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遊義皇第8話

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快感1タッチナベコゲ! 売り上げ22万個突破。
アイディア商品の開発で知られる倉塔夫妻の最新発明、「ナベコゲ」。
油汚れ・黒コゲを12秒ほどで簡単に落としきると言う画期的な商品。
1つ100円で半永久的に使用可能、更に焼き鳥作りにも応用できると言う多様性もあり、
主婦だけでなく、レストランなどでも利用されている。公談社発行、5年前のスリップ3月号見出しページより抜粋。

作者視点
   「暇だなー。」

アメリカ行きの飛行機の中、シャモンは誰に、と言う訳でもなく言葉を吐き出した。

   「それでは……デュエルでもしますか?」

シャモンの隣に座ったエビエスという男は、バラエティ番組で匿名の人物の声を変声機で変えたような妙に甲高い声でそう尋ねた。
――男、と言ったが、実際は判然としない。 このエビエスという男、全身の皮膚という皮膚に金色の指輪のようなピアスを刺し、皮膚が何色かすらわからない。
こんな胡散臭い男だが、かつて正念党の主力だった灸焔三兄弟と呼ばれる集団の紹介と、その高い実力で正念党の最高幹部、七人衆のひとりとして名を連ねている。
(階級だけで言えば、シャモンやホーティック、クロックなんかと同格。)

   「いいよ、エビエスの戦術はデュエルしても面白くないし。」

   「これはこれは……では、モーガン第3幹部のコピーデッキや、ジュフ第4幹部のコピーデッキでも使いましょうか?」

いいつつ、懐から紫のスリーブの付いたデッキと、金色のスリーブの付いたデッキを取り出すエビエス。

   「ホーティックのデッキは1キルだから決着が早すぎるし、クロックのデッキはクロックが使うから楽しんじゃない。 エビエス?」

これは七人衆に限った話ではないが、上級者のデッキともなると本人の戦術に合わせてカスタマイズしてあるのが当たり前。
クロックのデッキは特にそれが顕著で、不正行為による手札調整を前提にしているので、普通のデュエリストが使うと手札が事故りやすい。

   「相違有りません。 では………シャモン様、日本から3つほど連絡が入りました。」

彼はどこに無線機を持ってるかは知らないが、突如として喋りだした。

   「まず1つ目、オセロ村に派遣していた爬露第3幹部補佐が敗北し、猩々鬼の説得に失敗しました。」

   「飛行機ジャックするよエビエス、目標地をオセロ村に変更させる。 まずは操縦席に――」

シャモンは迷う事も無く即座にジャンボジェットを占拠する作戦を立てる。

   「落ち着いてください、
    もう1つの連絡はジュフ第4幹部からで、猩々鬼の説得に成功したそうです。」

   「ああそう、じゃあ行き先はドミノ町の本部に変更だね。」

連れ戻しても連れ戻さなくともハイジャックする気だったんか、コイツは。

   「それでは作業効率が拙劣です。
    このままヴァイソンダーヅを制圧して後顧の憂いを無くしましょう。」

   「…後顧の憂いってなに?」

   「不安要素の事です、猩々鬼との再会に万全を期してからにしましょう。」

   「…それも良いかもね、猩々鬼が居ない間にメンバーを増えてる、って驚かせるのもアリだよね。」

本来、ヴァイソンダーズと正念党の戦力比は5対1程度で、既にアメリカでは正念党の一部隊が互角以上の戦いを繰り広げている。
そこに一騎当千の戦力であるシャモンが加われば、十二分に制圧する事はできる。
なのに、エビエスもくっ付いている理由がこれだった。 シャモンをセーブし、効率を上げるため。

話題を逸らされた事にも気が付かないシャモンと、冷や汗モノな状況でも顔色ひとつ変えない……そもそも、変えても分からないほどに顔面をピアスで埋め尽くした男、エビエスを乗せた飛行機はアメリカを目指していた。


作者視点

   「さぁてと、連絡しといたぜ、ニ封気。
    説得した事にさえしておけば追っ手を送り込む事もないだろうしな。」

クロックは正念党への通達を済ませ、受話器を置いた。

   「俺としてはありがたいが……良いのか? 正念党にウソの報告して?」

   「あぁー、問題ねーよ。『ぼくは二封気くんに騙されました』で誤魔化すからよ。
    ――で、これからどうする? 行く先は俺が知ってると口が滑る事もあるから聞かないが……金に心当たりは有るのか?」

   「……生きていくぐらいはできるだろ、多分。」

どこを見てるでもなく、ボソッと言ってのけるニ封気。

   「あぁー、俺も真剣に生きてるって言えるほどじゃないがな、ちょっと甘く見すぎてるんじゃないか?
    俺の知り合いで、ストリートデュエルを経営してるヤツがいる。 紹介するぜ?」

苦笑いをしながら、二封気はクロックに歩み寄り、ポンっと肩に手を置く。

   「俺、友達にだけは恵まれてるって胸張って言えるぜ。 クロック。」

   「あぁー、ふざけてる場合か?」

といいつつ、ちょっと嬉しそうなクロック。

   「だがな、本当に金については目処があるんだ。
    俺が昔作ったデュエルディスクのパーツの特許。
    それを兄貴が管理してて、俺の口座を作ってくれてるはずだから当座の金ぐらいにはなるはずだ……多分。」

自分の特許でいくら儲けてるかも知らない辺りがダメ大人たる所以である。

   「あぁー、あと最後にひとつ。」

   「ん?」

   「死ぬなよ。」

   「――ああ、俺にはまだ――やらなきゃならない事がたくさんあるからな。」

そんな感じにシリアスをしていると、小さな足音と聞き覚えのある声が聞こえてきた。

   「あ? なんだよ福助、今日は刀都屋、閉まってるみたいだぜ?」

   「ホントだ。 どうしようか、刃咲くん。」

クロックも二封気も、子供たちに別れを告げるつもりは無い。

   「あぁー、あいつらに見つかる前に出ちまった方がいいな。 裏口から――」

   「すまん、クロック。 眠い。」

突如として二封気は倒れこみ、寝息を立て始めた。

   「……あぁー、思い出した。
    疲れたら眠る……そういうヤツだったんだよな、お前は。」

過去にも何度か、二封気が突然眠ってしまい、その都度苦労させられた経験があるクロック。
そして、またもや苦労させられる予感がクロックの全身を過ぎった。

   「あぁー、まず…ガキどもは居留守で誤魔化すか。」

ガンガンガンガン! っとシャッターを叩く2人。

   「ダメ大人×2ィ。 デュエルディスクを貸せ。」

   「ニ封気さーん、クロックさーん、デュエルしましょうよー。」

うるさいが、無視するクロック。

   「…いないのかな?」

   「そんなわけはないな。 入店した足跡と帰ってきた足跡の数から判断して2人とも中に居る。」

山育ちの子供! 足跡で判断するな!

   「オラァ! 居るのは分かってるぞダメ大人どもォ!」

借金取りのような刃咲の言葉に、クロックは諦めたようにシャッターを開けた。

   「あぁー、悪いな、ちょっと眠って………」

クロックの予想通り子供達も居たが、見覚えの無い男も立っていた。

   「オー、ジュフ第4幹部、コンニチハー。」

立っていたのは金髪長身、青い瞳の外人……これだけ言うと正統派美青年っぽいが、実際には異なる。
服装はTシャツにスパッツ一枚で秋の寒空に外出し、寒さの中スマイルを浮かべている筋肉質のオッサンを『正統派美形青年』呼ぶはずも無い。

ガシャン!

その姿を認めたクロックは反射的にシャッターを下ろした……が、外側から無理に開けられた。

   「この人、さっき道に迷ってたのでお連れしたんですけど……クロックさん、お友達ですか?」

福助がクロックを困ったように見詰めながら言う。
クロックの名前や肩書きまで知ってるなら確実に正念党員だろうが…どうしたものか。

   「…あぁー、何しに来た…っつっても分かりきってるか。」

   「イエース! ミーネームイズ・ニック・ゴールド!
    デュエルしにキマシタ! ニックはショオジョーキのクビホシイデース!」

ショオジョーキ……つまり、二封気の二つ名、『猩々鬼(しょうじょうき)』のことか。
侍映画か忍者映画の影響か、『首が欲しい』なんて言葉を知っているくせにカタコトに日本語をいうニック。

   「あぁー、それならもう必要ねーぞ、俺が説得したからな。」

   「そのハナシならキイテマース! デスガ、ショオジョーキを倒したら幹部入りのハナシは無効にナッテイマセーン!」

そんなバカな理屈があるか!……とクロックはツッコミたかったが、そんな理屈が有る組織なのだ、正念党は。

   「よく話はわかんないけど、筋肉オジさんも二封気さんの知り合いのデュエリストなんですかぁっ!?」

キラッキラした視線を送る福助に、キラっと白く光る歯を見せるニック。 清々しすぎてムカつくわ。

   「イエース! ニックはデュエリスト・オブ・デュエリストねー!」

   「じゃあ僕とデュエルしましょう! 筋肉オジサン!」

   「オウ、ソーリー、ソーリー、ソリはレッドノーズトナカイで引きマース。
    ニックはショオジョーキとデュエルキボンヌ!」

レッドノーズ……赤い鼻? っつかキボンヌって英語だっけ?

   「あぁー、悪いがなニック。 猩々鬼……いや、二封気は今デュエルはできねぇ。
    その間は、そこの福助とでも遊んでな。」

   「……?」

クロックはそれとなく正念党の幹部である事を利用して、ニックに命令した。
その言い回しに、刃咲は言いがたい違和感を持ったが、言いがたいので言葉にはしない。

   「OK、ショオジョーキが来るまでデュエルしましょう!」

その回答に、福助はパァッと明るい笑顔を灯した。
福助は、クロックが刀都屋の中から持ち出したデュエルディスクを構えて、ジャンケンもせずにニックのディスク内蔵の先攻決めマシーンのランプはニック側に点灯した。

   『デュエル!』


   「ワタシが先攻モライマース(手札6)!
    ミーは〔妖精王オベロン〕を墓地に送り、〔墓地農場化計画!〕のエフェクトプレイ!」

墓地農場化計画! 通常魔法
手札の植物族モンスター1枚を捨てる。自分のデッキからカードを2枚ドローする。

   「オッサン、『ワタシ』なのか『ミー』なのか、一人称ぐらいハッキリしろ。」

刃咲のツッコミにも動じず、カードをプレイする。

   「ジャパンの皆さんはいつもそこを気にしマスが……スモールなことは気にしてはいけないデス。
    ミーはモンスターをセットし、エンドフェイズデース。(手札4・伏せ0)」

   「僕のターンですね!(手札6)……僕は〔エレメト・ザウルス〕を攻撃表紙で召喚します。
    そして、僕は〔幻惑の巻物〕を〔エレメント・ザウルス〕に装備します。」

エレメント・ザウルス 闇属性 ドラゴン族 レベル4 ATK1500 DEF1200
このモンスターはフィールド上に特定の属性を持つモンスターが存在する場合、以下の効果を得る。
●炎属性:このカードの攻撃力は500ポイントアップする。
●地属性:このカードが戦闘によって破壊した効果モンスターの効果は無効化される。

幻惑の巻物 装備魔法
装備モンスターの属性を自分が選択した属性に変える。

   「〔幻惑の巻物〕で〔ザウルス〕自身が地属性となり――そして! 攻撃です!」

地面を深く踏みしめ、恐竜は自分以上の大きさを持つ裏守備モンスターへと突撃し、食い散らかした。

〔エレメント・ザウルス〕(攻撃力1500)VS(守備力1000)〔ロード・ポイズン〕→キラー・トマト破壊、墓地へ。

   「ナイスデース! 〔ロードポイズン〕効果発動! 墓地から〔妖精王オベロン〕を……ホワイ?」

ロードポイズン 水属性 植物族 レベル4 ATK1500 DEF1000
このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時、
自分の墓地に存在する「ロードポイズン」以外の植物族モンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する。

破壊されてザウルスの胃袋に完全に収まっても、効果を発動する気配するすらないポイズン。

   「〔ロードポイズン〕の効果は発動しません、〔エレメント・ザウルス〕の効果を知りませんか?」

そしてニックはディスクを操作して、福助の場のカードの効果を確認し、少し考え込んだ。

   「〔幻惑の巻物〕によって〔ザウルス〕自身をガイアトリュビュートにチェンジして効果を無力化、やりますネ!」

   「更にカードを2枚セットして、ターン終了です!(手札2・伏せ2)」

   「ワタシのターンデース(手札6枚)! 手札から〔ダンディ・ライオン〕をプレイ!
    ビバっと〔ダンディライオン〕を生贄に〔モンスターゲート〕を発動デスマス!」

ダンディライオン 地属性 植物族 レベル3 ATK300 DEF300
このカードが墓地へ送られた時、自分フィールド上に「綿毛トークン」(植物族・風・星1・攻/守0)を2体守備表示で特殊召喚する。
このトークンは特殊召喚されたターン、生け贄召喚の為の生け贄にはできない。

モンスターゲート 通常魔法
自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる。
通常召喚可能なモンスターが出るまで自分のデッキをめくり、そのモンスターを特殊召喚する。
他のめくったカードは全て墓地に送る。

ダンディライオン 地属性 植物族 レベル3 ATK300 DEF300
このカードが墓地へ送られた時、自分フィールド上に「綿毛トークン」(植物族・風・星1・攻/守0)を2体守備表示で特殊召喚する。
このトークンは特殊召喚されたターン、生け贄召喚の為の生け贄にはできない。

   「デッキッキトップカードは……オーウ! ベリーベリーベリー! 〔ギガプラント〕デース!」

ギガプラント 地属性 植物族 レベル6 ATK2400 DEF1200
このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、通常モンスターとして扱う。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●自分の手札または墓地に存在する昆虫族または植物族モンスター1体を特殊召喚する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

ギガプラント:デッキ→フィールド
綿毛トークン:フィールド
綿毛トークン:フィールド

一挙にフィールドに3体のモンスターが展開された!

   「〔ギガプラント〕ォオオッ! 〔ロードポイズン〕の仇を討つデェス!」


〔ギガプラント〕(攻撃力2400)VS(攻撃力1500)〔エレメント・ザウルス〕→エレメント・ザウルス、破壊・墓地へ。 
福助LP:8000→LP7100

   「っつうう……!」

   「ミスティックなリバースカードをワン枚セットネー! エンド!(手札3・伏せ1)」

やっぱり謎の英語を連呼するニック・ゴールド25才。

   「僕のターン、ドロー!(手札3)! 行くよ! ドリアード!
    〔ワンジュ・ゴッド〕を生贄に捧げ、〔ドリアードの祈り〕! 手札から〔精霊術師 ドリアード〕を召喚します。」

ドリアードの祈り 儀式魔法
「精霊術師 ドリアード」の降臨に必要。
フィールドか手札から、レベルが3以上になるように生け贄に捧げなければならない。

精霊術師 ドリアード 光属性 魔法使い族 レベル3 ATK1200 DEF1400
「ドリアードの祈り」により降臨、このカードの属性は「風」「水」「炎」「地」としても扱う。

   「……ビューティフル。」

ニックは、分かり易い英語で賛辞を飛ばした。

   「結構分かる口ですね! 筋肉おじさん!
    〔ワンジュ・ゴッド〕でカードを1枚ドローして、っと。」

ワンジュ・ゴッド 光属性 天使族 レベル3 ATK100 DEF100
このカードが儀式魔法カードの生贄となり、墓地に送られた場合、コントローラーはカードを1枚ドローする。(オリカ)

福助手札0→手札1

   「ですがまだまだスイート! チョコレートパフェクラスにスイート! 攻撃力1200程度じゃワタシの〔ギガプラント〕には勝てませェん!」

スイート……ああ、『甘い』ね。

   「手札から〔アームズ・ホール〕を発動して、デッキからカードを1枚……うあ!? 〔ハイ・プリーステス〕!?」

アームズ・ホール 通常魔法
自分のデッキの一番上のカード1枚を墓地へ送り発動する。
自分のデッキまたは墓地から装備魔法カード1枚を手札に加える。
このカードを発動する場合、このターン自分はモンスターを通常召喚することはできない。

ハイ・プリーステス:デッキ→墓地へ。

   「お前、まだそんなカード入れてたのか?」

ハイ・プリーステス 光属性 魔法使い族 レベル ATK1100 DEF800
聞いたことのない呪文を唱え、あらぶる心をしずめてくれる。

特に変わった効果などはないが、『イラストがドリアードに似ている』というある意味、ブルーアイズすらも超える理由でプレミアが付いているレアカードだ。
ドリアード使いの福助も同様の理由で入れていたらしく……似てるモンスターを墓地に送っただけで心苦しそうな顔してる。

   「……うー、ゴメン。 〔ハイ・プリーステス。 絶対勝つよ。
    僕は〔アームズ・ホール〕で〔リチュアル・ウェポン〕を手札に加えます。
    そして、〔リチュアル・ウェポン〕を〔精霊術師 ドリアード〕に装備します。」

リチュアル・ウェポン 装備魔法
レベル6以下の儀式モンスターのみ装備可能。装備モンスターの攻撃力と守備力は1500ポイントアップする。

精霊術師 ドリアード:攻撃力1200→攻撃力2700

   「〔ギガプラント〕に攻撃! エレメンタルゥ・アァアアチェリイイイ!」

装備されたリチュアルウェポンに光の矢をつがえ、ギガプラントに狙いを定め、射ち放つ!

   「ソーリー! 伏せカード発動デェース! 〔攻撃の無力化〕デース!」

攻撃の無力化 カウンター罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

光の矢は、空中に現れた渦に飲み込まれ、消失した。

   「……〔攻撃の無力化〕だぁ?」

刃咲は露骨に不振そうな声を出した。
カードプールを把握しているデュエリストならば、攻撃の無力化はカウンター罠という特性を生かせるデッキ構築以外では和睦の使者や威嚇する咆哮などの上位カードを採用する。
ニックのデッキはここまでの流れから、カウンター罠を生かせるデッキではない。

   「ニックって言ったっけ? あんた、〔和睦の使者〕とか〔威嚇する咆哮〕とか知ってる?」

   「ソーリー! 全然知りませーん!」

威嚇する咆哮と和睦の使者、この2枚は中・上級者ならば絶対に知っているカード、と言っても差し支えは無いだろう。
この発言でニックが初心者なのは確定的だが、これに驚いたのはクロックだけ。
なんで初心者がカードハント組織である正念党に参加してるんだ?、と。

   「……あぁー、ニック、お前、誰の部下だ?」

正念党は管理や組織形態の都合上、形の上では幹部の誰かの下に付く事になっている。


   「モーガン第3幹部の部隊の所属デース!」

あぁー、っとクロックが納得したが、逆に疑問がわいた刃咲。

   「おい、何の話だ?」

   「あぁー、ま、気にすんな。」

解説すると、ニックを始めとするモーガン第3幹部……つまり、ホーティックの事だが。
ホーティックは水準以下の入党希望者を断らずに全て自分の部下として取り入れていたが、その面々は高い理想に見合わない低い実力から3H(貧弱、へっぽこ、ヒーロー成り損ない)と呼ばれている。
というかホーティックは、よく言えば仲間思い、悪く言えば断れない性格で、そんな人柄に惹かれて爬露巳式を始めとする腕利きも入っている。
そのため、ホーティックの部隊は上と下の落差が最も大きい部隊となっているので、ニックの実力は頷ける。

   「説明しろよダメ大人。 どういう意味だ? それは。」

   「刃咲くん、今はそんなことはいいよ。 まずはデュエルだッ!
    僕はカードを2枚セットして、ターン終了です。(手札1・伏せ2)」

ヒートアップしてきたらしく、ニィっと福助は深い笑みを浮かべる。

   「ワタシのターンネ、ドロー!(手札3)」

気のせいか、「~~~ネ」って中国人の方言じゃないか? 漫画的には。

   「ワタシは手札からこのカードを通常召か……」

   「えぇー!?」

ニックのプレイングに、福助が子供独特のキンキン声で叫んだ。

   「ホワイ? どうかしましたか?」

   「あぁー、ニック。 ちょっと自分のフィールドと墓地、よく見てみろ?」

全く気が付いていないニックに、クロックがヒントを与える。

   「フィールドにはギガプラントと2体の綿毛トークン……セメタリーには……オーウ! そういうことデスカ!」

言いながら、ニックは墓地から2枚のカードを抜き出してそれを提示した。

妖精王オベロン 水属性 植物族 レベル6 ATK2200 DEF1500
このカードが表側守備表示でフィールド上に存在する限り、
自分のフィールド上の植物族モンスターは攻撃力・守備力がそれぞれ500ポイントアップする。

ギガプラント 地属性 植物族 レベル6 ATK2400 DEF1200
このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、通常モンスターとして扱う。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●自分の手札または墓地に存在する昆虫族または植物族モンスター1体を特殊召喚する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。


   「〔ギガプラント〕はノーマル召喚の権利を消費する事で、リバイブ能力を持つデュアルモンスター。
    ここで通常召喚せずに、〔ギガプラント〕の能力を使えば、墓地の〔妖精王オベロン〕をカンバックOK!
    ……ですが、攻撃力2400の〔ギガプラント〕ですら勝てない〔ドリアード〕に、攻撃力2200の〔オベロン〕をぶつけてもムダムダでは?」

まだ分かっていないニックに、クロックは言葉を付け足す。

   「あぁー、違うだろ? 〔妖精王オベロン〕には自身が守備表示の時はフィールド上の他の植物族を強化する能力がある。
    だから〔ギガプラント〕の効果で〔オベロン〕を特殊召喚すれば、〔ギガプラント〕の攻撃力は500加算で2900……〔ドリアード〕を倒せるじゃねーか。」

ポン、と手を打つニック。

   「オーウ、ナイスアイディーア! ……ですが、ここはワタシはそのハンドはスルーパス! もっとグレートにプレイ!」

そういって、さっきと同じように手札のカードを通常召喚するニック。

   「〔森の住人ウダン〕! 召喚でぇース!」


森の住人 ウダン 地属性 戦士族 レベル5 ATK900 DEF1200
フィールド上の表側表示の植物族モンスター1体につき、このカードの攻撃力は100ポイントアップする。

森の住人ウダン:攻撃力900→攻撃力1200(自身の効果)

   「あぁー、最初期に発売されたザコカードじゃないか、それ。 デッキに入れてるヤツなんてはじめてみたぜ。」

   「いえ、クロックさん、あのカードは確か、とあるカードの召喚条件を満たすためのカードです!」

   「オフコース! オンコース! アウトコース! 〔森の住人ウダン〕を生贄にささげ、〔森の妖怪住人ウダン〕をプレイ!」

現れたウダンは、召喚されてからすぐに墓地に送られ……別のウダンにその場を譲った。

森の妖怪住人 ウダン 地属性 戦士族 レベル5 ATK0 DEF2300
このカードの攻撃力はフィールド上の植物族×1000ポイントの攻撃力となり、
フィールド上の植物族モンスターは1回のバトルフェイズに2回攻撃宣言ができる。
自分フィールド上の「森の住人 ウダン」1体を墓地に送る事で、手札から特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した場合、このカードは植物族に変更される。(オリカ)

   「あぁー、ンだ? そのカードは?」

   「最近リリースされた新作カードです。 始めて見ましたけど……結構カッコイイ!」

その姿は、妖怪と名の付くあってかなり異様な……というか、珍妙で奇天烈なデザインだった。
頭部や全体のデザインは元のウダンと大差ないが、杉の木を束ねて腰ミノにするほどの巨体とツルのように張り巡らされた細長い腕。
そして! 妖怪の代名詞! なんかやたらと首が多くて、目が大量! これをカッコイイって言える福助の感性はちょっと先鋭的過ぎると思う!

森の妖怪住人 ウダン:攻撃力0→攻撃力4000
森の妖怪住人 ウダン:戦士族→植物族

   「この効果によって、全ての植物族モンスターは2回攻撃!」

   「お前、あの胡散臭い英語はどこに行った?」

   「気にするなッ! 私はアメリカ人だが日本語が使いたくなるときもある! それだけだ!
    ともかく、このカードがあれば、全ての植物族モンスターは2回攻撃になっている! アッハッハ!」

もう開き直って日本語だよコイツ。

   「その伏せカード2枚が最後の砦のようだが……このカードで全滅だぁー! 〔ハリケーン〕!」

ハリケーン 通常魔法
フィールド上の魔法・罠カードを全て持ち主の手札に戻す。

   「あぁー、すげえなオイ。」

ニックのフィールドには、攻撃力4000を有するウダンを始め、トークン含みで4体。
ウダンの2回攻撃化能力も加えれば、その総ダメージはドリアードを倒して、その流れで福助のLPを0にするには充分。

   「これが一撃必殺……いえ、ワンアタックキル……といった所デェースね」

あ、口調が戻った。

   「一撃必殺……良い言葉です。 デュエリストならば必ず一度は試みる……。
    ですが、一撃必殺は満足に出来ないからこそできた時に達成感があるんです! チェーンします! 〔風林火山〕!」

風林火山 通常罠
風・水・地・炎属性モンスターが全てフィールド上に表側表示で存在する時に発動する事ができる。
次の効果から1つを選択して適用する。
●相手フィールド上モンスターを全て破壊する。
●相手フィールド上の魔法、罠カードを全て破壊する。
●相手の手札を2枚ランダムに捨てる。
●カードを2枚ドローする。

   「(; ゚ ロ゚)ナン!( ; ロ゚)゚ デス!!( ; ロ)゚ ゚トー!!!」

   「……エセ英語だけじゃ飽き足らず、今度は顔文字か。」

   「僕のカードは2枚とも〔風林火山〕です。 
    よって、モンスター除去と、2枚ドローの2つとも発動させます。
    静かなること林の如し……動かざること山の如しです!」

ソリッドビジョンによって生み出された大津波は、ニックの植物族モンスターを真横から捕らえ、押し流した。
続き、普通に2枚ドローする福助。

ギガプラント:破壊、墓地へ。
綿毛トークン:破壊、墓地へ。
綿毛トークン:破壊、墓地へ。
森の妖怪住人 ウダン:破壊、墓地へ。

福助:手札1→手札3

リチュアル・ウェポン:フィールド→手札

絵文字のような顔で固まるニック・ゴールド(25才)独身、趣味は筋トレとカードゲームです!と言ったせいで2月14日を嫌いになった男。
伏せカードに発動され、手札に戻ったのは装備カード1枚……フィールドも手札も全て失い、顔面を立て直す気力も起きない。

   「た、ターン、終了デース……。(手札0・伏せ0)」

   「ドロー!(手札5) まずは〔リチュアル・ウェポン〕を〔ドリアード〕に装備します。」

リチュアル・ウェポン:精霊術師ドリアードに装備。
リチュアル・ウェポン:精霊術師ドリアードに装備。

精霊術師 ドリアード:攻撃力1200→攻撃力2700→攻撃力4200

   「2……2枚!?」

   「ええ、〔風林火山〕でドローしました。
    そして、このカードも……ドローしました。 手札から〔早すぎた埋葬〕を発動して、墓地から〔ハイ・プリーステス〕を蘇生します。」

福助:LP7100→LP6300

早すぎた埋葬 装備魔法
800ライフポイントを払う。
自分の墓地からモンスターカードを1体選択して攻撃表示でフィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。
このカードが破壊された時、装備モンスターを破壊する。

ハイ・プリーステス 光属性 魔法使い族 レベル ATK1100 DEF800
聞いたことのない呪文を唱え、あらぶる心をしずめてくれる。

ハイ・プリーステス:墓地→フィールド

   「頼むよ〔ハイ・プリーステス〕! 〔ハイ・プリーステス〕を生贄に捧げて、手札から〔エレメンタル・コマンダー〕を召喚!」

エレメンタル・コマンダー 闇属性 植物族 レベル6 ATK? DEF2200
このカードは特殊召喚できず、フィールド上の光属性モンスターか闇属性モンスターを生贄にしなければ通常召喚できない。
また、このカードの元々の攻撃力はフィールド上に存在する闇属性以外の属性の数×800ポイントとして扱われる。(オリカ)

魔法使いを糧として、全身を六色の宝石に彩られた植物人間。
その瞳は、葉脈によって血走り、三日月のように哂っている。

   「僕のフィールドの属性は、〔精霊術師 ドリアード〕によって5種類。 攻撃力は4000です。」

福助のフィールドには、2つの装備カードを付けて攻撃力4200になったドリアードと、攻撃力4000のエレメンタルコマンダー。
そして、ニックにはフィールドどころか、手札にもカードは無い。
――結果。


   「では、『一撃必殺』……させていただきますッ!
    僕のバトルフェイズ! ダイレクトアタック!」

   「ぐべぇっ! ふっが!」

ニック:LP8000→LP4000→LP0

アメリカ度0%の悲鳴を上げ、倒れるニック君。

   「ありがとうございましたー。」

   「ち…ちきしょー!」

子供みたいに走って逃げるニック君を見送る福助・刃咲の背後に降り立つ無数の影。
その影は刀都屋の屋根からデュエルが終わると同時に飛び降りてきたデュエリスト、その数ざっと10人ほど……よくこんなにいて天井が抜けなかったな、刀都屋。

   「あぁー、お前らも、第3幹部の部下か?」

   「いかにも! 我らは猩々鬼を倒し、ホーティック殿に恩を報いる為に参った! 猩々鬼殿をお出しください!」

そこに居たのは、服装や状況がニック以上に変態チック。
ガチャピンがスナフキンのコスプレしたようなおばちゃんがいるかと思えば、アフロヘアーの侍スタイルの少年。
長さ60センチ強のマツゲを持つエプロンSM嬢、 ドーベルマンの着ぐるみを着た年齢・性別不詳のオッサン……等々。

   「あぁー……お前ら、巳式ってヤツが負けたって知ってるか? あいつより強いヤツはこんな中に居るのか?」

   「……巳式殿は、ホーティック殿の軍門では随一の使い手……巳式殿には及ばずとも、挑まずには居れん!」

巳式より弱い。
その言葉に、クロックはひとつ思いついた様子。

   「じゃあこうしようぜ? ……ここにいる福助と刃咲。 ナリは小さいが実力は本物だ。
    こいつらと戦って、勝ったヤツだけが猩々鬼に挑戦できる……どうだ?」

   「オイ? どういう意味だ? ダメ大人?」

   「人生、やるかやらないか、どっちかしかないよ! 刃咲くん!
    戦った事のないデュエリストさんがこんなに居る……! こんなに遊べる……刃咲くんもやろうよ!」

福助得意の、キラキラ視線に刃咲も渋々デュエルディスクを取り付けた。

   「あぁー、じゃ! 俺は中で待ってるからよ!」

クロックは2人がデュエルを開始したのを見届けると、足早に刀都屋に踏み込み、眠っている二封気の両肩を掴んで大きく揺り動かす。

   「おーきーろー! 今逃げないと機会はもう無いぞぉおお!」

   「…くぁー、すぴぉー。」

気持ち良さそうに、寝息を立てやがるバカヅラに、クロックはビシバシと往復ビンタを叩き込む……が、起きる気配は無い!

   「くぉんのダメ二封気ィイイ!」

そんな言葉も届かないほどに、既に外では白熱したデュエルが展開されていた。



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