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遊義皇第16話(完全版)

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第一条 バイクの停止はそのままサレンダーとなる。
第二条 チェックポイントを先に通過したプレイヤーは、5秒以内に対戦相手がチェックポイントを通過できない場合、カードを1枚ドローする。
このドローはドローフェイズのドローと同じく、効果とは扱われない。
第三条 ゴールまで行っても決着が着かない場合、ライフポイントの多いプレイヤーの勝利。
第四条 ロールウィッツのライフが減った場合、その数値に応じて〔闇〕のビジョンが適応される。
ライフが50ポイント減少するごとに1%ずつ〔闇〕が増し、50ポイント回復するたびに1パーセント薄れる。


ロールウィッツ・ウェンディエゴ
  • LP:3200
  • 手札:5
  • モンスター:闇よりいでし絶望、ノーブル・ド・ノワール、デス・ラクーダ(裏守備)
  • 魔法・罠:群雄割拠

刃咲
  • LP:6000
  • 手札:3
  • モンスター:なし
  • 魔法・罠:伏せカード



闇より出でし絶望 闇属性 アンデット族 レベル8 ATK2800 DEF3000
このカードが相手のカードの効果によって手札またはデッキから墓地に送られた時、
このカードをフィールド上に特殊召喚する。

ノーブル・ド・ノワール 闇属性 アンデット族 レベル5 ATK2000 DEF1400
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手モンスターの攻撃対象はこのカードのコントローラーが選択する。

デス・ラクーダ 地属性 アンデット族 レベル3 ATK500 DEF600
このカードは1ターンに1度だけ裏側守備表示にする事ができる。
このカードが反転召喚に成功した時、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

群雄割拠 永続罠
お互いのプレイヤーはそれぞれ種族が1種類になるように、フィールド上の自分モンスターを墓地へ送る。
このカードがフィールド上で存在する限り、お互いに自分のフィールド上に出せるモンスターの種族はそれぞれ1種類だけになる。


クロックの運転するトライクバイクの上で、刃咲は思いを込めてカードを引いた。


   「ドロー(手札4)…っち、このカードじゃねぇ…! ターン終了!(手札4・伏せ1)」


   「ハッハぁッ! 引きが悪いなぁっ!?  ドロー!(手札6)
    このウェンディエゴ様は引きも最高だが…さらに2倍引かせてもらうぜ!
   〔デス・ラクーダ〕を反転召喚ッ!」


デス・ラクーダ 地属性 アンデット族 レベル3 ATK500 DEF600
このカードは1ターンに1度だけ裏側守備表示にする事ができる。
このカードが反転召喚に成功した時、自分のデッキからカードを1枚ドローする。


   「くッ!?」


ロールウィッツ:手札6→手札7


   「効果を使用して〔ラクーダ〕を守備表示に戻すッ
    伏せカードを追加して…ターンエンドだ、さあ引きなぁっ! (手札6・発動中1・伏せ1)…ッ!」


いよいよもってマズイ。
1ターン伸びるたびにどんどん手札の枚数に差が付いていく。
このカードゲームでは、手札1枚の差は時に戦力の絶対的な差ともなりうる。


   「ドロー!(手札5)
    …う、微妙…ッ!?」


   「なにもできないなら終われぇっ!」


   「しないわけねーだろ! 〔強制転移〕発動ォッ!」


強制転移 通常魔法
お互いが自分フィールド上モンスターを1体ずつ選択し、そのモンスターのコントロールを入れ替える。
選択されたモンスターは、このターン表示形式の変更はできない。(オリカ)


   「俺は〔ヴァンパイア・ロード〕を指定する。」


   「〔デス・ラクーダ〕。」


〔デス・ラクーダ〕(伏せ):ロールウィッツのフィールド→刃咲のフィールド
〔ヴァンパイア・ロード〕:刃咲のフィールド→ロールウィッツのフィールド


   【また出たぜ! 先ほども使ったハサキの切り札カードッ!
    だが…ロックの打開カードとして見れば二流も二流、むしろピンチだぜッ!?】


   【いえ、刃咲くんのデッキにロックを崩せるのは他にも有りますけど…。
    刃咲くんのデッキはどちらかといえば長期戦タイプです、手札差がこれ以上広がると対応できなくなります。
    ここは…仕方ないと思います。】


自分と同じぐらい自分のデッキを知る福助の解説に、状況を再認識させられつつ、刃咲は揺らがずカードを使う。


   「これで俺のフィールドに表側表示のモンスターはなくなった。
    よって、〔群雄割拠〕は無効…来い、〔神斬虫〕ッ!」


神斬り虫かみきりむし 風属性 昆虫族 レベル4 ATK1500 DEF1000
このカードがレベル5以上のモンスターと戦闘を行う場合、ダメージ計算を行わずそのモンスターをゲームから除外する。
また、このカードがレベル4以下のモンスターと戦闘を行った場合、相手プレイヤーはカードを1枚ドローする。


現れたのは、節足にそれぞれ日本刀を携え、頭には日の丸ハチマキ。
紋付き袴を着た、いかにも武士という姿のカミキリムシ…刃咲が温存していた切り札だ。


   「バトルフェイズ、〔神斬虫〕で攻撃…対象は〔闇よりいでし絶望〕ッ!」


   「〔ノーブル・ド・ノワール〕の効果適応。
    攻撃対象を〔ノーブル〕に差し替える、オラ、盾になれや。」


血色の悪い中年親父は、文句も言わず、虫の前に立ちはだかる。
それも当然想定の範囲、刃咲は慌ても騒ぎもしない。


   「真斬、居合い一閃ッ!」


〔ノーブル・ド・ノワール〕:ゲームから除外


   「ターンエンド。(手札3・伏せ1)」


逆転ではない。
ロックをただ崩しただけで、未だに刃咲のほうが不利だ。





第16話 バカが行く。





   「…ふっふゥン…ドロー…。(手札7)
    そっちの場には〔デス・ラクーダ〕と〔神斬虫〕、伏せカードが1枚だけだよなァッ?」


見れば分かるだろう、といわんばかりに答えはしない


   「ならこれで決まりだァ、伏せカードオープン! 〔大寒波〕ァッ!
    ウザってぇ伏せカードをフリーズだぁっ!」


大寒波 通常魔法
メインフェイズ1の開始時に発動する事ができる。
次の自分のドローフェイズ時まで、お互いに魔法・罠カードの効果の使用及び発動・セットはできない。


   「させるかぁっ! 〔針の虫路〕ッ!」


はり  虫路むしろ 速攻魔法
自分の墓地に昆虫族モンスターが存在しなければ、このカードは発動できない。
フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターを守備表示に変更する。
発動ターン、昆虫族以外のモンスターは表示形式の変更ができない。


発動と同時にアスファルトに大量の針虫が出現し、路上を埋め尽くす。
刺されて破壊されることは無いが、ロールウィッツのモンスターたちは針に備えて防御態勢を取った。


〔ヴァンパイア・ロード〕:攻撃表示→守備表示
〔闇より出でし絶望〕:守備表示→守備表示


   「ロールウィッツ! これであんたのモンスターは動けない!」


   「関係ないな…〔ヴァンパイア・ロード〕を除外し、来い…ッ!」


〔ヴァンパイア・ロード〕:ゲームから除外


   【来る! 来るぜ!】


   【えーっと、え、何ですか?】


   【ロールウィッツの切り札だぜ、福助くん!】
【こw れw わw】
         【キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!】
                       【ジェネ様ktkr】
                              【さあ、皆で叫ぼう!!!!】



















         ヴァンパイア・ジェネシスゥウウッ!





ヴァンパイアジェネシス 闇属性 アンデット族 レベル8 ATK3000 DEF2100
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在する「ヴァンパイア・ロード」1体をゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。
1ターンに1度、手札からアンデット族モンスター1体を墓地に捨てる事で、
捨てたアンデット族モンスターよりレベルの低いアンデット族モンスター1体を自分の墓地から選択して特殊召喚する。


紫の皮膚は腐臭を放ちつつも脈打ち、生物であり死者でもある。
2足歩行のケダモノ、それがこのモンスターだ。


   「〔スカル・フレイム〕を捨てて、〔ジェネシス〕の効果発動、セメタリー・クラッシャァアアアッ!」


ロールウィッツから投げ渡された死体を口から胃袋に収めると同時に、地面に手を突き刺すジェネシス。
立体映像だと忘れ、アスファルトが剥げたかと誰もが思った。
引き抜いた手の先には、さっきの物とは腐ったオバケカボチャがぶら下がっていた。


   「テメェが眠るにゃは速い! 起きてバカ騒げッ! 〔ジャック王〕!」


ジャック王 ランターン・パンプキング 闇属性 アンデット族 レベル7 ATK1900 DEF2000
このカードはデッキから特殊召喚できない。
自分のフィールド上に「ゾンビ」という名のついたモンスターカードが存在する場合、
このカードを手札から特殊召喚することができる。
自分のエンドフェイズ毎に墓地からモンスター1体を選択してゲームから除外しなければ、このカードを破壊する。
除外したモンスターがアンデット族だった場合、このカードの攻撃力は除外したモンスターの攻撃力分アップする。
除外したモンスターがアンデット族以外だった場合、自分フィールド上に「ゾンビトークン」(アンデット族・闇・星?・攻?/守0)を1体特殊召喚する。
このトークンのレベル・攻撃力は、除外したモンスターと同じ数値になる。


   「また新しい上級モンスターかよ!?」


   「小振りなこいつも参加ァッ! 
    〔ゾンビ・マスター〕を召喚、優先権を行使して効果を発動。
    〔ゴブリンゾンビ〕を墓地に送って〔ドラゴンゾンビ〕を蘇生…覚悟はしたよなぁァッ!?」


ゾンビ・マスター 闇属性 アンデット族 レベル4 ATK1800 DEF0
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、手札のモンスターカード1枚を墓地に送る事で、
自分または相手の墓地に存在するレベル4以下のアンデット族モンスター1体を特殊召喚する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。


ドラゴンゾンビ 闇属性 アンデット族 レベル3 ATK1600 DEF0
魔力により蘇ったドラゴン。はく息は触れるものを腐食させる。


   「…してなくても来るんだろ?」


〔闇〕で顔は見えないが、すごく良い笑顔をしているのが予想できた。


ロールウィッツのフィールド
〔闇より出でし絶望〕
〔ヴァンパイア・ジェネシス〕
〔ゾンビ・マスター〕
〔ドラゴン・ゾンビ〕
〔ジャック王 ランターン・パンプキング〕


   「アイドゥーッ! バトルフェイズ、総攻撃ッ!」


死体が、屍肉が、腐敗が。
純粋にただ破壊だけを目的にエネルギーと拳を意思もなく連打する。


〔ゾンビ・マスター〕(攻撃力1800)VS(攻撃力1500)〔神斬虫〕→〔神斬虫〕、破壊・墓地へ。
刃咲:LP6000→LP5700

〔ドラゴン・ゾンビ〕(攻撃力1600)VS(守備力600)〔デス・ラクーダ〕→〔デス・ラクーダ〕、破壊・墓地へ。 


ロールウィッツ:手札3→手札4(神斬虫の効果)

刃咲:LP5700→LP2200→LP300


   「さらに! チェックポイント通過に10秒差が付いた! 追加で1枚ドロー!
    エンド時に〔ジャック王〕に〔ノーブル〕の死体を食わせ…終了ッ!(手札5・伏せ0) 」


〔ジャック王 ランターン・パンプキング〕:攻撃力1900→攻撃力3900


   「あぁー…ヤベェようなら止めるぜ? イケるか、蕎祐? 」


   「問題ねー。 むしろ勝機ってヤツが見えた。
    ドロー(手札4)…俺は〔ネオバグ〕を召喚!」


ネオバグ 地属性 昆虫族 レベル4 ATK1800 DEF1700
異星から来たと言われる巨大な昆虫タイプのモンスター。
集団で行動してターゲットをとらえる。



   「…あ?」


   「バトルフェイズ! 〔ドラゴンゾンビ〕に攻撃!」


〔ネオバグ〕(攻撃力1800)VS(攻撃力1600)〔ドラゴンゾンビ〕→〔ドラゴンゾンビ〕、破壊・墓地へ。 
ロールウィッツ:LP3200→LP3000


   「確か…50ライフポイントごとに1%、〔闇〕が増すんだったよな…?」


ロールウィッツ:〔闇〕100%


〔闇〕の発生と同時にアクセルを緩めたらしく、ロールウィッツの機体のスピードが激減した。


   【その手が有ったカァアアアアッ!】


   【うん、さすが刃咲くん!】
【セコッ!】
     【これって決着どうなんの?】
                 【ロールウィッツのサレンダーじゃね】
                                  【なんだその万馬券】

   「謝りはしないぜ? そういう勝負を挑んだのはお前だ。」


   「…あ? このウェンディエゴ様がサレンダーするわけねーだろ?」





……。






            え?







減速はしているが、確かに止まっていない。
言いつつ、カーブを曲がるロールウィッツ。
このカーブは〔闇〕が発生する前から見えていたので、空間認識能力が高ければ可能。


   「だが…次のカーブは見えてねぇっ!
    右か左か、浅いカーブか深いカーブかすら分からない、死ぬ気かッ!?」


   「勝つ気に決まってんだろ、バッカじゃねぇの。」


   【なに考えてるんだぁァアアア! ウィィッツゥウウ~~~ーーッ!!
    サレンダーしろぉおおお! マシン止めろォオオオ!】


実況が我とキャラを忘れて叫ぶエビル大滝。
そうこうしている間に、減速したロールウィッツをクロックと刃咲の乗ったトライクバイクが追い抜いた。


   「…テメェのターンは、あと1分44秒…ッ!」


交差する瞬間、ロールウィッツの肉声とスピーカーからの放送音声がデュアルサウンドで刃咲の耳に届いた。
1ターンの思考時間3分が過ぎれば、即座にロールウィッツのターン。


   【サレンダー扱いにならないギリギリのスピードで、刃咲くんのターンを凌ぐ気なのかッ!?】


   【当り前です!】


パニくったエビル大滝の言葉を福助が肯定する。 エビルに比べればかなり落ち着いてる。
〔大寒波〕によって魔法・罠のプレイを封じられた今、ターンが移れば刃咲のライフは即座に奪われる。
確かに勝ち目はある…命懸けの疾走の先、見えてくるものとして。


   「まだ時速35キロ以上…ッ!
    低速だが、それでも1分間に500メートル以上は走るんだぞッ!?」


   「1分23秒…。」
【ス プ ラ ッ タ 希 望 !】
              【やらせだべ?】
                 【↑そう思うなら見んなカス】
                         【ウィッツならやると思った。】
                                     【言ってるそばからカーブ着たぞ】

   「カーブのタイミングは…コメントに出るな。」


モニターを頼りに曲がる…それは不可能である。
放送されているアングルは、多くない定点カメラと疾走する2台のマシンの視点カメラしかない。
既にロールウィッツ側のカメラは真っ暗だし、クロックたちとはマシン同士の距離すら分からないので参考にしかならない。
また、コメントもこの放送を視聴者に配信、さらに視聴者がコメントを書いているので、タイムラグが大きすぎる。


   「あぁー…ツイてねぇなウィッツ、カーブが深ェ。」


錆びたオンボロのガードレールしかない右反りの大カーブ。
見えていたとしても事故が多発しているらしく、献花がいくつか見える。


   「ま…俺は曲がれるけどなぁ。 あぁーらよっと。」


あっさりと曲がるクロック。
曲がってしまえば、後続のバイクなんて見えなくなるほど深いカーブだった。


   「あと55秒…!」


言いつつ、カーブの体勢を整えるロールウィッツ。
クロックのバイクが曲がった映像は確認した。 右カーブだ。
ハンドルを捻り、アクセルを緩めるどころか微加速…タイミングはズレている。


   「がぁーっしゃああああ! 曲がってやるぜャぁーッ!」


テンションが上がる。 興奮する。
スパークする、火花が散る…そして、〔闇〕が消えた。


   「…なんだァ?」


夜が明けるようにではない。
爆発するように突然だ。 突然〔闇〕は消え去り、普段の状態に戻った。
減速していたこともあり、不完全な角度でもロールウィッツは右カーブを曲がりきった。


    【…っけ、決着…!
     勝者はロールウィッツ、決着方法はサレンダー…配当は各自確認してくれ…!」
【根性ねーww】
      【良識のあるコンビ、ハサジュフ】
                  【当たるか】
   【やっちゃったよコイツら】      【空気嫁カス】
                          【俺のアンティがあああッ!】

   「あぁー…これでよかったのか? 蕎祐?」


無責任だが感心だけはある視聴者や、クロックの言葉に応えるほどの余裕は、刃咲には無かった。


   「ハァー…はぁー…ゼッ……ア、ガはっ!」


バイクに酔ったわけではない。 勝負に酔った。 命のやりとりに酔った。
刃咲は、今朝食べた未消化の山菜ご飯を滝のように路上にブチ撒けていた。
ロールウィッツのハーレーダビットソンダイナのダイアナが、怒りのアイドリング音を上げて停車する。


   「バッカモノがあああッッ!
    エンターティメントをわかってねぇガキがぁッ!」


礼を言われるとは思ってなかったし、言われたいと思って止めたわけじゃない。
それでもこの態度は心外だった。


   「…悪いとは思うが、謝りはしねぇ。
    完全な目隠し状態でアレ以上運転してたら、お前は死んでたんだからな。」


ハンカチで口を拭いつつ言ったその言葉に、クロックとロールウィッツは、ぎょっとしていた。


   「…あぁー、完全な目隠し…って…気付いてなかったのか。 蕎祐。」


   「シロウトを呼んだのが間違い…ってことかぁっ!」


そこでやっと実況車が追いつき、マイクを持ったエビルと福助が降りてきた。


   「刃咲くん、クロックさん! お疲れサマ!」


   「ヤー! ロールウィッツ! 心配させんな! 勝者インタビューだ、受けろ!」


   「このウェンディエゴ様にはやることがある! 走りながらやるぞ!」


ロールウィッツは、再びバイクに跨り走っていた道を引き返す。
エビル大滝とカメラマンは嬉しそうに追いかけていき…残ったのは、福助・クロック・刃咲の身内衆。


   「大丈夫? 刃咲くん?」


状況を察してか、心配そうに問う福助。


   「キツかったが…大丈夫だ。」


   「うん、元気なら良いんだっ!
    …ねぇ、元気だったならどうして降参しちゃったの? 面白かったのに。」


   「面白かったって…そうだ、クロック、さっき何か言い掛けてなかったか?
    気付いてたとか、気づいてないとか。」


   「あぁー…なんつったらいいかなー…さっきのデュエルな?
    リスクはあるが…あぁー…〔闇〕を消して前方を見る方法があっただろ?」


知ってて当前とばかりの調子のクロック、ウソや冗談というわけでもなさそうだ。


   「…マジか?」


   「どっからどう…あぁー、ソリッドビジョンで〔闇〕を作ると、フツーの闇と違って『黒い光』を発生させるわけだ。
    だが、その黒い光の中でもカードやモニターは見える…のは知ってるよな?」


   「ああ。 そこだけ、光が発生しないようにして…あ。」


順序の悪いクロックの説明でも、刃咲の推測は結果に到達した。
カードとプレイヤーの視線との間に闇があっては、当然カードを見ることができない。
それを避けるためにデュエルディスクは、自動でカードとプレイヤー間の〔闇〕に視認用のトンネルのような穴を開ける。


   「…カード手裏剣、か。」


   「あぁー、正解。」


ロールウィッツは確かにカード手裏剣をしていたし、その腕は悪くなかったように見えた。
一回曲がりきるごとに正面にカードを投げ、1秒あるかないかのトンネルを覗き、カーブの位置を確認する。
安全とは言いがたく、困難ではあるが、不可能ではない芸当だ。


   「そこまでして…勝たなきゃ…いけないのか? プロってのは…?」


刃咲が大阪に向っている理由、それも元はといえば大会に出場してレベルの認定を受けるためだ。
民間資格でありながら、デュエル全盛期である現代において、弁護士や医者よりも権威に溢れ、稀少な資格。


   「あぁー…逆だな。。
    プロはそれぐらいしなきゃいけないんじゃなく、それぐらいできないとプロになれないだけだ。」


自分ではそれに届かない、そう言われたも同然だった。


   「…福助、お前は…どうなんだ?」


   「何の話?」


   「お前も…サレンダーしただろ? あんな状態なら。」


   「んー、しないでしょ。 降参は。」


同意を求めたし、同意すると思っていた。


   「気付いてたのか、福助!? 〔闇〕のソリッドビジョンのトリック!」


   「…?
    よくわかんないけど、危ないなら自分で降参するんじゃない?」


   「普通の相手ならそうだけど…相手はロールウィッツだ。
    自分からはサレンダーなんかしない…そんな相手だぜ? 俺がしなけりゃ…。」


   「…それでも、僕はサレンダーしないかなぁ。」


   「なんで!?」


   「僕、負けるの好きじゃないもん。」


   「……ッ!?」


あっさりと、親友は言い切った。
ウソを吐かない人間は居ない、だが少なくとも刃咲の認識上、福助は無意味なウソを吐く人間ではない。
実際に、福助は自身の言ったとおりに行動するだろう。 相手を見捨ててでも勝利を狙うだろう。


   「…お前…ッ」


プロの器量といえばそうかもしれないが、刃咲がもった印象は敬意や憧憬とは程遠い。


   「…あぁー、とりあえず…ガソリン貰って大阪行くぜ?
    ここで立ち止まってるヒマは…ありはしないからな。」






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