84pの小説 遊義皇23話(後)


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   「これで、アンタの直属の上司の…七人衆だっけ? そいつの居所を教えてもらえるんだよな?」

副賞のアンティを受け取りつつ、神成はデュエル中と変わらないマイペース。

   「…ええ、そうなります」
   「面倒だから、幹部さんから来てくれるようにならねえ?」

ズボラ、ここに極まり。
戦い終わった相手への挨拶すら省き、デュエル中から一度も本気にならなかった男は、本気でこんなことを云っているのだ。
だが、ティマイレは気を悪くしたようすもなく、指を一本立てて見せた。

   「…無駄な説明は省かせていただきますが…そういうことです」
   「ああ、なる。 すげえ親切設計だわ」

ティマイレの人差し指の先、夜空を飛ぶ無音ヘリには、黒い機体に金色のインクで『第七部隊備品』の文字が読み取れる。
そのヘリコプターからパラシュートも付けずに飛び出した男は、少ない星と満月に照らされて時折、ピアスが金色の光を反射していた。

   「もう、こっちに向かってたわけね…七人衆さんよ」

神成とティマイレの間に割って落ちてきたそれは、全身に金色のピアスを付けて年齢も性別もわからない変質者。
正念党の電波ジャック映像にもそのままの姿で出ていた、あの男…エビエスだ。
エビエスは例によって神成の従者のように頭を深々と下げてみせた。

   「この度は深夜での開催というイベントへのご参加、まことにありがとうございます。
    私は制々正念党七人衆、第七幹部…エビエスと申しま…」
   「面倒な挨拶はいらないんだよなァ、さっさと寝たいからよ。
    俺は神成鏡真で、あんたはエビエス。それだけでいいよ、さっさと始めようぜ」

挨拶を遮り、連戦となるためバッテリー残量だけ確認し、神成はデュエルディスクを構えている。

   「いえ、それはできません。」
   「ああ? 何が?」

   「申し訳ありません。私は デッキを持っていないのです・・・・・・・
    用意しますので、2分ほど時間をいただきたい」
   「…マジで?」
   「はい、至って」

正気とは思えない発言に続き、上空のヘリコプターから何かがエビエスと同じ速度で落ちてきた。
人ではない、大きな正方形の物体…ジュースの自動販売機のような大きさの、近未来的な筐体。
数十メートルは落とされても傷一つなく、むしろ歩道橋の方が落下の衝撃に揺らいだ。

   「これは私のカードケースです、一部のレアカードを除き、ほぼ全てのカードのコピーカードが入っています」
   「能書きはいらねえ、さっさとデッキを組めよ、眠ィ」
   「それは気付かずに大変失礼を…では」

箱の扉は次々と開かれ、そこには何冊ものカードファイル。
エビエス迷わずにファイルに手を伸ばし、素早く、それでいて静かに目当てのカードを探し出していく。
その挙動は、神成が何をしているのか理解するのと大して変わらない時間であり、第七幹部のデュエルディスクには40枚のデッキと15枚のエクストラデッキが装填されていた。

   「お待たせしました、デッキ完成です」
   「いいや、見てて楽しかった、じゃあ…行くか」
   「アンティはあなたは〔キメラテック・バリスティック・オーガ〕、私は第一幹部の所在と副賞として今私が使っているデッキをお渡しします」

歩道橋の上、観客はティマイレと満月だけ。
ヘリコプターのローター音をBGMに、ふたりのコールが響き渡る。

   『デュエル!』

   「ドロー…(手札6)モンスターをセット、〔封印の黄金櫃〕で〔サイバー・バリスティック・オーガ〕を除外。
    トドメに〔機甲部隊の最前線〕を発動し、ターン終了だ(手札3・伏せ0・発動中1)」

先攻のコールのされた神成は手馴れた様子でカードを展開した。
長年使い込んだデッキで、手札さえ見れば戦術の分からない相手に対してならば考えるまでもなく初手は決まるのだ。

機甲部隊の最前線 永続魔法
機械族モンスターが戦闘によって破壊され自分の墓地へ送られた時、
そのモンスターより攻撃力の低い、同じ属性の機械族モンスター1体を自分のデッキから特殊召喚する事ができる。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。


封印の黄金櫃 通常魔法
自分のデッキからカードを1枚選択し、ゲームから除外する。
発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時にそのカードを手札に加える。

   「私のターンですね(手札6)…そうですね、では〔スチームロイド〕を召喚します」

スチームロイド 地属性 機械族 レベル4 ATK1800 DEF1800
このカードは相手モンスターに攻撃する場合、ダメージステップの間攻撃力が500ポイントアップする。
このカードは相手モンスターに攻撃された場合、ダメージステップの間攻撃力が500ポイントダウンする。

   「…〔スチームロイド〕…?」
   「おや? 効果をご存じないので? 神成さまもお使いになっているカードだったと存知ますが?」
   「…さっさと続きをプレイしろ」

〔スチームロイド〕の性能は高く、決して珍しいカードではない。
そのカードが登場したところで何かが変わるわけではない、それでも神成の心中には、『何か』としか呼べない何かが生じていた。

   「それではバトルフェイズ、〔スチームロイド〕でセットされたモンスターを攻撃。ロコモーティブ・スマッシュッ!」
   「俺の伏せモンスターは…〔コアキメイル・パワーハンド〕ッ」

コアキメイル・パワーハンド 地属性 機械族 レベル4 ATK2100 DEF1600
このカードのコントローラーは自分のエンドフェイズ毎に手札から「コアキメイルの鋼核」1枚を墓地へ送るか、手札の通常罠カード1枚を相手に見せる。
または、どちらも行わずにこのカードを破壊する。
このカードが光属性または闇属性モンスターと戦闘を行う場合、バトルフェイズの間だけそのモンスターの効果は無効化される。

〔スチームロイド〕:攻撃力1800→攻撃力2300(自身の効果)

〔スチームロイド〕(攻撃力2300)VS(守備力1600)〔コアキメイル・パワーハンド〕→〔コアキメイル・パワーハンド〕、破壊・墓地へ。 

   「〔機甲部隊の最前線〕が有るってのに…うかつだぜ、七人衆さんよ?
    地属性・機械族である〔パワーハンド〕が破壊されたことで、〔機甲部隊の最前線〕の効果発動…」

機甲部隊の最前線 永続魔法
機械族モンスターが戦闘によって破壊され自分の墓地へ送られた時、
そのモンスターより攻撃力の低い、同じ属性の機械族モンスター1体を自分のデッキから特殊召喚する事ができる。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

   「来い、〔サイバーオーガ〕ッ!」

サイバー・オーガ:デッキ→神成のフィールド

サイバー・オーガ 地属性 機械族 レベル5 ATK1900 DEF1200
このカードを手札から墓地に捨てる。
自分フィールド上に存在する「サイバー・オーガ」1体が行う戦闘を1度だけ無効にし、
さらに次の戦闘終了時まで攻撃力は2000ポイントアップする。
この効果は相手ターンでも発動する事ができる。

黒ずんだ銀のボディに鋭利な角。
鋼鉄鬼、サイバー・オーガ。大してレア度も高くなくレベルの割にはステータスも低いカードだが、神成の手にかかれば紛れもなくエースモンスターだ。

   「なるほど…それでは私は魔・罠置き場にカードを2枚セット、どうぞ(手札3・伏せ2)」
   「俺のターン(手札4)…モンスターは増やさずに〔サイバー・オーガ〕で〔スチームロイド〕を攻撃する」

伏せカードが多い中で攻撃するというのは、もちろん伏せカードがないときに比べれば遥かにリスクが高い。
かといってここで攻撃しなければ、返しのターンで攻撃力の上がった〔スチームロイド〕の相手をしなければならない。

   「では、ここで〔突進〕を発動します」

突進 速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の攻撃力はエンドフェイズ時まで700ポイントアップする。

   「…あ? ダメージステップじゃなく、バトルステップでか?」
   「ええ、もちろん」

神成にしてみれば、〔サイバー・オーガ〕が返り討ちになったとしても〔機甲部隊の最前線〕で後続は呼べる、だが…。
妙な何かを感じ取った。

   「手札から〔サイバー・オーガ〕の効果発動、この戦闘を無効にし、フィールドの〔サイバー・オーガ〕の攻撃力を200アップさせる」

〔サイバー・オーガ〕(B):神成の手札→墓地へ
〔サイバー・オーガ〕(A):攻撃力1900→攻撃力3900
〔スチームロイド〕:攻撃力1800→攻撃力2500
〔サイバー・オーガ〕(攻撃力3900)VS(攻撃力2500)〔スチームロイド〕、戦闘無効

   「カードを2枚セット、エンド。(手札1・伏せ2・発動中1)」

何事もなく、互いにカードを消耗したがモンスターを失わない戦闘。
だが、なにか、そこはかとない気配を感じ取った神成は、直感的に防御を固めていた。

   「では私のターンですね(手札4)、〔ハリケーン〕です。フィールド上の全ての魔法・罠カードを手札に戻します」
   「…〔強制脱出装置〕で、〔スチームロイド〕を手札に戻す」

ハリケーン 通常魔法
フィールド上の魔法・罠カードを全て持ち主の手札に戻す。

強制脱出装置 通常罠
フィールド上のモンスター1体を持ち主の手札に戻す。

〔機甲部隊の最前線〕:神成の魔・罠置き場→神成の手札
伏せカード:神成の魔・罠置き場→神成の手札
伏せカード:エビエスの魔・罠置き場→エビエスの手札

〔ハリケーン〕のソリッドビジョンが収まったとき、既にエビエスの手元には次のカードが構えられていた。
エビエスはそのカードを手札から迷わず墓地に投入した。

   「手札から〔エレクトリックワーム〕を発動し、〔サイバー・オーガ〕をいただきます」
   「…なにッ?」

エレクトリック・ワーム 光属性 雷族 レベル3 ATK1000 DEF1000
このカードを手札から墓地に捨てる。
このターンのエンドフェイズ時まで、相手フィールド上に表側表示で存在する機械族またはドラゴン族モンスター1体のコントロールを得る

〔サイバー・オーガ〕:神成のフィールド→エビエスのフィールド

   「そして…〔コアキメイル・パワーハンド〕を召喚します、攻撃。
    ドリルクライシスッ、オーガ・バンカーレベル2ゥッ!」

神成:LP8000→LP5900→LP2000

奪われた〔サイバー・オーガ〕、自身も用いる強力アタッカー〔パワーハンド〕、2体の攻撃に対して神成は無言で受けきった。
攻撃時の技名も、神成が普段のデュエルで使う技名だった。

   「…ッ…」
   「カードを1枚セットし、〔魔法の筒〕を公開することで〔パワーハンド〕を維持します。ターン終了です(手札2・伏せ1)」
   「エビエスさんよ、お前のデッキ…コピーデッキだよな? 俺の」
   「ええ、そうですよ」

エビエスの言葉なんて聞かず、神成はカードをドローする素振りすら見せない。
悪びれもせず、エビエスはあっさりと首肯してみせたが、神成も怒るわけでもなかった。

   「どっからデッキレシピを…って質問もアレだな。お前らは海馬コーポレーションをジャックしたんだったな…」

ナニワカップの運営メンバーである神成は、そのデッキレシピをKCに申請、登録している。
変則デュエルも多いので、そこで使うデッキレシピはある程度資料として必要になる

   「そうでもありませんよ? 我々でも独力ではKCのセキュリティは破れません。
    今日は別のグループがKCにサイバーテロを仕掛けたようでして、それに便乗させていただきました」

その頃、KCの主要メンバーは海馬コーポレーション本社ビルにて、ペガサス・J・クロフォードの遺物的な事件に遭遇していた。
その事件も語りだすと長くなるので、何をやっていたかは遊戯王Rを参照。

   「…まあ、別にどうでもいいがな。サレンダーして良いぜ? エビエスさんよ?」
   「ほう?」
   「あんたが最初から勝つ気がなかった、そうだろ? ミラーマッチ…同じコンセプトの対決なら俺が負けようがないんだよ。
    俺のターァン!(手札2) 〔封印の黄金櫃〕の効果で〔バリスティック〕が手札に加わるぜ」

〔キメラテック・バリスティック・オーガ〕:除外置き場→神成の手札

   「それでしたら…」
   「今加わった〔バリスティック〕を墓地に送り、もう1枚の〔バリスティック〕を特殊召喚する!」



ぎっしゃあああああああッッ!



墓地に落ちた鬼が啼く。エビエスの言葉をさえぎって鋼鉄のロープを弾くような音で。
鬼に呼ばれ、鬼が降りる。

〔キメラテック・バリスティック・オーガ〕:手札→神成のフィールド

キメラテック・バリスティック・オーガ 地属性 機械族 レベル8 ATK2000 DEF2500
このカードは通常召喚できず、「キメラテック・バリスティック・オーガ」の効果以外で特殊召喚できない。
このカードを手札から捨てることで、手札または墓地に存在するこのカードの同名カードを特殊召喚する。
また、フィールド上の任意の機械族モンスターをリリースする事で、次の戦闘終了時までリリースしたモンスターの数×1000ポイント攻撃力がアップする。
この効果は相手ターンでも発動する事ができる。

   「召喚時に優先権を行使ッ、〔パワーハンド〕を喰い尽せ!」
   「それはできませんよ、機械族は居ませんから」
   「…ああ?」

そこに来て、神成はエビエスのフィールド上で表側で存在するカードに気が付いた。

DNA改造手術 永続罠
発動時に1種類の種族を宣言する。このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上の全ての表側表示モンスターは自分が宣言した種族になる。

   「…な、〔改造手術〕だとっ!?」
   「ええ、神成様…あなたが普段のデュエルで使っているサポートカード。
    〔バリスティック〕や〔エレクトリック・ワーム〕も本来はこのカードとのコンボが前提でしたね」
   「…っち」

本来は全ての敵のカードを機械族に変更する必要があるのが神成のデッキであるはずだった。
だが、コピーデッキを用いるエビエスに対してはそれが必要なかった。元から機械族なのだから。

   「覚えておいた方が良いでしょう、神成様。
    〔DNA改造手術〕は“我々”が使っているデッキの最大のサポートカードでありながら、最大の天敵であるということ、ね」

〔キメラテック・バリスティック・オーガ〕:機械族→爬虫類族
〔サイバー・オーガ〕:機械族→爬虫類族
〔コアキメイル・パワーハンド〕:機械族→爬虫類族

   「…妙な気分だな、俺のデッキを…俺以上に研究してるヤツから諭されるってのもよ」
   「忠告しておきますが、〔機甲部隊の…」
   「判ってるよ、〔機甲部隊の最前線〕はフィールド・墓地の両方で機械族でないと使えねえ。
    俺のモンスターはフィールドで機械族でなくなった以上、このカードは役経たずだが…。
    もうちょっと悪足掻きに付き合ってくれ、〔エネコン〕発動して、〔パワーハンド〕には寝てもらう」

エネミー・コントローラー 速攻魔法
次の効果から1つを選択して発動する。
●相手フィールド上の表側表示モンスター1体の表示形式を変更する。
●自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる。
 相手フィールド上の表側表示モンスター1体を選択する。
発動ターンのエンドフェイズまで、選択したカードのコントロールを得る。

〔コアキメイル・パワーハンド〕:攻撃表示→守備表示


   「バトルフェイズ、〔オーガ〕で〔パワーハンド〕を攻撃! オーガ・バンカーッ!」

〔サイバー・オーガ〕(攻撃力1900)VS(守備力1600)〔コアキメイル・パワーハンド〕、〔コアキメイル・パワーハンド〕、破壊、墓地へ。

   「 超 級 ・ 鬼 面・怒・轟バリスティック・アンガアアアアアアア ッッ!」

技名を叫ぶと同時に、もちろんバリスティックがエビエスに飛び掛る。
圧倒的な回転をしつつ、球体が突撃する。 壁となるモンスターはなく、エビエスへと向かっていくわけだが。
だがエビエスは特段リアクションも取らない。 ソリッドビジョンが当たったところで痛くもなんともない。

エビエス:LP8000→LP6000

   「ァアアアああッッ!」

揺れた。歩道橋が揺れた。
吹っ飛んだ。エビエスが吹っ飛んだ。
演技ではない、投影されたバリスティックに隠れるように走り寄った神成が、物理的に殴り飛ばしたのだ。
手札をちょうど使いきり、開いた左腕による急加速の渾身の左ストレート。

   「七人衆様よ。お前のピアスはどこで売ってるんだ?」
   「企業秘密です」

殴り飛ばされ、エビエスの顔面の金色のピアスを曇らせる赤。
だが、その赤は違う、エビエスの血ではない。殴り掛かって皮と肉を持っていかれた神成の血だ。

   「気が済みましたらデュエルの続行をお願いします。私もコピーデッキ使いですからこのようなことは慣れていますので」
   「…俺はよォ…怒るって嫌いなんだよ、無駄だし。
    だが…自分のデッキをこうまでバカにされて…頭にこねえヤツはデュエリストなんてやってねえ…ッ!」
   「いえいえ。私はバカになどしていませんよ、神成さまのデッキが強いからこそ、コピーさせていただいているのですから」
   「自分が何ヶ月、何年掛かって作ったものを横取りされて尊敬されてると思うか?
    本家サイバー流のリスペクトって考え方も堅苦しくて嫌いだが…てめえはそれ以上にイラつくぜ」

デュエリストは、デッキになにかを懸けている。
財産だったり、青春だったり、人生だったり、家族だったりする。
神成はそれらを全て注ぎ込んで来た。自分の哲学が正しいと、最強だと信じて。

神成の心中は実にバリスティック。
薄汚いコピー戦術の一環としてほんの2~3分で再現したデッキのひとつとして使わエビエスに。
そんな敵に嬲られ、押されている自分に。

   「俺は真・サイバー流、“電影鏡鬼”の神成鏡真ッ!
    本家サイバーや裏サイバーの連中を倒して頂点に立つ。
    その俺が…真サイバーなら! 機械族じゃなくなろうと前に立つ敵は喰い潰す。
    サレンダーもさせない。さあ、お前のターンだ!(手札0・伏せ1・発動中1)」

鏡真の言葉を協賛するように、フィールドの2体の鬼たちは電子音の雄叫びを上げる。
まだ、誰も負けた気になどなっていない。

   「ご立派な理想、名乗りをありがとうございます。
    私は“四界の王”のエビエス、コピーデッキでいかなるデュエリストをも凌駕する。
    ライフレス、デッキデス、特殊勝利、特殊判定、四つの決着のいずれを目指そうとも、そのデュエリストを上回る、それが私です」

四界の王という名前だけは、神成は知っていた。
プロアマ問わず、デュエリストたちの間で謡われていた存在すら疑わしい人物。
武藤遊戯や海馬頼人とは別の意味、都市伝説的な意味での伝説のデュエリストだ。
だが、相手がバケモノだろうと神様だろうと、一度着いた戦いの火は揺るがない。それが鏡真たちの人種の特長。

   「私のターン、ドロー(手札3)。
    それでは、手札を全てセットしてしまいましょう、ターン終了です(手札0・伏せ2・発動中1)」

セットしたカードの内、2枚のカードは判っている。
〔強制脱出装置〕で戻った〔スチームロイド〕、〔パワーハンド〕で公開した〔魔法の筒〕だ。

スチームロイド 地属性 機械族 レベル4 ATK1800 DEF1800
このカードは相手モンスターに攻撃する場合、ダメージステップの間攻撃力が500ポイントアップする。
このカードは相手モンスターに攻撃された場合、ダメージステップの間攻撃力が500ポイントダウンする。

魔法の筒 通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

〔スチームロイド〕の守備力は1800、今の神成のフィールドの2体のオーガなら破壊できる。
だが、神成のライフポイントは残り2000、〔魔法の筒〕を使われれば致死的なダメージを負う。
怒りに任せて攻撃力1900の〔サイバー・オーガ〕で攻撃する選択肢はあるが、まずはカードを引いてからだ。

   「俺のターン、ドローッ(手札1)!」

ドローカード:〔リミッター解除〕

機械族の特権的サポートカードだが、種族が変更されている今は何の役にも立たない。

   「カードを1枚セット、ターンエンドォッ!(手札0・伏せ2・発動中1)」
   「私のターンですかドロー(手札1)…私はこのままターンを終了します(手札1・伏せ2・発動中1)」

コピーデッキに限ったことではなく、ミラーマッチ…デッキコンセプトが重複する場合にしばしば見られる状態だ。
引き勝負、腕の優劣なんてものは介在せず、ただ引き合う勝負。

   「ドロォーッ(手札1)…ターンエンド(手札1・伏せ2・発動中1)」
   「ドローして(手札2)…ターン終了です(手札2・伏せ2・発動中1)」

本来は1ターンの攻防とは、もっと分厚く、濃密であるはずのものだった。
だが、鏡写しのデュエルではカードタイプが狭くなり、受け攻めの方法が減り、互いにゲームメイクしにくくなる。
故に、たった1枚のドローがゲームを崩す。勝負を決する。 その1枚を神成は待っていた、そして。

   「ドローッ!(手札2)」

ドローカード:〔ハリケーン〕

――来たッ!――

エビエスの守りを崩し、そして〔リミッター解除〕を生かす最良の1枚、それこそが〔ハリケーン〕だった。


   「手札より魔法カード発動、〔ハリケェエエエン〕ッッ!」

ハリケーン 通常魔法
フィールド上の魔法・罠カードを全て持ち主の手札に戻す。

〔DNA改造手術〕:フィールド→エビエスの手札
伏せカード:フィールド→エビエスの手札
伏せカード:フィールド→エビエスの手札
〔機甲部隊の最前線〕:フィールド→神成の手札
伏せカード:フィールド→神成の手札
伏せカード:フィールド→神成の手札

〔キメラテック・バリスティック・オーガ〕:爬虫類族→機械族
〔サイバー・オーガ〕:爬虫類族→機械族

先ほどエビエスも使った竜巻のカード。
月夜に吹き荒れる暴風雨、それは百鬼の大行進にも匹敵して。

   「…な、なるほど…。
    私のデッキにあるということは…あなたのデッキにもある…ということでしたね」

   「俺はさらに手札から〔スクラップ・リサイクラー〕を召喚し、デッキから〔ナノブレイカー〕を墓地に送る。
    効果で〔パワーハンド〕と〔ナノブレイカー〕をデッキに戻し、1枚ドロー」

スクラップ・リサイクラー 地属性 機械族 レベル3 ATK900 DEF1200
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、自分のデッキから機械族モンスター1体を選択して墓地へ送る事ができる。
1ターンに1度、自分の墓地に存在する機械族・地属性・レベル4モンスター2体をデッキに戻す事で、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

神成:手札0→手札1
〔ナノブレイカー〕:墓地→神成のデッキ
〔コアキメイル・パワーハンド〕:墓地→神成のデッキ

   「行くぞッ、バトルフェイズ! 〔サイバー・オーガ〕ッ! 裏守備の〔スチームロイド〕にオーガ・バンカーだッ!」

うなる。鬼が、拳が。
裏守備のスチームロコモーティブな鉄屑へと。

〔サイバー・オーガ〕(攻撃力1900)VS(守備力1800)〔スチームロイド〕、〔スチームロイド〕、破壊、墓地へ。」

   「〔バリスティック〕の効果発動ォッ! 喰い尽せ!」

〔サイバー・オーガ〕:フィールド→墓地へ。
〔スクラップ・リサイクラー〕:フィールド→墓地へ。
〔キメラテック・バリスティック・オーガ〕:攻撃力2000→攻撃力4000

   「これで…どうなるのかな?」

エビエス
LP:6000
モンスター:0
魔・罠:0

   「これはこれは…驚きましたよ、これでは私のライフは2000…神成さまと並んでしまいますね」
   「並ばねえよッ!」
   「…え?」
   「これで終わりなんだよ、〔リミッター解除〕ッ!」

リミッター解除 速攻魔法
このカード発動時に、自分フィールド上に表側表示で存在する全ての機械族モンスターの攻撃力を倍にする。
この効果を受けたモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

同胞を喰い尽くし、肥大した〔バリスティック〕の肉体から蒸気が上がる。
怒りが胴体を焼結させ、熱が鉄の銀色を紅く染めていく。

〔キメラテック・バリスティック・オーガ〕:攻撃力4000→攻撃力8000

   「…攻撃力8000ッ!?」
   「攻撃だ! 〔キメラテック・バリスティック・オーガ〕ッ! 超級ッ!  鬼  面  ・  怒  轟バリスティック・アンガアアアアア ッッ!」


月下で燃えるそれは太陽。
怒りだけに轟き、存在するそれは敵を砕き、誇り以外には何も守らない傲慢な力。
神成の怒りに呼応し、極大化したソリッドビジョンが歩道橋を揺らし、

そして。



エビエス:LP6000


   「…え?」
   「〔バトルフェーダー〕ですよ、ご存知でしょう?」

バトルフェーダー 闇属性 悪魔族 レベル1 ATK0 DEF0
相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動する事ができる。
このカードを手札から特殊召喚し、バトルフェイズを終了する。
この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。

バトルフェーダー:手札→エビエスのフィールド
神成:バトルフェイズ→メインフェイズ2

   「常識レベルのカードですよね、神成様?」
   「バカな…ッ! 俺のデッキには…そんなカードは入ってないのに…っ!?」

確信した勝利の瓦解に、神成は状況を把握できずにいた。

   「お気づきでしょうが…私たち正念党は〔バリスティック〕を所有していません。
    現存枚数4枚、その内の3枚は神成さま、あなたが所有し、残りの1枚は所在不明ですからね。
    そのため、私のコピーデッキには〔バリスティック〕やその関連カードがなく、枚数合わせが必要になります…ご理解いただけましたか?」

神成は勘違いをしていた。
エビエスが持っていたコピーデッキの最大の利点、それは弱点を着いた構築ができること自体ではない。
無意識の間、敵に『自分と相手の戦力は同等』と思わせることであることなのだ。
そのことに気が付かず、ターン終了時には〔バリスティック〕は自壊する。そうすれば神成を守る壁はなくなる、だが。

神成の手札
〔天使の手鏡〕
〔次元幽閉〕
〔機甲部隊の最前線〕

絶望的な手札ではない、まだ戦える。
サレンダーするべき手札ではない、意地を畳むには速い。

   「…〔機甲部隊の最前線〕を発動し、2枚のカードをセット、ターン終了だ(手札0・伏せカード2・発動中1)」

うめき声を上げ、オーバーヒート、自爆する機鬼は破裂する。

   「私のターン(手札6)…そうですね、では〔ナノブレイカー〕を召喚します」

ナノブレイカー 地属性 機械族 レベル4 ATK1600 DEF1800
このカードがレベル3以下の表側表示モンスターを攻撃した場合、ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊する。

これもやはり神成も使用しているカード、独特な形状をした剣を携えた、黒髪の人間型モンスター。
これならば〔次元幽閉〕でなんとかなる。次のドローに賭ける。

   「そして…〔無限の力〕を発動します」
   「…え、な…!? 〔無限の力〕だと!?」

無限の力 装備魔法
このカードを装備したモンスターは魔法・罠・モンスターの効果を受けず、攻撃力・守備力を2000ポイントアップする。

デュエルモンスターズには、かなりの数の伝説と呼ばれるレアカードが存在する。
これもその内の1枚で、製造枚数たったの1枚、もちろん現存枚数は最高で1枚。
正念党が保有しているという噂は有ったが、神成がここまで戦ったレアハンターは誰も使っていなかったカードだ。

   「本物…ッ!?」
   「いいえ、オリジナルは別の幹部が所有していまして…私のはコピーカードですよ。
    デュエルする上では…関係ありませんがッ!」

〔ナノブレイカー〕:攻撃力1600→攻撃力3600 守備力1800→守備力3800

   「攻撃宣言ですが…申し訳ありませんが、神成さま。
    私の不勉強で〔ナノブレイカー〕の攻撃宣言の技名がわからないのです、教えていただけませんか?」
   「…次は負けねえぞ、ピアス野郎」
   「“ツギワマケネエゾピアスヤロウ”、ですね。
    ではバトルフェイズ、〔ナノブレイカー〕の攻撃、ツギワマケネエゾピアスヤロウっ」

サレンダーもせず、叩き込まれた一撃を受け、神成はただ立ちすくんでいた。

神成:LP0

   「同じ相手とデュエルするなんざ面倒なだけだが…必ず取り返しに行くぜ、〔バリスティック〕をな」
   「…私はコピーカードを含めた3枚の〔バリスティック〕を使いますが…あなたは2枚だけで?」
   「安心しろ、所在不明のラスイチってのは…ここにあるからよ」

そういって神成は懐から1枚のカードを取り出した。
紛れもなく、〔キメラテック・バリスティック・オーガ〕。
製造された4枚全て所有しているとは、神成という男も只者ではない。

   「次はバリスティック対バリスティックだ、吠え面かかせてやるぜ」
   「…お待ちおります」

いつの間にか、神成の言葉から震えるほどの怒りは消えうせていた。
デュエル中の怒りをデュエル後も持続させるほど、神成は無粋でも神経質でもなかった。
相手の戦術がどうであれ、一度戦えば敵だろうと怨敵ではなく好敵手なのだ。

   「終わりましたか?」

いつ頃から居たのか、歩道橋の上にはひとりの幼児がいた。
エビエスの部下に連れられて来たらしく、その腕にはデュエルディスクが装着されている。

   「…次の対戦相手は…あなたというわけですか。
    私があなたのお相手を努めさせていただきます正念党七人衆、エビエスです。
    あなた様のお名前を伺ってよろしいでしょうか?」
   「僕の名前は倉塔福助…よろしくお願いしますっ」

エビエスはコピーデッキを作る際、リストなどは見ない。
名前を記憶の中から呼び起こし、そのまま再現、改良するだけだ。
どんなに強いデッキであろうともミラーマッチを前提としたエビエスに多少の利が生まれるというわけだ。
…が。

   「…え?」

思い出した記憶を吟味し、エビエスは唖然とした。


――切り札は〔精霊術師 ドリアード〕と〔風林火山〕のコンボ…!?――
――主力アタッカーは〔錬金生物ホムンクルス〕や〔エレメンタル・ザウルス〕――
――デッキテーマ、コンボの爆発力、カードパワー…どれを見てもコピーする価値もない――

エビエスは今まで、強い相手の強いデッキしかコピーしたことがなかった。
それは当前だ。レアカードを奪い、負けが認められないからこその七人衆、弱小が相手ならば七人衆が出向くはずもない。
必勝が求められるからこそコピーする、だがコピーしなくとも必勝できる敵をエビエスは知らなかった。


この体験と出会いがエビエスを変えることになるのだが、全ては次回へ続く。















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