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遊義皇第十八話(旧)

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(クロック視点)
数分前から指の手術あとに血が滲んでいた。
指が切り落とされてからは、数ヶ月に一度、発作のように出血が止まらなくなることがある。

日常生活でこそ支障は無いが、デュエルでは支障以外の何物でも無い。
―――今日のターゲットは、真サイバー流の神成 鏡真、手札入れ替えナシじゃあ重い相手だ。

   「あぁー、次郎やエビエスは今日にでも倒してくるって雰囲気だったしよぉー、
    やっぱり七人衆最年長としてはマズイよなぁぁ、七人衆の中でもダメなオッサンになっちまうんじゃねーの?」

オセロ村で延々刃咲に『ダメ大人! ダメ大人アアア!』と洗脳のように言われ続けたせいか、
ダメな行動に対して過敏になってしまった。 あぁー、指よりも胃と腸の付け根辺りが痛い。

その時、俺のポケットの中で震えるケータイ電話。

   「あぁー……ホーティックに貰った携帯電話か。 どうやって開くんだ……これ?」

俺は手の中でバイブレーション機能を働かせ続ける携帯電話と悪戦苦闘し、通話状態にできたのは30秒後だった。

   「あぁー、ここに喋れば良いのか?」

   「 (ええ、そこです、聞こえてますか? クロックさん?)」

   「あぁー、ホーティックだな、聞こえてる聞こえてる。 どうした?」

   「 (今、私の『明』に反応がありました、シャモンさんがデュエルを始めたようです。)」

? だからどうしたっつーんだ?

   「あぁー、別にいいんじゃねーの? シャモンが負けるわけねぇし。 それとも相手の心配か?」

   「 (その相手が些か問題でして。 相手はクロックさんのターゲット、神成鏡真です。)」

ラッキー。
シャモンのヤツが片付けてくれりゃぁ、俺も楽できるってもんだぜ。
……なんて、クソマジメなホーティックにはいえねーけどよ。

   「あぁー、そいつはマジィな、シャモンが勝っちまったら、俺は完璧にタダメシ食うだけのダメ大人じゃねーか。」

   「 (どうやら、シャモンさんのデッキはその場で作った即席デッキのようです、
      ……あの人に限ってとはいえ万が一ということもあります、相手は仮にも神成鏡真ですので、
      クロックさんも今すぐ向かってください。)」

万が一でもシャモンが勝てないような相手を、手札入れ替えもできない俺にどうしろっつーんだ? ホーティックは?

   「あぁー、わかった、場所は?」

   「 (すみませんが、私の『明』にはシャモンさんの『星』のように目標の現在地の識別能力はありません。)」

   「……あぁー、二封気も中途半端なモノ作りやがって……わかった、そのへんを探してみるぜ。」

俺のデュエルディスクは、二封気に紫に塗装されているものの、
二封気の『特殊効果が欲しいならディスクに漢字を掘り込ませろ』の発言によってやめた。
…………後悔って、先に立たねーな。




(作者視点)
ビル上でギャラリーも無く、美しいソリッドビジョンに魅入る暇ももたないまま、2人の決闘者は鎬を削っていた。

    「ワシの手番、な。(手札5)
     前のターンで伏せた〔化石発掘〕発動、〔ベビケラザウルス〕を治すで。」

ベビケラザウルス 地属性 恐竜族 レベル2 ATK500 DEF500
このカードが効果によって破壊され墓地へ送られた時、
デッキからレベル4以下の恐竜族モンスター1体を選択して自分フィールド上に特殊召喚する。

化石発掘 永続罠
手札を1枚捨てる。自分の墓地に存在する恐竜族モンスター1体を選択して特殊召喚する。
この方法で特殊召喚されたモンスターのモンスター効果は無効化される。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

   「ちょ、ちょっと待ってください! 墓地に〔ベビケラサウルス〕なんてモンスターはいないじゃ…!?」

   「これが〔化石発掘〕の変わっとるところでな、このカードは発動時に手札1枚をホかすんやけど、
    蘇生する対象は後で決めるさかい、捨てたカードも対象にできるんや。」

   「そんなぁっ!?」

   「ほんで、〔ベビケラサウルス〕の特殊召喚に〔連鎖破壊〕を発動するで。」

連鎖破壊 通常罠
攻撃力2000以下のモンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚されたら発動する事ができる。
そのモンスターのコントローラーの手札とデッキから同名カードを全て破壊する。
その後デッキをシャッフルする。

   「え?」

   「ふん、ふっ、ふぅぅうん!」

ベビケラサウルス:デッキ→破壊、墓地へ。
ベビケラサウルス:デッキ→破壊、墓地へ。

荒々しい鎖は松猪自身のデッキを貫き、ソリッドビジョンのカード片をばら撒いた。

    「ワシの〔ベビケラザウルス〕は効果で破壊された時にデッキから恐竜族を特殊召喚できんねや。デッキから〔オキシゲドン〕2体を特殊召喚するで。」

オキシゲドン:デッキ→松猪の場
オキシゲドン:デッキ→松猪の場

   「さらに! 手札から〔オキシゲドン〕通常召喚や!」

オキシゲドン 風属性 恐竜族 レベル4 ATK1800 DEF800
このカードが炎族モンスターとの戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、お互いのライフに800ポイントダメージを与える。

フィールドを埋め尽くした緑色のドラゴンたち……モンスターの展開が速い!

   「ですが! 僕の〔団結の力〕で強化された〔ドリアード〕は勿論! 〔エレメンタルコマンダー〕にも届きません!」

   「そうやな、届かへんな、でもなジブン……常識で考えたれや、
    どこの世界に高攻撃力のモンスターを戦闘で倒すアホがおんねや?
    こいつらはただの布石や、ワシの名刺を使うための、な。」

   「松猪さんのめーし?」

   「なんや、知らんかった?
    そんなら今回の対戦で「破怪獣王」って覚えて帰ってや、手札から魔法カード発動! 〔超酸素破壊剤〕!」

超酸素破壊剤 速攻魔法
自分のフィールド上に「オキシゲドン」が3体存在する時に手札1枚を捨てることで発動することができる。
お互いの手札・フィールド上に存在する全てのカードを破壊する。
このカードの効果によってカードを10枚以上破壊した場合、デッキから「超破壊生物 デストロイア」1体を特殊召喚できる。(オリカ)

   「酸素3つをただ集めただけじゃ、ただのオゾンや。
    せやけどな、圧縮・凝縮を繰り返した酸素はオキ○ジェンデストロイヤーとなり、ゴ〇ラさんでも溶かすんやで。」

フィールドに、酸素が凝縮され……発生源となったオキシゲドンですら溶けていく。

   「させません! 伏せカード発動!〔亜空間物質転送装置〕!」

亜空間物質転送装置 通常罠
自分フィールド上の表側表示モンスター1体を選択し、発動ターンのエンドフェイズまでゲームから除外する。

   「このカードの効果によって、〔精霊術師ドリアード〕を異次元に逃がします!」

松猪手札(ファイアー・ドラゴン):破壊→墓地へ。
ベビケラサウルス:破壊→墓地へ。
オキシゲドン:破壊→墓地へ。
オキシゲドン:破壊→墓地へ。
オキシゲドン:破壊→墓地へ。
化石発掘:破壊→墓地へ。

エレメンタル・コマンダー:破壊→墓地へ。

   「…残念でしたね、松猪さん、〔亜空間物質転送装置〕で〔精霊術師 ドリアード〕は回避しました。
    お互いに全ての戦力を捨ててしまいましたが、 次のターンに戻る〔ドリアード〕の分だけ、僕のほうが有利です!」

   「何か忘れてへん? ワシ、今、〔ベビケラサウルス〕が破壊されてるんやけど。」

ベビケラサウルスはこうかで破壊された時、デッキから別のモンスターをサーチする効果がある。

   「……あ。」

   「んで、手札の〔ファイアー・ドラゴン〕も破壊してるやろ。」

ファイアー・ドラゴン 炎属性 炎族 レベル8 ATK3000 DEF2400
このカードは通常召喚できない。「炎の土」の効果でのみ特殊召喚する事ができる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、炎属性と炎族モンスターの効果によって相手にダメージを与えた時、相手に500ライフポイントのダメージを与える。
このカードが破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地に存在する「フロギスドン」1体と「オキシゲドン」2体を特殊召喚する事ができる。(オリカ)

   「〔ファイドラ〕の効果で墓地から〔オキシゲドン〕を2枚と〔フロギスドン〕1枚を特殊召喚、〔ベビケラ〕で〔セイバーザウルス〕特殊召喚できるやん。」

フロギスドン 炎属性 恐竜族 レベル4 ATK1700 DEF700
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、
デッキから「オキシゲドン」1体を選択し、お互いに確認して手札に加える。
その後デッキをシャッフルする。(オリカ)

オキシゲドン 風属性 恐竜族 レベル4 ATK1800 DEF800
このカードが炎族モンスターとの戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、お互いのライフに800ポイントダメージを与える。

セイバー・ザウルス 地属性 恐竜族 レベル4 ATK1900 DEF900
おとなしい性格で有名な恐竜。大草原の小さな巣でのんびり過ごすのが好きという。怒ると恐い。


一掃したにもかかわらず、松猪の場には新たなモンスターが4体!

   「ワシのバトルフェイズじゃぁっ! 〔フロギスドン〕のフロギーバーストぉ!  〔オキシゲドン〕のオキシストリーム!」


超酸素破壊剤によってモンスターも伏せカードも突破された福助に、この連続攻撃を防ぐ術はない。

福助LP6900→LP5000→LP3200→LP1400→LP0

   「……う、うわあああああああ!?」

   「デュエルは一撃必殺で、か
    ――なるほど、確かにこの方がおもろいわ。」

松猪がそう言った時、表情なんぞ在るわけも無いゴ○ラのマスクが、福助には微笑んだように見えた。




(作者視点)
ギャンブルの効果で投げたコインが、地面に吸い寄せられる。
チャリーン、っとコインが床の上で跳ね、キャラキャラとコインが哂う。

   「サクラ(表)、だね。」

   「はっははは! どーだ! 神成さんのギャンブル運はっ!」

   「師範! アンティデュエルで巫山戯るのはこれっきりにしてください!」

弟子のひとりは『巫山戯ている』と評したプレイングだが、刃咲は真っ当なプレイングと捉えていた。
出会って数分だが、今対戦しているシャモンという少年、歳こそ自分とそう変わらないものの、『俺では勝てない』、という確信めいた直感が働いたからである。

   「というわけで! 手札を5枚になるようにドロー! さぁ君のターンは続いてるぞ! 緑の子!」

   「んじゃぁ、俺は手札から〔可変機獣 ガンナードラゴン〕を召喚するよ!」

可変機獣 ガンナードラゴン 闇属性 機械族 レベル7 ATK2800 DEF2000
このカードは生け贄なしで通常召喚する事ができる。
その場合、このカードの元々の攻撃力・守備力は半分になる。

   「適当に数パック買っただけでそんな強力なカードを引くとわな、羨ましいもんだな。」

   「それなら、刃咲に後であげようか? ガンナードラゴン。」

   「!? オイオイ! そんなにポンポンあげられるカードじゃねぇと思うんだけどよ?」

※:レートとしては、真紅眼の黒竜1枚がウン十万円する世界です。

   「良いの良いの、猩々鬼が『要らないものはリサイクルだ』って言ってたから。
    ……待たせてゴメンね、神成くん、
    俺のバトルフェイズで〔可変機獣 ガンナードラゴン〕と〔一撃必殺侍〕で直接攻撃するよ!」

   「伏せカードが2枚も有って防げないほどバカじゃないよーん、〔和睦の使者〕っー」

和睦の使者 通常罠
発動ターンだけ相手モンスターからの全て戦闘ダメージを0にする。

   「護りは堅し! ビバッ! 使い捨て防御トラップ! 甘いぜ緑の子~ん?」

   「じゃあ俺は手札から〔デーモンの宣告〕を発動するよ、指定するのは〔魔力倹約術〕ね。」

シャモン:LP8000→LP7500

デーモンの宣告 永続魔法
1ターンに1度だけ、500ライフポイントを払いカード名を宣言する事ができる。
その場合、自分のデッキの一番上のカードをめくり、宣言したカードだった場合手札に加える。
違った場合はめくったカードを墓地へ送る。

   「カードは……うん、〔魔力倹約術〕だ。 手札に加えるよ。」

魔力倹約術:デッキ→手札

   「全く以って…良いカンしてるねぇ、緑の子。」

   「えへへ、カードを2枚セットして、終了だよ。(手札4・発動中1・伏せ2)」

大ダメージの危機に晒され、あるいは危機を凌がれても、二人の間に緊張感はない。
高価なアンティのあるデュエルにおいて、ここまでほがらかにプレイできる、というのは爽やかをぶっちぎって異常である。

   「俺のターンな(手札6)、緑の子……シャモンくんって言ったっけ?
    どんなレアカードでも使いこなすにはそれ相応のデッキってのが必要なんだよね、赤兎馬に雑兵が乗っても意味がないように、さ。」

赤兎馬とは、中国の伝記にでてくる馬だが、
その手に余る荒い気性から優れた将軍でなければ乗りこなせないとされる『名馬中の名馬』である。
……はっきり言って、デュエルにも人生にも果てしなく関係がない。

   「だから、〔可変機獣 ガンナードラゴン〕の本当の使い方を見せてあげるよ!
    俺も手札から〔可変機獣 ガンナードラゴン〕を召喚し、〔突然変異〕を発動して、融合デッキから関羽並の名モンスター、〔サイバー・オーガ・改〕を召喚!」

突然変異 通常魔法
自分のフィールド上モンスター1体を生け贄に捧げる。
生け贄に捧げたモンスターのレベルと同じレベルの融合モンスターを融合デッキから特殊召喚する。

サイバー・オーガ・改 地属性 機械族 レベル7 ATK2600 DEF1900
「サイバー・オーガ」+「サイバー・オーガ」
このモンスターの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
このカードが戦闘を行う時、このカードと戦闘を行うモンスターの攻撃力の半分の数値だけこのカードの攻撃力をアップする。
このカードが戦闘するごとにこのカードのコントローラーは自分の墓地のカード3枚をゲームから除外する。

キャタピラを付けたドラゴンの体は突然変異の効果によって分解され、
その部品からは関節から油を滴らせ、口からは蒸気を吐く白金の魔獣が生み出された。

   「〔可変機獣 ガンナードラゴン〕のように生贄をケチって攻撃力に妥協する召喚、略して妥協召喚といいます!」

   「……オッサン、無理して覚えた専門用語を使わなくてもいいぜ?」

   「あはっはっはー! バレちゃったー!?
    とにかく〔可変機獣 ガンナードラゴン〕は攻撃力を妥協しても、レベルは妥協しなくともイイのが最高にイイ!」

アゴの力というのは、格闘技ではとても重要なものである。
歯と歯の噛み合わせを調整するマウスピースという器具があるとなしでは、身体能力が30パーセント上下するとさえ言われる。

それを知ってしらずか、神成は切り札の召喚をアピールするように、
デュエル開始時から舐めていたチュッ○チャップスをガキッ、っと噛み砕いた。

   「それじゃ、〔サイバー・オーガ・改〕でシャモンくんの〔一撃必殺侍〕に攻撃!」

先ほどのサイバー・ダークの返り討ちを記憶していないように、神成は2分の1の一撃必殺に挑んだ。
確実にダメージを稼げる攻撃力1400のガンナードラゴンが居るにもかかわらず、だ。

   「シャモンくんのターンまで〔一撃必殺侍〕を生かしておけば、損はあれども得は無し! 落とせる敵は今すぐ落とす!」

   「落とせるかどうかわからない敵に攻撃してるじゃん。」

   「落とせれば大金星、外せば凶彗星! 一世一代大勝負、続けて挑むが男道! 攻撃ぃ!」

強大な機械鬼は、小さな鎧武者へ怯むことなく、その容姿通りに無策果敢に突進した。

   「じゃ、100(裏)ね、よっと……あちゃー、サクラ(表)だ。」

〔サイバー・オーガ・改〕(攻撃力3200)VS(攻撃力1200)〔一撃必殺侍〕 
→一撃必殺侍、破壊・墓地へ。 シャモン:LP7500→LP5500

   「ターンエンド。(手札4・伏せ1)」

   「ドローするね(手札5)。
    ……えへへ、神成くん、俺も〔可変機獣 ガンナードラゴン〕を使いこなせるカードを引いたよ!」

   「カッーモーン!」

   「うん! 〔可変機獣 ガンナードラゴン〕を生贄にして……いっくよぉー! 〔偉大魔獣 ガーゼット〕っ!」

偉大魔獣 ガーゼット 闇属性 悪魔族 レベル6 ATK0 DEF0
このカードの攻撃力は、生け贄召喚時に生け贄に捧げたモンスター1体の元々の攻撃力を倍にした数値になる。

ソリッドビジョンによって生贄演出によってガンナードラゴンが消え去り、そこにはガンナードラゴンよりひとまわり小さい悪魔が立っていた。

   「墓地に送られた時点で〔ガンナードラゴン〕の攻撃力は2800に戻る……つまり、この〔ガーゼット〕の攻撃力は……。」

偉大魔獣 ガーゼット:攻撃力0→攻撃力5600

   「攻撃力5600! 究極龍超えだ!」

デュエルを見つめる刃咲は、観戦時はどんな時でも冷静にデュエルを見ているつもりだったが、
――適当に買ったパックで作った即席デッキで、攻撃力5600というバケモノがでては、興奮せざるをえないだろう。

   「〔偉大魔獣 ガーゼット〕で、〔サイバー・オーガ・改〕に攻撃するよー!」

   「っちぃ! だけどね緑の子!
    俺の〔サイバー・オーガ・改〕も効果で、〔偉大魔獣 ガーゼット〕の攻撃力の半分(2800)が攻撃力に加算される。」

サイバー・オーガ・改:攻撃力2600→攻撃力5400

サイバーオーガは、ガーゼットのエネルギーに感応して巨大化し、体格差を利用して上から襲い掛かるも、
下のガーゼットも負けず、サイバーオーガの掌を握り、腕力だけで押しとめた。

   「そのまま押し切れぇっ! 〔サイバー・オーガ・改〕ッ!」

   「パワーで戦わないでっ 〔ガーゼット〕っ! ブレスト・ヴァーン!」

上部からの圧力に耐えながら、露出したアバラ骨が赤く発光しはじめ――その光を熱線として射出した!
その熱に耐えられず逃れようとするが、その拳はガーゼットに握られて逃れることはできない…・・・結果、サイバーオーガは溶解していった。

〔偉大魔獣 ガーゼット〕(攻撃力5600)VS(攻撃力5600)〔サイバー・オーガ・改〕
 →サイバー・オーガ・改、破壊・墓地へ。  神成LP8000→LP7800

   「やたっ! 俺の〔ガーゼット〕の勝ちっ!」

……この時点で、神成の取り巻きたちは遅れながら気付き始めた。
『自分たちの党首が戦っている敵は、ただの子供ではない』、と。

   「くあー、いくら〔サイバー・オーガ〕でも勝てないか。」

神成は、噛み砕いた雨の代わりを食べることも忘れていた。
彼の飴好きはレアハンター・一般ユーザー問わず、彼を知る人ならば共通のイメージとして伝わっているほどだというのに。

   「あのなあ、最初ハナっから攻撃力では〔ガーゼット〕の方が上だろーが。」

   「刃咲くんは夢が無いなぁ。 こういうのを楽しんでこそのソリッドビジョンだよ?」

うんうん、と頷く神成。
…だが、まだ次の飴を入れることを思い出さない。

   「ターン終了! 神成くんの番だよ!(手札4・発動中1・伏せ2)。」

   「OKOK!(手札5) 2ターン前のに発動した2枚の〔封印の黄金櫃〕の効果で〔パワー・ボンド〕と〔サイバー・ドラゴン〕を手札に加える。」

サイバー・ドラゴン:除外→神成の手札
パワー・ボンド:除外→手札

   「〔黄金櫃〕でできれば、この手番でシャモンくん! 君を打ち落とすのも容易い!
    まず手札から〔サイバー・ドラゴン〕を召喚し、このターンのドローカード〔地割れ〕で〔ガーゼット〕を破壊する!」

サイバー・ドラゴン 光属性 機械族 レベル5 ATK2100 DEF1600
相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在していない場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。

地割れ 通常魔法
相手フィールド上の攻撃力が一番低い表側表示モンスター1体を破壊する。

   「グレート、破壊されちゃった。」

   「援軍の足は早いぞシャモンくん! 〔ダウンロード〕!」

ダウンロード 通常魔法
デッキから「サイバー」と名の付くカード1枚を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚されたモンスターは生贄にできず、相手プレイヤーに与える戦闘ダメージは半分になる。(オリカ)

   「効果でもう一体の〔サイバー・ドラゴン〕を特殊召喚!
    更に手札から〔プロト・サイバー・ドラゴン〕を追加し――俺のバトルフェイズ!」

プロト・サイバー・ドラゴン 光属性 機械族 レベル3 ATK1100 DEF600
このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、カード名を「サイバー・ドラゴン」として扱う。

   「通さないよん、 〔魂の氷結〕だっ!」

魂の氷結 通常罠
自分のライフポイントが相手のライフポイントより2000以上少ない時に発動する事ができる。
相手の次のバトルフェイズをスキップする。

   「このカードで神成くんのバトルフェイズはスキップされるよ、残念だったね。」

   「まだだよシャモンくぅん!  Bフェイズ終了! メインフェイズ2で〔パワー・ボンド〕を発動!
    俺の2体の〔サイバー・ドラゴン〕と〔プロト・サイバー・ドラゴン〕を合体させる!」

テンションを跳ね上げ、本来ならばメインフェイズ1で発動すべきパワー・ボンドをメインフェイズ2で発動させると言う暴挙に走る神成。

パワー・ボンド 通常魔法
手札またはフィールド上から、融合モンスターカードによって決められたモンスターを墓地へ送り、機械族の融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
このカードによって特殊召喚したモンスターは、元々の攻撃力分だけ攻撃力がアップする。
発動ターンのエンドフェイズ時、このカードを発動したプレイヤーは特殊召喚したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを受ける。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)

   「〔サイバー・ドラゴン〕を3体……〔サイバー・エンド・ドラゴン〕か!?」

   「そんなレアカードは持ってないし、持ってたとしてもメインフェイズ2には出さないよ!
    ――行くぜェエエエエエ! 相棒ォっ!  〔サイバァアアア・キングゥ・ドォォラゴォオオォン〕!」

サイバー・キング・ドラゴン 光属性 機械族 レベル10 ATK3500 DEF3500
「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」
このモンスターの融合召喚は、上記のカードでしか行えない。
ライフを4000ポイント払う事で、相手プレイヤーにこのカードの攻撃力分のダメージを与える。
(この効果は1ターンに1回だけ使用できる。)

三匹の電脳竜は束ねられ、ミツアミの要領で編まれていき………現れたのは、極太・一本角のサイバー・ドラゴンだった。

サイバー・キング・ドラゴン:攻撃力3500→攻撃力7000(パワー・ボンドの効果)

   「師範のサイバー・キング・ドラゴンは、師範のライフをエネルギーに変換し、攻撃力分のダメージを与える効果を持ちます。」

   「流石は師範!」

   「〔パワー・ボンド〕で倍加した攻撃なら一撃でライフポイントを奪い尽くせる!」

盛り上がる神成サイド。
しかし、それでも神成には未だに余裕がない。
シャモンの1枚の伏せカード――神成の脳髄には、シャモンが買ったパックの中にこの状況でも生き残れるカードが1枚だけあることを知っていた。

   「十中八九、いや! 3種類のパックに収録される可能性のあるカードは180種! 
    百八十中百七十九は俺の勝ちだァっ! シャモンくん! 4000ライフポイントを払い――」

神成:LP7800→LP3800

   「これぞ電脳竜の極致! マックス・エボリュゥショォー・バァアストゥォッ!!」

空気を焦がし、神成の命を吸収した極大稲妻が水平に走りぬける!
――だが、180分の1程度、シャモンにとっては奇跡でもなんでもない。

   「ゴメンねー、神成くーん。 〔ピケルの魔法陣〕だよー。」

ピケルの魔法陣 通常罠
このターンのエンドフェイズまで、
このカードのコントローラーへのカードの効果によるダメージは0になる。

瞬間的にソリッドビジョンによって、白魔導師ピケルの衣装のみが再現され、シャモンの体に宛がわれた。
シャモンはフードによって顔を隠しているものの、体型はピッタリと一致している。

   「やっぱりソリッドビジョンって楽しいー♪ ピケルと俺の魔法陣だよっ」

シャモンの周囲、シャモンを覆うように出現した幼く儚い光に、神成の命を乗せた電気の塊は――残光も無く、消えていった。

   「……ン……なぁっ!?」

生まれ持った『勝負カン』、それは神成にとって確かにそこにあるエネルギーだった。
だが、そのエネルギーは、シャモンの持つ『奇跡的なエネルギー』によって無効となり、打ち消されている。

   「んー、ソリッドビジョンの演出だけ見れば神成くんの……なんて技だっけ?」

   「……『マックス・エボリューション・バースト』だ、シャモンくん
    この技まで止められるとは、どんな名軍師………伏竜鳳雛といえども分かるまい。」

真・サイバー流の門下生達も、カードショップに遊びに来ていたデュエリストたちも凍りついた。
知っているから。 戦えるデッキというものは適当にパックを選んだだけで出来上がるものではない。
知っているのだ。 神成の技もデッキも、即席デッキに負けるものではないことを。

   「で、どうするの神成くん……まだ、何か有る?」

   「いや、ターン終了だ、〔パワー・ボンド〕の効果で俺は3500ポイントのダメージを受ける。(手札2)」

神成:LP3800→LP300

   「俺のターンだね(手札5)、……手札が悪いなァ、〔墓穴の道連れ〕を使うよ。」

墓穴の道連れ 通常魔法
お互いに相手の手札を確認し、それぞれ相手の手札のカードを1枚選択して墓地に捨て、
カードを1枚ドローする。

   「お互いに相手の手札を捨てさせ、手札を調整させるカードか、チェーンは無い。」

神成・手札:リミッター解除・我が身を盾に
シャモン・手札:ガガギゴ、マインドハック、トライアングル・X・スパーク、魔力倹約術

   「お互いにすごい手札だね、シャモンくん。」

   「!! あのダメ大人予備軍、前のターンで〔魂の氷結〕がなければ〔リミッター解除〕でワンキルできてたのか!?」

仮に、魂の氷結ではなく、同じ「闇魔界の脅威」に収録されていた〔炸裂装甲〕辺りだったしても、〔我が身を盾に〕で無効にされていただろう。
…まあ、今となってはライフ不足で発動できないのだが。

   「じゃあ神成くんは〔リミッター解除〕を捨てて。」

   「シャモンくんは〔ガガギゴ〕を捨ててくれ。」

リミッター解除:神成の手札→墓地へ。
ガガギゴ:シャモンの手札→墓地へ。
お互い:1枚ドロー

   「ドローっと……あ、いいカード引いちゃった! 〔サンド・ギャンブラー〕だよっ」

サンド・ギャンブラー 光属性 魔法使い族 レベル3 ATK300 DEF1600
コイントスを3回行う。3回とも表だった場合、相手フィールド上モンスターを全て破壊する。
3回とも裏だった場合、自分フィールド上モンスターを全て破壊する。
この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに発動する事ができる。

   「またギャンブルカードなのかい?」

   「つっても、3回のコイントスが全て表になる確率は……8分の1だな。」

カードテキストを暗記している刃咲が簡単な計算を披露した。

   「当てるよー! サンド・ギャンブル! 百円玉、三連射ぁ!」

ソリッドビジョンによって生み出された優男は、自前のコインを、中国映画の指弾の要領でコインを撃ち出した。

カラカラ、っと3枚のコインが落ちた。
当たるわけが無いのだが、ギャラリーも『シャモンならば』と躍動する…そして。

   「サクラ! サクラ! サクラ! ギャンブルゥウウ・的中ゥッ!」

   「バカな!? 当たったというのか!?」

サンド・ギャンブラーが投げたコインはサイバー・キング・ドラゴンの関節の隙間に突き刺さり、何かの回線を断絶した。
瞬間、行き場を失った電力は電脳竜の表面を滑り、電脳竜自身を爆砕した。 普通にコインが刺さってもダメージは無いのだが、これは奇跡的な位置に入ったのだ。

   「神成くんのライフポイントは300、伏せカードもなし……
    で、俺の〔サンド・ギャンブラー〕の攻撃力も300なんだよね。 どうする? 神成くん?」

   「……俺の…負けだ。」

神成はどこかでプレイングをミスしたか?
一撃必殺侍で特攻したのがいけなかったのか?
封印の黄金櫃でサーチするカードを変えればよかったのか?
そうすれば、シャモンを倒せたのか?

   「ハァ、ハァ……あぁー、なんだ、やっぱ俺に出番ねぇーのかよ。」

   「おう、クロック、どうした。」

肩がなければできないほどに切れ切れの息、
秋だというのに額には汗の玉、そしてなぜか右手からは血と汗がゴッチャになった混合物が滴っている。

   「あぁー、タバコ、辞めるかなぁ。」

ダメ大人チェックポイント、自分の運動不足を飲酒・喫煙のせいにするくせに辞められない。

   「クロックー! 久しぶりー!」

神成からサイバー・キング・ドラゴンを奪い取り、
茫然自失となった真・サイバー流の面々には目もくれず、クロックへと駆け寄る緑フードの少年。

   「? シャモンとダメ大人……知り合いか?」

   「あぁー、まあ、そんなもんだ。」

その頃、既にエビエス・ウォンビック・神次郎の三人は、ホーティックのナビゲーションの元、それぞれのターゲットの元に到着していた。

   『正念抱くば傘下に集う! 我らその名を正念党!』


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