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遊義皇第10話(後)

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前編のあらすじ! 前編を読め!

   「だが、こちらは紙一重だ、本当にギリギリだった。
    本来は〔おジャマトリオ〕と使うカードなんだが……わからんものだな。
    伏せカード発動、〔封魔一閃〕だ。」


封魔一閃 通常魔法
相手フィールド上のモンスターカードゾーン全てにモンスターが存在している時に発動する事ができる。
相手フィールド上に存在する全てのモンスターを破壊する。


神次郎がそのカードの効果を思い出すより早く、ウォンビックの場に出現した魔力の奔流は、神次郎のフィールドへと流れ込んだ。
魔力は逃れようとするモンスター達に絡みつき、2人のフィールドの中央に凝縮されていき……そして、消失した。


裁きの龍:フィールド→墓地へ。
ライトロード・ビースト ウォルフ:フィールド→墓地へ。
X-セイバー エアベルン:フィールド→墓地へ。
アマゾネスの鎖使い:フィールド→墓地へ。
越境トークン:フィールド→墓地へ。


   「さあ、お前のターンだ。 神次郎!(手札0・伏せ0)」


警戒して召喚数を抑えていればこんなことにはならなかっただろうが、神次郎の辞書に『後悔』とか『反省』という言葉は無い。


   「私相手に1:5の交換をするとは……
    見事だ! ウォンビック・ブラックマイン! 賞賛してやろう!
    だが、その見事なお前でもそれ以上に見事な私には敗れ去ると、今私が宿命付けた!
    私のターン、ドローフェイズは憎たらしい天使によってスキップされている! (手札2)」


神次郎はソリッドビジョンによってラクガキされた自分のデュエルディスクを忌々しく睨むが、実際はかなり有効に働いていた。
なぜなら、ドローしても、残るデッキのほとんどは『貪欲な壺』でデッキに戻したモンスター。
モンスターは1ターンに1枚しか召喚できず、それならばドローせずにデッキを“温存”したと考えればプラスである。


   「私は〔E・HERO アナザー・ネオス〕を召喚し、ダイレクトアタックを仕掛ける!」


E・HERO アナザー・ネオス 光属性 戦士族 レベル4 ATK1900 DEF1300
デュアル:このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、通常モンスターとして扱う。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、
このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、カード名を「E・HERO ネオス」として扱う。


ウォンビック:LP9750→LP7850


さっきも出てきた小さなモンスターが、体格では倍ほどはあるウォンビックに殴りかかった。
そして、一時は2万を数えたウォンビックのライフも、とうとう初期値である8000を下回った。
残りデッキはたった3枚しかないが、それでも決して絶望すべき状況ではないことを神次郎は感じ取っている。


   「ターン・エンド!(手札1・伏せ0)」


神次郎:残りデッキ3枚

三姉妹の効果が解け、ウォンビックはここからカードを1枚ドローできる。


   「ドローっ!(手札1) ……!?」


ウォンビックは即座に、デュエルディスクによって互いの公開情報を確認した。


   「何もしないならば、さっさとターンを終了しろ!
    私がダイレクトアタックのために待ってやっているんだぞ!!」


   「正直言って……かなり微妙、いや絶妙なカードを引いた。
    手札から、〔浅すぎた墓穴〕を発動する。」


浅すぎた墓穴 通常魔法
自分と相手はそれぞれの墓地からモンスターを1体選択し、守備表示でフィールド上にセットする。


   「この効果によって、俺は墓地から〔メタモルポット〕をセットする。」


この発言に、神次郎も状況を察した。


メタモルポット 地属性 岩石族 レベル2 ATK700 DEF600
リバース:自分と相手の手札を全て捨てる。
その後、お互いはそれぞれ自分のデッキからカードを5枚ドローする。


   「先ほどの〔おろかな埋葬〕はこんな状況を想定したのか、私ほどではないが、やるっ!」


   「ここまで追い詰められた状況で使うことになるとは思っていなかったがな。
    神次郎、お前もモンスターを選んでセットしろ。」


発動すれば、残りデッキが3枚しかない神次郎は敗北を喫す。
となれば、〔メタモルポット〕の効果を使わせずに処理するしかないが、墓地にはそれが可能なモンスターは〔ライトロード・ハンター ライコウ〕しかない。


ライトロード・ハンター ライコウ 光属性 獣族 レベル2 ATK200 DEF100
リバース:フィールド上のカードを1枚破壊する事ができる。
自分のデッキの上からカードを3枚墓地に送る。


そう、〔ライコウ〕にもデッキデス効果がある。
反転召喚して除去すれば、そのあとのデッキデスでデッキがちょうどなくなり、次のドローフェイズで敗北する。
しかし、〔ライコウ〕を蘇生しなければ、どっちみち〔メタモルポット〕で負ける。


本来は墓地に〔ならず者傭兵部隊〕と〔白い忍者〕が有ったが、2枚とも〔貪欲な壺〕でデッキに回収してしまった。
残りデッキ枚数の少ない神次郎にとってデッキには即戦力が必要であり、デッキデス効果を持つライトロードは戻したくなかった。
そしてウォンビックのモンスターに対抗するため、モンスター除去系のカードを戻したが、完全に裏目にでた。


   「〔ライトロード・ハンター ライコウ〕を蘇生させる。」


ライトロード・ハンター ライコウ:墓地→フィールド。
メタモルポット:墓地→フィールド。


だが、選択肢は他には無い。 除去するしかないのだ。


   「俺は、ターン終了だ。(手札0・伏せ0)」


   「私のターン、ドローフェイズはスキップされる。(手札1)」


ここで神次郎が勝つには、残った最後の手札が〔ならず者傭兵部隊〕でなければならない。
それならば、〔メタモルポット〕を処理しつつ、〔ライコウ〕は裏守備で温存できる……だが。


   「っくぁああ! 〔ライトロード・ハンター ライコウ〕を反転召喚し、その〔メタモルポット〕を破壊する!」


翻ったライコウが、〔メタモルポット〕へと噛み付き、破壊した。


   「〔E・HERO アナザー・ネオス〕で、ダイレクトアタック!」


ウォンビック:LP9050→LP7150


   「……で?」


   「っく、が、うおおおォオォオ!
    ターン、エンドだぁぁっ!(手札1・伏せ0)」


E・HERO アナザー・ネオス:デッキ→墓地へ
ならず者傭兵部隊:デッキ→墓地へ
白い忍者:デッキ→墓地へ

神次郎のデッキ:0枚


   「俺のターン、ドロー(手札1)。 引いたモンスターをセット、終了だ。(手札0・伏せ0)」


   「私のターン、ドロー…っく!」


神次郎の伸ばした手の先には、カードはありはしない。
そしてダメージも無いのに0へと減少する神次郎のライフポイントゲージに、消えていくソリッドビジョン。


   「くそぁああ!!」


勝敗が決し、そのまま屋上に大の字で倒れ込む神次郎。


   「ここまでの苦戦は久方ぶりだ。
    神次郎が率いる制々正念党、その名は忘れん。」


今のデュエル、本当に紙一重の戦いだった。
もしも、神次郎のデッキが40枚ではなく41枚だったら?
もしも、ウォンビックが〔おろかな埋葬〕で〔メタモルポット〕を墓地に送っていなければ?
もしも、神次郎が〔天使三姉妹のいたずら〕の結果が変わっていれば?
もしも、貪欲な壺で〔白い忍者〕や〔ならず者傭兵部隊〕をデッキに戻していなければ?


些細な差、ミスとも言えないようなプレイングが勝敗を別けた。
その戦いの中で思うところがあったのか、神次郎はデッキ40枚をデュエルディスクから取り出し、別途に持っていたカードと交換し始めている。
ウォンビックも同じ気持ちらしく、自身のサイズに合わせた特大のディスクからデッキを取り出すためにフタのネジを回す。
そんな2人を見ながら、トガが口を開く。


   「ブラックマイン様、その神次郎という男は、別に正念党の筆頭ではありません。
    主力には間違いありませんが、正念党の幹部団のひとりです。」


カードハントを行う組織は、一番強いデュエリストがリーダーでないと統括できない場合が多い。
そのため、筆頭=最強のデュエリストであり、この神次郎よりも強い人間がいるということに他ならない。


   「……神次郎、正念党にはお前より腕の利くデュエリストは居るのか?」


ウォンビックは不安は全く無く、むしろ『何人もいる』という答えを期待している。
トガは、そんなウォンビックの反応を、側近として見れば力強いが、一人の少女として見れば心細くも見えた。


   「私の上になる単血人間なんぞ居るものか! 私は四ヶ国の血を引く天才だ!」


   「そうか、ならば質問を変えよう。
    その七人衆という連中で、お前を破ったデュエリストは何人いる?」


   「…私の運が人生で最も悪い日と、そいつらの人生で最も運がいい日が重なったらしい。
    他の七人衆たちは運がいい、本当に運が良い。 四人全員に花を持たせてやった。」


つまるところ、四人全員負けた、ということらしい。


   「? 七人衆なのに四人……いや、お前を含めて五人しかいないのか?」


   「む? そういえばそうだな。」


ウォンビックの質問で、神次郎も疑問に思った。
そんなデュエルのことしか頭に無い2人に解説できる人間は、この場には彼女しかいない。トガだ。


   「ブラックマイン様。
    正念党には七人衆と呼ばれる幹部が7人居ることにはなってますが、
    現在は欠員が出ていて5名しかいないそうです。」


こういう組織では、情報の有無は死活問題だと言うのに、ヴァイソンダーヅ首領のウォンビックも、正念党七人集の神次郎も初耳という顔をしている。
が、どう考えても張本人である神次郎が初耳というのはありえないので、聞いていなかったか、忘れたのだろう。


   「あと四人か、いい程度に逆境だな。」


   「心配要りませんよ、“デュエルでは”辛い戦いになるかもしれませんが、ドッグ&マンならば私たちは負けません。」


トガの奇妙な言い回しも、ヴァイソンダーヅの採用しているルール、ドッグ&マンを考えれば分かりやすい。
殴り合う『ドッグ』と、デュエルの『マン』を両方行って、2勝したものを勝者とし、それ以外の結果は全てノーゲームにするルール。
デュエルで勝ったとしても、身長は常人の1,5倍、体重は3倍はあるウォンビック相手に素手で勝たなければ意味が無いのだ。


   「他の幹部の人相が知りたい、神次郎、教えてくれ。」


   「ふん、なぜ私が……。」


その言葉に、ウォンビックの背後、ウォンビックには見えない位置で、トガが釘と100円ライター、フライパンを取り出した。
そして、意味有りげな視線を神次郎に向けて、なぜか釘の先端をヤスリで磨いている。
言葉にせず口パクで、『シ・ヌ・カ』と明確に形を作る。


   「私は寛大だからなっ! いいだろう!
    一人目は、お前と同じアメリカ人……あいつが白人だったか、黒人だったか、良く思い出せんが。
    名はクロック・ジュフだかジェフだか、デッキは記憶する価値も無いデッキだったが、卑劣にも不正行為によって私を倒した。」


やたらに国籍にだけ拘っている意見だが、おおよその内容は合っている。


   「あとは、情緒の無い1ターンキルを使うホーティック……白人だが、国籍は知らん。 苗字も忘れた。
    3人目はシャモン……こいつは国籍は知らん、聞いた覚えが無い。」


今のところ、苗字すらまともに覚えている人間が1人も居ない。


   「あとは、エビエスだが……それはすぐ会えるだろう。」


   「それてどういう意――」


今この場には3人の人間がいる。
3人の人間がいれば影も3つできるが、神次郎が言うか言わないかの内に、ウォンビックは4つ目の影に気が付いた。
猛スピードで大きくなるその影に、上を振り向く暇も惜しみ、神次郎は一人で、ウォンビックはトガを抱えて跳び離れた。


   「!? ブラックマインさ…」



ザグオゥッゥオン!



トガの言葉をかき消し、そして、2人が佇んでいた場所にドリルのように突き刺さり、コンクリートを撒き散らした。


  「これは……どういう状況なのでしょうね?」


最も謎めいた男は、そう一言呟いた。

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