84pの小説 遊義皇第5話


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武装派グールズ残党:ヴァイソンダーヅ、正念党に敗北必死か。
グールズ崩壊後、 被害者を取り囲んで退路を断つ通称「カベ部隊」が集結し、
デュエルを行わずに武力でカードを強奪するグールズ残党「ヴァイソンダーヅ」を結成した。
そのヴァイソンダーヅに対し、他の残党組織も厭わしく思っていたが、
組織の性質から武力・決闘の両面で勝らなければならないものの、頭目の18歳の少年が武力・決闘の両面で死角が無かった。
だが、そのヴァイソンダーヅに対し、日本の制々正念党が武力・デュエルの両面で圧倒している。
I2社・警察・他グールズ残党などは共倒れによる漁夫の利、ほとんどの関与を放棄している模様。
以上、情報サイト「マウスコミューン」発表情報より抜粋。(情報源は不明)
なお、マウスコミューンは国家規模の情報を無料配信し、個人的な調査も安価で引き受ける謎のサイトである。


(ホーティック視点)
   「お帰り、ホーティック……猩々鬼はどこ? まだ来てないの?」

私が冷や汗を欠いているのは電車で疲れたからではない、目の前の…シャモンさんへの畏怖。
緑樹色のフードで顔は見えないが、彼の不自然にスッキリした声は、常に私を威圧する。

   「それがですね、猩々鬼さんはデッキのキーカードを店の売却の為に売り払ってまして…。」

   「それで猩々鬼はカードの買戻しに?
    それなら俺や俺の部下も手伝うよ、場所は?」

   「いや、それが……正念党には戻らないそうです。」

数秒、シャモンさんの全ての動きが停止し――訝しげな声でシャモンさんは聞き返してきた。

   「うーん、ゴメンね、ホーティック、俺の聞き間違いかな、戻って来ないって聞こえたんだけど?」

   「貴方の耳はいつも通り正確です。
    私は確かに『二封気さんは制々正念党には戻らない』と言いました。」

   「理由を――説明してくれるよね、ホーティック?  何で猩々鬼は戻って来ないの?」

少女のような緩やかな口調は一変し、 純粋な戦士としての声に変わった。

   「戻す価値も無いと判断したからです。
    彼は私達との絆の7枚のカードを売却していました。」

   「…売ってどうしたの?」

   「店を買う資金に当てていたようです。
    そんな人間を力づくで戻しても、戦力にはならないかと。」

   「……そのお店って、どのぐらいの大きさなの? 品揃えとかは?」

何か気が付いたように、シャモンさんの口調がまたもや変わった。

   「えー、少し大きめの2階建てコンビニ、ぐらいですかね。」

   「それはちょっと変だよね。
    猩々鬼の夢はデュエルスペースもある大きな店で、
    レアリティの低いノーマルカードも飾りたい、って言ってたからそんな大きさじゃ中途半端だよ。」

言われて見れば、確かに猩々鬼さんは気兼ねなく、楽しくデュエルできて、
レアカード以外のカードでも、ちゃんと1枚のカードトして扱いたい、と事あるごとに言っていた。

   「売ったカードの中には伝説のレアカード〔王宮の暴政〕があったし
    あのカードなら捨て値で売っても数千万、上手く立ち回れば数億にもなるはず。
    猩々鬼はツテもコネも多いし、その気になればカードを売らなくとも1~2億は用意できるはずだよ。」

   「……つまりシャモンさん、 伝説のレアカード:〔王宮の暴政〕はまだ彼の手元に有るという事ですか?」

   「ホーティック、君はパズル以外にも頭を使う事を学んだ方が良いと思うよ。
    売ったという7枚の内訳は、灸焔3兄弟との友情である〔真紅眼の黒竜〕3枚、
    ホーティックが猩々鬼にプレゼントした〔デビル・フランケン〕、
    クロックと〔最古装甲 GOバリアー〕とトレードした〔龍の鏡〕、
    我堂記が死ぬ間際に贈った〔青眼の白龍〕……対して〔王宮の暴政〕はただのレアカード……その意味は?」

――ありえない! 二封気さんは、レアリティや実用性よりも、
強い思い出を持つカードを大事にするタイプ!
暴政は確かに激闘の末に奪い取ったという経緯はあるもの他カードの思い出には及ばない。

   「7枚のレアカードは健在で、今も二封気さんが持っている……、ということですか。」

カードを売った、という二封気さんへの怒りでそこまで考えが至らなかった。
二封気さんも私の性格を熟知し、そこにつけ込まれたか。

   「猩々鬼には、満足して戻って貰う為に仲が良かったホーティックに行って貰ったんだけど……、
    でも俺が行けば猩々鬼は逃げちゃうだろうし……誰か適任は居ないかな? ホーティック。」

   「それでは私の部下の爬露(ハロ)が適任でしょう、
    彼の強引な『説得』なら少なくとも7枚が手元に有るかを確認できるでしょう。」

   「…んー、ハロちゃんって今はどこにいるんだっけ?」

   「大阪で松猪 四郎(まつい・しろう) 松猪まつい 四郎しろう を片付けてるはずです。」

   「俺は今からアメリカに飛ばなきゃ為らないし……
    ホーティック、君がハロちゃんとポジション代わってあげて。」

爬露はグールズ崩壊時に最も早く正念党に移った一派で、
『強引』と言う言葉が相応しい偽造カードでデッキを固めた生粋のレアハンター筋だ。

   「今はラックセブンの席が2つ開いてるからね、
    ハロちゃんが猩々鬼を戻して来てくれれば、猩々鬼とハロちゃんで七人だ。」

ラックセブンとは正念党幹部集の俗称で、全員が平等の一票を持ち、
重要な決定は七人の多数決によって決まるという、二封気さんが提案したシステムだ。
昔は猩々鬼さん、シャモンさん、私、クロックさんにグールズから鞍替えした凄腕決闘者の灸焔三兄弟を加えた七人だったが、
今現在は猩々鬼さんと灸焔三兄弟が抜け、2人しか補充できていないため、2名の欠員が出ている。

   「爬露はコピー三幻魔を使えるとは言え、ラックセブンとしては見劣りすると思われますが?」

   「猩々鬼を戻せるなら問題無いよ、必要なところで力を発揮できるって意味だからね。」

爬露は権力を使いこなせるタイプではないとは思うが、ラックセブンに長期間空けておくわけにはいかない。

   「…それならばいっその事、ラックセブン無籍の者達全員に触れを出しては?」

   「逆に足の引っ張り合いに為ると思うんだけど?」

   「競争ならば、お互いを高めることにも繋がるでしょう、爬露が1人で行くよりも成功率が下がることはないと思います。」


(作者視点)
クロックと二封気は午前中に酒を買いに出たいうのは、既に日は沈みかけていた。
秋の夜長というように、秋は日暮れも早いのか。

   「あぁー、酒買うだけであんなに歩かなきゃ為らないのかよ…不便な村だな。」

   「その不便さも慣れると健康的で良いんだよ。」

二封気は言いながら刀都屋のシャッターを押し上げ、
クロックを中へ招き入れてから、スーパーのビニール袋をひっさげて、小さな台所へと小走りひとつ。

   「あぁー、この店はかなりお前の趣味だな、
    カードスリーブにサイコロみてぇなデュエル製品の方がスペース占領してら。」

   「そうか? 俺としてはオマケでちょろっとやってるだけなんだが。」

会話に熱中しても、二封気は酒の摘みの玉子焼きの火加減に注意も怠らない。

   「あぁー、それはそうと二封気、駅でホーティックと会ったぞ。」

少しだけ、玉子焼きをひっくり返す手が狂った。

   「……やっぱり本題はそれなのか。」

   「あっあー、おめーがあの7枚を売った金で店を買った話をしてたが……俺は騙されてやれねーぞ。」

平静を装って玉子焼きを引っくり返す二封気。

   「騙すも何も、ホーティックにはストレートに『カードを売った』と言って殴られた、それだけだ。」

   「あぁー、人生経験の薄いホーティックは騙されたみたいだが、
    常識と二封気って人間の性格を考えられる俺から見れば、どう聞いてもマユツバだ、
    疑問ひとつめ、世界に1枚しかない〔王宮の暴政〕が市場に出たら俺たち正念党の耳に入るんだよ。」

   「そう言えば言い忘れてたな、6枚だけ売って〔暴政〕はまだ手元に……。」

やっぱり表情には出さないが二封気は半ば諦めて最後の言い訳を言ってみる。

   「あぁー、それだと別の矛盾が出るな、最高金額の〔真紅眼〕でもせいぜい50万、
    伝説の〔王宮の暴政〕を含めなければこの店の購入資金としては足りないんだよ、
    この店は賃貸か、金持ちの兄貴か親父に金を借りた、ってところだろう?」

   「賃貸で正解だ。
    やっぱり、バレやすすぎたか、このウソは。」

まな板に玉子焼きを移し、冷めるのも待たずに切って行く。

   「で、クロック、お前はどうするつもりだ? お前も俺を正念党に戻したいのか?」

何も変わらず、ただ黙々と会話を続ける二封気だったが、なにか、なにかが違った気がした。
――この村に居られない、という焦りや不安を、言葉のどこかに含ませているからだろうか。

   「あぁー、興味ねぇな、別にお前と一緒じゃなくともゲームは出来るしなぁ。
    ま、二封気と組んでデュエルも楽しいだろうが、な。」

それ以上にこの村に居るお前を見てるのが楽しい。
………その言葉を、クロックは喉の奥で捻り潰した。

   「……サンキュウ。」

潰した言葉が聞えているかのように、二封気は静かにそう呟いた。

   「あぁー、とりあえずよ、お前がどうしてこんな村でカードショップを始めたかだけでも聞いていいか?
    お前ぐらいコネがあれば、もうちょっとマシな場所に店を開くぐらいできたんじゃねーか?」

   「別に秘密にしなきゃいけないってわけでもないから言うけどな、実は……。」

会話を遮るように、刀都屋のシャッターがガシャガシャと断続的に響かせた
どうやら、誰かがシャッターを叩いているらしい。

   「客みたいだな、先に飲んでてくれ、すぐに終わらすからよ。」

足早に店の部分へ行き、二封気は手早くシャッターのロックを外し、上へと押し上げた。
そこに居たの特徴も見覚えもない若い女性。

   「夜分遅くにすみません、見ていただきたいカードが有るんです、よろしいですか?」

   「ええ、もちろん。」

刀都屋はカードショップの事業もしているので、断る道理はない。

   「これなんですけど。」

彼女がカードケースのロックを外し、中身を見せたことで、最初から危なっかしかった態とらしい二封気の営業スマイルが崩れ去った。

   「これは〔サイクロン・ブレイク〕に〔無限の力〕……かなりのレアカードですね、偽造カードですが。」

ケースの中に有ったのは、二封気が正念党として参加した最後のカードハントで入手した〔無限の力〕と〔サイクロン・ブレイク〕だった。
さらに異様なのは〔サイクロン・ブレイク〕も〔無限の力〕もこの世に1枚ずつしか存在しないにも拘らず、ケースには隙間無く詰め込まれている。

   「お引取りください、レアハンターからカードとはカード売買はしない。」

   「カードを売買だけでこんな村まで来るわけがないでしょう? これはタダの身分証明ですよ。」

すなわち、『偽造とはいえレアカードを揃えられる自分は正念党でも上位のレアハンターだ』というアピールだけのためにカードを持ってきていたらしい。

   「……今、俺の目も舌も、レアハンターとの会話を嫌がってる、出て行け。」

強い口調で、しっかりと威嚇するが、女は意にも返さない。

   「そこまで拒まれると、私もイジワルをしたくなってきますね。
    例えば人質を取るとか、店の中を荒らすとか……そういう、乱暴な手段になりますけど?」

   「そんな安い脅迫に乗ると思ってるなら出直せ小娘。
    店ぐらいなら俺一人で守りきれるし、要求を呑んでも人質を素直に返す保証も無い。 要求を聞くだけ無駄だ。」

ケースバイケースだが、ここで相手の要求を少しでも呑むと完全に相手のペースとなるので、
まだ取られていない人質を大事にするような発言は『人質を取れば俺はあなたの下僕になります』と言う愚かな露呈にしかならない。

   「私の目的は『猩々鬼の正念党復活』であり、
    猩々鬼さんが要求を呑んでいただければ、欲張りなどしません。
    それはいわば、食べもしないオヤツを万引きするように無駄なリスクでしょう?」

意外と多いらしいが、最近。

   「お客様。」

突然、敬語で、二封気は置いてあった掃除用のホウキに左腕を伸ばす。

   「お客様には俺が顔面を鈍器で一発殴る、と言う行動に対する対抗策がありますか?」

僅かに動いた二封気の左腕に女の注意が移り……。

ガァァン!

   「うが…っつぅ…。」

痛みを受けたのは女ではなく、パンチを放った二封気の『右拳』。
……奇襲した挙句、反撃されて呻くって…どんだけへタレなんだ、お前は。

   「左腕で武器を使うと見せ掛け、実際は右のアッパーで脳を揺らして気絶させる…。
    流石は元七人衆、レアハンター相手の対処法は誰よりもご存知のようで。」

アッパーは正確にレアハンター女のアゴを捉えていたが、
女は拳が当たる寸前に、体全体を後ろに逸らすことで見事に回避し、次の瞬間には左ストレートを二封気の額に叩きつけた。
………実際、二封気のパンチはタイミング、スピード、パワー、どれを取っても素人がかわせる物ではなかった。
だがしかし、この女は明らかに素人ではなく、ボクシングの常套回避術:スウェーバックを完全に使いこなしていた。

   「…いきなり…殴ったのは悪かったが、俺は絶対に戻らないぞ。」

論破を諦め、実力行使でも負け、二封気の目はこぼれない程度に涙目になっている。

   「それでは、理由くらいは聞かせて貰えますか?
    正念党の資金を使ってこんな村まで来て、何の成果も得られずに帰ったのでは、
    信頼してくれたホーティック幹部にも期待してくれたシャモン幹部にも合わせる顔がありません。」

   「…言えば帰るか?」

   「理由によりますが、参考にはします。」

腕を抱えながら考え込む二封気。

   「あぁー、お前ら、俺の事を忘れてないか?」

振り向くと玉子焼きの破片を口の周りに付けてモゴモゴと口を動かすクロック、
……知り合いがピンチの状況下で玉子焼き食ってたって、刃咲が見てたらダメ大人2級認定だ。

   「失礼ですが、二封気さんをお借りして行きます、クロック・ジュフ第4幹部。」

クロックの存在はホーティックからの連絡で知っていたらしく、何ら動揺せず会話を続ける女性。

   「あぁー? ルールも知らねぇ新入りが格好つけるんじゃねーよ。
    レアハンターが他人に強要・命令して格好が付くのはデュエルに関する事のみ。
    今のは単なる犯罪者の安い脅迫にしかならねえよ、アマチュア。」

   「これはシャモン第1幹部からは『手段を選ばず必ず連れ戻して』との命令を受けています。
    私の方法に不満があるならば、私のような低位の者にではなく、シャモン第1幹部に直接仰ってください。」

レアハンター女の冷静な態度に、クロックはどこからともなく出したツマヨウジで歯についた玉子焼きのカスを取りながら反論した。

   「あぁー、そういう情けない言い訳するならよ、
    俺からはお前に『シャモンの命令をシカトしろ』、っつー命令を出すぜ。」

   「……第1幹部であるシャモンさんの命令を取り消す権限が、第4幹部の貴方に有るんですか?」

   「あぁー、マジに新入りだなおめー。
    『第1』や『第4』ってのは唯の識別用で、順序はねーんだよ。
    順番で決まるんだったら、俺(第4幹部)が第5の神次郎や、第7のエビエスより偉いってことになるだろうが。
    だからよ、シャモン命令を打ち消す事は出来ねぇが、どっちの命令をきくはお前に決定権が行くわけだ。」

要約すると『選択権はお前にあるんだから、お前の独断で一般人を脅迫した事に為る』と言う宣告だ。

女は懐から『正念党ルールガイド』を取り出してもくじを引き、ルールを確認している。
第7幹部のエビエスという男が、メンバー増員の際に作ったものだ。

   「なるほど、確かに私は新入りで、正念党のシステムを勘違いしてました
    ……ですが、それでもシャモン第1幹部の命令は無視できません。」

   「あぁー、クソマジメだと人生疲れるぜ? サボれる時はサボれよ。」

   「そこで私は、第1・第4両幹部の命令を完遂すべく、二封気氏とのデュエルを要求します。」

   「あぁー、その根拠は?」

   「話が付かない時はデュエルで決着を付けるが正念党の公式ルールですし、
    私はシャモン様の命令以外にもホーティック第3幹部の『期待』も受けています。
    ですからクロック第4幹部の命令1つでは引けません……受けていただけますか? 二封気さん?」

忠実というか、クソマジメというか、事務的というか。
そんな女の言葉を受け、額を押さえていた二封気がやと立ち上がった。

   「クロックに命令まで出させたんだ、受けるしかねーよ。」

ここで断れば『じゃあ人質を取りましょうか?』などと堂々巡りが待っているし、
二封気にしてみれば、このまま騒ぎが大きくなり、元レアハンターだったと知られて困るわけではないが、知られて誰か得するわけでもない。

   「それでは場所を変えましょう、ここではソリッドビジョンが目立ちますし。
    外に私の車が止めて有るので、準備ができたら来て下さい。
    分かってるとは思いますが、逃げないでくださいね。 私にも二封気さんも面倒になるだけで特なんてありませんから。」

そのまま女は持って来たトランクを閉めて刀都屋のシャッターをくぐり、出て行った。
……この女のことだ、逃げようものなら村ひとつ焼き払うつもりの放火、ぐらいはやるかもしれない。


   「…クロック、アリガトな、お前が命令を無視できる権利をやらなきゃ……」

   「あぁー、それより、デッキはどうするつもりだ?
    あの巳式が派遣されたとなると、お前のウソはバレてると考えた方が良い。
    ……まあ、大方、シャモン辺りが気が付いたんだろうがな。」

   「クロック、感謝ついでに訊くが、今の女の事を知ってるか?」

何を思ったか、商品の中からカッターナイフを取り出し、包装のプラ袋を破りながら、二封気は尋ね、それを見ながらクロックは答えた。

   「あぁー、名前は爬露 巳式(はろみしき)、
    グールズ崩壊時に正念党に今の第5幹部の神次郎ってヤツの第3実戦部隊ってのに所属してたヤツでな。
    なぜか今はホーティックの実力は七人衆に次ぐ権力をもつ副官の一人でな、村のガキに接戦するようなデッキじゃまず勝てないだろうな。」

チキチキと刃を出したカッターナイフで店舗スペースのカーペットにつき立て、カーペットを40センチ四方ほど大きさに切り抜いた。
無論、別にカーペットを切り取ってパッチワークする趣味とかがあるわけでもなく、切り抜いた場所には床下収納がひとつ。

   「あぁー、ンな所にしまってたのか?」

二封気は、床下収納に大量の紙クズととも入っていた茶封筒を取り出した。
紙クズはどうやら、上を歩いた時に音などで空洞がバレないための物らしい。

   「こればっかりは盗まれたり失くしたりする訳にはいかないんでな。」

言いながら茶封筒の封を切り、紅いスリーブに入った7枚のカードを確認し、40枚のカードの束に加えた。

   「あぁー、そのデッキで負けたら、もう知らないからな? 二封気。」

   「絶対勝てるデュエルなんて、デュエルとは言わないし、有るとも思えないがな……ベストは尽くす。」

   「あぁー、悪くない答えだな。」

二人は旅行に行くように家の電気・ガス・水道を確認し、戸締りをしてから外で待つ爬露の待つ車に乗り込んだ。


(クロック視点)
車はや山道を走り人気の無い山上に到着した。
2人がデュエルディスクを構え、お互いに距離を取ってから巳式が一声掛けた。

   「二封気さん、デュエルする前に一応言っておきますが、私のデッキには偽造カードが採用されています。
    もちろん、先ほどお見せした〔サイクロン・ブレイク〕や〔無限の力〕もね。」

デュエルモンスターズとは強いカードを使っていれば勝てるというゲームではない。
本人のプレイング、デッキ構築、カードへの愛、ドローの運、相手との相性……それらが絡んでくる。
だがしかし、強いカードを技術も運も愛も有るデュエリストが使う分には、弱いよりも強いカードの方が良いのは事実!

可もなく不可もないカードといえば充分にデッキに採用できるゲームなので、
不可さえなく『可』ばかり有るカードを使った方が有利なゲームであるのも事実なのだ。

   「問題ないな、お前が最強のカードでデッキを組んだように、
    俺も偽造カードこそ無いが、最強の戦術と最強のカードで組んでいる。
    そして俺のデッキには最強の永続罠〔王宮の暴政〕も有るしな、これはハンデ無しのイーブン・ゲームだ。」

   「それでは…。」

   『デュエル!』(LP8000・初期手札5枚・新エキスパートルール)

   「先攻はもら…ってカードが引けない!?」

勢いで先攻を取ろうとする二封気に、巳式は半笑いだ……俺も、口角がいささか釣りあがっている。

   「二封気ぃ! 公式デュエルモードでは、
    デュエルディスクにが自動で先・後を決めるんだよ!」

   「なにー!? 俺が去ってからそんなハイテク機能が付いたのか?!」

ハイテクか、デュエルディスクを自主改造できるヤツから見てそれはハイテクなのか。

   「そんなんで大丈夫なんですか? 改めて私の先攻です、ドロー(手札6枚)。
    攻撃力1600の〔冥界の使者〕を攻撃表示で召喚し、2枚セット、ターン終了です。(手札3・伏せ2)」

視線で俺に何かを訴える二封気、ああ。

   「もう引いて良いぞー。」

   「俺のターン! ドロー(手札6)!
    〔ダーク・ヒーロー ゾンバイア〕を攻撃表示で召喚し、〔冥界の使者〕へ攻撃だ!」

水を得た魚、ターンをえた二封気。

〔ダーク・ヒーロー ゾンバイア〕(攻撃力2100)VS(1600)〔冥界の使者〕→冥界の使者・破壊・墓地へ、爬露LP8000→7500

撃破した瞬間にゾンバイが自分の仮面を抑え、痛みにも悶絶する。

ダーク・ヒーロー ゾンバイア:攻撃力2100→1900(ゾンバイア自身の効果)

   「原作アメコミでの設定でのコイツは冥界から蘇った死神でな、
    死神っつー種族柄、敵を葬るほど攻撃力低下するらしい。」

   「それでは私の死神も効果を発動します、〔冥界の使者〕!」

爬露のセメタリー・スペースから聞こえる骨を擦り合わすような嗚咽……これは……。

   「〔冥界の使者〕が冥界に帰った時、
    お互いのプレイヤーは一つの魂をデッキから手札に転生させることが出来ます……制限はありますけどね。」

冥界の使者 闇属性 悪魔族 レベル4 ATK1600 DEF600
このカードがフィールド上から墓地に送られた時、
お互いに自分のデッキからレベル3以下の通常モンスター1体を選択し、
お互いに確認して手札に加える。(その後デッキをシャッフルする。)

ダーク・ヒーロー ゾンバイア 闇属性 戦士族 レベル4 ATK2100 DEF500
このカードはプレイヤーに直接攻撃をする事ができない。
このカードが戦闘でモンスターを1体破壊する度に、このカードの攻撃力は200ポイントダウンする。

異次元トレーナー:デッキ→巳式の手札



   「私はデッキより〔異次元トレーナー〕を手札に加えます、二封気さん、貴方も呼ぶ事が出来ますよ。」

   「俺のデッキにレベル3以下の通常モンスターは無いからな、1枚セットしてターン終りょ……。」

終了ボタンを押す寸前、巳式が待ったを掛けた。

   「前に私は〔サイクロン・ブレイク〕で二封気さんの伏せカードを攻撃します。」

サイクロン・ブレイク 速攻魔法
フィールド上のカード1枚を破壊する。(オリカ)

雷を孕む風が二封気の場のセットカードへと殺到し、何の抵抗も無くセットカードを消し去る。

伏せカード:フィールド→破壊

基礎ルール&テクニックだが、
一応解説すると、罠カードや速攻魔法は伏せたターンは発動できない。
そのため、伏せたターンのエンドフェイズに魔法・罠を破壊する効果で破壊すればチェーンする暇を与えず破壊できる。

   「テキストは手抜きだが、洒落抜きで最強クラスだよな、〔サイクロン・ブレイク〕。」

   「正念党内では、この〔サイク・ブレ〕や〔無限の力〕、それに二封気さんの〔王宮の暴政〕を加え、
    さらに正念党が所持していない6枚のレアカードを含めた9枚を、他カードの上位互換と言う意味で『パワード・カード』と呼んでいます。」

   「知ってるさ、その名称が付いたのは俺たちがそのカードを奪い合ってる時だからな。」

激闘あり、紆余曲折あり、裏切りあり、グールズやI2社との度重なる決闘の末、
I2社やグールズといった巨大組織に対し、小規模だった正念党が3枚も奪えたのは奇跡とすら言える戦いだった。

   「私のデッキには、今の〔サイクロン・ブレイク〕があと2枚、
    加えて同等の力を持つ〔無限の力〕があと3枚有りますが、
    対し、二封気さんのデッキにはオリジナルとはいえ〔王宮の暴政〕が1枚しかありません。」

   「だからどうした?」

素で分からないのかとぼけているのかはわからないが、二封気は平静を保つ。

   「星6級の私と、星8級の二封気さんとの戦力差は歴然、
    しかし! デッキに眠る5枚のパワードカードの力は、それすらも埋めて余りあります。」

偽造カードが作れるようになったのは、
グールズ解散後、グールズの技術者を吸収してからなので、
その前に脱党した二封気は、当然このカードのレプリカすら持っていない。

   「巳式、1つお前の言葉に訂正を入れさせて貰っても良いか?」

   「どうぞ。」

   「俺のデッキの唯一のパワードカードは今のエンドサイクで壊された。」

…あ?

   「本当だ、〔王宮の暴政〕が墓地にある。」

巳式は自分のデュエルディスクから出るソリッドビジョンの表示画面で確認し、俺は二封気に近寄って墓地を見る。

王宮の暴政 永続罠
発動時に魔法・このカード以外の罠・モンスターの効果のどれか1つを宣言する。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、指定された種類のカードの効果は無効となる。
自分のスタンバイフェイズ毎に100ポイントのライフを払う、払わなければこのカードを破壊する。(オリカ)

あぁー、コイツは〔王宮の勅命〕・〔王宮のお触れ〕・〔スキルドレイン〕っつーアンチ効果を一手に持ったカードで、
発動さえすりゃあ発動者のカードまで封印しちまうが、
遣いたくなったら解除は簡単、ただライフコストを払わなければ破壊できる。

   「良いタイミングのエンドサイクだったな、見事だ。」

   「お褒めの言葉、光栄です。
    それにつけても私は運が良いですね。
    実は私の手札には一撃で二封気さんを倒せるだけのコンボが有るんですが、
    そのコンボを妨害する〔王宮の暴政〕だけが不安でして……ゲームセットです、二封気さん。」

……これだけ巳式が自信満々に言っても…俺の中では二封気が敗北する姿は浮かばない。


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