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オリジナル 神様の一日


 拍手の匿名さまへ 懐かしいのも手伝ってちょっとだけたろと山神さまのその後を書いてみました♪楽しんでいただけたら幸いです。


蒸し暑い夏の盛りでも山は涼しい木陰の恩寵をあたえる。社は特にそこに棲むものたちが不快を覚えぬように木々が配慮してくれるかのように暑さが抑えられている。
おろしたばかりの薄物を羽織って、溌剌に社の回廊を走る少年がいた。長い髪をくくりあげ、すだれのようにかかるが下品ではない。利発そうな目は黒く大きい。
社の主たる山神は暑さも寒さもさして気にならないのか汗ひとつかかない。まだ子供の柔らかさをもつ手には水筒が握られている。

「たーろ」

山神が社の裏手に回ると、そこでは俄大工と化した唯一の従者・太朗が木槌を振るっていた。
木組みの社はそう簡単には崩れないが、長年の茅葺き屋根が痛み、大風で一部に穴があいてしまったのである。太朗はそれを修理するためにいつもよりもさらに高所にいた。

「たろ、休憩にせぬか? 水をもってきてやったぞ」
「ありゃ、山神さま。すいません、俺、そんなに長いことやってましたか?」
「いや、まだ一刻程度じゃ」

身軽に下りたった太朗は少しばかり背が大きくなった山神よりももっとずっと上背があった。腕の長さ一本分ほども開きがあり、同じものを食っているはずなのに、この違いはなんだと山神が内心憤るくらいだ。神たる山神の成長は成人の姿までは人間とほぼ同じであり、最盛期と思われる姿で永い時を生きる。まだまだ、山神は子供である。
逆に太朗のほうは、出会った頃より少しだけ大きくなったようで、山神が見あげる角度はいつまでたっても変わらない。

「ありがたくいただきます」
「うむっ」

汗みずくの顔を手拭いで拭き、竹筒を傾け清水を一気に飲む太朗。ごくりごくりと上下する喉の隆起に、水が太朗の体を労っているのが伝わってくるようだ。

「美味いだろう? さっき汲んできたのだ」
「って、山神さまがわざわざ…甕にためてあったでしょ?」
「私は何も手伝えぬからな、これくらいはするのだっ」

山神は金物に触れられない。鉄を含んだ石ほどならば触れるのだが、人の作った金物…金具などには触れられない。懇々と木のものは金気が苦手なのだと言っても、太朗には少し理解ができなかった。だが、これはこの山神ひとりの不得手なのではなく、社全体が金気を避けていることから、長年そうしたしきたりなのだと太朗は思うことにしている。

「どれくらいになれば修繕は終わる?」
「そうですねぇ、ちっと造りがわかんねぇから里に行ってきて、それからもう少しかかりますかね」

もって三日くらいですか、と太朗はのんびり答える。大風のあとは快晴が続く。しばらくは雨も降らないだろうから、急ぐことでもないだろう。

「じゃあ、修繕が終わるまでたろに水を運んでやるのは私の仕事だ」
「はぁ…それはいいですけど、お勉強とやらはいいんですか?」
「う…す、少しだけなら良いではないか!」

山神には「学ぶべき時が来れば、自分で学びの書を開く」という習いがあるそうだ。太朗がここに住まって早1年と半。どうやら「その時」が訪れたらしく、時々山神は社の奥の書庫に足を向かわせるのだが、いかんせん落ちつきがないというか、おとなしく書物を読まない。すぐに太朗のもとにやってきて、新しい知識を披露したがるのだ。
里に住む小さい弟らが自力で捕まえた蛙を見せびらかしにくる姿にも似ていて、太朗は務めなんじゃ、と言う前にそれを褒めてしまう。いけないいけないと思っていても。

「じゃああと少しだけ穴を塞いだら、今日はここまでにしときますよ。里に行っている間、山神さまはお勉強」
「う…」

山神の口はへの字になったままだが、渋々頷いた。その姿を見送ってから、太朗はまた一口、甘いとすら思える清水を呑み込んだ。