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遊義皇第12話

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大阪府、デュエル課を新設。
現在交通事故よりも多いレアハンター被害に対して、従来の警察システムでは暴行傷害などが無ければ介入できなかったが、
本日より新設された希少物強行賭博対策課(通称デュエル課)によって対策が可能となった。
システムはデュエル課職員がレアハンターとデュエルを行ない、強要されたデュエルによって奪われたカードを取り戻す、といった物。
注意すべき点はデュエルを強要されたのではなく、断る事ができたと判断される状況でのアンティは対象外となる。
新部署の構成員は部長含め4人だが、部長はあの松猪四郎氏、ご存知の通り彼は星6ライセンスを取得しており、実力は保障付き。
以上、大波社発行、「デュエリストニュース」の2面記事より抜粋。


頭部に鈍い痛みに額を押さえつつ、クロックは目を覚ました。


   「よぉ、クロック、丸一日気絶してたぞ。」


   「あぁー、今何時だ?」


ベッドから少し離れた位置に座った刃咲の言葉に、クロックはそこが刃咲医院であることを知った。


   「3時半……昨日、なにが有ったんだ?」


言葉を選び、探りを入れるべく言葉を選びながら刃咲はクロックを見据える。
一緒に居たはずの行方不明になった二封気、突如現れた変人デュエリスト軍団。
その時に気絶していたクロックは、必ず何か関わりがあるはずなのだ。


   「あぁー、これな、自分でやったんだ。
    二封気が村を離れるまで何も喋らない為に、な。」


   「…あ?」


クロックのいつも通りの饒舌に、ウソを吐かれると警戒していた刃咲は逆にたぞろぐ羽目になった。


   「…で? その二封気はどこに行ったんだ?」


   「あぁー、それが言えないから寝てたんだよ。」


刃咲は二封気や福助のような頑固者を論破するのは得意だが、軟派なクロックとの舌戦は苦手なようだ。
普段ならばこれで終わってもいいのだが、今日の刃咲には頑張る理由があった。


   「福助のバカが二封気と戦いたいって煩いんでな、喋ってもらうぜ。」


   「あぁー……友情、ってヤツでな。
    お前が福助のために二封気の居場所を聞き出そうとしてるのと同じで、俺も二封気のために喋るわけにはいかねぇ。」


その言葉に、8歳の少年は初めて自分の行動理念が“友情”という名前が付いていることを知った。


   「…それなら賭けデュエルしようぜ、俺が勝ったらあんたが知ってる限りの二封気の情報を教える、
    あんたが勝ったら俺は福助に『クロック・ジュフが二封気の情報を知っている』って事を言わない。」


   「あぁー、なんだそりゃ? 交換条件にもなってねーよ。」


   「いいや、困る筈だ。
    福助が知れば、お前が指の点検に来る毎に問い詰めるに決まってる。
    俺が負ければ、『このダメ大人は何も知らない』って説得してやる、どうだ?」


むしろ、帰りの電車とかまで付いて来そうなスッポン少年を、クロックは容易にイメージできてしまった。
何にしてもここから帰るためには一日一本の電車を使わなくてはならず、年に一度はここで点検をしなければならないのだ。


   「あぁー……。」


煮え切らない様子のクロックに、逆に刃咲は焦っていた。
こんな形振り構わないような提案が、彼にとっては最後のカードなのだ。


   「あんたは自分のイカサマに絶対の自信が有るんだろ?
    それで俺みたいなガキからの挑戦を逃げるってのも……慎重すぎるんじゃねぇか?」


挑発的な口調と表情だが、その裏にある焦燥を見逃すクロックでもない。
しかしながら、それほどまでに友を思う敵を無下にできるほど冷徹になれるクロックでもないのだ。


   「……あぁー、そりゃそうだ、これで逃げたら男じゃねぇ、受けてやるぜ、そのデュエル。」


   「ッは、これでお前が自傷してまで守ろうとした秘密は解かれちまう、ってことだな。」


その返答に刃咲は自信に溢れた表情をしているが、その裏の安堵を見てクロックはむしろ微笑ましかった。


   「あぁー……俺は優しいから受けてはやるが……。
    負けてやるつもりはねぇぜ。」


クロックは、刃咲を友のために戦う戦士だと認めたからこそデュエルを受けた。
だがそれはつまり、これから起こるデュエルにおいてクロックが全身全霊を尽すという意味でも有った。





クロックが目を覚ましたのと同時刻。
アメリカで決闘していたシャモンたちは、次の任務のために日本に帰ってきていた。
シャモンの寝息と神次郎の歯軋りが鳴る中、デュエルを繰り広げる二人の男がいた。


   「はい、エクゾディア完成です。」


日付が変わってからだけで23回目のエクゾードフレイムに、ウォンビックもリアクションを取れないでいた。


   「……世界は広いな、勝てる気がしない。」


   「そうでもありませんよ、今回はエクゾディア完成が3ターン目ですからね。」


正念党が第三幹部、ホーティックの連続ドローによる1ターンキル。
5時間前の初デュエルでは先攻1ターン目のウォンビックのターン中に勝利を確定させた。
その後、数十回のデュエルの中で、コンボをロックして引き伸ばす事はできたが3ターン後に撃破された。


   「で、どうなさいますか? モーガン第3幹部。
    ブラックマイン氏の幹部入りを承認しますか?」


飛行機内でも一睡もせず、30時間以上不眠の男、第七の幹部エビエス。
仮に疲れているとしてもピアスで顔や全身を覆っていてわからないが、少なくとも声色に疲れは見えない。


   「歓迎しますよ。
    ブラックマインくんの実力も本物ですしね。」


   「これで現五幹部中、賛成は第1、第3、第5幹部。
    反対は第7幹部のみで、未投票の第4幹部がどちらであろうとブラックマイン氏の幹部入りは決定です。
    空いている幹部番号は、2か6なのでどちらにするか決めておいてください。」


唯一反対していた第7幹部たるエビエスは、淡々と状況を整理する


   「礼を言う、ホーティック。
    幹部入りの承認もだが……お前のデュエルで更に成長できた気がする。
    ……エビエス、お前も一戦しないか?」


   「ルール改正してからなら、構いません。」


   「? ルール改正?」


   「チューナーとシンクロモンスターの発売に伴い、メインデッキやエクストラデッキに枚数制限がされますからね。
    ブラックマイン氏のデッキは、大幅に枚数を減らさなければならないはず……それからなら、お受けしますよ。」


ウォンビックのプレイスタイル上、デッキ枚数が減れば大幅に戦力がダウンする。
つまり、エビエスは『お前が弱くなってからならデュエルしてやる』と言っているのだ。


   「エビエス、お前は俺のことを嫌いなようだが…俺はお前のそういうところが好きだぞ。」


   「……それはどうも。」


そんな2人を見てホーティックは去った正念党員たちを思い出し、また楽しくなりそうだ、という予感を持った。


   「第4幹部というヤツだけは会っていないが……ホーティックやシャモンより強いのか?」


いかにも戦うのが楽しみという調子のウォンビックに、ホーティックの予感は実感に変わっていた。


   「シャモン様は星20級、モーガン第3幹部は星9級。
    比べて、ジュフ第4幹部は星7級、私や神第5幹部と大差はありません。」


星は5以上でプロデュエリスト扱いだが、プロとしては最下層の星5の正規ライセンスですら479人。
登録するだけでも難易度が高く、取得すればそれだけでレアハンターの標的になる。
故に力が保障される反面、ライセンスを取得してから再起不能にされることも珍しくない。


   「ジュフ?
    ……クロック・ジュフの事か? あいつも居るのか? この組織は?」


   「面識があるんですか? 彼と?」


   「アメリカのアンダーグラウンドデュエルでは有名人だったからな。
    だが、ある時に指を切り落とされ、以降は変身できない仮面ライダーの様に姿を消した男だ。」


   「へえ……世界は狭いですね。」


その時、ホーティックのデュエルディスクから電話の呼び出し音のような甲高い音が鳴った。
デュエルディスクの音響装置にしてはずいぶんお粗末なアラームのようだ。


   「本当に世界は狭い、クロックさんがデュエルを開始しました。」


言いながらホーティックは自身のデュエルディスクからコードを引っ張り出し、ジャックをテレビに繋げた。
デュエルに集中していたウォンビックは気が付かなかったが、よく見ればホーティックのデュエルディスクには金属製の箱のような物が換装されている。


   「? どういう事だ?」


   「これは私のデュエルディスク『明(アキラ)』の特性です。
    一度でも対戦したディスクがデュエルを開始した場合、その内容を知る事が出来ます。
    ……録画も出来ます。」


ホーティックはディスクの余剰パーツに何かのディスクを入れた。
どうやら、あれはDVDレコーダーになっているらしい。
コードを繋げたテレビには、インターネットのデュエル場の様にカードデータやライフ、手札枚数などが表示された。


   「ということは……俺のディスクも登録されたわけか。」


   「ええ、見られたくないデュエルなら別のディスクでお願いします。」


   「問題ない、電池代は不条理な税金のように高いからな。
    元々、レアハンターとしてデュエルする時以外は使わない。」


あえてホーティックは言わなかったが、このデュエルディスクはかつての友、二封気の作った物。
本来はデュエル中にホーティックが内容をメモって時間が掛かっていたので、それを解消すべく作ったツールだった。
それをホーティック自身が自主改造し、自分のデュエルだけでなく、対戦した他のディスクにコンピューターウイルスのように影を残す。


   「さて、どうやらジュフ第4幹部と対戦しているのは昆虫族使い……。
    考え込む時間がかなり長いようですし、慎重なプレイヤーのようですね。」


慎重な昆虫族使い、そしてクロックが今居るのはオセロ村……。
この事実から、クロックの対戦相手を推測できたのはホーティックだけだった。




そして、当のオセロ村。
刃咲医院の門前、オセロ村には街灯もないので、太陽が昇るのを待ち、ニワトリも鳴く4時半。


   「それじゃあ、やるぜ?」


   「あぁー、もちろん。」


   『デュエル!』


先攻は刃咲。
互いに友のため、敵を見据える。


   「ドロー(手札6枚)
    モンスターを1枚とリバースをセットして終了!(手札4・伏せ1)」


   「あぁー、ドロォ(手札6)。
    ……蕎祐、お前は俺と自分との力を何対何と見てる?」


   「……7対3であんたの優勢ってところだろうが、勝てない数字じゃねぇ、気合で勝たせてもらうぜ!」


唐突な問いに関わらず、刃咲はさほど悩まなかった。
ずっと考えていたことなのだ。 自分がクロックと互角というには及ばないデュエリストであることは。


   「あぁー、概ね正しいが、実際に戦えば……」


手札から、自分の黒いデュエルディスクにカードを配置する。


   「テクニック以外の差で、俺が勝つことになる。
    手札から〔閃光の追放者〕を召喚して、攻撃!」


もみじ色の翼を持った上半身のみのロボットが、刃咲のモンスターを殴り殺した。


〔閃光の追放者〕(攻撃力1600)VS(守備力1300)〔共鳴虫〕→共鳴虫、破壊→ゲームから除外。


閃光の追放者 光属性 天使族 レベル3 ATK00 DEF00
このカードがフィールド上に存在する限り、墓地へ送られるカードは墓地へ送られず、ゲームから除外される。

共鳴虫 地属性 昆虫族 レベル3 ATK1200 DEF1300
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
デッキから攻撃力1500以下の昆虫族モンスター1体をフィールド上に特殊召喚することができる。


   「あぁー、テクニック以外の差1つ目、デッキタイプによる優劣。」


自分の有利を語っているはずなのに、クロックの表情は暗い。


   「お前の使っている昆虫族デッキは自然での生命循環を形容して“墓地”に関連したカードが多い。
    〔ドラゴンフライ〕、〔共鳴虫〕、〔魔導雑貨商人〕、〔デビル・ドーザー〕、〔黒きハイエルフの森〕とかな。
    そいつらは俺の主力、〔閃光の追放者〕なら問題なく無力化できる。」



刃咲が反論するより早く、クロックは言葉を続けた。


   「あぁー、今の〔共鳴虫〕の発動が成功していれば、モンスター除去効果を持つ〔スカラベ〕辺りを呼び出して俺のアタッカーを除去できた。
    ……ここからは勘だが、発動後の〔スカラベ〕を生贄に上級召喚も狙ってたんじゃないか?」


図星。

   「……さぁな。」


   「あぁー、顔に出さないように我慢してるのはわかっけど、露骨過ぎ。
    ……リバースカードを1枚伏せ、ターン・エンド。(手札4・伏せ1)」


実力だけでなく、デッキタイプでも不利。
デュエルモンスターズにおいて、デッキタイプによる有利・不利は出易く、それはデュエリストに圧し掛かる。
だがしかし、そのプレッシャーに負け、闘志が折れた時がデュエリストの最後なのだ。


   「っは、そんな福助の身長より小さい理由なんざ、目にも入らねぇ!」


プレッシャーごときに闘志を折られるほど、刃咲の闘志は柔ではない。

   「俺のドローフェイズ!(手札5)!
    〔黒きハイエルフの森〕を発動し、〔ドラゴンフライ〕を召喚するぜ!」


黒きハイエルフの森 フィールド魔法
フィールド上に存在する昆虫族モンスターの攻撃力・守備力が300ポイントアップする。
昆虫族モンスターが破壊された時、そのカードのコントローラーのライフを1000ポイント回復する。(オリカ)

ドラゴンフライ 風属性 昆虫族 レベル4 ATK1400 DEF900
このカードが戦闘によって墓地へ送られた時、
デッキから攻撃力1500以下の風属性モンスター1体を自分のフィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

ドラゴンフライ:攻撃力1400・守備力900→攻撃力1700・守備力1200


本来の戦闘力で勝る〔追放者〕とはいえ、森の中では僅かに及ばない。


   「これで〔閃光の追放者〕の攻撃力を超えた、攻撃!」


その時、クロックの伏せカードが開いた。


   「あぁー、〔追放者〕は倒されるが……〔マクロコスモス〕を発動しとくぜ。」


マクロコスモス 永続罠
自分の手札またはデッキから「原始太陽ヘリオス」1体を特殊召喚する事ができる。
また、このカードがフィールド上に存在する限り、墓地へ送られるカードは墓地へは行かずゲームから除外される。


〔ドラゴンフライ〕(攻撃力1700)VS(攻撃力1600)〔閃光の追放者〕→閃光の追放者、破壊、ゲームから除外。クロックLP8000→LP7900


   「〔マクロコスモス〕の効果によって、破壊された〔閃光の追放者〕は墓地に行かず除外される。」


   「知るかぁっ! カードを1枚伏せてエンド!(手札2・伏せ2)
    ダメ大人ァ、お前はカードを除外しなきゃ戦えないんだろうが、俺は墓地に頼らなくても戦えるんだよ! 」


   「あぁー、それでも相性が悪いのは事実だろうが。
    ドロォ(手札5)、スタンバイフェイズの内にこのターンのドローカード、〔サイクロン〕で伏せカードを破壊する。」


サイクロン 速攻魔法
フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。


   「どっちをだ?」


刃咲は自分のデュエルディスクに差し込まれた2枚のカードを指差した。


   「あぁー?
    ……ミスった、伏せカード1枚じゃねぇのかよ………左だ。」


   「お前から見て左、か?」


   「あぁー、蕎祐から見て左、だ。」


その宣言にニタりと一笑したのは、刃咲の方だ。


   「いよっしゃぁ!
    伏せ罠発動、〔強欲な瓶〕っ!」


強欲な瓶 通常罠
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

サイクロン:除外

刃咲:手札2→手札3


   「これでワンアドバンテージ、ってところだな。」


   「……しゃあねぇなぁー、本気出すぜ?
    〔強欲な壺〕で2枚ドロー、オマケに〔天使の施し〕発動だ。」

天使の施し 通常魔法
デッキからカードを3枚ドローし、その後手札からカードを2枚捨てる。

強欲な壺 通常魔法
カードを2枚ドローする。


天使の施し:除外

強欲な壺:除外

偉大魔獣 ガーゼット:手札→ゲームから除外(天使の施しの効果)

鎖付きドリル:手札→ゲームから除外(天使の施しの効果)


クロック:手札5


   「……〔サイクロン〕がこのターンのドロー、っつったよな…?
    なら〔強欲な壺〕は前のターンから有ったってことだよな? 何で使わなかった?」


   「あぁー、テクニック以外の差その2。
    お前はタイイチで俺のイカサマを見抜けない。
    ソリッドビジョンが出現すると、0.2秒ビジョンに注意が行くクセが有るだろ?
    ……俺が〔サイクロン〕打った時、俺への警戒が散漫に為ったぞ。」

寝耳に水だった。
刃咲は常に警戒をしていたというのに。


   「今のはイカサマの自白、と取って良いのか?」


   「バカ言うなよ、ただ俺はお前の注意が甘かったのを指摘しただけだ。
    ちなみに俺が忠告した時、ちょっと驚いただろ? 注意が揺らいだぞ。
    ……“幸運”にも、さっきの〔天使の施し〕で2枚の〔カオス・グリード〕を引いてた。
    2枚とも発動し、4枚ドローする。」

カオス・グリード 通常魔法
自分のカードが4枚以上ゲームから除外されており、自分の墓地にカードが存在しない場合に発動する事ができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。


クロック:手札7


当然、偶然を装っての手札補充であるが、イカサマの証拠を押さえられなければ弱者の言い訳にすぎない。


   「……何が起きても目は逸らさねーからな。」


   「そりゃ頼もしいな。
    〔異次元の生還者〕を召喚し、〔ドラゴンフライ〕へ攻撃だ。」


異次元の生還者 闇属性 戦士族 レベル4 ATK1800 DEF200
自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードがゲームから除外された場合、
このカードはエンドフェイズ時にフィールド上に特殊召喚される。


〔異次元の生還者〕(攻撃力1800)VS(1700)〔ドラゴンフライ〕→異次元の生還者、破壊、ゲームから除外。刃咲LP8000→LP7900


戦闘で破壊されたが、〔ドラゴンフライ〕の効果は〔マクロコスモス〕によって封じられる。
逆に、クロックが出した〔異次元の生還者〕は、〔マクロコスモス〕によって破壊してもエンドフェイズに復活する不死身のモンスターに変質している。


   「……ッ!」


   「あぁー、今は眼を逸らさなかったな、無駄な足掻きだが悪くない。
    俺はカードを1枚セットしてターン終了だ。(手札5・伏せ1・発動中1)」


刃咲はクロックを凝視したまま、カードをドローし……そこで凍りついた。


   「あぁー…どうした、手札も見ずにプレイする気か?」


今のドローカードを見るためには、当然そちらに目を向けることになる。
片目でもクロックから離せば、クロックは手札を入れ替えるだろう。
――刃咲には迫力が足りないのだ、目を離している間にクロックに手札入れ替えを躊躇させるほどの気迫が。


   「ちぃ……。」


延々とドローカードを見ずにデュエルすることは不可能。
かといって目を離すこともできず、刃咲はクロックから目を離さずに記憶だけで手札からカードをプレイする。


   「〔カゲロウの一生〕を発動し、手札の〔アルティメット・インセクト LV5〕を特殊召喚するぜ!」


カゲロウの一生 速攻魔法
手札の昆虫族モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。
この効果で特殊召喚されたモンスターが相手に与える戦闘ダメージは0になり、特殊召喚されたモンスターは発動ターンのエンドフェイズに手札に戻る。(オリカ)


アルティメット・インセクト LV5 風属性 昆虫族 レベル5 ATK2300 DEF900
「アルティメット・インセクト LV3」の効果で特殊召喚されたこのカードがフィールド上に存在する限り、全ての相手モンスターの攻撃力は500ポイントダウンする。
自分のターンのスタンバイフェイズ時、表側表示のこのカードを墓地に送る事で「アルティメット・インセクトLV7」1体を手札またはデッキから特殊召喚する。
(召喚・特殊召喚・リバースしたターンを除く)


アルティメット・インセクト LV5:攻撃力2300・守備力900→攻撃力2600・守備力1200


   「あぁー、ミスったな蕎祐。
    俺の〔異次元の生還者〕は〔マクロコスモス〕が有る限り殺されても復活する。
    〔カゲロウ〕の効果で戦闘ダメージも発生しない……〔アルティメット・インセクト〕は犬死だ。」


   「俺がそんなミスをするわけねーだろうが! 〔アルティメット・インセクト〕ッ! 究極害病砲LV5!」


剣状の足を折り重ねてエネルギーを蓄積し、数秒間の間を空けてから開放すべく足を広げ初め……。


   「広げるな! まだ溜めろ〔インセクト〕ッ!」


例えるなら下痢腹抱えてやっとのこと探し当てたトイレに既に人が入っていたような体性で固まるインセクト。


   「溜めろよ、まだだぞ、待て、お預け、ストップ、タンマ、ダルマさんが転んだ、お前はやれば出来る子だぞ!」


   「あぁー……溜めても数値的には変わらないんだから撃ってやれよ。
    …それにこれだけデカイやつなら音も大きくなっちまうし、ご近所の迷惑を考えろ。」


   「耳塞げよクロック! 究極害病砲LV5オーヴァーパワー……発射ッ!」


ぎぃいいいいぃいいぃぃしゃああああああっっっっ!


〔アルティメット・インセクト LV5〕(攻撃力2600)VS(攻撃力1800)〔異次元の生還者〕→異次元の生還者、破壊、ゲームから除外。


毒素の紫色に輝く軌道の延長線に立っていた〔生還者〕は跡形もなく消し去ったが、当然ターン終了時に復活する。
だが、毒されたのは〔生還者〕だけではない。
溜め込んだ衝撃波のエネルギーは、デュエルディスクが再現できるギリギリの音量だった。


    「あぁー……鼓膜破れるかと思った……耳がキンキンする。」


   「え? 何? なんて言った? 聞こえねえぞ。」


耳を塞いだとは言っても、至近距離で聞いたせいで耳が動いていない。
そんな騒音の中、ご近所さんに聞こえていないわけが無い。


   「うるさいぞ! 何時だと思ってるんだ!…オオ、デュエル中か! なら仕方ねぇか!」


   「ちょっとォ! うちの子が起きちゃったじゃな……あ、デュエル中なの?」


   「おぎゃぁああああ! おぎゃああ!……でぅえる…でぅえる…。」


   「クロックさん起きたんですか、よかったですね……って、ずるいよ刃咲くん! 内緒でデュエルするなんて!」


   「今のは刃咲の究極虫の効果音よね? 対戦相手は誰?……クロック?」


壱華や福助も含む苦情目的やらなにやらで集まってきたギャラリーの面々だ。


   「あぁー、ごめんなさい、すいません、本当にごめんなさい、朝から騒いでごめんなさい。」


耳復活まで5分ほど。
それまでに考え、クロックはやっと刃咲が何がしたかったのかを見切った。


   「あぁー、なるほどな。
    俺の手札入れ替え封じに……あれだけの騒音を意外と性根がセコくできるな、おまえ。」


   「さぁて、ダメ大人よ。
    俺だけじゃなく、これからも集まってくるデュエルバカ全員の目を誤魔化して…イカサマが出来るか?
    この村は、ほとんど全員がデュエリストだからな、目を離さないぜ?」


   「おぉー、あの兄ちゃんイカサマ使いだってよ!」


   「よし、あたしが見極めてあげるわ!」


今もなお増加する苦情を言いに来て、そのままギャラリーへと転じる村民。
全員がイカサマを見る為に眼を光らせた時、刃咲はやっとドローしたカードが確認できる。


   「ナイスドローだったな、俺。
    このターンのドローフェイズで引いたのは、魔法カード〔レベルアップ!〕
    このカードを使って〔LV7〕に昇華し、ターンエンド。(手札1・伏せ1)」


レベルアップ! 通常魔法
フィールド上に表側表示で存在する「LV」を持つモンスター1体を墓地へ送り発動する。
そのカードに記されているモンスターを、召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚する。


アルティメット・インセクト LV7 風属性 昆虫族 レベル7 ATK2600 DEF1200
「アルティメット・インセクト LV5」の効果で特殊召喚した場合、
このカードが自分フィールド上に存在する限り、全ての相手モンスターの攻撃力・守備力は700ポイントダウンする。


   「あぁー……こりゃ、俺も本気を出さなきゃならねぇかな…?」


   「さっきからずっと本気だろ? 負け惜しみ言うなよ、ダメ大人。
    ……こっからが本当の勝負だってのは、同意するけどな。」


デュエルディスク越しに見てい正念党幹部や村民たちに見守られ、双方に牙を向け合う。
――最初は友のためのデュエルだったが、今はお互いのプライドを掛けたデュエル……いつも通りのマジデュエルだ。



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