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オリジナル 悪魔4 【叫びは彼に届かない】


※ややグロ?表現あり。


 聖者をお食べ。きよらなる者をお食べ。
 屠った魂は我らの至極の血肉。   
                   』

 --神学者ベルル・アシェンメールの『招かれし闇の者より覚え書き』から抜粋


「赤子の目玉は好きかい」
「やわらかすぎる」
「じゃあ臓物があるよ。生きの良い男のだ」
「あれは臭い」
「やれやれ、あんたの好みは変わっているね」

宝石を代償に人の肉や臓腑を売りさばく店主の羽根はまだらな向こうの景色が見える。罪深さゆえ天使に追われ、酸の海に落とされた傷が癒えぬままだというのがもっともらしい身上だ。
下級の悪魔は肉食が多い。この商売は終わることなく続くだろう。店主は青黒い肌をし、肋を浮かせた悪魔である。まず人の肉を喰らうべきはこの男なのではないかと思わせるほどやせ細っているが、人肉屋は肉を喰らわず、宝石に宿す人の欲の蜜を啜る種であった。痩身であるのは悪魔としての個といっても良い。

「ああ、あんたにぴったりのもんがあるよ」

どこを見ているかもしれない瞼の奥をいっそ刳りだしてみたいものだと思いつつ、人肉屋は小さな麻袋を棚から引き出した。

「出所は聞くなよ、ある筋から手に入れたもんさ。先月夭逝した次期法王の精巣だ。今ならあんたの持っている雪花ダイヤ一つで」
「出所も知れないもので釣る気か。こんなもの、犬から取ったんじゃないか。屑鉄一山の価値もあるまい」
「犬と人間の違いくらい匂いでわかるんだろう?」

この血涙の悪魔が相当な口利きであるのは過去の辛酸で充分に味わっている。足下を見て、容赦なくつり下げてくるが、所持している宝石は人肉屋の好むものばかりなのだ。血塗れた狂王子が愛した紅玉、虹の精霊を百ほど煮詰めて創られた虹光石、人の心を喰らう石の蜜は陰惨な歴史を持つものほど甘く濃い。人の肉など脂ばかりだし、最近捩れ角から天使狂いと噂されるようになったヤジフーは土塊と同じと言われたこともある天使を好んで喰らうなどと、正気を疑う。
やはり石の蜜ほど良いものはない。
そういえば天使を最初に喰らってその感想を漏らしたのは、この悪魔であったと人肉屋はちらりと思う。

「嘘でもペテンでもない、ルペイダの法王の後継として育てられていたテュビセラ2世の未通のものさぁ。流行り病で十でおっ死んで、不憫できよらな精がさぞかしつまってるだろうよ」

実際のところは、魔界と人界の狭間に捨てられ腐乱していた幼子から頂戴したものだが、人肉屋の口上に嘘はない。身分さえ偽らなければ、精通も遠そうな十歳前後の男児であったことに変わりはない。
血塗れた頬がくっと緩み、目の前の悪魔にやおら笑みの気配が立ち上る。聖者を好んで喰らう血涙の悪魔には相当の誘惑のはずだ。

「本物だとしても、雪花ダイヤでは釣り合わない。雫真珠で充分だろう」

真珠はあまり好きではないが人肉屋はにんまり内心でほくそ笑む。なぁに雫真珠ならいい翡翠を交換してくれる知り合いがいる。

「目利きのあんただから売るんだぜ? 雫真珠の、歪みのない大粒一つだ。これでどうだ」
「いいだろう」

辺にあっさりと血涙の悪魔が自らの懐から、人肉屋が売りつけようとする麻袋と同じほどの大きさの小袋を置いた。

「この程度が相応というものだ」

小袋のかわりに麻袋を手に、背を向けた悪魔に愛想笑いをするより早く、中身を改めた。
ころりと転がり出たのは、雫というにはあまりにも貧相な真珠だった。大きさにして小麦一粒程度。

「おいあんた!!」
「つまみ程度にはなるだろう。味を比べてみるのも一興」
「巫山戯るのもいい加減にしろッ!この俺を侮辱する気か!」

血涙の悪魔は人肉屋の罵声に気にも留めない。

「だから相応のものをやると言っただろう。テュビセラ2世などと名は大層だが、清らかさなどこの袋のほうが上だったかもしれん」

小さなベルでも鳴らすように袋をちらちら振った悪魔は囁く。

「まるで高級娼婦のような味だったよ。あの法王の囲われ者は」
「…くそったれ!」

人肉屋のわめき声に耳を貸す者は居なかった。悪魔の集う市など、そんなものは些末事に過ぎないのだから。