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オリジナル 悪魔6 【君は人魚】


人魚姫は愚かであるとセイレーンは嗤う。

「喰っちまえば良かったんだよ」

性欲と食欲が極端に近い人魚種は愛情は欲情であり食欲だ。食欲に支配されているというとヤジフーもそうであるが、暴食のヤジフーと人魚種は違う。

「綺麗な鰭も綺麗な声も失うことはなかったんだよ。愛しい相手は喰う。これに限るね、我が身の血となり肉となり至上の交わりとなす、だ」

愛情が湧かない相手にはセイレーンは誘惑の美声どころかこうした擦れた娼婦のような口ぶりだが、ひとたびそれが意中の相手となれば麗しいオペレッタとなる。

「それで?アンタが来たのは何の御用だい」
「単に使いだ。我が主から海王殿へ」

セイレーンは海面より岩場に立つ血涙の悪魔を見あげる。両目を閉じ、頬を血で濡らす他にはこれといって平凡な悪魔である。蝙蝠の翼、黒衣。

「密書かい? アンタの主は炎魔様と仲がよろしいっていうじゃないか」

火と水の相性の悪さは今に始まったことではない。セイレーンは海妖といえど水の性、火を嫌い、炎獄の王から使いを堂々と海の藻屑にすることも厭わない。実際のところ、トップ同士はさして仲違いをしてはいないのだが、主君ほど配下は他属のものを思いやることができないのが現状である。
血涙の悪魔が懐にしまっている黄金色のの封蝋が成された親書も中身は炎獄の君から海王に向けての親書だ。たまたま地上から戻ってきたところで主ににっこりと「使いに行け」と押しつけられたのである。
ちなみにセイレーンは愛しいものを喰う性質があるが、逆に忌み嫌うものと出会った時は容赦なく五体を引き裂き、魚の餌にする。それも自分の体に血や肉がつくことを嫌って、鮫やらを呼び出して少しずつ喰わせたりもする。

「セイレーンが気にすることじゃない。主には主の思惑があるのだろう」
「はっ、お高くとまってるね」

それでも炎魔ではなく血涙の悪魔を手にかける愚をセイレーンは犯さない。目下、彼の主はこの目の前にいる平凡そうな悪魔に目をかけているのだ。悪戯に鮫に噛みつかせようものならセイレーンが咎を受ける。

「行くがいいさ。深海宮の道は開いてやるから自分で行きな」
「礼は言っておく」
「ねぇアンタ」

海を割って海底を歩くことを許された血涙の悪魔が、濡れた岩肌を進み始めた時セイレーンは分かれた波間で尋ねた。

「アンタはどう思う? 人魚の最期は」
「選択肢を持てなかったものの末路だ。興味はない」

生意気だねっ、とキンとした声で言われたが、彼の顎からは一滴、血が落ちただけだった。

「おまえはセイレーンといっても、結局人魚でしかない。喰いたい相手しか見つからないのならば、喰い続ければいい。きっとその人魚は脚を持った時点で人間だったんだろうよ。喰わずに添い遂げたいと願ったのだから」

たとえ叶わずに自らが泡となる運命を背負ったとしても。