84pの小説 遊義皇第1話


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衝撃! グールズ崩壊!?
先日行われたKC共催のデュエルイベント、『バトルシティ』にてグールズが解散をしている事が当社の調査によって判明した。
その理由は、総帥・腹心の続く敗北とも言われているが、真偽の程は定かではない。
グールズの解散によって、第二のカードハント組織「制々正念党」の活動の活性化が予想される。
以上、大波社発行、「デュエリストニュース」の見出し記事より抜粋。


   「ちょっとごめんなさい、このディスクに新カードを対応ってどうやるの?」

   「それは電源を入れる度にKCの衛星からカードデータが自動で送信されます。」

二封気が福助とのデュエルから数週間後、オセロ村でのデュエルディスクの需要は予想以上に高かった。
住民のほとんど……というか、5歳の子供ですらやっているほどであり、デュエルをしない人間を二封気は会った事がない。


   「都会からこんな田舎に引っ越してくるような変な人だと思ってたけど……話してみれば良い人ねぇ。」


   「田村さん、そんなにストレートに言わなくたって良いでしょって。」


談笑がほがらかに鳴る店内、福助は一人で入ってきた。


   「二封気さん、こんにちはー!」


   「おー、よく来たな福助。 今日は刃咲や壱華と一緒じゃないのか?」


店を開いてからもう2週間、二封気が福助を見る時は必ずデュエルをしていて、そして3人セットだった。
年の近い子供が彼らしか居ないというほかにも、やはり共通の趣味というのは強い繋がりなのだろう。


   「うん、二人とも風邪ひいちゃったからお休みです、今日は1人ですが、宜しくお願いします。」


社会人の二封気がデュエルの相手をしてくれるのを当然のように思っているらしい。


   「悪ィな、今日はデュエルディスク改造の予約で一杯でな、パスだ。」


   「でも刃咲君は『ダメ大人の仕事は仕事にあらず』って言ってたよ?」


この二週間で二封気は、延々と刃咲に言われ続けていた言葉だが、福助の口から言われるとグサ、っと来てちょっと押し黙ってしまった。
二封気が精神的に立ち直るより早く、例のオバサンが福助を誘った。


   「じゃあおばさんと遊びましょうか? おばさんもディスク買ったのよ。」


   「うん! お願いします!」


福助とおばさんは、ノリノリで広場へ走っていった。
背中を見おくり、二封気は自分が店を開いたのことへの達成感がこみ上げていた。
デュエルの拠点としてこういう場所があればすぐに対戦相手が見つかる、その事実はへこんだ二封気の心を膨らまして余るものだった。


   「……さてと、それじゃあ改造を始めるとするか。」


通常のデュエルディスクは、メインデッキ50枚・融合デッキ10枚までしか入らない。
そのため、必要な場合は、改造するのが常となっている。


   「にしても一日5台は多すぎるよなぁ……そこの人、どう思う?」





第1話 過去から来た男






無人の壁に、二封気は問いかけたのだが、その言葉に応える者が居た。


   「……おや、気配消せてませんでした? 貴方に教わった通リにやったんですけど。」


声と共に扉をカラカラ鳴らせながら、一人の男が入ってくる。


   「完璧だったぞ、全く気配感じなかったからな。」


平静を保ちつつ、二封気はその声に驚いていた。
古い友人、なぜ今…と。


   「……それでは、どうして俺が隠れているところが判ったんですか?」


   「俺な、一人で何かしてる時は定期的に『誰か居るな』とか言うことにしてんだ。
    誰か居たら奇襲は避けられるし、誰も居なかったら一人で虚しくなるだけだ。」


そんな単調な策に嵌った自分に、ホーティックは苦笑いひとつ。


   「あ、そういうことですか……覚えておきますよ、二封気さん。」


   「それより何の用だ? 俺は正念党もカードハントもする気はないぞ。」


   「――簡単に言いますね、『最強のレアハンターの猩々鬼』さん。」


   「繰り返すようだが、 猩々鬼しょうじょうき の名もカードハントと一緒に捨てた。」


二封気は以前、制々正念党という小さなレアハンター組織『制々正念党』に所属していた。
正念党はグールズに比べると戦力は十分の一、保有レアは千分の一とされる組織だった。


   「グールズに負けそうだから俺に戻れ、ってんならお門違いだ。」


   「いいえ、我々が勝利しました、グールズは崩壊です。」


寝耳に水、だった。


   「崩壊って……嘘だろ?」


   「いえ、事実です、先の『第1回バトルシティ』にて、総帥・腹心が引退。
    構成員達がそれぞれリーダーとして旗揚げして別組織として組み上がりつつあります。」


その言葉に、二封気は納得はしていた。
部下に三日間パントマイムを続けさせたり、趣味の悪いフードを着せるような組織を纏め上げるような能力を持つ人間はザラには居ない。
あれは首領のカリスマによって成り立っていたのだ。


   「その話は驚いたが……それこそ俺は関係ない、お前らだけで勝てるならそれで良いだろ。」


   「重要なのはこれからですよ、二封気さん。
    グールズの消滅によって、これからは新たなカード強奪組織も増えるでしょう。
    その新興勢力に対抗する意味でもグールズを根絶するのではなく、吸収するのが望ましい。
    ――そこでスカウト要員、戦力誇示の為にもあなたの協力が欲しいんです。」


   「……俺はもうどんな名目でもカードハントはしない。
    腕だって今じゃ近所のガキに勝つのがやっとだ、宣伝用のハリボテにしかならないよ。」


   「あのデュエルなら私も拝見しましたが、あれはあなたのデッキが40枚だったからでしょう?
    あなたのデッキの完成形である47枚ならば、あそこまで追い詰められる要因も無いでしょう? 」


   「嘘吐くなよ、あのデュエルは山ン中でやってた。 誰も居なかった。」


   「お忘れですか? あなたがくれた俺のデュエルディスク……『アキラ』の能力を。」


その返答に納得したらしく、今度は二封気が苦笑い。


   「それでもあの7枚は使えない、カードハントで奪ったカードだしな、それに…。」


   「それに?」


訝しげに尋ねるホーティックに、二封気は態と深刻な顔をして口を開いた。


   「……あの7枚な、この店を建てる資金に売っちまった。」


   「え……ええーーーー!?」


   「いや、無学歴・無職・無収入の俺にこんな店舗が手に入れるわけ無いだろ?」


ホーティックの顔からは満ち溢れていた微笑が抜け、どんどん怒りが注入され、激昂が現れる。


   「がぁああ! なにを考えてんだこのバカ野郎はアアアアア!」


掴み掛かるホーティックをかわして横に回る俺。


   「あれは灸焔三兄弟との死闘の末、てめぇと俺とシャモンさんの3人でで奪い取ったカードだろ!
    お前は俺や他の正念党を裏切ったんだ! 俺にはお前を殴る義務と権利がある!」


騒々しく詰め寄ったホーティックは、逃れようとする二封気の襟元を掴み、勢いで拳を顔面に叩き込んだ。


   「がぁっ……。」


殴った次の瞬間には刀京屋に入った時と同じ微笑に溢れた顔を形成した。


   「シャモンさんには『戻す価値も無い』と言っておきます。
    ……あ、そこの人、もう入ってきても良いですよ、終わりましたから。」


二封気の真似をしたホーティックの言葉によって一人の少年が刀京屋に入ってきた。
……福助だ。


   「ほんとだ、出てきてくれますね、『分かってるんだぞ宣言』。」


ホーティックは髪を濡らした福助と入れ替わるように店から出て行った。
外にはいつの間にか、雨が降っていた。


   「……おばさんは洗濯物片付けに帰ったから、僕はこれを返しに来たんです。」


福助は力が抜けた左手でデュエルディスクをレジ台に置いた。


   「さっきの話は本当ですか?」


子供ながらに福助の目は真剣だった。
二封気は偽証は無駄だと悟った。


   「……本当だ。」


   「じゃあ、僕のドリアードデッキは不完全なデッキに負けたって事なんですねッ!?」


   「……は?」


糾弾されると思っていた言葉から掛け離れた叫び。


   「その7枚を入れた全力のデッキで、もう一度僕とドリアードデッキと勝負してください!」


   「お前はさっきの話を最初から聞いてたんだよな? 怖くないのか?」


   「二封気さんが元レアハンターかなんて関係ない!
    問題はドリアードの犠牲の末のデュエルが、二封気さんに手加減されたインチキデュエルだったってことだ!」


福助は、二封気に“誰か”を髣髴とさせる、危険を感じるほどのまっすぐな瞳を俺に向けた。


   「それでもあの七枚は無いんだよ、諦めろ。」


   「じゃあ、店売ってでもカードを買い戻してください!」


   「無理ゆーな。」


   「……とにかく!リベンジです! さあ広場へ!」


   「お前、デュエルディスク返しに来たんじゃないのか? 雨降ってるし、今はディスクは使えない。」


   「ならビジョン要りません、紙製フィールドで勝負です!」


こんな状況では、福助が勝っても『手加減したデッキ』に勝ったことにしかならない。
カードがない状態では、勝っても負けても後味が悪いものにしかならない……その結果を予測できる程度には、二封気は福助より大人だった。


   「あのなぁ…俺はこれらディスクを回想するから明日な。
    今日はとりあえず帰れ、雨ならビニール傘が余ってるから一本を貸すよ。」


そこまで言って、粘っても無駄と悟ったのか福助は二封気の渡した傘を大人しく借りて帰っていった。


   「さて、改造の続きを…っと、…そこの奴、もういいぜ、出て来いよ。」


今度は…誰も出て来なかった。

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