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老人」(2010/06/06 (日) 15:20:04) の最新版変更点

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ぼくの住んでるマンションの屋上から人が1人飛び降りた、よくある話でも無いけど珍しい話でもないと思う。 飛び降りたのはぼくのおじいちゃん、最初に発見したのはぼくのお母さん、お買い物の帰りに目の前に振ってきたんだって。    「義父さん、癌だったんですって……私…知らなかった…。」 お母さんはおじいちゃんが残した遺書を見て泣いて、お父さんに抱き着いた。 ぼくはお母さんがこの事を知らないってことを知っていた。 前におじいちゃんと病院に行った時に、お医者さんが言ってた。    「列効さん、落ち着いて聞いてください、これはあなたの肺のレントゲン写真ですが、ここに影が見えますよね?     ここからここまでが病巣になりますが、その…治る見込みは有りません。」    「…私は助からないんですか?」    「入院して1年、このまま暮らすと半年ほどかと、ご家族と相談してみてください。」    「…わかりました。」 ぼく達が家に帰る途中で、おじいちゃんはぼくにガリガリ君のソーダ味を買ってくれて、ぼくにこんなことを言った。    「コウキ、内緒にできるかい? 今日…先生が言ってたこと。 お父さんたちに。」    「でも先生は話しなさい、って言ってたよ?」    「おじいちゃんがタイミングを見て話すから…少しの間、秘密だ、約束できるかい?」    「うん、いいよ。」 約束したのが2ヶ月前、まだ蝉も鳴いていない暖かい日だった。 ぼくは今日のお葬式まで、お父さんにもお母さんにも2人のお兄ちゃんにも約束した事を言っていない。    「コウキ! こっちに来なさい!」 どうしておじいちゃんはあと4ヶ月、入院すれば10ヶ月も生きられるのに、屋上から飛び降りたんだろう? 困った事が有ったら大人の人に聞けっておじいちゃんは言ってたけど、『この事は秘密』って約束しちゃった。    「この度は……お悔やみ申し上げます。」 その時、ぼくの耳に有る人の声が届いた。 そうだ、お父さんでもお母さんでもおにいちゃん達でもない人に相談すればいいんだ!    「バスタスクさん、今話して良いですか?」    「俺様に? なにか用か?」 この人は刃咲麦佐(ハサキ・バクタスク)さん、アメリカから温泉を探しに来たイギリス人で(誤植じゃないよ)、 ぼくが生まれた頃に温泉を掘り当て、そこを銭湯として開業して、助姫さんってお医者さんと結婚したけど、お金のトラブルで離婚した。 まだ2歳の息子さんの蕎祐くんに言わせれば『ダメ大人』らしいが……ぼくから見れば良い人だ。    「おじいちゃんは…どうして死んじゃったんだと思いますか?」    「簡単だろ。     闘病生活で苦しんで死ぬよりも、ほんの一瞬で終わりたかった……それも選択肢だし、俺様は悪いとは思わない。」 ぼくもそう思った、でもおじいちゃんは遺書を書いていた。 &html(<table border="1" bgcolor="#D7F2F2" width="500"><tr><td><font size="2"><center>息子の十器、息子の嫁の美津子さん、孫の護像鬼、姫浮、コウキへ。<BR>私の体は癌に侵されている、手術に耐える体力に無い私に治る見込みは無いそうだ、私は病と戦ってまで未来に希望をもてない。<BR>この行動におまえたちに責任は皆無であり、心を痛める必要は無い、こんな事をした私が天国に行けるとは思っていないが、<BR>もし天国に行けたなら末永くおまえたちを見守っているつもりだ、それではあと五十年は天国で1人暮らしするつもりだ、さようなら。)    「これがどうした? 殺人事件の匂いでもするのか? ボウズ。」    「だっておじいちゃんは癌で戦うのが嫌で自殺したんでしょ?     それなのに自殺なんて痛いことしてまで天国に行っても病気は治らないんでしょ?」    「…ん?」    「だって死んじゃったら治す体も無くなっちゃうんだよ? だったら末期癌も治せなくなっちゃうじゃない。     それでどうして怖くて、痛い思いしてまで天国に引っ越さなきゃいけないの?」 そこまで聞いてバスタスクさんは顔をしかめた。    「……おまえ、じいちゃんが死んだってのにそんなこと考えてたのか?」    「だっておじいちゃんは天国に住んでるんでしょ?     天国なんて誰も居ないところで一人で闘病生活したのには何か訳があると思うんだ。」    「……投げ出したかったんだろ、生にしがみつく事を。」    「でもそれなら入院して1年生きてから死ねばいいんじゃないですか? 同じ死ぬなら僕たちと暮らした方が楽しいと思うんだ。」    「死んだ後のことなんか誰にもわからねーからな。     苦しむくらいならさっさと死んで来世に賭けたり、全部投げ出したくなったんだろ。」 その返答は、考えてなかった。 来世?    「死んだあとは、もう一回生まれられるの?」    「だから知らないって。     死後の世界や臨死体験を語ってるのは生きてるヤツなんだから。」    「いや、でもさぁ、生まれ変われるって事はないんじゃない?     生まれ変われるなら魂は増え続けるよね?」    「は?」    「だって、生まれ変われる…って、つまり魂はリサイクルできるんでしょ?     それでも魂はどこからか生まれる事が有るんだから、増えてくじゃない。」 聞いて楽しそうに頭を捻るバスタスクさん。    「こういうバカ話大好きだぜぇ。     …最初に魂って物が生まれたことがあるんだから、今も生成中だろうからなぁ。     …こう考えたらどうだ? 魂ってのはビデオテープみたいな物で状態が良ければ再度録画……つまり新しい人生を歩き出せる。     だが状態が悪ければ録画は出来ない、もう廃棄するだけの使えない魂、つまり廃棄される。」    「じゃあ、天国って、使えなくなったビデオテープ専用のゴミ捨て場?」    「……そういう事になるんじゃないか? 生まれ変われない使用済みの山なんだから。」    「おじいちゃん、ゴミ山で癌と戦ってるのか…大丈夫かなァ。」 天国が無いなら…生きてる時間が減るので自殺は損。 生まれ変われるなら…自殺したら生まれ変われるまでのサイクルは短くなるが、魂の合計時間が減るから損気味。 天国が有るなら…ゴミ捨て場で永遠に過ごす。    「損しかしない気がするんだけど。」    「さーな。」 ……おじいちゃんは得、得だと思って診断だろうか? 今、痛い思いをしなくともどちらにしろ死ぬんだからそのギャンブルを早くする分だけ無駄なのに? 永遠に苦しむかもしれないのに? 苦しむことすら出来なくなるかもしれないのに? それでも…おじいちゃん、貴方は死を選んだの? [[小説に戻る>http://www11.atwiki.jp/84gzatu/29.html]]
&html(<table border="1" bgcolor="#D7F2F2" width="1200"><tr><td><font size="2"><center>) ぼくの住んでるマンションの屋上から人が1人飛び降りた、よくある話でも無いけど珍しい話でもないと思う。 飛び降りたのはぼくのおじいちゃん、最初に発見したのはぼくのお母さん、お買い物の帰りに目の前に振ってきたんだって。    「義父さん、癌だったんですって……私…知らなかった…。」 お母さんはおじいちゃんが残した遺書を見て泣いて、お父さんに抱き着いた。 ぼくはお母さんがこの事を知らないってことを知っていた。 前におじいちゃんと病院に行った時に、お医者さんが言ってた。    「列効さん、落ち着いて聞いてください、これはあなたの肺のレントゲン写真ですが、ここに影が見えますよね?     ここからここまでが病巣になりますが、その…治る見込みは有りません。」    「…私は助からないんですか?」    「入院して1年、このまま暮らすと半年ほどかと、ご家族と相談してみてください。」    「…わかりました。」 ぼく達が家に帰る途中で、おじいちゃんはぼくにガリガリ君のソーダ味を買ってくれて、ぼくにこんなことを言った。    「コウキ、内緒にできるかい? 今日…先生が言ってたこと。 お父さんたちに。」    「でも先生は話しなさい、って言ってたよ?」    「おじいちゃんがタイミングを見て話すから…少しの間、秘密だ、約束できるかい?」    「うん、いいよ。」 約束したのが2ヶ月前、まだ蝉も鳴いていない暖かい日だった。 ぼくは今日のお葬式まで、お父さんにもお母さんにも2人のお兄ちゃんにも約束した事を言っていない。    「コウキ! こっちに来なさい!」 どうしておじいちゃんはあと4ヶ月、入院すれば10ヶ月も生きられるのに、屋上から飛び降りたんだろう? 困った事が有ったら大人の人に聞けっておじいちゃんは言ってたけど、『この事は秘密』って約束しちゃった。    「この度は……お悔やみ申し上げます。」 その時、ぼくの耳に有る人の声が届いた。 そうだ、お父さんでもお母さんでもおにいちゃん達でもない人に相談すればいいんだ!    「バスタスクさん、今話して良いですか?」    「俺様に? なにか用か?」 この人は刃咲麦佐(ハサキ・バクタスク)さん、アメリカから温泉を探しに来たイギリス人で(誤植じゃないよ)、 ぼくが生まれた頃に温泉を掘り当て、そこを銭湯として開業して、助姫さんってお医者さんと結婚したけど、お金のトラブルで離婚した。 まだ2歳の息子さんの蕎祐くんに言わせれば『ダメ大人』らしいが……ぼくから見れば良い人だ。    「おじいちゃんは…どうして死んじゃったんだと思いますか?」    「簡単だろ。     闘病生活で苦しんで死ぬよりも、ほんの一瞬で終わりたかった……それも選択肢だし、俺様は悪いとは思わない。」 ぼくもそう思った、でもおじいちゃんは遺書を書いていた。 &html(<table border="1" bgcolor="#D7F2F2" width="500"><tr><td><font size="2"><center>息子の十器、息子の嫁の美津子さん、孫の護像鬼、姫浮、コウキへ。<BR>私の体は癌に侵されている、手術に耐える体力に無い私に治る見込みは無いそうだ、私は病と戦ってまで未来に希望をもてない。<BR>この行動におまえたちに責任は皆無であり、心を痛める必要は無い、こんな事をした私が天国に行けるとは思っていないが、<BR>もし天国に行けたなら末永くおまえたちを見守っているつもりだ、それではあと五十年は天国で1人暮らしするつもりだ、さようなら。)    「これがどうした? 殺人事件の匂いでもするのか? ボウズ。」    「だっておじいちゃんは癌で戦うのが嫌で自殺したんでしょ?     それなのに自殺なんて痛いことしてまで天国に行っても病気は治らないんでしょ?」    「…ん?」    「だって死んじゃったら治す体も無くなっちゃうんだよ? だったら末期癌も治せなくなっちゃうじゃない。     それでどうして怖くて、痛い思いしてまで天国に引っ越さなきゃいけないの?」 そこまで聞いてバスタスクさんは顔をしかめた。    「……おまえ、じいちゃんが死んだってのにそんなこと考えてたのか?」    「だっておじいちゃんは天国に住んでるんでしょ?     天国なんて誰も居ないところで一人で闘病生活したのには何か訳があると思うんだ。」    「……投げ出したかったんだろ、生にしがみつく事を。」    「でもそれなら入院して1年生きてから死ねばいいんじゃないですか? 同じ死ぬなら僕たちと暮らした方が楽しいと思うんだ。」    「死んだ後のことなんか誰にもわからねーからな。     苦しむくらいならさっさと死んで来世に賭けたり、全部投げ出したくなったんだろ。」 その返答は、考えてなかった。 来世?    「死んだあとは、もう一回生まれられるの?」    「だから知らないって。     死後の世界や臨死体験を語ってるのは生きてるヤツなんだから。」    「いや、でもさぁ、生まれ変われるって事はないんじゃない?     生まれ変われるなら魂は増え続けるよね?」    「は?」    「だって、生まれ変われる…って、つまり魂はリサイクルできるんでしょ?     それでも魂はどこからか生まれる事が有るんだから、増えてくじゃない。」 聞いて楽しそうに頭を捻るバスタスクさん。    「こういうバカ話大好きだぜぇ。     …最初に魂って物が生まれたことがあるんだから、今も生成中だろうからなぁ。     …こう考えたらどうだ? 魂ってのはビデオテープみたいな物で状態が良ければ再度録画……つまり新しい人生を歩き出せる。     だが状態が悪ければ録画は出来ない、もう廃棄するだけの使えない魂、つまり廃棄される。」    「じゃあ、天国って、使えなくなったビデオテープ専用のゴミ捨て場?」    「……そういう事になるんじゃないか? 生まれ変われない使用済みの山なんだから。」    「おじいちゃん、ゴミ山で癌と戦ってるのか…大丈夫かなァ。」 天国が無いなら…生きてる時間が減るので自殺は損。 生まれ変われるなら…自殺したら生まれ変われるまでのサイクルは短くなるが、魂の合計時間が減るから損気味。 天国が有るなら…ゴミ捨て場で永遠に過ごす。    「損しかしない気がするんだけど。」    「さーな。」 ……おじいちゃんは得、得だと思って診断だろうか? 今、痛い思いをしなくともどちらにしろ死ぬんだからそのギャンブルを早くする分だけ無駄なのに? 永遠に苦しむかもしれないのに? 苦しむことすら出来なくなるかもしれないのに? それでも…おじいちゃん、貴方は死を選んだの? [[小説に戻る>http://www11.atwiki.jp/84gzatu/29.html]] &html(<table border="1" bgcolor="#D7F2F2" width="1200"><tr><td><font size="2"><center>)

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