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遊義皇第17話

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   「はい、これで登録は完了だよ。 明日開催のナニワカップに登録した。」


ガソリンが補給されてからは、少なくとも福助と刃咲にとっては長くはない道のりだった。
車に揺られ、適当に眠り、その間に着いただけ。 運転していたクロック以外には一眠りの距離だった。


   「そちらの保護者さんは? 参加しないの?」


   「あぁー…いいわ、今はそれ(参加申請書)書くのも面倒だし。
    飯食って寝てぇ…。」


高速道路というものは、走る人間の性格と車と状況によって疲労度が全く異なる。
ひとりで愛機で目的地もなく好きなだけ加速して走るときは疲れよりも爽快感がまず来る。
しかし、目的地を明確に定め、揺らさないためにスピードを抑え、初めて乗った趣味でもない車で走ればそれは疲れる。


   「あぁー…二封気の野郎…なんであんなんに乗ってんだよ…。
    オープンカーならせめてマニュアルだろうによぉ。」


クロックと二封気の趣味は、車に関してはバラバラであるらしい。


   「キミたち、タイミング良いね。
    この受付が始まったばかりのときは4つの門全部、人が溢れてたから。」


大阪人は全員がダイナソー竜崎みたいな喋り方をすると思っていた福助は拍子抜けしていた。
サングラスに黒スーツ…海馬コーポレーションではこれが制服なのだろうか? その男は流暢な標準語だった。


   「4つの門…って?」


   「このナニワドームには東西南北にひとつずつ通用門があるから、それだろ。」


福助の疑問に答えたのは、いつもどおり刃咲。


   「その通り。 4つの通用門にそれぞれ1人ずつ受付が居てね。
    それぞれ、受付専門員とミニゲームをプレイしてもらうことになってるんだ。」


   「…ミニゲーム?」


   「そう、ミニゲーム。
    ここ東門では、この俺、ゼーア・シュバルツとゲームしてもらう。」


   「…ゼーア・シュバルツ…って…それ、オッサンの名前か?」


   「そうだよ。 本名じゃないけどね。」


   「海馬コーポレーションは、社員一人一人にも恥ずかしい名前付けるのか?」


刃咲は、二つ名に憧れず、どちらかと云うとバカにしているタイプだった。
人気がそのままCMとなるため、ヒーロー性を高める二つ名が必要なことも理解した上で。


   「ああ。 勘違いしてるね。
    俺は海馬コーポレーションの正社員じゃない。
    臨時の嘱託職員で、本業はプロデッキビルダーをしてる。
    他の人のカードでデッキを組んであげたり、アドバイスする仕事。
    こう見えても、俺もプロデュエリストなんだよ? 八ツ星の。」


   『!?』


福助、刃咲、クロックにそれぞれ理由は異なるが、衝撃が走った。
5以上の星でプロ扱いされる現行のルールにおいて八ツ星は事実上の最高位とされており、人数も極端に少ない。
それが…そんな人間が…。


   「あぁー…仕事選べよ、お前。」


   「勝負してください!」


   「強ぇのに“ゼーア・シュバルツ”とか名乗ってんのかっ!?
    それ、和訳すると“とても黒”とかいう意味で、震えるくらいダサいぞ!?」


ほぼ同時にでた言葉は言うまでもないが、最初がクロック、2番目が福助、最後が刃咲だ。


   「…保護者さんは余計なお世話です、結構楽しいものですから。
    キミ…えーっと…倉塔福助くん、勝負はこれからミニゲームをしよう。」


出した参加表明の書類で、2人の名前を確認するゼーア・シュバルツ。


   「刃咲蕎祐くん、和訳してくれるなら、“素晴らしき純黒”と呼んで欲しいものだね。
    “とても黒”よりは“素晴らしき純黒”の方がサマになるだろう?」


   「自分で言うなよ、そういうの。 “素晴らしい”とか。」


   「それより勝負しましょう! 素晴らしき純黒さん!」


   「普通に呼ぶときは、ゼーア・シュバルツ、と。 それはキメるときだけ言うから。」


――面倒くせぇな、コイツ――
刃咲の率直な感想だったが、それにツッコミ入れるとさらに面倒になりそうなのでやめた。


   「ルールを説明する前に、福助くん。
    メイン・サイド・エクストラのデッキに入っている中で一番大事なカードはどれだい?」


ゼーア・シュバルツは先ほど福助自身が申請したデッキのカードリストを出した。 その中から選べという事なのだろう。
だが、そんなものは福助には必要ない。 即答できる。


   「〔精霊術師 ドリアード〕です!」


精霊術師 ドリアード 光属性 魔法使い族 レベル3 ATK1200 DEF1400
「ドリアードの祈り」により降臨、このカードの属性は「風」「水」「炎」「地」としても扱う。


   「…3枚入ってるね、なら1番大事な〔ドリアード〕を貸してくれないかい?」


   「3枚とも1番大事です!」


日本語が成立していないが、感情的には成立している。


   「…なら、今、デッキをめくっていって、1番最初に出た〔ドリアード〕を貸してくれないか?」


   「…汚さない?」


   「今着けてる革手袋、クリーニングから戻ってきたばっかりだよ。」


そう言って付けている黒い手袋を見せる。
艶があるが、光らせるための油の匂いはしないし、ゼーア・シュバルツが触った書類を見ても汚れている様子はない。


   「…じゃあ、どうぞ。 絶対汚したり、折ったりしないでくださいね?」


   「OK。 ではゲーム開始といこう。」


福助からカードを受け取りつつ、ゼーア・シュバルツは懐から数枚のカードを取り出した。


ホーリー・ナイト・ドラゴン 光属性 ドラゴン族 レベル7 ATK2500 DEF2300
聖なる炎で悪しき者を焼きはらう、神聖な力を持つドラゴン。

トライホーン・ドラゴン 闇属性 ドラゴン族 レベル8 ATK2850 DEF2350
頭に生えている3本のツノが特徴的な悪魔竜。

デビルゾア 闇属性 悪魔族 レベル7 ATK2600 DEF1900
真の力をメタル化によって発揮すると言われているモンスター。

ダイヤモンド・ドラゴン 光属性 ドラゴン族 レベル7 ATK2100 DEF2800
全身がダイヤモンドでできたドラゴン。まばゆい光で敵の目をくらませる。

ガーネシア・エレファンティス 地属性 獣戦士族 レベル7 ATK2400 DEF2000
恐るべきパワーの持ち主。
あまりの体重の重さに、歩くたびに地割れが起きてしまう。。

クレセント・ドラゴン 闇属性 ドラゴン族 レベル7 ATK2200 DEF2350
月から来たといわれている、三日月状の刀を持つドラゴン戦士。

ブラック・マジシャン 闇属性 魔法使い族 レベル7 ATK2500 DEF2100
魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。


   「…本物?」


   「財テクの一環で買ったカードたちでね。
    レアである、ってことが最大の存在意義のカードたちだ。
    この8枚の内の4枚に…。」


ゼーア・シュバルツは、〔精霊術師〕にレアカードたちと同じ青いスリーブを付けた。
続いて8枚のレアカードの中から4枚カードを抜き出し、それに〔精霊術師〕を混ぜ、シャッフル。
これで完全に福助の〔精霊術師 ドリアード〕がどこにあるのかは分からなくなった。


   「…うん、それで?」


   「さて、福助くん、君は順番にこの中からカードを選び、それを俺に渡してくれ。
    俺はそのカードと交換で、君にカイバドルを渡す。」


1カイバドル 通常貨幣
ナニワカップでのみ使用できる通貨。
最小通貨。

5カイバドル 通常貨幣
ナニワカップでのみ使用できる通貨。
1カイバドルの5倍の貨幣価値を持つ。

10カイバドル 通常貨幣
ナニワカップでのみ使用できる通貨。
1カイバドルの10倍の貨幣価値を持つ。

50カイバドル 通常貨幣
ナニワカップでのみ使用できる通貨。
1カイバドルの50倍の貨幣価値を持つ。

100カイバドル 通常貨幣
ナニワカップでのみ使用できる通貨。
1カイバドルの100倍の貨幣価値を持つ。

500カイバドル 通常貨幣
ナニワカップでのみ使用できる通貨。
1カイバドルの500倍の貨幣価値を持つ。

1000カイバドル 通常貨幣
ナニワカップでのみ使用できる通貨。
1カイバドルの1000倍の貨幣価値を持つ。


   「…なんですか? そのカード。」


   「見ての通り、大会中はこの通貨を使ってもらう。
    米ドルや日本円と同じで、多いほうが有利だ。
    福助くん、君は裏側のままカードを1枚選んでくれ。
    それが俺が持参したレアカードだったら問題なく1000カイバドルと交換、ゲーム続行。」


   「もし僕が選んだカードが〔精霊術師 ドリアード〕だったら?」


   「そこでゲーム終了。 そして…〔精霊術師 ドリアード〕は俺がいただく。」



……



はッ!?



   「何をそんなに驚くんだい?
    俺は“折り曲げたり、汚さない”とは約束したけど、“奪わない”と約束した覚えはないよ。」


   「受付けが…ンなことしていいわけねぇだろうが!」


   「ゲームの進行において賭け札を伴うゲームもありえます…大会の規約に書いてあるよ?
    君たちはそれに同意しているし、これも予選前の準備段階なわけだから、了承して欲しいんだけどな?」


   「…っち。」


ゼーア・シュバルツの云うことは正しいかどうかは別にして、刃咲は反論を諦めた。
間違いなく書いたわけだし、刃咲が非難してもそれで好転することはありえない。


   「確率は5分の1だし、2枚ぐらいなら…多分大丈夫だよ。 多分ね。
    〔精霊術師〕が出るまで、何枚選んでもいいよ? 途中で止めてもいい。」


先ほどまでの柔和な雰囲気が、福助の心情の変化をそのまま反映させ、殺伐としたものになった。
しかし、クロックだけは面白い見物、とばかりに忘れてニヤニヤと見入っている。


   「1枚も選ばずに…止めた場合は?」


   「もちろん、1000カイバドルも入手できないわけだから、予選にも参加できないね。
    怖いなら諦めても良いよ、星認定の大会はナニワカップだけじゃないからね。
    1年か半年も待てば、次もあるだろうし。」


   「…どうする、福助?」


答えは、決まっていた。


   「――やりますよ。
    諦めたらドリアードにどう詫びれば良いのか分かりませんから。」


“ドリアードを大事にして諦める”
それは聞こえは良いが、意訳すれば“挫折をカードの責任にする”ということに他ならない。
福助は、逃げるときでも、負けるときでも、勝つときでも、自分で闘うことを選ぶ。


   「OK! では開始だ! 名づけて欲望ゲーム!」


概要 このゲームは親と子の2人のプレイヤーによって進行する。
子はハズレ=自分のカードを引かずに、アタリ=相手のカードを引いていき、多くのカイバドルカードを入手していく。
準備 親は4枚の“アタリ”を用意し、子は賭け札である“ハズレ”を用意する。
進行1 4枚のアタリにハズレを混ぜ、裏側のまま場に並べる。
進行2 子は、並んだカードから裏のまま1枚を選んで表にする。
このカードは親の所有物となり、場から取り除く。
ハズレが出なかった場合、子は続けてカードを選ぶ事ができる。
進行3 子がハズレを引くか、進行2を諦めた場合、ゲーム終了。


ルールはシンプル。 ただカードをめくるだけ。
ビッ、っと5枚を並べるゼーアシュバルツ。


   「さあ、選んでいいよ。」


提示される5枚のカード。
確率は5分の1…詳しくは遊☆戯☆王コミック16巻を参照。


   「…一番、左。」


   「ああ、めくるのは君だよ。 私が触っては不正を疑うだろう?
    それに『一番左というのは私から見て左なのか君から見てなのか』とか無駄に言葉の迷路に迷う。」


   「あぁー…そりゃそうだ。 良かったな福助。 ダメ大人じゃないイイ大人だぞ。」


楽しそうに云うクロック。 イカサマの第一人者みたいなお前が何を言う。


   「…めくります。」



福助から見て一番左のカードの正体は…。


エビルナイト・ドラゴン 闇属性 ドラゴン族 レベル7 ATK2350 DEF2400
邪悪な騎士の心に宿るドラゴンが実体化したもの。


   「…やったっ!」


   「グッジョブ。 君の勘に敬意を表して…〔1000カイバドル〕を君に。」


1000カイバドル 通常貨幣
ナニワカップでのみ使用できる通貨。
1カイバドルの1000倍の貨幣価値を持つ。


   「さっきも言ったけど、予選に参加するには〔1000カイバドル〕が1枚必用だからね。
    これで君は予選参加できるようになったけど…どうする? もう一枚、行く?」


これで福助がスタートラインに立てることは決定した。
しかし、ここで重要なのが続けるか否かで、実際の予選が始まったあとのカイバドルの用途。
“あれば便利”程度なのか、“なければ勝てない”というほど大事なものなのか。
その境界を見切る必用があった。


   「…。」


   「どうすの? 行く? 止める?」


   「…やり…ます。」


   「福助ッ!?」


刃咲の認識では、福助はやめると思っていた。
参加できれば、あとは本戦で苦労するのかと思った。


   「…後悔したくは無いんです。」


   「バカか! これで〔ドリアード〕盗られても後悔するだろーが!」


   「だから、必ず当てる。 ドリアード以外のカードを。」


言い出したらやめねーよな、コイツは…それは刃咲にとっては当然の認識だ。


   「…ヤッて後悔しろ。 バカ。」


   「うん!」


   「念のために云っておくけど、仮に〔ドリアード〕を失っても大会には参加できるよ。
    福助くんのデッキは40枚ジャストだけど、サイドデッキを15枚登録してるからね。
    その中の1枚を〔ドリアード〕の代わりに入れれば良い。 この大会はサイドデッキの枚数を限定して無いから。」


ゆえに、結果はどちらでも参加はできる。
プロデュエリストは目差せる。 だがそれは失敗しても良い理由にはならない。


   「一番、右をめくらせてもらいます。」


   「ん? いいの? さっきは一番左で…次は一番右とか、そんな安直で。」


   「一番右です。」


   「…じゃあ、云うけどさ?
    実は俺、シャッフルしたけど、あのときに順番を自分で選んで置いてたんだよ。
    ちょっとした手品で、順番を選んで…君が選びそうなところに…君の〔ドリアード〕を置いた。」


   「あぁー…オイオイ、そういうの云っっていいのか? お前。」


最初にリアクションしたのは、イカサマのプロフェッショナル、クロックだった。
カードの順番操作といえば、ペテンの第一歩、基本のキ…クロックが見逃す道理はない。


   「てめー、気付いてたのかよ?」


軽蔑というほどではないが、決して好意的ではない視線を刃咲に投げかけられ、クロックは弁明を考えた。


   「あぁー…なんなら教えてやろうか? 〔ドリアード〕の場所。」


   「結構です! 自分でやります!」


   「…あぁー、な? コイツはこう云うわけだから…。
    俺が“芸”に気付いてようが気付いてなかろうが、どっちでも変わらないだろ? なあ?」


ニヤニヤとしつつ、クロックはゼーア・ジュバルツに同意を求めた。


   「…そのようですね。
    一応云っておきますけど、保護者さんの助言を借りてもルール違反にはしませんよ。
    コネクションも運や実力と同じで実力の内…っていう方針で運営してますからね。 今回は。」


   「一番右、めくってもいいですか?」


散々云っても、福助は意見は最初の通り、一番右。
曲げる気はない。


   「…ああ、OK。 どうぞ。」


デビルゾア 闇属性 悪魔族 レベル7 ATK2600 DEF1900
真の力をメタル化によって発揮すると言われているモンスター。


   「ナイス。 2枚目だからこれで福助くんのカイバドルは2000カイバドルになった。
    …で、次は…」


   「3枚目も選びます。 最後は真ん中です。」


やめるか続けるか、をシュバルツガイストが尋ねたときには、既に福助は決めていた。


   「いや、駆引きしようよ。 俺の表情とか様子を見て、カードを推測したりさ。」


   「僕は刃咲くんみたいに頭が良くないので、難しくなると判らなくなります。
    だから、できるだけ簡単なうちに決めます。 真ん中です。
    そして、4枚目はめくりません。 3枚めくったらやめます。」


   「O・K。 めくって。」


福助の覚悟がふらつくことはない。 ゼーア・シュバルツは弁えていた。
めくったカードは…。


デビルゾア 闇属性 悪魔族 レベル7 ATK2600 DEF1900
真の力をメタル化によって発揮すると言われているモンスター。


   「おめでとう。 これで福助くんは3000カイバドル。
    予選参加費の1000カイバドルを支払っても、2000カイバドルを持って参加できるよ。
    で、4枚目はめくらないんだよね?」


   「はい!」


それなら、とゼーア・シュバルツは残る2枚の福助から見て右側、初期状態では右から2枚目のカードを手に取った。
そしてカードスリーブから抜き取り、福助に渡した。

精霊術師 ドリアード 光属性 魔法使い族 レベル3 ATK1200 DEF1400
「ドリアードの祈り」により降臨、このカードの属性は「風」「水」「炎」「地」としても扱う。


   「ありがとうございました!」


1000カイバドル 通常貨幣
ナニワカップでのみ使用できる通貨。
1カイバドルの1000倍の貨幣価値を持つ。

1000カイバドル 通常貨幣
ナニワカップでのみ使用できる通貨。
1カイバドルの1000倍の貨幣価値を持つ。

1000カイバドル 通常貨幣
ナニワカップでのみ使用できる通貨。
1カイバドルの1000倍の貨幣価値を持つ。


   「ちなみに、理由を聞いても良いかい? 4枚目をめくらない理由。」


   「良いですけど…うーん…えーっと…どう云ったら良いんだろう。」


先ほどの決断力とは程遠く、福助は言葉を選んだ。
行動は早いが、その言語化という点では年齢相応、といったところか。


   「僕、運は良いから半分よりちょっとスゴイ、ぐらいならできると思いました。
    ほら、5枚の半分って3枚か2枚じゃないですか? だから半分よりちょっとすごい3枚は行けるかな、って。」


よくわからない理論だったが、そこまで深い理屈を彼に求めても仕方ないだろう。


   「一応云っておくけど、カイバドルは紛失しても再発行はしない。
    予選が開始したら警備はするが、それまでは自己責任で管理してくれ。
    その間、参加者同士でそのカードをトレードしたり、取引するのは自由。」


   「規約に書いてあったからな。 覚えてる。
    で、次は俺、刃咲蕎祐とゲームしてくれるんだよな? ゼーア・シュバルツ。」


   「もちろん。 ゲームは引き続き…欲望ゲーム。
    別のゲームの方がいいなら変えるけど? レクリエーションのネタいくらでもあるからね。」


   「いいや、欲望で良い。
    俺の一番大事なカードは〔ネオバグ〕だ。 これを入れてゲームしろ。」


ネオバグ 地属性 昆虫族 レベル4 ATK1800 DEF1700
異星から来たと言われる巨大な昆虫タイプのモンスター。
集団で行動してターゲットをとらえる。


別に弱いカードではないが、かといって特徴のあるわけでもないノーマルカードだ。
なんというか、“奪われる可能性があるから奪われても困らないカードを挙げた”という気配がプンプンする。


   「へえ! 刃咲くんの大事なカードって〔ネオバグ〕だったんだ! 僕、知らなかった!」


福助の屈託のない感想に、刃咲は顔を背けてばつが悪そうにしているあたり…。
まあ、そういうことなんだろう。


   「…実用性なら〔精霊術師 ドリアード〕と大差ないカードだけどね。
    さすがに他の参加者に不公平だからね キミのアンティは…〔アルティメット・インセクト LV9〕だね。」


アルティメット・インセクト LV9 風属性 昆虫族 レベル9 ATK3400 DEF2100
「アルティメット・インセクト LV7」+「表側表示で自分フィールドに存在している魔法カード」
アルティメット・インセクト LV7が戦闘でモンスターを破壊した時、上記の融合素材をゲームから除外する事でのみ特殊召喚できる。
(融合の魔法カードは必要とせず、アルティメット・インセクトLV7が召喚・反転召喚・特殊召喚されたターンや他の方法では召喚できない。)
またこのカードは魔法カードの効果を受けず、相手フィールド上の全てのモンスターの攻撃力は半分として計算される。(オリカ)


   「…それで良いわ。 なんつーか…良心が痛むわ。」


素直にカードを出し、ゼーアも苦笑しながら先ほどと同じようにスリーブに入れ、レアカード4枚の中に混ぜた。


   「さあどうぞ。 5枚の中からハズレを引かないようにしてくれ。」


   「その前に確認するが…ゼーア・シュバルツ。
    カードは何枚選んでもいいし、1枚に付き1000カイバドルを入手できるんだよな?」


   「そうだよ。」


   「配置はランダム…と見せかけて、実はお前がイカサマを使って配置を操作した。
    …だったよな?」


   「ああ、そうだ。」


   「俺の〔アルイン LV9〕以外のレアカードはお前の私物で…8枚出したよな?」


   「出したね。」


刃咲の問いにゼーア自身は表情も変えずに解答しているが、後ろのクロックが笑い出した。
先ほどの見物気分の快笑ではなく、失態したあとの苦笑い、そんな感じだ。


   「最後に質問…っつーか、確認だが。
    さっき出したレアカードは他の参加者から奪ったカードじゃなく、自分で財テクで買ったんだよな?」


   「そうだよ。」


それは先ほどゼーア自身が云っていたことだが、刃咲は納得したように頷いている。
そして、刃咲は自分から見て右端のカードに手を掛けた。


   「1枚目、めくるぜ。」


クレセント・ドラゴン 闇属性 ドラゴン族 レベル7 ATK2200 DEF2350
月から来たといわれている、三日月状の刀を持つドラゴン戦士。


   「おめでとう。 刃咲蕎祐くん。
    これで1000カイバドルゲット、これで予選への参加が…」


ゼーアの言葉に反応せず、既に刃咲は次のカードに手を伸ばしている。
次のカードはさっきめくったカードの左隣。 初期配置でいえば右から2番目、左から4番目のカード。


ダイヤモンド・ドラゴン 光属性 ドラゴン族 レベル7 ATK2100 DEF2800
全身がダイヤモンドでできたドラゴン。まばゆい光で敵の目をくらませる。


   「やるね。 でも次は」


やはりゼーアには気も留めず、刃咲は次のカードを開いた。
次のは初期配置で真ん中だったカード、〔ダイヤモンド・ドラゴン〕の左隣だ。


トライホーン・ドラゴン 闇属性 ドラゴン族 レベル8 ATK2850 DEF2350
頭に生えている3本のツノが特徴的な悪魔竜。


   「ちょっとは迷ってくれないかな、なにせ…。」


   「あとの2枚とも開く。 面倒になってきた。」


刃咲はそういって2枚のカードに両手を添えた。
それはつまり、“5枚全てのカードを開く”という意味である。


   「え、ちょ、刃咲くん!?」


   「はい、オープン。」


デビルゾア 闇属性 悪魔族 レベル7 ATK2600 DEF1900
真の力をメタル化によって発揮すると言われているモンスター。

ガーネシア・エレファンティス 地属性 獣戦士族 レベル7 ATK2400 DEF2000
恐るべきパワーの持ち主。
あまりの体重の重さに、歩くたびに地割れが起きてしまう。。



5枚全てのカードが開き終わり、福助はその異常事態に気が付いた。



めくられたカード

デビルゾア 闇属性 悪魔族 レベル7 ATK2600 DEF1900
真の力をメタル化によって発揮すると言われているモンスター。

トライホーン・ドラゴン 闇属性 ドラゴン族 レベル8 ATK2850 DEF2350
頭に生えている3本のツノが特徴的な悪魔竜。

ダイヤモンド・ドラゴン 光属性 ドラゴン族 レベル7 ATK2100 DEF2800
全身がダイヤモンドでできたドラゴン。まばゆい光で敵の目をくらませる。

クレセント・ドラゴン 闇属性 ドラゴン族 レベル7 ATK2200 DEF2350
月から来たといわれている、三日月状の刀を持つドラゴン戦士。


   「〔アルティメット・インセクト LV9〕が…ない…ッ!?」


   「あぁーあ。」


刃咲は余裕であり、クロックとゼーアは“バレてるよ”という具合。
状況が把握しきれていないのは福助だけ…つまり、そういうことなのだ。


   「判りやすく云えばな、福助。
    このゼーア・シュバルツってオッサンは、最初ッからカードを奪う気なんかねえんだよ。
    イカサマもカードの位置を変えるんじゃなく、俺たちから借りたカードを隠してただけだ。」


   「…その先も聞かせてもらってもいいかな? 名探偵刃咲蕎祐くん。
    俺がどんな失敗をしたか、聞かせてくれ。」


   「致命的なミスをしたのはあんたじゃない。
    俺たちの後ろの…このダメ大人だ。」


   「あぁー、俺?」


云われて寝耳に水、といった様子のクロック。
まだ自分の犯した失敗に気が付いていない。


   「まずな、このダメ大人ことクロックは、完璧にダメ大人だ。
    やたらに人が良いし、利用しやすくて一番騙しやすいタイプ。
    そのお人好しのクロックが、大事なカードを失いそうな福助を見てニヤニヤ笑ってたんだ。
    …有り得ねぇよ。 99%無い。 こいつは他人の不幸がハバネロ味に感じるようなヤツだからな。」


   「あぁー…褒めてんのか? バカにしてんのか? どっちだそれ。」


   「それで変だと思ってみたら、どんどん変なところが出てくる。
    今は俺たちしかいないから良いが、参加希望者が殺到してた時期もあったんだろ?
    こんな悠長なゲームをしてたんじゃ、何日かかっても終らねーよ。」


クロックを無視し、刃咲は推理…といか、新人小説家を叩く熟練編集者のように粗を探す。


   「このゲームをやるのに必要なカードは4枚なのに、なぜか8枚も提示した。
    カード操作をして心理戦だと無意味に匂わせてみたり…他にもいくつかあるが、不自然すぎる。」


   「正解。
    …そういう疑問に気が付くかどうかを試してたからね。
    まあ、気が付いても5枚とも全部めくる、なんていうことを迷わずできるのは賞賛させてもらうよ。」


そしてめくられた〔ダイヤモンド・ドラゴン〕の入っているスリーブに手を突っ込むゼーア。
その中から出てきたのは、刃咲の〔アルティメット・インセクト LV9〕。


   「うあ、セコ…そんなタネだったのかよ。」


とどのつまり、ゼーア・シュバルツのやっていたイカサマ、というのも大した物ではない。
ただ単に既にカードが入っているスリーブに相手から借りたカードを入れて、別のカードに見せただけ。
相手がそのカードをめくっても、1枚目に入っている〔ダイヤモンド・ドラゴン〕にしか見えず、引いたように見えない。


   「そんなに凄い“手品”が使えても、こんな人が多いところじゃ使わないよ。
    それじゃ…明日、大会で会おう。
    俺は大会の運営側だけど、大会を勝ち抜けば俺とデュエルすることもあるから。」


   「そのときはもうちょっとマシな芸を見せろよ?
    …ところでよぉ、ゼーア。 お前の家、一戸建てか?」


   「いや、マンション…だけど、何?」


   「そのマンション、バス・トイレは別か?」


   「別だけど、だから、何?」


刃咲の謎の質問に、会話をしながらもゼーア・シュバルツは置いてきぼりだった。


   「その便所、汲み取りか? 水洗…っつーか、マンションで汲み取り式はねぇな。
    ペットは禁止か?」


   「どうだったかな…確か禁止…だったはずだな。」


   「子供は? 禁止?」


   「隣のディアブニッセデブルブンデーって外人さんが家族連れで住んでるから、子供は良いはずだけど。」


   「じゃあ、今日、俺と福助を泊められるな。 助かった。」


ゼーア・シュバルツ、ポーカーフェイスが崩れる。


   「え、いや、え?」


   「ほら、福助からも礼を云え。 泊めてくれるってよ。」


   「よくわからないけど…ゼーア・シュバルツさん、ありがとうございます!」


そのとき、ゼーア・シュバルツは刃咲の心のささやきを聞いた気がした。
『必殺! 福助スマイル!』…なんというか、刃咲にはできないが、福助は自然体としてやっている何か、だった。
断れる大きな口実もなく、この笑顔を踏みにじることは、子供に好かれるべ仇名を決めた…。
“ゼーア・シュバルツ”とか名乗っている彼には…不可能だった。


   「…ああ、泊まってくれ。」


ゼーア・シュバルツは完全に諦め、福助と刃咲の宿泊先が決まった。
例によってクロックは含まれていない。


   「あぁー…それじゃあ、俺は今日の宿を探すからよ。
    …ゼーア・シュバルツ、俺の連絡先、これな。
    ここに掛けて、“クロックってヤツに繋げ”って云えば、俺に伝令行くから。」


云いつつ大会申し込み用紙のウラに電話番号を書き込み、クロックは街中に消えた。


   「…あれ、この番号…どっかで…。」


深くは考えていなかったが、その番号に刃咲が覚えがあった。
それはホーティックがカードに書いて渡した番号と同じく、正念党の支部に繋がる電話番号だった。
刃咲はクロックとホーティックが同じ組織の人間だとは知らず、深くも考えなかった。


   「明日…か。」


決闘者の野心を乗せて、全ては明日。 ナニワカップからだ。






















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