あいむいんぐりっしゅのーです!」

なんだ、イングリッシュノーって。
……というか、アメリカが本店であるはずのI2社の企画部部長が日本語オンリーでええんかい。

   「………そうらしいな、それなら………うう!? 来るのか!? 総帥が…ッ!?」(※:英語です。)

瞬間、フードの隙間から黄金色のウジャト眼が耀きを切将は垣間見た。
この6時間後、切将は意識不明の植物人間状態で発見されることとなる。


――この後、二封気のポカミスによって、二封気・シャモン・クロックはグールズ・プレイヤーキラー達に襲われ続け、
正念党一行が脱出に成功したのは、優勝者の武藤遊戯が『さようなら……王国…!』とかやった一週間後だった。

ちなみにその過程で、何度もカードの入れ替わりが起きて………結果を言えば、以下のようになった。

I2社:『時間操作(カウンター罠)』・『ワンダフル・ワールド(フィールド魔法)』・『万物の法則(儀式魔法)』
グールズ:『サンダグラウ・モンスン(通常魔法)』・『生命循環(永続魔法)』・『偉大なる障壁―グレート・ウォール(通常罠)』
正念党:『サイクロン・ブレイク(速攻魔法)』・『無限の力(装備魔法)』・『王宮の暴政(永続罠)』

その詳細は気が向けば書くかも知んない。


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